はてなキーワード: 琥珀とは
街頭演説の壇上に立つ男は、血管を浮き出させて叫んでいた。彼の名は佐藤。かつては穏やかな教師だったが、戦火のニュースに心を焼かれ、いつしか日常を捨てて抗議の声に全てを捧げるようになっていた。彼の瞳には、遠い異国の空を切り裂く爆撃機の残像だけが映っている。
その剣幕に、通りかかる人々は目を逸らして足早に過ぎ去る。佐藤の怒りは、理解されない孤独によってさらに加速し、言葉はさらに鋭く、攻撃的になっていった。
通行人に詰め寄ろうとしたその時、ふわりと、あまりにも不釣り合いな香りが漂ってきた。
それは、焦げた醤油の香ばしさ、脂の乗った肉が焼ける甘い匂い、そして鼻腔を優しくくすぐる出汁の香り。
「佐藤さん。そんなに喉を枯らしてちゃ、伝わるものも伝わらないよ」
声の主は、路地裏で小さな小料理屋を営む初老の料理人、源さんだった。彼は歩道に小さな七輪と木箱を持ち出し、勝手に店を開き始めていた。
源さんが差し出したのは、銀シャリのおむすびだった。しかし、ただのおむすびではない。表面にはハケで丁寧に塗られた特製の「にんにく味噌」が、炭火に炙られてパチパチと音を立てている。
佐藤は無視しようとしたが、空腹は正直だった。連日の活動で、まともな食事を摂っていなかったのだ。奪い取るようにしておむすびを頬張る。
「……ッ!?」
口に入れた瞬間、凝縮された米の甘みが弾けた。そこに、自家製の米麹が醸し出す深いコクと、ピリリときいた一味唐辛子、そしてカリッと焼けた味噌の香ばしさが追いかけてくる。
「どうだい。うちのぬか床で寝かせた胡瓜も持っていきな」
差し出されたのは、深く透明感のある緑色をした胡瓜のぬか漬けだった。パリリ、という小気味よい音が佐藤の脳内に響く。乳酸発酵特有の爽やかな酸味が、怒りで熱を持った脳を静かに冷やしていく。
「ああ、やめなきゃいけないな。だがな、佐藤さん。あんたの腹の中が空っぽのままだと、あんたの言葉は『爆弾』と同じになっちまうんだ」
源さんは次に、小さな鉄鍋でじっくりと煮込んだ「牛すじの土手煮」を差し出した。
赤味噌で真っ黒になるまで煮込まれた牛すじは、口の中で抵抗なく解けていく。添えられた蒟蒻には、肉の旨味が芯まで染み込んでいる。
「食べることってのは、命を繋ぐことだ。空爆はその繋がりを断ち切る。だから、あんたは怒ってる。だろ?」
佐藤の手から、握りしめていたマイクが力が抜けたように下がった。
温かい煮込みが胃に落ちるたび、強張っていた肩の力が抜けていく。彼は気づいた。自分は「平和」を叫びながら、自分自身の中に小さな「戦争」を飼っていたのではないか。
「……美味いな。源さん」
「だろう? 良い味噌を使ってるんだ。時間はかかるが、待てばちゃんと美味くなる」
湯気を立てる黄金色の塊を箸で割ると、中から溢れんばかりの琥珀色の出汁が染み出す。昆布と鰹節の、主張しすぎない、しかし確かな慈しみの味。
怒りは消えたわけではない。しかし、その根底にあった「悲しみ」が、温かい料理によって優しく包み込まれたような気がした。
「源さん。俺、もう少し静かに話してみるよ。叫ぶだけじゃなくて、隣にいる奴に、この出汁の味みたいに染み込むような言葉を探してみる」
「それがいい。腹が減ったら、また来な。空爆のない空の下で、美味い飯を食う。それ以上に大事な仕事なんて、この世にゃあねえんだからな」
私が初めてピーナッツコーラを飲んだのは、夏の午後、国立公園の蝉がぐったりと鳴いている頃でした。
ペットボトルの中で、琥珀色の液体の中を微細な泡がせわしなく駆け上っていました。
そのせかせかした泡を見ていると、どうしても人生というものを思い出します。
つまり、始まりは刺激が強く、終わりに近づくにつけてヌルくなる。
ピーナッツコーラというのは、少し不器用な飲み物に感じました。
口に含むと、甘味がどこかで方向を間違えてしまったような味がする。
ピーナッツがコーラという炭酸の世界に招かれてはみたけれど、どうにも居心地が悪そうにしている。
ソーダの泡が彼に「お前も少しは弾けてみたらどうだ」と言う。
しかしピーナッツは、ポケットに手を突っ込んで、じっと下を向いて黙ったまま。
けれど、それが悪いわけではない。
世界には、そういうぎこちない組み合わせが必要だったりします。
ピーナッツバターとジャム、猫と洗濯機、あるいは私と日曜日の朝の増田のように。
ちょっと噛み合わない関係ほど、妙に記憶に残ることだってありますよね。
たぶん、完璧な調和というのは、聴き心地の良いBGMくらいのもので、人間というのは、少しくらい音がずれている方が記憶に残りやすいのだと思います。
飲み終えたピーナッツコーラのボトルをテーブルに置くと、窓の外を風が通り抜けていきました。
その風の中に、ふっとピーナッツの香りが混じっているような気がした。
まるで、私の知らない誰かの思い出がそこに仕込まれていたみたいに。
そう思って、私はもう一度ラベルを見た。
ただのコーラだ。
Cという料理人を初めて知ったのは、どこかの国の地図にも載らないような路地裏の噂だった。看板はなく、予約も受け付けず、ただ「空腹であること」だけが入店の条件だという。
彼の料理は、皿の上に置かれる前からすでに始まっている。たとえば、スープ。透き通った琥珀色の液体は、スプーンですくうとほのかに森の気配を揺らし、口に含めば幼い頃にまだ名前を知らなかった草花の記憶を呼び覚ます。塩気は限界まで削ぎ落とされ、その代わりに時間そのものが溶け込んでいるようだ。三日煮込んだのではなく、三日間待った味、とでも言えばいいだろうか。
焼き物に至っては、火の扱いが異様だ。表面はかすかに焦げているのに、内部は春の陽だまりのようにやわらかい。肉なのか魚なのか、判別する意味すら失わせる食感で、噛むごとに「これは何か」という問いがほどけていく。Cは素材を変えるのではなく、食べる側の認識を書き換える。
デザートはさらに奇妙だ。甘さはあるのに砂糖の気配がない。果実の輪郭だけを抽出したような一皿で、最後の一口を飲み込む頃には、自分が何を食べたのか説明できなくなる。ただ、確かに幸福だったという事実だけが舌に残る。
Cの店では、料理名は存在しない。説明もない。ただ皿が運ばれ、食べ、沈黙する。その沈黙こそが彼の料理の一部なのだろう。言葉で定義された瞬間に消えてしまう味を、彼はぎりぎりのところで保っている。
もし文学にミシュランの星があるなら、Cの料理は三つ星に値する。理由は単純だ。遠回りしてでも訪れる価値がある、どころではない。一度味わえば、そこに戻るために人生の道筋そのものを変えてしまうからだ。
軟水: 1リットル(日本の水道水は適していますが、浄水器を通すとよりクリアになります)
土瓶または厚手の鍋: 保温性の高いもの。
沸騰直前で弱火に: 沸騰し始めたら、一番の弱火に落とします。
10分〜15分間の静かな煮出し: ボコボコと沸騰させず、ポコポコと泡が出る程度の火加減を維持します。これにより、茎の芯まで熱が通り、濃厚な甘みが溶け出します。
火を止めて「蒸らし」: ここが重要です。火を止めた後、蓋をしてさらに3〜5分間放置します。色がより深く、琥珀色から深い茶色に変われば完成です。
煮出した後の非常に濃いほうじ茶に、牛乳(または豆乳)を1:1の割合で加え、きび砂糖を少し足してみてください。茎ほうじ茶の焙煎香はミルクの脂肪分に負けない強さがあるため、驚くほど濃厚なラテになります。
熱々に煮出したお茶を、氷をたっぷり入れた耐熱グラスに一気に注ぎます。急冷することで香りが閉じ込められ、夏場には最高の喉越しになります。
しっかり煮出した力強いほうじ茶は、自家製のぬか漬け(特にカブやキュウリ)の塩味や酸味を、香ばしさで見事に包み込んでくれます。晩酌の代わりや、食後の締めとしても非常に満足度の高い組み合わせです。
朝起きたら妻がヤギになっていた。
最初は夢の続きかと思った。枕元で、白いものがもそもそ動いている。寝ぼけた頭で手を伸ばすと、ふわりとした毛並みの感触がした。温かい。柔らかい。けれど、いつもの妻の頬ではない。もっと乾いた草の匂いがして、鼻先がひくひく動いていた。
「……え?」
白いヤギが、私の顔をのぞきこんでいた。
小さな角。琥珀色の目。横に細長い瞳孔。まちがいなく、ヤギだった。
私は飛び起き、ベッドから転げ落ちた。毛布がずるりと引きずられ、その拍子にヤギが「メエ」と鳴いた。妙に不機嫌そうな声だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
ヤギはもう一度「メエ」と鳴き、それから器用に前脚で布団を掻いた。そこには、昨日まで妻が着ていた薄い水色のパジャマが、きれいに脱ぎ捨てられていた。いや、“脱ぎ捨てられていた”という表現は正確ではない。中身だけが、すうっと消えたみたいに、衣服だけが平らに残っていた。
私は恐る恐る言った。
「……真由?」
ヤギの耳がぴくりと動いた。
「メエ」
その鳴き方は、どこか妻に似ていた。朝、私が寝坊したときに「ねえ、起きてる?」と二度目に声をかけるときの、少しあきれたような響き。十五年も一緒にいれば、ヤギの声にだって性格がにじむらしい。
私はしばらく呆然としていたが、とりあえず眼鏡をかけ、カーテンを開け、顔を洗った。鏡の中の自分はいつもどおりの冴えない四十七歳で、頬に寝癖の線がついていた。世界は変わっていない。変わったのは、どうやら妻だけだった。
洗面所から戻ると、ヤギになった妻――もうそう呼ぶしかない――は、リビングの観葉植物を食べようとしていた。
「だめだ!」
私が叫ぶと、妻はぴたりと動きを止め、振り返ってじっと見た。その目に、あの“冷蔵庫にプリンが一個しかないのに勝手に食べたでしょう”というときの光が宿っていたので、私は思わず背筋を伸ばした。
「……すみません」
なぜ謝ったのかわからない。だが結婚生活とは、理屈より反射で成り立つものだ。
朝食をどうするかが最初の問題だった。私はトーストを焼き、コーヒーを淹れ、妻の前にはレタスとキャベツ、それに念のため食パンも置いた。妻はレタスを数枚食べ、食パンを一口かじり、あからさまに嫌そうな顔をした。ヤギなのに、嫌そうな顔がちゃんと妻だった。
そのときテーブルの上のスマートフォンが震えた。義母からだった。
『今夜、そっちに旬のたけのこ持っていこうか?』
私は妻を見た。妻は口をもぐもぐさせたまま、すうっと視線をそらした。たけのこご飯が好きなのは妻だ。つまり断る理由がない。だが、義母に「娘さんが今朝からヤギです」と説明して信じてもらえる自信もなかった。
私は返信を打った。
送信すると、妻が「メエ」と短く鳴いた。たぶん、「気を遣わせてごめん」だった。あるいは「たけのこは惜しい」かもしれない。
その日、私は会社を休んだ。「家庭の事情です」とだけ伝えた。まさか嘘ではない。
午前中は、インターネットで「妻 ヤギ 変身」「人間 ヤギ 戻る方法」「ヤギ 話通じる」などと検索した。まともな情報は一つも出てこなかった。「呪いかもしれません」という怪しい相談サイトや、やけに陽気な牧場のホームページばかりが並んだ。
昼ごろになると、妻は窓辺で丸くなって眠り始めた。春先のやわらかい光が毛並みに落ちて、思ったよりきれいだった。私はソファに座って、その寝顔を見ていた。
妻とは、若いころ職場で知り合った。彼女は経理で、私は営業だった。真由は何でもはっきり言う人だった。私がプレゼンで失敗して落ち込んでいたときも、「でもあなた、そういうとこ誠実だから憎めないのよね」と言って、紙コップのコーヒーをくれた。
結婚してからも、彼女は変わらなかった。洗濯物のたたみ方が雑だと叱り、食べ終わった食器をすぐ下げないと叱り、熱を出せば夜中でもお粥を作った。私はしばしば、妻に世話をされて生きている気がしていた。いや、実際そうだったのだと思う。
夕方、妻が目を覚ますと、のそのそと本棚の前まで歩いていった。そして下から二段目に鼻先を突っ込み、一冊の文庫本を押し倒した。
それは、私たちがまだ付き合っていたころ、初めて一緒に行った旅行先で買った詩集だった。妻はその中の一編が好きで、何度も読み返していた。紙の端には小さな付箋がついている。
私は本を拾い、開いた。付箋のあるページには、こんな一節があった。
――ことばにならない日にも、となりにいるものを愛せ。
私はしばらくその行を見つめた。妻は足元で静かに座り、何も言わなかった。言えなかった、のかもしれない。
その夜、私は風呂場の前に毛布を敷き、妻の寝床を作った。妻はそれを見て少し考えるような顔をしたあと、当然のように寝室へ向かい、ベッドの妻の側に飛び乗った。
「そこで寝るのか」
「メエ」
「……そうだよな」
私は苦笑して、自分も反対側にもぐりこんだ。ベッドは少し狭かった。ヤギの体温は人間より少し高い気がした。妻はくるりと向きを変え、私の腕に背中をくっつけて目を閉じた。
その温かさに、急に涙が出そうになった。
朝になったら元に戻っているかもしれない。戻っていないかもしれない。そんなことは本当は、どうでもよかったのかもしれない。目の前にいるのが真由であることに変わりはなくて、言葉がなくても、不機嫌な鳴き声でも、植物を食べようとしても、私が一緒に歳をとりたいと思った相手なのだ。
暗い部屋の中で、私はそっと妻の背に触れた。
妻は目を閉じたまま、小さく「メエ」と鳴いた。
その声はたしかに、笑っていた。
条件
「野菜と肉を混ぜない」
「満足感のある洋食」
「醤油を一切使わない」
野菜と一緒に盛り付けるのがNGとのことですので、お皿にはお肉だけを鎮座させます。
ポイント: ケチャップやマヨネーズを使わず、肉本来の旨味を味わいます。
味付け: 高品質なオリーブオイル、大粒の岩塩、挽きたての黒胡椒のみ。
内容: ジャガイモとニンジンをバターと乾燥ハーブ(タイムやローズマリー)でじっくり焼き上げました。
ポイント: 中華・和食のエッセンスを排除し、バターのコクで食べ応えを出します。
具が入ったスープがNGとのことですので、徹底的に濾(こ)した琥珀色の澄んだスープです。
内容: 牛肉と野菜の旨味を抽出した後、すべての具材を取り除いています。
ポイント: 雑味のない、喉越しを楽しむ液体のみの贅沢な一杯です。
内容: バター、みじん切りのニンニク、パセリ、塩だけで仕上げた洋風ライスです。
ポイント: 醤油を一切使わなくても、バターの香りで食欲をそそります。
| 項目 | 対応内容 |
|---|---|
| 盛り付け | お肉のお皿と野菜のお皿を完全に分離します。 |
| スープ | 具材を一切入れないストレートなコンソメスープです。 |
| 調味料 | ケチャップ、マヨ、醤油を排除。塩・胡椒・バター・ハーブで構成。 |
| ジャンル | 完全に洋食スタイル。中華・和風の出汁も使いません。 |
まほよ、月姫R、ステイナイト、空の境界しか読んだり遊んだりしことないタイプムーン素人の疑問。
今やってる成田さんのFateのアニメに出てくる死徒の人を「人理の敵」とアサシンの人が言ってた。(2話)
ものすごく漠然と「第一魔法が今の人間社会の原理なのに、イデアブラッドを持つ二十七祖は別の原理で動いているから、人理の敵」という意味なのかな? と受け取ったんだけど、アニメに出てきた死徒の人は二十七祖ではないらしい。
なんかググっても人理とはなんぞやの答えがよくわからなかった。
全然関係ないけど、有珠って古い価値観で生きてるからお風呂に入る頻度も少ないと思うんだけど証明されてない?(僕が知ってるお風呂に入る頻度が週に一回そうなヒロインランキングは桜、琥珀、巫条霧絵なんですが3人ともそういうのを揶揄って言える感じの理由じゃないからもうちょっとこうカジュアルにお風呂に入らないでいて欲しい。遊んでないから知らないけど、FGOの刑部姫は絶対そうだと思う)
新世界の串カツ屋「だるま」のカウンターで、佐藤健二は震えていた。 彼の前には、揚げたての「牛串」が鎮座している。そしてその横には、深淵な黒を湛えたステンレスのソース槽。
だが、健二は知っている。一度潜らせた串カツを一口齧り、その断面に再び熱いソースを染み込ませる瞬間にこそ、宇宙の真理(マヨル)が宿ることを。彼は周囲を睥睨し、店員の目を盗んで、齧りかけの串を再び黒い海へと沈めた。
その瞬間、世界が静止した。
脳内に直接響く機械的な声。店の天井が消失し、夜空から巨大な三角形の宇宙船が降りてきた。街中の人々がパニックに陥る中、健二だけは串を握ったまま動かない。彼の目の前には、ホログラムの異星人が現れた。
突如、空が赤く染まった。別の巨大艦隊がワープアウトしてきたのだ。
異星人が叫ぶ。
健二は呆然とした。自分がただの食いしん坊ではなく、選ばれし「二度漬けの救世主」だったとは。 「理屈はよくわからんが……」健二は二度漬けした牛串を高く掲げた。
異星人のテクノロジーによって、健二は巨大ロボット『串カツ・ガーディアン』の操縦席へと転送された。 コックピットの中央には、黄金に輝く巨大なソース槽がある。
敵艦隊から放たれる「超高圧醤油レーザー」が迫る。健二は巨大な串型の操縦レバーを握り、黄金のソース槽へと叩き込んだ。
一度漬けたレバーを、さらにもう一度! 通常ではありえないリズムでソースが撹拌され、健二の背徳感に比例してロボットの出力が上昇していく。
ロボットの全身から、琥珀色のオーラが噴き出した。それは「二度漬け」によって生まれた、既存の物理法則を無視する高粘度エネルギー。醤油レーザーをドロリと絡め取り、無効化していく。
健二は光速でレバーを上下させた。もはやソース槽は沸騰し、銀河系全体がスパイシーな香りに包まれる。放たれた極太のソース粒子砲は、暗黒醤油帝国の母艦を直撃し、塩辛い絶望とともに宇宙の彼方へ消し飛ばした。
戦闘は終わった。 宇宙船は去り、健二は再び「だるま」のカウンターに座っていた。
店主の声に、健二はハッと我に返った。手元には、ソースがたっぷり染み込んだ牛串。
健二が照れ笑いを浮かべて代金を支払おうとすると、店主がニヤリと笑った。
健二は店を出て、夜空を見上げた。そこには星屑のようにキラキラと輝く、宇宙のソースたちが流れていた。 地球の平和は守られた。二度漬けという名の、ささやかな反逆によって。
★「今回」の再放送はいつもと違って6日木曜日の16時、午後4時から
緑:當山尚志@東京
青:窪坂雅人@東京
BSジャパネクストがリニューアル BS10の無料放送側で日曜昼などに放送中
見られなかったケーブルテレビ局でも見られるようになったので要確認
つながるジャパネットアプリで放送同期・スマートテレビや4月からtverを含め見逃し配信あり
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・01 [隠し絵][ある人物の名前]草なぎ剛 くさなぎつよし
・06 スウォッチ
・08 [近似値]1336億(483万8700円
・09 ゴッホ
・14 木村沙織 きむらさおり
・18 キャピュレット(家
・19 皮下(組織
・21 きつね(につままれる
・22 [AC]O次郎
・24 陽明(門
・25 恩田陸 おんだりく
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・xx [ある西暦何年]1985 年
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14:30からは「蛍原徹の真剣ゴルフ部! ホトオープン #177」
(2日日曜日)
秋の陽は、村を琥珀色に沈ませていた。山裾にひっそりと棲む一匹の狐、ごん。彼は、世間から取りこぼされたような存在であった。人の営みの外縁で生き、村の匂いを遠く嗅ぎながら、己の孤独を噛みしめていた。
ある日、ごんは、兵十という若者の家から漂う、火と煙の気配を見つけた。のぞいてみると、囲炉裏の端で老母が息絶えていた。人の死というものを、狐の目はどこか他人事のように眺めたが、兵十の悲しみだけは、胸の奥にひりつくように残った。
人間という生き物は、何かを失ったとき、奇妙に静かになる。その静けさの中で、ごんは思った——自分にできることはないかと。
それからというもの、ごんは、夜ごとに兵十の家へ栗や松茸を運んだ。狐のやることではない。だが彼にとって、それは罪滅ぼしというより、生きる理由のようなものであった。
だが世の中というものは、往々にして善意を見抜かぬようできている。ある夕暮れ、兵十は物音に気づき、銃をとった。
乾いた銃声がひとつ。
その音は、秋の田の静けさを裂き、そしてすぐに、また沈黙に吸い込まれていった。兵十が駆け寄ると、倒れた狐のそばには、栗がひとつ、ころがっていた。
そのとき兵十の胸に去来したのは、狐への怒りでも、哀れみでもない。——ただ、この世の理(ことわり)というものの、冷たくも美しい必然であった。
朝の通勤電車から夜の帰り道まで、私はいつも見知らぬ視線の十字砲火の中を歩いている。
胸が大きいというただそれだけの理由で、
****
コンビニに入った瞬間に感じる、息を呑むような気配。
エレベーターの密室で感じる、背中に突き刺さるような視線と熱い息遣い。
それらは全て、私が望んだわけでもない注目という名の暴力だった。
**S*
街を歩くたび、胸元を隠すように前かがみになってしまう自分がいる。
ゆったりした服を選んでも、それでも形は分かってしまう。
****
家に帰り、鏡の前に立つ。
そこに映るのは、ただの一人の人間としての私ではなく、
街中の男たちが勝手に性的な妄想を投影する「対象」としての身体。
胸の大きさがまるで看板のように、
****
それでも私は歩き続ける。
背筋を伸ばし、堂々と街を歩く権利があるのだと自分に言い聞かせながら。
ときおり、その視線に煽られて私自身の意思に反して身体が反応する時がある。
それは私にとって最も混乱し、最も恥ずかしい瞬間だった。
****
満員電車で背後から感じる熱い視線に、胸の奥が微かに疼くことがある。
頭では「やめて」と思っているのに、身体は勝手に熱を帯び始める。
その矛盾に気づいた瞬間、
裏切られたような気持ちになる。
****
不快に思いながらも、なぜか頬が熱くなり、
呼吸が浅くなっていく自分に気づく。
この反応は一体何なのだろう。
望んでいないのに、
拒絶したいのに、
深い混乱に陥る。
****
家に帰ってシャワーを浴びながら、
それに対する自分の反応を思い返す。
私をより深い孤独へと突き落とす。
誰にも相談できない、
私は鏡の中の自分を見つめる。
****
それでも、まるで自分が共犯者であるかのような罪悪感に苛まれることがある。
望まない注目と、
それに対する制御できない反応の間で、
私の心は静かに揺れ続けている。
いつか理解できる日が来るのだろうか。
****
それでも私は、
少しずつ受け入れようとしている。
ある日、そんな望まない誘惑に負けて、かなり年上の男性とセックスをしてしまった。
私が最も避けるべきことだった……はずなのに。
****
その日の夕方、駅前のカフェで一人でいたとき、隣のテーブルに座った男性が声をかけてきた。
四十代後半くらいの、落ち着いた雰囲気の人だった。
彼の視線が私の胸元に向けられるたび、
頭では「帰らなければ」と思っているのに、足が動かない。
彼の誘いを断る言葉が喉の奥で消えていく。
気がつくと彼について近くのホテルへ向かっていた。
****
部屋の中で、彼が私の肩に手を置いたとき、全身に電流が走った。
これは私が望んでいることなのか、
それとも単なる身体の反応なのか、
もう区別がつかなくなっていた。
服を脱がされながら、
心の奥で小さな声が「やめて」と叫んでいるのに、
身体は素直に応えていた。
行為の間も、
彼に求められることで感じる一種の充足感と、
自分を裏切ったような罪悪感が同時に押し寄せてくる。
****
終わった後、シャワーから出て鏡を見たとき、そこに映ったのは知らない誰かのようだった。
なぜこんなことをしてしまったのか。
彼が悪いのか、私が悪いのか、
それとも誰も悪くないのか。
答えのない問いが頭の中を駆け巡る。
帰り道、夜風が頬に当たるたび、自分の選択への後悔が深くなっていく。
望まない視線に晒され続けた結果がこれだったのか。
****
家に着いて一人になると、涙が止まらなくなった。
この経験をどう受け止めればいいのか、誰にも相談できずに、ただ静かに夜が更けていく。
そして、わたしは混乱のまま、ひとり、まだ収まらぬ欲望を鎮めるために、
****
部屋の電気を消し、
私は布団にくるまった。
心と身体の間に横たわる深い溝を埋めようとするかのように、
そっと手を伸ばす。
それは自分を慰めるためというより、
触れる指先に伝わってくるのは、
でも今度は、誰の視線も、誰の欲望も介在しない、純粋に自分だけの時間。
閉じた瞼の裏に浮かぶのは、あの男性の顔ではなく、ただ曖昧な影のような何かだった。
****
波が寄せては返すように、快感と罪悪感が交互に押し寄せる。
これは私の意思なのか、
枕に顔を埋めて、小さく身体を震わせながら、私はただ静かに涙を流していた。
****
自分の身体を取り戻すための行為だったはずなのに、結果として残ったのはより深い孤独だった。
誰にも理解してもらえない、この複雑で矛盾した感情を抱えたまま、私は夜明けまでの時間をただ天井を見つめて過ごした。
この終わりのない循環の中で、私は自分自身との和解の道を探し続けている。
夜の帳がすべてを包み込む頃、わたしはそっとベッドの上に身を沈めた。
薄いシーツのひんやりとした感触が、肌の奥に冷たい震えを残す。
呼吸を整えながら、思考の雑音を遠ざけるようにゆっくりと目を閉じた。
****
心の奥底でくすぶり続ける熱が、手のひらにまで伝わってくる。
私はシーツの縁をぎゅっと握りしめ、もう片方の手を太ももの内側へ滑らせた。
その瞬間、肌を伝う指先にぞくりとした電流が走る。
まるで喉に詰まった言葉が身体を駆け巡るように、全身が目覚めていく。
****
指がゆるやかに動くたび、暖かな湿り気が広がり、私の胸は小さく上下する。
閉じたまぶたの裏に浮かぶのは、遠い窓辺から漏れる街灯の淡い光だけ。
無数の思いがきしむように折り重なり、ひとつずつ解きほぐされていく感覚があった。
****
呼吸が荒くなるにつれ、指先の動きは自然と速さを増す。
月明かりに照らされた頸(くび)のラインが、柔らかな翳(かげ)を描いて揺れる。
****
一呼吸、一瞬のときめきが重なり合い、やがて身体の奥深くで小さな波が弾けた。
ぎゅっと握りしめたシーツが緩み、胸の内にあふれた感情がそっと零れ落ちる。
****
終わったあと、私はまだ微かに余熱を帯びた手を見つめる。
自分自身で自分を抱きしめるこの行為は、誰のためでもない、私だけの小さな反抗だった。
身体と心の深い溝を、ほんのひととき埋めるための、最も正直な儀式。
夜はまだ深く、そして私は――少しだけ、自分を取り戻せた気がした。
夜の静寂が重く降り積もる部屋の中で、わたしは四つん這いになった。
シーツの冷たさが掌から腕へと伝わり、床に広がる感触が身体の芯をくすぐる。
****
遠い窓辺から差し込む月明かりが、背中の曲線を銀色に照らし出す。
その柔らかな光の中で、わたしはひざをわずかに開き、手をそっと腰のすぐ下に置いていく。
****
ひと息ごとに深まる熱が、太ももの内側へと波紋のように広がる。
指先はまるで秘密の扉を探るかのように、皮膚の縁をなぞるだけで、身体は自然と反応を始める。
****
床板のきしみが小さな音をたて、まるでわたしの鼓動に合わせて囁くようだ。
指先が微かなリズムを刻むたび、胸の奥から柔らかなうねりが押し寄せ、息が熱を帯びていく。
****
身体を支えるひじに力を込めると、背中がひときわ高く弧を描き、腰のあたりに甘い疼きが蘇る。
その瞬間、わたしは全身を貫く小さな波に身を委ね、静かな陶酔の中でひとつの頂きへと導かれていった。
****
終わりの余韻は、まるで絹のベールがそっと降りるかのように静かだった。
わたしはそのまま少しの間、月明かりと床の冷たさを抱きしめながら、深く静かな息を繰り返していた。
私はもう、抑えきれない波に身を委ねる。
夜の深みが全身を包み込み、自分だけの世界がゆっくり開いていく。
****
顔を伏せ、長い髪が頬を撫でるたびに、体の奥がひそやかにざわめく。
シーツにくっきりと刻まれる肘の跡が、しなやかな記憶となって背中に残る。
****
柔らかな曲線をなぞるたび、熱が指先から脳裏へと跳び火し、鼓動が高鳴る。
****
息づかいは次第に荒く、でも抗えないほどに甘くなる。
かすかな汗が首筋を伝い、肌を冷たく刺激する。その冷たさが、いっそう欲情を掻き立てる。
****
身体の中心でうねる脈動が、まるで星々のリズムと同期しているかのよう。
****
やがて訪れる頂点の瞬間、全身が軽やかな火花を散らしながら、深い懐へと溶け込む。
****
解放の余韻に浸りながら、私はもう一度、自分自身を抱きしめる。
夜の静寂と私の鼓動がひとつになり、無数のわたしへと還る詩が、そっと幕を閉じる。
翌朝、窓の向こうから差し込む柔らかな光が、昨夜の余韻をそっと揺り起こす。
私はまだ眠りの縁にいるまま、自分の大きな胸に手を当てる。
鼓動はゆっくりと、しかし確かに、昨夜とは異なる静かな決意を秘めていた。
****
カーテンの隙間から漏れる光線に導かれるように、私はベッドの縁に腰かける。
淡い朝日が頬を撫で、身体の奥底に息づく欲求が、小さな震えとなって立ち上がる。
****
素肌が冷たい空気に触れた瞬間、再び身体が目覚め、胸の谷間に甘い疼きが生まれる。
****
横たわる布団を背に、私は四つん這いになり、手を腰のくびれへ滑らせた。
昨夜の記憶をたどるかのように、指先は肌の柔らかさを確かめ、ひとつずつ自分の願望を叶えてゆく。
身体中に行き渡る熱は、もはや罪悪ではなく、私自身の力強い生の証明だ。
****
動きは自由自在で、呼吸は次第に深く、荒々しくもあった。
指先から伝う快感が、脳裏を明るく染め上げ、私は身体の奥で求めるものすべてを解放していく。
声が漏れ、シーツが揺れ、部屋の静寂が私の節奏に合わせて微かに震えた。
****
願望を叶えたあとの余韻は、清らかな湖面のように澄み切っていた。
私は手を伸ばし、胸元に当てていた手をそっと解放する。
そこには、昨夜とは異なる自信が宿っていた。
自分の身体と心を誠実に慈しむことで、私は新たな一歩を踏み出す準備を整えたのだ。
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私はこれからも、この身体と共に真実の声に耳を傾けながら生きていく。
夜風が髪を撫で、街灯の輪郭がぼやける頃、私は静かに部屋を出た。
ふだんは避けていたネオンの海へ、今はまるで誘われるように足が向く。
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舗道の冷たい石畳を踏みしめるたび、昨夜の余韻が身体の奥で疼き返る。
まぶた越しに浮かぶのは、自分を縛っていた羞恥心――それがどれほど不自然な檻だったかを思い知らされる。
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雑踏のリズムに身を任せながら、私は自分の頬に灯る熱を見つめた。
恐れていたのは他人の視線ではなく、自分の中に潜む快楽の声だったのだと知る。
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ビルの谷間にこだまする車のエンジン音が、心臓の鼓動と重なり合う。
その振動が全身に伝わり、「禁忌」だと思い込んでいた感覚が実は私の最も純粋な生命の証だったと気づく。
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ネオンライトに映る私のシルエットは、夜の誘惑に頷くように揺れていた。
これまで忌み嫌ってきた「私の快感」は、恐れるに値しないどころか、私自身を輝かせる光そのものだった。
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夜の街を歩く足取りは軽やかで、抑えてきた欲望が解放された今、私は初めて、自分自身をまっすぐに抱きしめていた。
ネオンの残光が私の影を長く伸ばす路地裏で、見知らぬ声が耳元に囁いた。
その低く柔らかな誘いに、私はためらうことなく頷いていた。
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彼の手を取ると、指先に走る温もりが夜風に溶けていく。
初めて触れるその手は、私がこれまで避けてきた夜の闇を優しく照らし出した。
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小さなバーの扉を押し開けると、薄暗い空間にジャズの低いリズムが流れていた。
カウンター越しに差し出されたグラスの中で、琥珀色の液体が揺れるたび、胸の奥が柔らかく騒ぎ出す。
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言葉は少なかった。互いに名前も知らず、ただ視線と触れ合いだけで求め合う。
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やがてバーを後にし、私たちは夜の街を抜けて彼のアパートへ向かった。
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その感触は、まるで夜そのものを味わうかのように深く、私の内側から溶かしていく。
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硬く抱きしめられ、開かれ、満たされるたび、これまでの遠慮や後悔が消えていった。
床板の冷たさがひざ裏に触れ、背筋を通り抜ける緊張が私を震わせる。
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彼の手がそっと腰骨に乗り、軽く押し下げる。
その圧力に合わせるように、私は自然と背を反り、身体の曲線を際立たせた。
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低く囁く呼吸が、首筋にゆらめく温かな風となって耳元を撫でる。
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指先が太ももの内側を撫で上げ、ふくらはぎへと辿るたび、身体は波のように反応する。
まるでずっと待っていたかのように、肌の奥から熱が浮かび上がった。
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次に、彼の身体が私の背中へと近づき、骨盤のくぼみにそっと重みを預ける。
その圧迫と解放のリズムが、私の中心をゆっくりと揺さぶり、慟哭のような甘い震えを呼び起こした。
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息が漏れ、髪が頬に触れるたび、小さなうめき声が夜の静けさに溶けていく。
私はただひたすら、開かれ、満たされるままに身を委ねた。
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終わるとき、身体は深い余韻に包まれ、四つん這いのまましばらくその場に残った。
床の冷たさと彼の余熱が混じり合い、私の内側には新たな確信が灯っていた。
柔らかく重なるとき、私の唇は甘い潮騒のように震え、彼の肌にそっと溶け込む。
その熱は、まるで眠れる火種を灯すかのように、静かな欲望の焔をともした。
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私は彼の首筋へと滑るように口づけを落とし、鼓動を刻む抑揚を読み解く。
ひとつ、ふたつ、鼓膜をくすぐる吐息を集めて、私は彼の呼吸そのものを愛した。
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唇を離す瞬間、小さな甘い震えを種火に変え、次のキスへと連なる旋律を描く。
その連鎖は夜の静寂を柔らかく揺らし、彼の心と身体をひとつの詩に編み上げた。
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私が彼に捧げたのは、ただの接触ではなく、音のない言葉と、温度だけが宿る祈りだった。
唇で織りなすひとつひとつの旋律が、深い夜の帳を赤く染め上げていく。
夜の帳が深まる中、私はそっと彼の秘奥に唇を寄せた。
そこには、夜の熱を宿した硬きものが、静かに呼吸を待っていた。
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唇の柔らかさと硬質な感触が交錯し、まるで石灰岩に滴るしずくのように、熱がゆっくりと溶け込んでいく。
口内に伝わる脈動は、遠雷のように深い場所で響き渡り、私の鼓動を共鳴させた。
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それはまるで、冬枯れの大地が春の滴を待ちわびるような切ない期待を孕んでいた。
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唇を離すたびに残る余韻は、真夜中の川辺に漂う霧のごとく甘く、ほのかな余熱だけが私の胸に刻まれる。
硬きものへの口づけは、言葉にならぬ祈りとともに、ふたりの夜を深い詩へと変えていった。
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唇を軽く湿らせ、私はそっと先端へと導く。
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その導きは、固さと温もりを一つの旋律に編み上げ、深い夜を揺り動かす。
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息遣いは次第に重く、でも柔らかな詩を紡ぐように響いた。
私はその硬きものを自分のリズムに合わせ、甘くも力強く夜の彼方へと連れ出していった。
私はひざまずいたまま身体を前へと傾ける。
胸のふくらみが、かたくそびえる先端へと触れた瞬間、微かな火花が走った。
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私の柔らかな曲線と彼の硬質な存在が重なり合い、
心臓の鼓動が高鳴り、胸の谷間から伝わる圧迫が甘い疼きとなって波打った。
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シーツの白さに映るその影は、まるで古代の柱に抱きつく蔦のように、かたく絡みついていく。
私の呼吸が乱れ、胸が震えるたびに硬きものは静かに、しかし確実に私の奥深くを探り始めた。
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やがて二つの温度が混ざり合い、柔らかさと硬さがひとつの旋律を奏でる。
その調べは夜の闇に溶け込み、胸に秘められた欲望をひそやかに解き放っていく。
その冷たくも温かな液体は、まるで夜空を切り裂く流星のように勢いよく放たれ、私の肌を愛撫する。
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滴がひときわ大きなしずくとなり、シーツの白をゆがめながら胸元へと舞い降りる。
その瞬間、身体全体に満ちるのは、これまで味わったことのない満足感であり、魂が溶け出すほどの祝福だった。
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白いしずくが胸を伝い落ちるたび、私の中に広がるのは静かな幸福の海で、すべてが溶け合ってひとつの光になる。
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その満たされた余韻は、まるで天からの賛歌が身体に刻まれたかのよう。
私はただ瞳を閉じ、胸を撫でるしずくの感触に身を委ねながら、今この瞬間の完全なる歓喜を胸に深く刻みつけた。
唇をそっと開くと、冷たくも甘い白い液体が広がり、舌の上で優しくとろけていく。
そのぬめりは、まるで夜露が朝の葉を濡らすように、私の口腔をしっとりと包み込む。
****
その柔らかな曲線を、私は慈しむように口の中で抱きしめ、細心の注意でその輪郭をたどる。
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液体とやわらぎが交じり合う瞬間、甘く深い滋味が喉の奥へと流れ込み、全身に解け出す。
私はその余韻を味わいながら、夜の祝福が身体の隅々まで行き渡るのを感じていた。
デイリーポータルZのめんつゆと白だしの記事が話題になっていたので。
各種メーカーのページにも書かれているが、白だしは、醤油と出汁をベースとした色味の薄い調味料を指す。
対して、白醤油は愛知県が発祥の醤油そのもの。通常の醤油に比べて小麦の割合が圧倒的に高く、琥珀色でそもそもからして淡い。味もほんのり甘め。
もちろん、白醤油による白だしもあるが、必ずしも白醤油が含まれているとは限らないので要注意。
他方、白だしも白醤油も素材の色味を損なわず上品に調味できる点は共通している。余裕があれば使い比べると面白いかもしれない。個人的にはホワイトシチューを作る際に白醤油を少し足すのが好き。
余談だが、JASの定義では、醤油には大豆が必須となっている。白醤油のアイデンティティである小麦のみ、大豆不使用で白醤油を作ると、それは醤油とは名乗れず、小麦醸造調味料となる。白醤油を突き詰めると醤油ではなくなるのである。
次は久慈近辺を紹介することにする。花巻(北上)、一関(平泉)と来て、内陸を埋めるなら奥州いくべきなんだろうけどね。
盛岡から久慈に行くにはどう行くかがまず問題。バスだと直行便が1日5往復(4+1往復)あるんだけれど、日帰りには致命的に不便。二戸まで新幹線で行ってバスに乗り換えるのがたぶんいちばん便利。そういう意味でもレンタカーがおすすめ。
レンタカーでも、ルートは大まかに行って4つある。1つめのおすすめは東北自動車道-八戸道で九戸インターで降りて、あとは一般道を通るルートで、これがたぶんいちばん楽で速い。それ以外に、国道4号で沼宮内近辺から葛巻方向に入っていく経路と、国道455号で岩泉を経由する経路と、国道106号で宮古経由で行く経路がある。葛巻経由はまあ趣味の世界。道路状況は悪くないけど遠い。岩泉ルートはもっと遠いが龍泉洞をついでに観光できるという利点は捨てがたい。宮古ルートは311後の道路改良のおかげで意外と近い。たぶん旅行計画によって葛巻ルート以外の2つを行き帰りで選ぶことになると思う。岩泉ルートと宮古ルートは途中に野田、田野畑あたりも経由できるのでこの辺もあとで紹介しておく。
久慈は平成の大合併で山形村を合併して大きくなった市で、旧山形村にはそれほど観光資源がない。あったのがまめぶ汁だがこれは「あまちゃん」でなぜか海女の食べ物になってしまった。とは言え能年玲奈がその後主役になった映画「星屑の町」は山形村な地域でのロケがけっこう行われたのでこの映画に興味がある向きはロケ地巡りに周ることが可能。ロケ地マップは久慈市が公式サイト上で配布している。説明はこれくらいにしておく。たぶんこの地域を周るとガタゴンという未確認生物の話も聞けると思う。
で、久慈地域。ほかにもいろいろあるのだけど、まあ基本的には「あまちゃん」が全て持っていってしまっている。結局それ絡みの観光名所を周ることになると思う。ウニ弁当を売っている久慈駅とか、そこに面して建っている廃墟である久慈駅前デパートとか。あまちゃんハウスは閉鎖して、そこにあったあまちゃんグッズは久慈駅南側の公共施設YOMUNOSUに移設された。喫茶リアスのモデルになった喫茶モカも久慈駅からギリギリ見える場所にある。あま絵の描かれたシャッター商店街も久慈駅から歩ける範囲にある。つまり久慈駅にたどり着けばだいたい見ることが出来る。ラーメン好きにはカツらーめんが有名なラーメンの千草もかなり近所にある。
いっぽうで、そこから少しでも離れると車なしでは観光地は回れない距離になる。北三陸鉄道袖ヶ浜駅は三陸鉄道の堀内駅で、久慈市には存在しないし、海女として活動していた小袖海岸は絶対にそこの最寄り駅ではない(そもそも小袖海岸のそばを三陸鉄道は走らない)。結局レンタカー頼りになっちゃうわけだ。
ウニについては、久慈よりもそこより少し北にある洋野町が盛ん(久慈にもあるけど)。正直もう生ウニシーズンは終わっているけれど、ウニを買うなら洋野町のほうがいい気がする。食べるならはまなす亭がおすすめ。個人的には洋野ではウニよりもホヤを試してほしい。特に喜利屋のダイバー定食はホヤ嫌いでも一度は食べてみるべきなんだけど、そういえば元増田は魚介類には興味ないんだっけな。
久慈は琥珀の日本最大の産地で、その近辺で肉食恐竜の化石も見つかっているんだけど、この辺にはあまり詳しくないのでおすすめはしない。いちおう琥珀は博物館もあるし、琥珀の工作体験が出来る店もあるらしい。まあこれはそういうものもあるという情報だけ。
そう言えば、遠地で津波を伴う地震があった時に、本州で最初に津波が到達することが多いのが久慈だったりする。7月にカムチャツカ半島で起きた津波も日本で一番大きいのは久慈に来た津波だった。久慈の災害情報カメラはほぼ全系列、久慈漁港に置かれているので、ここを南側から見ると次に津波が起きた時に「ここに来たことがある」と実感が持てるかもしれない。
先ほど堀内の話をしてしまったので、間の野田について少し。自分にとってのイチオシは陸中野田駅の斜向かいにあるお魚センターだったのだが、どうやら今年になって閉店したらしい。まあ魚介類には興味ないから別にいいか。道の駅も陸中野田駅に隣接していたのだけれど三陸自動車道の開通があって野田インターのそばに移転した。野田は塩の産地でここで売っているソフトクリームは塩入りなので試してみるべき。あと、どうもこの辺で売っているかりんとうはふつうのかりんとうとは形が違うらしい。北三陸でかりんとうを見かけたらこの道の駅でなくていいので買ってみてほしい。あと、テレビで紹介されたものとしては木彫りの魚があるね。これは道の駅からはけっこう離れている。
さて堀内から少し南に(45号を)行くと、少し海が開けたところが見える。本当はここは三陸鉄道で渡って欲しいところなのだけど、たぶん日帰りだとそれはかなわないと思う。ここが大沢橋梁で、三陸鉄道屈指の絶景スポット(三陸鉄道はあんまり海のそばを走っていない。それでも津波で被害を受けた)。実は「あまちゃん」絡みの撮影スポットでもある。さらに南に行くと普代村の市街地。市街地といっても村なのでそれほど大きくはないが、ここから県道を通って北山崎に向かうことができる。ここは必見。ここに向かう県道沿いの普代市街地を出てすぐのところに普代水門という可動防波堤があって、普代村はこれのおかげで311の津波を避けることが出来たという逆の意味での震災遺構となっているのでこれも是非。このあたりから田野畑村で、ここをさらに南に行った先に机浜という集落があって、ここが少し観光に力を入れている。漁村ならではの体験もあるけれど、イチオシはここから北山崎を下から眺めるサッパ船ツアー。三陸海岸は東向きなので本当はここは午前中に来て欲しいところではある(日帰りでは厳しい)。もし泊まるなら少し南にあるホテル羅賀荘がおすすめ。
このそば(当然歩いて行くことはおすすめしない)に、三陸鉄道の田野畑駅と島越駅がある。田野畑駅は「あまちゃん」で畑野駅として使われた駅。島越駅は津波を見越して作られたにも関わらず三陸鉄道最大の津波被害を受けた駅であるというストーリー(プロジェクトXで紹介された)を知っていると見る価値はある。ここから45号線に戻る山道が辞職坂と言われる坂。実は田野畑村は陸の孤島で、そこにかかっている橋を含め2つの橋が出来るまではこの大きさの谷を2つ越えて来る必要があった。辞令で田野畑に来る命令をされた人が最初の谷(思案坂)でこのまま勤めるか悩み、この谷で辞職を決意したという伝説が残っている。最初の坂にかかった橋は真木沢橋だが、現在は隣に高速道路のその名も「思案坂大橋」という橋がかかっている。ここを通れば田野畑村を抜けるが、もし田野畑村で昼食が食べたかったら北に国道を戻って北川食堂で食べるといい。
久慈。あまちゃんで知られる北部沿岸の町。行事が楽しいところで、
闘牛とか、巨大な創作山車がでる秋祭りがいいのだけれども、秋祭りはちょうど先週終わってしまった。
・琥珀博物館と石油備蓄基地/地底水族館もぐらんぴあは、まさにここだけ。琥珀細工とか化石掘りが楽しい。
・夏のいい季節なら、みちのく潮風トレイルもいいけど、もう寒いかな。
・駅そばのレトロカフェ、モカのたまごサンドを食べると「あまちゃん」の世界にひたれる。
食べ物に関心がないそうだが、夏のウニは本当にすごくて、あと岩手短角牛の本場なので赤身肉がうまい。「まめぶ汁」もなかなか。
犬族の長に歯向かったタケルは、その黄金の牙の前に為す術もなく倒された。しかし、彼は死んではいなかった。犬族の長は、彼に最後通牒を突きつけた後、タケルに、彼らの真の目的を伝えるために、一人の女性を遣わした。
彼女は、犬族の中でも特に美しい容姿を持っていた。艶やかな黒髪は潮風に揺れ、その瞳は、昼間には深い琥珀色に、夜には満月のような金色に輝いていた。彼女の名は、シズカ。犬族の中でも、特に人間との交流を許された、唯一の存在だった。
タケルは、千葉の山奥にある犬族の隠れ里に連れて行かれた。そこは、人間が踏み入れたことのない、手付かずの自然に囲まれた場所だった。タケルは、そこでシズカから、犬族の歴史と、彼らがこの地を守り続けてきた理由を聞かされた。
「我々は、太古の昔から、この星の均衡を見守ってきた」
シズカは、澄んだ声で語った。「人間は、自分たちの欲望のままに自然を破壊し、レプティリアンは、冷酷なまでに生命を管理しようとする。どちらも、この星の『生命』を理解していない」
タケルは、反論できなかった。彼が人間として感じた「温もり」や「喜び」は、犬族から見れば、ただの利己的な感情に過ぎないのかもしれない。
「しかし、お前は違った」
シズカは、タケルの目を見つめて言った。「お前は、人間の温かさを知り、そして、世界の真理に触れた。我々は、お前の中に、人間と犬族、レプティリアンのいずれでもない、第三の可能性を見たのだ」
シズカは、タケルに、犬族の持つ特別な力を見せた。それは、人間やレプティリアンとは違う、動物や植物の声を聞く力。彼女は、森の木々や、川を泳ぐ魚、そして空を飛ぶ鳥たちと、直接心を通わせることができた。
タケルは、その光景に深く感動した。それは、彼が焼きまんじゅうから学んだ「真理」の、より深い次元だった。それは、個々の生命が持つ温かさの連鎖ではなく、この星全体が持つ、ひとつの大きな「生命」だった。
タケルは、シズカに惹かれていった。彼女の瞳は、彼の心を映し出す鏡のようだった。彼女と話すうちに、タケルは、自分がこれまで感じてきた愛が、いかに小さく、限定的なものだったかを思い知った。
「ノゾミは、お前に人間の温かさを教えた」
シズカは、タケルの心を読み取ったかのように言った。「そして、お前は、その温かさで多くの人々を笑顔にした。だが、真の愛とは、この星のすべての生命を愛することだ」
タケルは、シズカの手を取った。彼女の掌は、冷たかったが、その奥には、途方もない温かさが宿っていた。それは、ノゾミの温かさとは違う、この星すべての生命を包み込むような、慈愛の光だった。
タケルは、この時、悟った。ノゾミが彼に伝えたかった最後のメッセージは、この愛にたどり着くための道標だったのだ。それは、一人の人間を愛することから始まり、やがて、この星のすべての生命を愛する、普遍的な愛へと昇華していく旅だった。
タケルは、シズカの瞳に、その答えを見た。そして、彼は、彼女に、心から愛を告げた。彼女の瞳には、タケルへの愛が、静かに灯っていた。
(第十一幕・了)
https://anond.hatelabo.jp/20250908163905
俺は大学生の時、予備自衛官補の訓練で銃を撃ったことがある。64式小銃という銃だ。狩猟やスポーツのためではない、純粋に「人を撃つために作られた、戦争をするために作られた軍用銃」だった
その銃床を肩に当て、撃った瞬間、日本人が考え得るもっとも強力な「戦争と殺しの道具」を手にしたと錯覚した。
…あの時は、それ以上に強い武器はないと思っていた。だが、人間が人間を苦しめる手段に限りがないことを今知らされている。人は、人を軍隊や武器で殺すばかりではない。視線と、言葉と、善意ですら、人を壊すのだ。
14歳の兄の娘は、俺がかつて持った64式小銃よりも恐ろしい武器をその小さな心に浴び続けた。それは悪意と性欲という視線で心臓を撃ち抜かれ、言葉のナイフが幼い心を裂き、さらには善意や親切でさえ…猛毒の毒矢となって彼女に降り注いだのである。彼女が生まれる遥か前、俺が4歳や5歳の頃、オウム真理教というテロ組織が世界初の首都圏化学兵器テロを実行した。その時、俺のよく知る秋葉原駅でオウムの実行犯の一人はサリンを散布したという。彼女にとってはそれをも超える「視線と言葉と善意の化学兵器」が小さな体に降り注ぎ続けたのだ。
兄の娘は、母親の容姿を引き継いでいる。今となっては、その美貌は、彼女にとって祝福ではなく災厄であった。俺が見ているウマ娘というアニメ、その中のトウカイテイオーという少女が面影も立ち振る舞いも似ていると感じていた。
まだ14歳の幼い彼女をその獣欲を満たそうと、有象無象の無頼の輩がやってきていた。それは、昔教科書で見た百鬼夜行絵巻を俺に想起させた…人間は時に、妖怪よりもよほど醜悪である。
悪意ある大人たちは、艶めかしい視線と卑しい言葉を彼女に浴びせ続けた。その感情は毒であった。幼い心は、その毒に壊されていった。俺も父も、完全にそれを防ぎきることはできなかった。
悪意ある「大人」たちに艶めかしく気持ち悪い性欲のこもった眼と言葉と感情を向けられ続け、彼女の心は壊れた。
だが、何も悪意と性欲だけが兄の娘の心を壊したのではない。転校する前の私立、そして小学校時代の学友や友人が、彼女を心配したのだろう。クラスで書いた寄せ書きを持ってきたことがあった。思えば、代わりに俺かルカねえが受け取るべきだった。
それを見た彼女は、半狂乱で泣きわめきながらそれを引き裂いた、破いた。布団に伏し、捨てられた小動物のようにおびえて泣いた。彼女にとってもはやクラスメイトの向ける善意や純粋な心配や好意は、彼女の心を引き裂く研ぎ澄まされた言葉のナイフに変わっていたのだ。
俺は内心悲しみを隠せなかった。「また遊ぼうね」、「元気?」…子供らしい無垢な励ましの言葉だ。数々の言葉は彼女の心を締め上げる呪詛の呪文以外の何物でもない。感受性の強い彼女の壊れた心は、もはや善意や幸せを受け止める器の形を保っていなかったのかもしれない。
兄は娘と伴侶の心さえ破壊していく毒を残していったのだ。あまりに業の深い行為である。
…補導した警察官の話によれば、彼女――兄の娘はトー横でさえ価値観や会話がかみ合わず、容姿ゆえの性欲しか同年代の落ちこぼれたちからさえ向けられなかったらしい。
同性からは「見てくれのいい生意気な女」、異性からは「エロい女」、救いを求めて流れ着いた場所でさえ、彼女の前に待っていたのは俺達が防ぎきれなかった悪意と性欲のねばついたマナコと、悪意と嫌悪の眼だけだったようだ。
…彼女が求めた救済の場は、結局、欲望と嫌悪の眼が渦巻く修羅の巷であった。
兄が望んで往った「キラキラした人生」…見栄と虚栄と虚位と、嫉妬と悪意と打算と性欲が渦巻く世界に、行きたくもないのに叩き落とされたのだ。感受性の強いその娘が、望んでではなく、強いられて。
俺は兄の位牌を蹴り飛ばしたい衝動にかられた。どこまでも身勝手で自分勝手だった兄の残した業と毒…身勝手で、他者を顧みぬ男の残した毒は、一人の少女の心を取り返しのつかぬほど破壊してしまったのだ。
…兄の娘の心が再びその瑞々しさと平穏を取り戻せることを、俺と父はその祈りにすがるしかないのである。
Xを覗くと、思いがけず俺の書いたものが拡がり、人々の口端にのぼっていた。
群れをなすオッサン達の姿は、かつての兄に重なった。彼らは互いに「自分は違う」と言い訳しながら、同類であることを確かめ合っている。肩書を飾り立て、やれどこぞの企業の社長だ、案件募集だ、AIがどうとか…
実体の乏しい言葉を繰り返すだけで、そこにあるのは哀れにも似た虚ろさであった。恐らくAIの意味も分かっておらず、それを錦の御旗にすればルカねえや俺の様なITに音痴な人間がすごいと思って枕詞につけているのであろう。一抹の哀れさすら感じる連中である。
俺はそれを見て、葉の裏にくっついて擬態しなければならぬ雑虫の輩の羽虫が、アスファルトにへばりついて隠れているかのような場違いな滑稽さを感じた。
だが、それを笑えるであろうか?彼らの有り様は、兄と同じだ。都市の灯に集う羽虫に似ている。かつて昆虫が森の落葉の陰に潜み、その自然の中で調和していたように、彼らもまたあるべき場所を持つはずであった。しかし今はアスファルトに貼りつき、光に惹かれ、Xの上をただ滑稽に舞う。
そう思えば、彼らの姿は羽虫に似ている。自然の中で葉裏に潜む虫であれば、まだ調和がある。だが都市の舗道に貼りつき、光に群がる姿には、どこか場違いな痛ましさがあった。兄の変貌もまた、その群れの一つに数えられるべきものだったのであろう。
俺みたいな人間から見れば、虫と同じだ。虫マニアや昆虫学者ならナントカムシだのウンタラムシだの名前と種類が違うことがわかるのだろうが、俺から見れば兄と同じくネットの虚妄で自尊心が毒虫の様に肥大化し、ITという腐葉土に群がる虫の様にしか映らない。そこには嫌悪と侮蔑の感情すら感じていた。
俺と父が見た、傷心のルカねえや兄の娘に群がっていった、性欲に狂った目でイチモツをオッ勃たせる事も気にせず…いや、寧ろ見せつけて嫌がる様に性的興奮すら感じているのであろうとしか思えない程の下劣で教養のかけらもない言葉遣いと毒笑を浮かべた自称「IT企業の社長」、「ITコンサルタント」、「芸能界関係者」、「スポーツ関係者」と同じにしか見えない、日本社会の闇に蠢く虫の様な輩の姿を再び見て、俺は暗い気持ちを抱えざるを得なかった。
―――これを見て、折に触れて思い出すことがある。トー横で兄の娘が補導され、俺と、そしてルカねえが引き受けに行った時の光景だ。
西武新宿から降りてすぐ左手のパチンコ屋に、姉妹のメイドと一人の王女が映ったアニメキャラの大きな看板がある、なろう小説の有名なアニメ、Reゼロのキャラクターだという。
その看板の下で兄の娘とルカねえと俺は合流した。
生前、兄もこのなろう系というものを好んでいた。そこには性格がひん曲がった社会の負け組の中年や引きこもりが、タナボタでチートなるパワーを得て死んだ先の世界で無双し、美少女に囲まれるという、あまりにも惨め過ぎる夢物語の内容が主で、兄と同じく氷河期世代の中年男性に人気だと聞く。
自業自得の自らの業と虚栄により、人生を自ら追い込み、ありもしない一発逆転に縋って、それでも「馬鹿にされる」、「男のメンツ」とくだらないプライドを持ったまま憐れに、惨めに、そして滑稽に独り相撲を続ける兄の姿を、兄自身も歪んだ認知の中で重ねていたのだろうか。少なくとも俺には、兄が彼の好むスバルだのカズマだのゴブリンスレイヤー何某だの、ロードウォーリアーズだかオーバーロードだとか、転生スライム男だという何某の様なキャラクターにダブって見えた。
ああ、空想の中の異世界では自尊心が毒虫の様に肥大化した彼らの他責思想と無法を通したとしても、都合よく逆転し、美少女に愛され、英雄になれるのであろう。だが現実は冷たい経済機構の歯車が迫る経済大国の社会の枠組みの中だ。そんな人間は、社会から「いらない存在」として排斥される。兄の憧れた彼らなろう主人公にも、ルカねえや娘、俺達に忍び寄る「社会の底辺と闇の世界の住人」達の世界で生きることもできないだろう。
その末路は兄と同じなのやも知れない。
思い出す。京都アニメーション放火テロ事件の主犯である青葉真司という氷河期世代の中年男性がいた。彼も熱心に「小説家になろう」に投稿していた男だったと裁判で証拠として提出されている、とニュースで見た。
そんな彼は狂って自らと無関係な大勢の他者を燃やして死んだ。実に身勝手な男だ。いつか兄が見ていたどこぞのなろうアニメの様にエクスプロージョンなどという魔法でも放ったつもりだったのであろうか?身勝手にクソをヒリ出し首を吊って死んだ兄も同じではないであろうか。ガソリンをぶちまけて火を放って焼け死のうとした青葉、身勝手に首を吊り糞と精子をヒリ出し死んだ兄。炎か汚物かの違いでしかない、俺はそう思っている。
もしくはすべてを投げ出して生きている俺達に迷惑をおおかぶせたまま、兄は自ら命を絶ち、勝手に「異世界転生」をしたつもりなのかもしれない。
…だがその先に、美少女を抱く未来も、英雄となる舞台も、永遠に訪れることはない。現実は冷酷であり、兄の望んだ「なろう」の世界は、永遠に来ないのである。
――あれは兄の娘が中学受験に受かった翌年の夏だっただろうか。
音楽関係の仕事についていたルカねえの血を継いでいるのか、兄の娘は感受性が強い子だった。
兄の家族と俺とで、片瀬江ノ島にいった夏の事だった。成層圏の黒みがかったほどの抜けるような青空と入道雲が眩しい日の事だった。
――思えばそのころにはすでに破滅の足音が家族にも忍び寄っていた。それを幼い感受性で感じ取っていたのだろう。受験で塾通いで詰め詰めだったと言い訳をしながら、兄の娘の無邪気なはしゃぎぶりは今でも記憶に強く残っている。
…それは、終わりゆく夏と自分の人生のこれからの先を予見して、一秒一秒、終わりゆく夏の光を記憶の琥珀に、粒に封じ込め、未来の闇に消えぬように思い出を刻み込もうとしている様だった。砂を蹴って無邪気に走り回る姿が、今なお俺の記憶を去らない。
すでに破滅の足音は背後に忍び寄っていた。その予兆を、彼女の鋭い感受性は察していたに違いない。当時はまだ13歳になる手前の12歳頃であっただろうか。年の割に無邪気にあふれる様な歓喜をしめしていたのも、せめて一刻を永遠に刻もうとする幼い魂のあがきであったかもしれない。
…今思えば彼女は知っていたのだ。この夏が家族の、ひいては彼女自身の人生の、ひとつの終幕であることを
俺とルカねえはその光景悲しくて居た堪れなくて見ていられなかった。憔悴しきっている兄は、娘のその機微にすら気が付いていない。その鈍さが、憐れで腹立たしくてしょうがなかった。
江ノ島神社で、お参りをした時、彼女は俺達よりずっと長く目をつぶって祈っていた。彼女の小さな肩は震えているように見えた。強く強くと神様に願いをかける様に。ルカねえと俺は彼女に聞いた、そんなに長く何をお祈りしてたの、と
「みんな仲良くこれからも暮らせますように」、「今の私が大切に思ってることが消えてしまわないように、消えてしまってもぎゅって守っていられるくらいの強さをくださいって」
…あの頃を思い出すたびに俺は自分のふがいなさと弱さに泣きそうになる。胸の奥底で嗚咽をかみ殺した。世の非情さを思い知らされたからである。だが、彼女は違った。あの瞬間、彼女はすでに、世の無常をその小さな胸で受け止めていたのだ。心が壊れ、すべてが崩れ去ろうとするなかでさえ、彼女は自らの「大切に思っていること」を決して手放さなかった
ーー兄の娘は、祈った。今でも忘れえぬことは、心が壊れてしまってもなお、彼女は自らの「好きな色」を忘れず、強く固執していた。
好きな色を聞けば必ず彼女は答える。
好きな色は、「みずいろ」と
…それは夏の空の色であり、壊れ行く者が最後に抱きしめる儚い希望の色だった。心が壊れてしまった彼女が胸の奥にひそかに抱いていた、あの淡い祈りの色である。
… 兄の業に翻弄され、家族が砕け散るなかで、彼女はこの「みずいろ」だけを守ろうとした。
滅びゆく者が抱きしめる色――それが、みずいろであった。
…今も俺の机の上、地獄の入り口のPCのブルーライトの光に照らされ、小さな球体の中の「みずいろの世界」に抱かれて泳ぐ小さな鯨とともに、その色は俺に語りかけている。その色は、淡く、だが確かに輝き続けていた。
兄の人生をたどる旅を終えて今わかった。兄の姿は彼らの現身なのだ。彼ら、彼女らの飾り立てるIT技術で変わる世界の美辞麗句にどこか詐欺師の語るような違和感を感じざるを得ない理由も、今ならわかる。
彼らは本当は、ただ自身の毒虫の様に肥大化した自尊心と、自己顕示欲、性欲、俺だけが主人公、それ以外はモブ、そんなあまりに幼稚で下劣すぎる欲望を満たしたいだけなのだ。力も度胸もないからテロリストや反社にでもなることもできず、またその方法もこの天下泰平の法治国家日本でわかるわけがなく、それを叶える魔法の道具に「IT」を選んだだけにすぎない。
彼らのいうAIだとかiPhone何某だとか、LLMだとかいう言葉を「拳銃」や「爆弾」と言い換えて見よ、何も矛盾することはないではないか…彼らの中に「自分」以外の存在は介在していない。かつての兄と同じである。
思えば、人類の歴史とはかくのごとき欲望の繰り返しである。古代に鉄剣がそうであり、中世には火薬がそうであり、近代に機関銃や戦車がそうであった。令和の世においては、それが「IT」であるというだけのことだ。
だが彼らの願いが叶うことは永遠にこないと思う。その末路は令和の世に入ってから幾らでも例があるではないか、孤独の業火に焼かれた青葉、狂気の刃を振るった平原、性欲と憎悪に欲望に溺れた和久井――いずれも同じ末路に至った。兄の姿もまた、その一つにすぎなかった。
ITを神輿に美辞麗句を飾り立てる彼らも兄と同じく、一皮むけば糞と小便と涎とザーメンの混合物…汚物の様な感情だけで動くそれらが詰まった肉の袋、人とは言えぬ何かでしかないのだ。
今では、ミサイルや爆弾を落とすにもスマホで写真を撮ってSNSで座標を知らせる、ということまでウクライナで行われ、かつてのアフガニスタンでは行われていたらしい。ITで世界は確かに変わった。だがそれは悪い方向に、でしかない。
――窓の向こうで、東京の都会の灯がうっすら見えている。
ルカねえや兄の娘、そして兄と見た府中は分倍河原の夜の様な星空は、その虚栄の光に隠れて見えなくなっている。
羽虫の様に光に集まる人々たち、欲も善も悪も聖も全てのみ込んで、東京の夜は深まっていく、田舎と都会の合間に住まう窓の外を見て、何とも言えない兄と、人の業の深さを感じている。
窓外に目を転ずれば、府中の夜空に瞬いた星は、もはや東京の灯にかき消されていた。星が見えぬということは、文明の光に包まれているということである。だがその光は、羽虫の群れをも包み込み、欲も善も悪も、すべてを呑んでしまう。
兄はなぜ首を吊らなければいけなかったのか。なぜ変わってしまったのか、ルカねえと兄の娘はなぜあんな目に合わなければならなかったのか。なぜヒーローは助けに来なかったのか。
星空も夜も、そして東京の光も、この苛立ちとも悲しさとも怒りともつかない感情の疑問に、答えを出してくれない…時は、ただ深夜二時の時間だけを静かに刻んでいる。
カクヨムにて7月8日から公開・連載されている『成り上がり~炎上配信者だった俺が、最強の女神たちと世界をひっくり返す話~』についての感想や考察を書いています。
通称『なっくり』。
匿名はてなの文字数制限にひっかかってしまったようなのでパート分けします。
https://anond.hatelabo.jp/20250904223228
第3話はこちら↓
https://anond.hatelabo.jp/20250905141623
第4話 覚醒の王
https://kakuyomu.jp/works/16818792436194059031/episodes/16818792436376167778
……なんですが、タイトル変じゃね?
「王の覚醒」とか「目覚める王」とかのがすっきりするんじゃね?
覚醒って使いたいのはわかるのだけども。
【嵐の前の食卓】
さて。前回で天神姉妹の用意した家で配信環境を取り戻した圭祐。
さっそく玲奈と二人でゲリラ配信を始めるのですが、突然玲奈がカメラの前で圭祐にキスをしてしまいます。当然これはコメント欄も大炎上なのですが……
……でも天神姉妹に機材を用意してもらってる時点で、何らかの説明をしなければならないのは当然と思います。よもやヘラヘラして『なんかもらっちゃいまいした』とか言う方が不自然だし、キスはやりすぎとしても腹をくくるべき場面ではないでしょうか。
心の奥底に澱のように溜まっていた、俺が社会から受けた心の傷が、膿のように溢れ出す。人間なんて所詮、手のひらを返すものだ。信じられるものか。
圭祐が天神姉妹のお家公開配信をしなければ説明する理由はそもそもないのですが。なんで公開しちゃったの。スタジオ内だけでカメラ回すなら場所の特定もされにくかったしまだ誤魔化せたかもなのに。なによりそこまで社会不安を抱えてる人が何故配信なんかするの。
玲奈は潤んだ琥珀色の瞳で真っ直ぐに俺を見つめ返すと、微かに怒ったように、しかしどこか甘えるように言った。その声には、SNSの炎上など、取るに足らないものだと言い切る、財閥令嬢としての揺るぎない自信が滲んでいた。
珍しくも、玲奈が普段の口調を崩してでも自分の意見を言うシーンです。
確かに生まれながらのセレブである天神玲奈にとっては、SNSの炎上なぞは慣れっこでしょう。圭祐が『ガチ恋アイドル』などと世迷い事を言わなければここまでのことをする気は無かったかもしれません。これは圭祐が悪いよ。女の子大事にしろよ。
「……帰らせてもらう。世話になったな」
その言葉の真意を測りかねた俺は、自らの不器用な優しさを、拒絶という名の鈍い刃に変え、彼女と、この甘すぎる、しかし得体の知れない城から逃げ出そうとした。本能的に、これ以上踏み込んではならない、という警告が脳裏に響いていた。
帰る場所ないだろお前!
まだネット炎上の件が片付いていないんだから、今は大人しくしてるしかないんだって! 弁護士の桐島に任せるって話になってるんだから!
それら事情をかなぐり捨ててもパタパタ逃げ出したい気持ちであるのでしょうが、流石にそうは問屋が下ろしません。
鬼の形相で仁王立ちしていたのは、学校帰りの莉愛だった。
脱出しようとしていた圭祐の前に、配信を見て駆けつけたのか莉愛が立ちはだかります。
どうも彼女はモデルの仕事もしてるらしく、その仕事も早めに片づけて帰ってきたようです。
「お姉ちゃんがキスでKくんを落とす気なら、私は手料理で胃袋を掴むから! お姉ちゃん、昔から料理だけは壊滅的にヘタなんだからねっ!」
しかも料理まで作る気でいるようです。素晴らしいバイタリティ。
でも前回は玲奈が圭祐にトーストとコーヒーを持ってきていましたが、玲奈もそれくらいの料理はなんとかなるということでしょうか? 食パンをトーストするだけでオーブンが爆発するタイプのラノベではないようです。
修羅場の真ん中で呆然と立ち尽くす俺の、その緊張感をぶち壊すように、
ぐぅぅぅぅぅ…。
「…そっか。お腹空いてるんだ。任せて!」
莉愛はキッチンに駆け込むと、冷凍庫から取り出した有名店のロゴ入り高級冷凍ハンバーグを焼き始めた。ジュージューと肉が焼ける香ばしい音と、バターの甘い香りがリビングに広がり、俺の胃を刺激する。彼女は、完璧な半熟の目玉焼きをその上に乗せ、特製だというデミグラスソースをたっぷりとかけた。「はい、お待たせ! 私の愛情たっぷり、手作りハンバーグだよ!」と、満面の笑顔で差し出す。
問題のシーンです。
高級冷凍ハンバーグはともかく、これを焼いて出したものを「私の愛情たっぷり手作りハンバーグ」と称する莉愛。いや、ワンチャンそういう商品名である可能性もあるかもしれませんし。デミグラスソースは手作りなのかもしれませんし。そもそも圭祐が今お腹空いてるのにハンバーグのタネから手作りというのはテンポ悪いかもしれませんし。じゃあもっと簡単なパスタとか炒め料理とかそういうのにすればいいだろ。
湯気を立てる温かいハンバーグを前にした瞬間、俺の目から、訳もわからず涙が溢れ出した。止まらない。それは、製氷工場での孤独な日々、社会からの悪意あるコメントに晒されていた過去、そして親との確執の中で、ずっと欠けていた「何か」が、今、目の前で満たされようとしている感覚だった。
(…ああ、そうか。俺は、ずっと、人の温もりを知らなかったんだな…)
画面の向こうの、顔も分からない奴らの悪意ばかりを相手にして、自分の心がここまで冷え切っていたことに、今、初めて気づいた。誰かと食卓を囲む温かさ。自分のために作られた料理の匂い。そんな、当たり前の日常を、俺は心のどこかでずっと求めていたのだ。それは、過去の自分が見て見ぬふりをしていた、あまりにも普遍的な、人間としての飢えだった。
圭祐の母は、ニート状態だった圭祐にもトンカツを用意してくれる優しい母です。
確かに圭祐は製氷工場では孤独だったし、炎上してからは荒らしコメントに傷ついていたし、働き始めたとはいえ両親との確執は残っていたでしょう。
でもそれで「ずっと人の温もりを知らなかった」というのはあんまりです。顔も分からない人間の悪意ばかり相手にして、身近な優しさに気付かなかったのは圭祐です。「見て見ぬふり」をしていたのは自分自身の飢えとか傷ではありません。あったでしょう。優しさはずっと。
むしろこの手作りハンバーグこそ、姉に負けじとする莉愛のエゴによるものとも考えられます。この愛は侵略行為では?
「……ありがとう」
俺は、嗚咽交じりに、それだけを言うのが精一杯だった。言葉にならなかったのは、感謝だけでは足りない、あまりにも深い感動が胸を去来していたからだ。
とはいえ莉愛に作ってもらったのは確かなので、お礼を言うのも大切なことです。
親にも感謝せえよ。
食事の後、未成年である莉愛は家に帰る時間になった。執事の柏木が運転する黒塗りのセダンが迎えに来るまで、俺たちは三人で大理石の玄関ホールで待機する。静かに車が到着し、莉愛が乗り込む直前、彼女は俺の前に立つと、ぐっと背伸びをして、俺の唇にチュッと軽いキスをした。
圭祐の胃袋を掴む。と宣言した莉愛ですが、それはそれとしてキスも狙うようです。
どうでもいいですが、莉愛と圭祐なら圭祐の方が背が高いのですね。
エゴサするとSNSは、俺と天神姉妹の三角関係の話題で、凄まじい熱量で盛り上がっていた。批判の声も多かったが、莉愛のキス動画は瞬く間に拡散され、一夜にして「国民的彼氏」という称号まで付けられていた。その狂騒に、俺はどこか他人事のように眺めていた。
さっきまでのシーン動画配信してたの!? 別に公開しなくても良くない!? 莉愛の方で料理動画と一緒に配信していたのでしょうか。
まあ、二人同時に恋人関係になることを迫られ、圭祐は了承したわけで。それはいずれ公になることではあるのでしょうが。玲奈よりさらに女性フォロワーが多そうな莉愛のフォロワーからしたら、どこの馬の骨ともわからない男がいきなり出てきてだいぶ困ってるんじゃないかな……
「何やってんだろな、俺は」
湯船の縁に頭を預け、俺は呟いた。自分の人生が、まるで台本のないドラマのように、目まぐるしく展開していくことに、未だ実感が伴わない。
何やってんだと聞きたいのはこっちのほうです。
やれやれクール系を気取るのやめてください何もしてないでしょう圭祐は。
ついでに言うと『台本のないドラマ』という比喩の空回り加減も気になります。グルグルその場で廻る即興劇ならともかくですが、これは明らかに指向性を持って展開していくドラマです。そういうのはむしろ、何者かの筋書きがあってこそではないでしょうか。
風呂から上がると、玲奈が俺を豪華な主寝室へと案内した。キングサイズの、巨大なベッドが鎮座している。その光景は、以前、タワマンのスイートルームで経験した時の記憶と重なる。
不明な描写です。圭祐がタワマンのスイートルームに行ったなどというエピソードは存在しません。
多分これは修正後に追加された部分ですが、未来のエピソードと混線している気がします。なんなんだこれは……
「悪いんだけどさ、こんなデカいベッド、落ち着いて寝れないんだ。別の部屋、ないか?」
俺の庶民的な一言に、玲奈は一瞬、何かを言いたそうに口を開きかけたが、すぐに寂しさを隠すような微笑みに変えて言った。その瞳の奥に、僅かな影が落ちたのを、俺は「神眼」で捉えていた。
鈍感なんだか鋭いんだかよくわからないシーンです。
三人称的には玲奈がシュンとしたのを描写するのは良いですが、一人称でそれを描くと圭祐の気付きになってしまいます。ここにギャップがあるのですが……そもそもこの小説三人称になったり一人称になったりコロコロ変わるからそういう工夫は意味ないんだよな……
翌朝、玄関ホールで二人の女神を見送った俺は、一人でゲリラ配信を開始した。玲奈は、俺が一人で配信していることを知ってか知らずか、何も言わずに家を出ていった。
何度も懲りないんですかね。この男は。
配信者として考えても「お宅紹介」しかコンテンツがないのはあまりにもお寒いでしょう。別に緊急性があるような企画でもないし『ゲリラ配信』をするのは単に予定通りに行動できない無計画な人です。
そもそも視聴者に対して無駄に横柄。あいさつくらいちゃんとしろ。
『K、今日の服オシャレじゃん』
コメント欄が、いつも以上に盛り上がっている。俺は、玲奈が選んでくれた黒のセットアップを着ていた。その服が、不思議と俺の気分を高揚させているのを感じていた。
……神眼とプロデュース能力があるのに、自分に対して使う気はないのか?
俺は、その反応に気を良くし、シルバーのカードキーを手にルームツアーを敢行した。トレーニングジム、プール、そしてシアタールームの豪華さに、コメント欄と共に俺もテンションが上がる。配信の勢いに乗せられ、俺はシルバーカードキーをシアタールームのテーブルに置き忘れてしまったことに、その時は気づいていなかった。
調子に乗りすぎてる圭祐。
気分はバチェラーなのかもしれません。全部他人から貰ったモノだけどね。
チャイムが鳴り、配信をエラーで切った後、機材を運んできた業者をスタジオルームに案内しようとするが、ドアが開かない。ポケットを探ってもシルバーカードキーはない。ダメ元で莉愛のピンクゴールドのカードキーをかざすが、やはり開かない。莉愛のカードキーは俺のプライベートエリアにしか入れない「特別許可証」なのだ。
いやわかるだろそれは。わかんねえのは圭祐だけだよ。
というか莉愛のカードキーはその文の書き方だと圭祐が持ってる意味なくない? 「莉愛のプライベートエリアに入れる鍵」というならまだ意味は通じるけど、そもそもこの家自体が圭祐のプライベートなのでは?
その時、俺は玲奈が「王の帰還を待ってろ」と告げた言葉を、ぼんやりと思い出していた。もしかしたら、この城自体が、俺を成長させるための試練の場なのかもしれない。
玲奈そんなこと言ってませんよ……?
真っ先にマスターキーを渡して置いて試練というのもなんなんでしょう。圭祐の知能がお留守番もできない5歳時レベルだということなのでしょうか。
そもそもこの鍵を置いた場所を忘れたってだけのエピソードは何を表現するためのパートなのでしょうか。全体的によくわからないシーンです。
と。章の途中ですがここで一旦区切って後半に続きます。
カクヨムにて7月8日から公開・連載されている『成り上がり~炎上配信者だった俺が、最強の女神たちと世界をひっくり返す話~』についての感想や考察を書いています。
通称『なっくり』。
https://anond.hatelabo.jp/20250904223228
第2話はこちら↓
https://anond.hatelabo.jp/20250905103646
第3話 新生活
https://kakuyomu.jp/works/16818792436194059031/episodes/16818792436315662771
【美しすぎる鳥籠の夜】
前回ではネット炎上の末に警察沙汰になった圭祐でしたが、現れた天宮姉妹によって救われます。
とはいえ天宮姉妹の目的は圭祐を所有することであり、こちらはこちらで大変な生活になりそうです。
ここは彼の城ではない。どこまでも美しく、だがどこにも逃げ場のない、まさに「美しすぎる鳥籠」だった。
いきなり放り出されたら圭祐でなくてもちょっと途方にくれそうです。
よくわかりませんが、ゲリラ配信をするためだけのアプリがあるのでしょうか? 配信アプリでゲリラ配信を始めた……とかではなく? まあ、言葉のアヤだとは思います。
コメント欄が堰を切ったように流れ始めた。
『K! 生きてたか!』
狂喜、嫉妬、憶測。その途方もない熱量だけが、圭佑に「自分が神谷圭佑である」という、かろうじての存在を再確認させてくれた。
圭祐は零細動画投稿者でしたが、こうして予告なく配信を始めても来てくれるファンはいるようです。チャンネル登録してくれてる人は一人でもありがたいものですね。
しかも圭祐が天神姉妹に連れ去られたという情報も、どういうわけか既にネットの話題になっていたようです。それより炎上とか爆破予告の騒ぎとか気にしてあげた方が良いというか、その話題も解決してないから荒れそうなものですが……
「……腹減ったな。夜飯どうしよ」
ように。というか指示されてるんだろ。
圭祐はそもそも自宅公開が住所特定に繋がったという事実を忘れているのでしょうか? このゲリラ配信もカメラをオンにして行っているらしく、コメントの様子からすると思い切り家の内部を配信してしまってるようです。他人の家を勝手に撮るなよ。
巨大な冷蔵庫を開けると、中は高級そうなミネラルウォーターと、なぜか無数の冷凍食品で埋め尽くされている。玲奈の歪んだ優しさか、それとも圭佑の生活能力のなさを予測してのことか。
とりあえず何を食べるかわからないから冷凍食品を用意しておく……というのは天神姉妹の配慮としては丸い選択肢だと思います。デリバリーとか、そもそも料理人を直接手配しておくこともできそうですが、疲れた圭祐のためにプライベートを確保したかったのかもしれません。
『他の部屋も見せて!』
コメントに促され、リビングの奥にあるドアノブに手をかけたが、びくともしない。「……開かねえ」。圭佑は、自身が「王様」などではなく、この豪華な鳥籠に飼われた「ペット」であるという事実を突きつけられた。
まあそのプライベートも無配慮に圭祐は公開しちゃってるんですけどね。初見さん。
というかこのシーン配信オンにする意味あったか? この後すぐ配信切ってるから本当に無意味な部分だったゾ……
この後圭祐はバスルームで入浴し、シルクのパジャマが用意されてることに戦慄します。いや別にいいだろそれくらいは。家ごと買って圭祐を迎え入れようとしたんだからそこは手配するでしょう。
スマホを手に取ると、天神姉妹のアカウントのリプライ欄を見ていた。
『金で男を買ったのか』
圭佑自身のアカウントにも、もちろん同じような言葉の刃が突き刺さっている。
その毒が、愛する者たちにも向けられている。「(俺のせいで、あいつらまで…)」。
順番が逆じゃあないのか? というのはともかくとして。天神姉妹は好きで圭祐を確保したので、炎上騒ぎに巻き込まれるのは折り込み済みでしょう。そもそも無実の罪なので、いずれ弁護士の桐島が解決してくれるでしょうし。
圭祐が金で買う価値のある男かはわかりませんが、『天神姉妹も同類』はちょっと言いがかりっすね……
【甘すぎる共犯者たち】
美しすぎる鳥籠に対比して甘すぎると出してきました。
ラフなTシャツにショートパンツという姿の玲奈が、完璧な焼き加減のトーストと香り高いコーヒーが乗ったトレーを手に、心配そうに圭佑の顔を覗き込んでいた。
次の日の朝には、既に部屋には玲奈がいました。
朝日が差し込むダイニングテーブルには、まるでホテルのような完璧な朝食が並んでいた。圭佑が席に着くと、入れ替わるように制服姿の莉愛が勢いよくリビングに現れる。
「お姉ちゃん! Kくん! おっはよー!」
と思ったら朝食は別に用意していたみたいです。わざわざコーヒーを寝室まで持ってこなくて良かったんじゃ……?
まあこんなところでうろたえていてはいけません。莉愛も合流して、賑やかな朝食です。
「見て見て! 私も昨日Kくんとゲーセンいたってだけで、アンチにめっちゃ叩かれて炎上しちゃった! でも圭佑くんのガチ恋だって証明できたみたいで、逆に嬉しかったりして!」
強がるように笑う彼女の目の下には、隠しきれない隈が浮かんでいた。圭佑は、莉愛の瞳の奥に宿る疲労の影を、自身の「神眼」の萌芽で無意識のうちに察知していた。
あるいはそれこそが目的で、ワザと見つかるように天神姉妹は場所を選んで圭祐を連れまわしていたのかもしてません。
そしてそんな明るい彼女の疲労を、圭祐は『神眼』で察知します。
その後三人で洗い物をして片づけたり、莉愛が圭祐にちょっかいだしたり、ごく普通ないちゃらぶシーンが入ります。こういうのがあるとラノベって感じがしていいですよね。
玲奈は「あっ」と小さく声を上げた。「ごめんなさい。渡すのを忘れていたわ」
「これはこの家のマスターキー。そして私との『恋人契約』の証。私はあなたの全てを管理し、成功へと導く。その代わり、あなたはこのカードで私の全てを**『使用』**する権利を得るの」
なんとそれはこの家のマスターキーであり『恋人契約』の証……だそうです。契約という言葉はひっかかるところ無いでもないですが、玲奈は確かに圭祐を信頼しているようです。
「Kくんこっちも受け取って! これはKくんのプライベートエリアに私だけが入れる『特別許可証』! そして私との『恋人契約』の証! あなたの心は私が独占する! その代わり、あなたは私を『所有』していいからねっ!」
ただ……ううん? よくわかりません。『Kくんのプライベートエリアに私だけが入れる』では、家のマスターキーで十分なのでは? 実際に言いたいことは『マスターキーでも開かない莉愛と圭祐だけのエリアの鍵』といったところでしょうか? とりあえず保留します。
ともかくこれで圭祐の思考回路はショートしてしまったようです。よかったね。
「いいえ、神谷さんにはこちらの方が…」と、二人は仲良く喧嘩しながら、圭佑の未来への投資ともいえる「最強装備」を選んでいく。これは単なる買い物の風景ではなく、圭佑が新たな「王」としての道を歩み始めるための、姉妹からの最初の贈り物であり、彼自身のプロデュース能力の萌芽を見せる場面でもあった。
そして天神姉妹は早速通販で圭祐のための配信機材などを調達し始めます。
カッコ良さより用途と性能を……と言いたいところですが、二人も配信に関しては素人ではないので任せて大丈夫なのでしょう。
それにしてもここで『彼自身のプロデュース能力の萌芽』と書かれています。が、別に圭祐はなんもしてないので関係ない話だと思います。
やがて二人は大学と高校へ行く時間になった。圭佑は玄関ホールまで二人を見送る。
玲奈は大学生。莉愛はまだ高校生だったようです。莉愛は制服をきているからそうなのですが。
彼女たちの覚悟を突きつけられ、圭佑の中で何かが固まった。もう逃げることは許されない。佐々木美月という「魔女」に陥れられ、社会的に抹殺された過去。その地獄から這い上がってきた圭佑は、ここで初めて、自分自身の「王」としての覚悟を決めたのだ。
えーっと大問題です。
いきなり出てきたこの佐々木美月は、保険の勧誘の佐々木さんと同じです。圭祐は彼女に陥れられ、炎上騒ぎと警察沙汰になったと思っています。
修正前のバージョンでは佐々木が裏でいろいろ悪事をしていて圭祐をハメたとなっていますが、圭祐の視点ではこの時点でわかることは何も無いハズです。一体どういうことでしょうか。全然わかりません。
早速玲奈のカードキーを使い扉を開け、配信スタジオを見つけた圭祐。
今度の配信は若干元気が出てきたようです。元気すぎてむしろ横柄なくらいです。あるいはこれくらいが普段の圭祐の平常運転なのでしょうか。
圭佑はヤケクソ気味に、しかし不敵な笑みを浮かべて宣言した。「それから…俺、アイドルプロデュースを始めることにした。俺の『ガチ恋』限定でメンバーを募集する。我こそはって奴は覚悟して待ってろ」
コメント欄は『マジかよ!』『俺も応募していい?(男)』という狂喜で爆発した。圭佑のこの宣言は、単なる衝動ではなく、彼の内に眠る「人の本質を見抜く神眼」と、これまで培ってきた膨大なコンテンツ視聴経験からくる「プロデュース能力」が融合し、覚醒を始めた証だった。
またヤケクソになって変なこと言い出す特性が出てる。
アイドルに必要な『処女性』を最初から投げ捨てるコンセプトでプロデュースするのはたまげたなあ。未だに恋愛禁止のアイドルは多いのに。
人の本質を見抜く神眼とこれまで培ってきた膨大なコンテンツ視聴経験から来るプロデュース能力と言いますが、最も基本的な部分を投げ捨ててる気がします……
別に切羽詰まってる状況でもないし、大事な話ならちゃんと予告した上で配信した方が良いと思うけど。
昼間の嫉妬があったからこそ、その言葉は他の誰にも圭佑を渡さない、という強烈な意志の表明に聞こえた。そして、配信中のカメラの前で、圭佑の唇にそっとキスをした。
これには当然コメント欄は荒れてしまいます。元より炎上してる奴にさらに油注いでどうする。
そもそも天神姉妹はそのチャンネルの性質からして女性ファンも相当多かったのではないかと思われます(作者がそう考えてるとは限らない)敵に回すと天神姉妹側の女性ファンの方が怖いのですが……
これが成り上がり~炎上配信者だった俺が、最強の女神たちと世界をひっくり返す話~ 第3話 新生活 でした。
新たな拠点と二人の恋人を手に入れた圭祐。ガチ恋限定のアイドルオーディションという無茶な企画は成功するのでしょうか? そして本当にいきなり出た佐々木とは誰なんだ? ということで次回へ続きます。
カクヨムにて7月8日から公開・連載されている『成り上がり~炎上配信者だった俺が、最強の女神たちと世界をひっくり返す話~』についての感想や考察を書いています。
通称『なっくり』。
https://anond.hatelabo.jp/20250904223228
https://kakuyomu.jp/works/16818792436194059031/episodes/16818792436315513393
前回の『転落』では主人公の圭祐が専門学校中退をきっかけにレールを外れ、転落していく様が描かれていました。
これ自体は展開の無理や矛盾は少なく、完璧と言えないまでも、カクヨムの平均からすればまずまずの完成度と言えます。言いたいことはわかるし、これからの展開に期待を持てます。
とはいえ、第1話は作者が何度も修正をかけている部分でもあります。それでも所々に破綻が見えかけているのは、不安が募るところでもあります。
【取調室】
カクヨムの連載作品においては、各話の文字数はおおよそ2000字~4000字程度に収める事が多いのですが、第2話に関しては既に6000字を超えています。
正直こういう小見出しをつけるなら話数を分けてしまった方が読みやすいと思うのですが、そこはともかく……
蛍光灯の白い光が、古びた金属製の机と椅子、そして彼の顔を無機質に照らし出していた。徹夜の尋問で、彼の思考はすでに霧散寸前だった。乾いた唇はひび割れ、数日髭も剃っていない顔は、まるで廃人のようだった。
いきなり疲弊している圭祐。
しかし前回のどこを読んでも、圭祐がこんな扱いをされる理由はわかりません。
というか、前回は圭祐の一人称で書かれていましたが、今回は『圭祐は』とか『彼の』とかで三人称で書かれていますね。
やっていない。だが、証拠はすべて彼が犯人だと示していた。どうして。誰が。思考は霧散し、泥のように重い絶望だけが、彼の腹の底に澱のように溜まっていく。
圭祐の自認では『やってない』ことは確実のようです。
……修正前のバージョンの話では、圭祐の自宅のPCがアンチによるハッキングを受けていました。そしてPCが踏み台にされ、市役所に爆破予告をしたことで圭祐が疑われることになってます。
が、これらはもう削除された部分なので、作者にとっては不要な話だったのでしょう。
じゃあなんで捕まってるのか? どんな証拠があるのか? 読者はずっと置いてけぼりです。
ともかく圭祐は『やってない』認識なので、ここはじっと耐えるしかありません。そうするべきなのですが……
追い詰められた圭祐は、刑事をおちょくるような発言をしてしまいます。
どうも圭祐は、極度のストレス状態になると自暴自棄になって、言わなくていい事ややらなくていいことをやってしまう特性があるようです。
圭祐のこの特性は、この後の物語でも度々現れます。描写的にはここは圭祐の知性や洞察力をアピールしているようですが、それ以上に『空気読めない』感が出てしまっています。
物語的には、状況を動かしやすいので便利な『特性』とも言えるのですが……
そこへ突然、二人の人物が乱入してきます。一応ノックはしましたが、勝手に入ってきてしまっています。
年の頃は二十一歳くらいだろうか。シンプルなデザインでありながら、上質な仕立てのお嬢様ワンピース。プラチナブロンドの髪が、蛍光灯の光を吸い込んで、銀糸のように輝いている。その佇まいだけで、澱んだ取調室の空気が、まるで聖域のように浄化される錯覚を覚えた。その凛とした存在感は、この閉塞した空間に、一筋の清冽な風を吹き込んだようだった。
先に入ってきたスーツ姿の男より、その後ろの少女に注目し始める圭祐。
見た目だけでなんで21歳だと一桁目までわかるんだよという突っ込みは野暮でしょう。20歳以上を少女と呼んでいいかも、ちょっと意見が別れる所かも知れませんがここも置いておきます。
刑事が色めき立つ。だが、その声は、彼女たちの存在感に弾かれるように、空虚に響いた。別の刑事が少女の顔を見て、椅子から転げ落ちんばかりに目を見開く。
天神財閥を聞いて『GHQによる財閥解体がなされなかった架空の歴史か?』と解釈する人が出てきた問題の部分です。
とはいえこの『財閥』はほぼ『大企業』と読み替えても差支えないとは思います。天神玲奈の顔を見ただけで、ただの刑事すら怯んでしまっていますが。本当に財閥だったとしてもそんなことできないと思うので……
美少女は天神玲奈というそうです。天神が『てんじん』なのか『あまがみ』なのかはルビが無いのであいまいです。
天神玲奈と呼ばれた少女は、刑事たちの動揺など存在しないかのように、ただ冷たい視線で室内を見渡すと、まっすぐに圭佑を見据えた。その琥珀色の瞳は、感情を一切映さず、まるでガラス玉のようだった。
「この男、私が引き取ります」
琥珀色の瞳。プラチナブロンドの髪と合わせると、日本人離れした容姿のようです。こういうのはファンタジーでありますから、非現実的なモノも悪くは無いでしょう。
「不当な取り調べは即刻中止してください。証拠不十分なままの拘束は人権侵害にあたります。これ以上の異議は、我々天神法律事務所が正式に申し立てます」
そして名前からして天神財閥は法律事務所にも関わっている様子。暗黒メガコーポ。
刑事の口ぶりと圭祐の認識では『証拠は圭祐が犯人であることを示している』とのことでしたが、実際には証拠は不十分であり、圭祐の自白を無理矢理待っていた話であるようです。
そうなってるってんだからそうなんでしょう。知らんけど。
【偽りの日常】
圭祐は天神玲奈によって救い出されましたが、そのまま家に帰れるわけでもないようで。
目の前には、一台の黒塗りのセダン。その傍らに、石像のように佇む初老の男。完璧に仕立てられた燕尾服を身につけたその姿は、まるで絵画のようだった。
状況の変化に頭が追いついておらず、今だ混乱状態です。
彼女は慣れた手つきでロックを解除すると、圭佑に何も言わずに、その画面をこちらに向けた。画面に表示されていたのは、美しい彼女のアイコンと、その横に並ぶ、信じられない数字だった。
まあ。大企業のセレブというのなら、単にSNSアカウントがあるだけでもフォロワーは相当になるでしょう。そういう人なら普段の買い物や着てる服を投稿するだけで数千はバズるでしょうし。
圭祐では太刀打ちできない人気の差に、彼はすっかり委縮してしまいます。
弁護士が来てくれたんだから面倒を見てくれるんじゃ……とも思いかけますが、ここはまあパフォーマンスだと考えましょう。
実際圭祐の服は相当にボロボロでみじめな有様です。玲奈によれば、圭祐の実家に殺害予告をするアンチもいるようです。当然元の製氷工場でも噂は届いていて、居場所はありません。
……圭祐は何をしたのでしょうか? そんな大事になるほどの動画をどうして投稿してしまったのでしょうか? 結果だけが描写されていて、理由とか経緯は一切明かされていません。
会計前のパック寿司をその場で食べるくらいの迷惑行為をしていたのでしょうか? さっぱりわかりません。わかりませんが炎上しているし、炎上しても本物の人気者には遠く及ばないことは確かなようです。
問題のシーンです。
お嬢様で、明らかに人気者のセレブが。零細のゲーム実況動画投稿者でしかない圭祐に興味を抱き、あまつさ『ガチ恋』という俗っぽい言葉を使っています。
本来ガチ恋とは『芸能人や二次元のキャラクターに対し本当に恋をしてしまっている状態、またはそのような人を指すスラング』とされており、あまりにも熱心過ぎて他のファンや関係者に迷惑がかかりそうな人というネガティブな意味も含まれます。
ですか『なっくり』世界観においては、このガチ恋は『真実の愛』と同義です。移行ガチ恋という単語が出ても、戸惑わず『真実の愛』と読み替えていきましょう。
車が向かったのは、高級レストランではなく、どこにでもあるファミリーレストランだった。店内は、昼時を過ぎた時間帯で、家族連れの楽しそうな声が響いていた。その、あまりにも日常的な喧騒が、圭佑には酷く場違いに感じられた。
「ステーキです。一番大きいの」
圭祐に無用な緊張をさせないためか、玲奈は圭祐をファミレスに連れてきます。
そして圭祐が注文したのが『一番大きいステーキ』。
注文するにしてももう少し言い方あるだろとか、イマドキならタブレットで注文だろとか少々のツッコミがありますが、落ち着きましょう。取り調べを受けていたし、お腹が空いていたのでしょう。
「……あの弁護士、腕いいのか?」
「桐島のこと? 彼は天神が抱える中でも最高の駒よ。負けを知らない」
ここでようやく。ようやく。圭祐が『爆破予告犯』として取り調べを受けていたことが明かされます。おっそーい!
でも圭祐は『やってない』認識なので、自分から爆破予告の動画を投稿したとかそういう話ではないでしょう。じゃあなんなんだよお前マジで。というかシンプルにこれは修正前の部分の残骸にも見えます。
その時、店の入り口から、金髪ツインテールの制服少女が、弾けるような笑顔で駆け寄ってきた。天神莉愛。その明るさは、部屋の澱んだ空気を一瞬で吹き飛ばす。
そして現れるさらなる美少女。今度は制服姿であり、学生であるようです。
この莉愛に関しては作者のお気に入りらしく、XでもAI生成のイラストを掲載しています。
https://x.com/KyakerobyaSyamu/status/1951467840772653519
彼女も席に着くなり、姉と同じパフェを注文する。そして、圭佑の隣に座ると、キラキラした目でスマホの画面を見せてきた。
彼女もまた、百万フォロワーを超えるアカウントを圭佑に見せつけた。「Kくん大変だったね! でももう大丈夫! 私たちがKくんの女神だもん!」
妹もまたパフェを注文し、そして自身の百万アカウントを圭祐に見せてきます。
ところでそのアカウントってYouTubeでしょうか? どっちかというとInstagramとかTikTokとかやってそうなものですが。
曲がりなりにも年上の圭祐に対し『Kくん』呼びで懐いてきます。
車が向かったのは、都心にあるシネマコンプレックスだった。エントランスに足を踏み入れるなり、女性スタッフが駆け寄り、深々と頭を下げた。
ファミレスを出て、天神姉妹と圭祐が次に向かったのは映画館でした。
そういう予定だったのか、スクリーンは貸し切りにしてあって、上映作品も天神姉妹がしていしたアクション映画。
圭祐は状況が飲み込めないまま、二人に挟まれて映画館デートをします。
巨大なスクリーンに派手な爆発シーンが映し出される。その轟音に、莉愛が大げさに肩をすくめ、圭佑の腕にぎゅっと抱きついてきた。
「きゃーっ! こ、怖くなんてないんだからねっ!」
そのあからさまなアピールに、反対隣に座っていた玲奈の眉がピクリと動く。その表情は、僅かながら嫉妬の色を帯びていた。
彼女は何でもない素振りを装いながら、そっと圭佑の手に自分の指を絡ませてきた。その指は、映画の迫力に偽装された、圭佑への牽制、あるいは甘えのようにも感じられた。
この辺りは天神姉妹の甘え上手な妹と、嫉妬深くもちょっぴり不器用な姉の対比ができていて良い感じの描写と思いました。
タイプの違う美少女に同時に好かれて両手に花。まさしくラノベ的なロマンです。
ただそれでも圭祐はどこか上の空で、後に誘われたゲームセンターでも調子が出ません。
ゲーム実況動画投稿者ではありますが、やり込み系の動画ではないようです。リアクションも薄いようですが。まあ零細動画投稿者なんでそういうものかもしれません。
車は、夜景の美しい高台にあるモダンな邸宅に着いた。ガラス張りの壁が特徴的な、まるで建築雑誌から抜け出してきたような、非現実的な家だった。
「正直に言うと、妹に布教されるまで、あなたのことなど全く興味がなかったわ。でも…見なければ分からないこともあるものね」
修正前のバージョンでは圭祐はオリジナル楽曲を作ってゲーム実況動画のオープニングに使っていたという話があります。でも現在の修正後バージョンにはそんな文言はありません。
とはいえ工場で圭祐の『耳』が良いことは描写されてますし、それ故に彼に作曲の才能があることは示唆されています。玲奈が言ってるのはそう言うことだと思われますが……
「動画の中で、妹さんにお給料でゲーム機を買ってあげたと話していたでしょう? ふふっ、優しいのね」
彼女は圭佑の全てを知っていた。彼の才能も、惨めな過去も、そして誰にも気づかれていないと思っていた不器用な優しさも。その事実に、圭佑の背筋に冷たいものが走った。まるで、魂の奥底まで見透かされているかのようだった。
「あなたの作る音楽、書く言葉、そしてその不器用な優しさ。そのすべてを最初に享受するのは私たち。あなたの時間も、音楽も、未来も、全て私たちのもの」
しゃらくさい言い方してますね。
要するに玲奈は圭祐の才能のみならず、人間性も含めて、それら全部を所有し支配したいと考えたようです。圭祐自体は平凡な、どこにでもいるような『ただの男』であるように見えますが、本人にもわからない魅力や才能が、天神姉妹の琴線に触れたのでしょう。
これが成り上がり~炎上配信者だった俺が、最強の女神たちと世界をひっくり返す話~ 第2話 天神姉妹 でした。
無実の罪によって社会的な死を迎えた圭祐は、今度は天神姉妹によるミザリー的な軟禁生活を強いられることになりました。
鳥籠の中で彼は『成り上がり』できるのか? というところで次回へ続きます。
『なっくり』考察と感想 第3話 https://anond.hatelabo.jp/20250905141623
時は令和、空前の「レトロモダン」ブームが最高潮!昔懐かしの喫茶店メニューが進化したり、大正ロマンな雰囲気がSNSでバズったりしてた20XX年。そんな中、大阪の梅田のど真ん中に、マジで浮世離れした紳士が現れたんだって!ちょっと古めかしい洋服に、なんかこう、真面目で情熱的なオーラをまとったお方。「え?外国人観光客?歴史ドラマの人?」ってみんなが遠巻きにしながらも、その圧倒的な存在感に目を奪われてたらしい。
え?マジで?あの日本のウイスキーの父で、通称「マッサン」って呼ばれてる、亀山政春様!?ゲキヤバ!って歴史好きのギャルたちがスマホで速攻ググり始めた瞬間、その超絶真面目なお方、もといマッサンは、あたりをキョロキョロしながら呟いた。「ここは…スコットランドではない、か…?ずいぶんと賑やかで、活気にあふれた場所ですな。」って、マジで時代錯誤感ハンパない!「マジありえん!」ってみんな心の中でツッコミつつも、その真っ直ぐな眼差しに、何か揺るぎない信念を感じてたらしい。
そんなマッサンに、恐る恐る話しかけたのは、大阪出身で食べることが大好きな、お人好しギャル、アヤノ。「あの…もしよかったら、何かお困りですか?」「…うむ、少々。見慣れぬものばかりで、いささか戸惑っておる。」って、意外と丁寧な言葉遣い!アヤノ、その真面目そうな雰囲気にちょっとキュンとしつつ、「アタシ、アヤノ!大阪のことなら、何でも聞いて!マッサン、マジで渋いから、アタシが案内してあげてもいいよ!」って、キラキラ笑顔で声をかけたんだって。
次の日、アヤノに連れられて、マッサンは初めて現代の大阪を体験!道頓堀とか、USJとか、マジで全てが新鮮!でもね、マッサンが一番興味を示したのは、デパートの食品売り場で、ちょっとレトロなパッケージのボトルが並んでたもの。「…この、赤くて甘い酒は、何というものでございますか?ずいぶんと懐かしい香りがするな。」って、マジ真剣な眼差し。アヤノ、まさかのチョイスに驚きつつ、「あ~、これ、赤玉ポートワインですよ!昔からある、日本のワイン!昔はめっちゃ流行ったらしいですよ!」って教えてあげたんだって。
マッサン、一口飲んでみたら…「な、なんなのだ、この甘美な味わいは!?舌に広がる芳醇な香り、しかし、その奥に潜むかすかな苦み…まるで、わがウイスキー造りの道のり、そして妻エリーとの愛のようである!これこそ、余が求める、真の飲み物よ!」って、マジでウイスキー職人っぽい表現で感動してたらしいよ。
そこから、マッサンの赤玉ポートワイン愛がマジで爆発!毎日色んな酒屋やバーを巡って、赤玉ポートワインを飲み比べまくってたんだって。「年代ごとの味わい、甘さのバランス、琥珀色の美しさ…研究しがいがありすぎる!」って、もはや赤玉ポートワインマイスターレベル!
でね、ある日、マッサン、マジで天下取りの野望を語り出したの。「我は、この赤玉ポートワインをもって、再び天下を…とは言わぬが、この甘味の世界において、人々が心から感動し、笑顔になれる、至高のパフェを創造してみせようぞ!これこそ、余が目指す、『日本のパフェ』よ!」って!
え?赤玉ポートワインパフェで天下統一?しかも「日本のパフェ」って!マジで壮大すぎる!でも、マッサンの「日本の酒造りを世界に」っていう情熱があれば、きっと何か成し遂げるに違いない!ってアヤノも思ったらしいんだけど、マッサンの目はマジだったんだって。ウイスキー造りの魂が、令和の赤玉ポートワインパフェに新たな戦場を見出したのかもね!
そっから、マッサンの赤玉ポートワインパフェ天下統一計画がスタート!まずは、SNSで「#マッサンの赤玉革命」ってハッシュタグ作って、毎日自作の超絶エモくて美しいパフェの画像をアップし始めたんだって。そのノスタルジックだけど斬新な見た目と、マッサンの真面目すぎるコメントが、一部のレトロ好きギャルや、お酒好き、そして日本の伝統を愛する人々の中でじわじわバズり始めた!
SNSはマッサンの赤玉ポートワイン愛でじわじわ盛り上がり!しかも、マッサン、ただ作るだけじゃなくて、赤玉ポートワインに合う最高のフルーツや、クリーム、そして日本の伝統的な食材を探し求めたり、甘さと酸味、そしてワインの香りの「絶妙なハーモニー」を追求したり、マジでストイック!「天下の赤玉ポートワインパフェ」を目指して、日々試行錯誤を繰り返してたんだって!
で、ついに!マッサンは、大阪の心斎橋に、自分のプロデュースする赤玉ポートワインパフェ専門店「NIKKA PARFAIT - 情熱の味 - 」をオープンさせちゃったの!お店の内装も、明治・大正時代の洋館をイメージした、レトロで温かみのあるデザインで、マッサンの情熱と日本の文化を表現。店員さんも、当時風のモダンな制服着てて、マジでエモい!
オープン初日から、レトロ好きギャルや、お酒好きのインフルエンサー、そして日本の洋酒文化に興味を持つ人々まで、行列を作って押し寄せた!「SNSで話題の赤玉ポートワインパフェ、マジで挑戦してみたい!」「マッサンって、なんかカリスマ!」って、新しいファンが続々!でね、一口食べたら、みんなその奥深い味わいにハマっちゃうらしい。「うわっ、最初はビビったけど、甘いのにワインの香りが大人っぽい!」「フルーツとワインゼリー、マジで合う!」「マッサン、マジで神!」って、賛否両論ありつつも、リピーターが続出!口コミが広まりまくって、NIKKA PARFAIT - 情熱の味 - はあっという間に人気店になっちゃったの!
しかもね、マッサン、ただお店やってるだけじゃないんだよ!定期的に店内で、自らパフェの「物語」について熱弁したり、赤玉ポートワインの歴史を語る「夜のパフェ会」を開催したり、マジで独自のスタイルでエンタメ業界を盛り上げようと奮闘してるんだって!
テレビや雑誌の取材も殺到!「令和のマッサン」「赤玉ポートワインパフェの父」とか呼ばれて、マジで時の人!マッサンの強烈な個性と、赤玉ポートワインパフェの斬新な組み合わせが、新たなブームを巻き起こしたんだね!
でさ、最終的にどうなったかって?もちろん!マッサンの赤玉ポートワインパフェは、全国のスイーツ好きに愛される定番メニューになったんだって!お取り寄せスイーツとしても人気が出て、全国のコンビニやスーパーでも「マッサン印の情熱パフェ」が発売されるほどに!まさに、赤玉ポートワインパフェでスイーツ界に新たな旋風を巻き起こし、天下を獲った!マジですごすぎ!
あの時、大阪の街に静かに佇んでいた日本のウイスキーの父が、令和の時代に赤玉ポートワインパフェで新たな道を切り開くなんて、マジで誰も想像してなかったよね!まさに、日本の酒造りの情熱が甘美なワインパフェに宿り、新たな伝説を創り出した瞬間!
アヤノも、「まさかマッサンが本当に赤玉ポートワインパフェでこんなに有名になるなんて!アタシ、マジで感動して泣いた!」って、号泣してたらしいよ。
マッサンは今も、さらなる赤玉ポートワインパフェの可能性を追求して、日本全国を旅しているらしい。「わが情熱の道に、終わりはない!」って、マジでストイック!
こうして、亀山政春は、令和の日本で、赤玉ポートワインパフェという新たな武器を手に入れ、見事、スイーツ界で唯一無二の地位を築いた!天下統一…ではないかもしれないけど、その強烈な個性と哲学は、多くの人々の心に深く刻まれたはず!めでたしめでたし…ってことで、マジでゾクゾクする衝撃的な物語、完全燃焼したわ!赤玉ポートワインパフェ、マジ卍!
十月の風が窓を叩く音がした。いや、違う。それは祖父の酒瓶が割れる音だった。
午前二時四十三分。台所は琥珀色の月光に満ちていた。床に散らばるはずのガラス片は、かわりに空中で静止し、それぞれが小さな太陽のように発光していた。破片は星座を描いた。オリオン座。祖父が最後に見上げた、あの冬の夜の配置そのままに。
わたしは素足で台所に立っていた。リノリウムの床は10月なのに真夏の砂浜のように熱く、同時に真冬の湖のように冷たかった。時間が二重に流れている。過去と現在が、ガラスの破片のように重なり合って。
「酒ってのは液体の時計なんだ」
声は骨の中から響いた。祖父の声。でも同時に、わたし自身の声でもあった。振り返ると、食器棚の影に七歳のわたしがいた。将棋盤を挟んで祖父と向かい合う、あの日曜日の午後のわたしが。
浮遊する破片の一つが、ゆっくりと回転しながらわたしに近づいてきた。手を伸ばす。ガラスは指に触れた瞬間、温かい蜜のように溶けて、皮膚に染み込んだ。そして見えた——
1943年、フィリピン。若い祖父が震える手で水筒の蓋を開ける。中身は水ではなく、故郷から持参した最後の酒。彼は一滴も飲まない。ただ匂いを嗅ぐ。故郷の、母の、まだ生まれていない娘の匂いを。
記憶が血管を逆流する。わたしの指先から肘へ、肘から肩へ、そして心臓へ。脈拍が二つになる。わたしのものと、祖父のものと。
「時間は肝臓で濾過される」祖父はよくそう言った。「だから俺は毎晩飲む。過去を消化するために」
でも嘘だった。祖父の肝臓は時間を濾過などしていなかった。蓄積していたのだ。層を成して、地層のように。そして死後七年目の今夜、ついに器が耐えきれなくなった。
空中の破片たちが、ゆっくりと渦を巻き始めた。台所の時計は相変わらず二時四十三分を指している。でも朝日が窓から差し込み始めた。いや、それは朝日ではない。破片たちが放つ琥珀色の光だ。
母が階段を降りてくる足音。でも振り返ると、そこにいたのは二十三歳の母だった。祖父がまだ生きていた頃の。いや、祖父がまだ若かった頃の。
「お父さん?」母が言う。でもその声は、現在の母の声と重なって聞こえる。
酒瓶の首だけが、床に残っていた。ラベルには製造年が書かれている。1943年。いや、違う。見るたびに数字が変わる。1952年。1967年。1985年。2010年。2024年。そして——
「2031年」
まだ来ていない年。わたしは理解した。この酒瓶は、祖父が込めた未来の記憶も含んでいるのだと。彼が見ることのなかった、わたしたちの未来も。
破片の渦が速度を増す。台所の壁が透明になり始めた。隣の部屋が見える。でもそれは現在の隣の部屋ではない。1952年の、母が生まれた日の部屋だ。そしてその向こうに、1943年のフィリピンの密林が見える。さらにその向こうに、2031年の——
突然、すべてが止まった。
破片たちが、一斉に床に落ちた。普通のガラスの破片として。月光は消え、台所の蛍光灯だけが瞬いている。時計は午前六時十五分を指していた。
「あら、お父さんの酒瓶が」母は破片を見つめた。その瞳に、一瞬、琥珀色の光が宿った。「夢を見ていたの。お父さんが若い頃の夢を」
わたしは箒を取りに行った。でも知っている。破片を掃除しても、それは終わりではないことを。
なぜなら、わたしの血管の中で、祖父の1943年がまだ脈打っているから。そしてどこかで、2031年のわたしが、新しい酒瓶に記憶を注いでいるから。
時間は直線ではない。それは発酵し、蒸留され、瓶詰めされる。そしていつか、誰かの台所で、再び割れる。
ガラスの破片を集めながら、わたしは気づいた。その一つ一つに、異なる月が映っていることに。過去の月、現在の月、そしてまだ昇っていない未来の月が。