「南沙」は台湾領土か(上)―中国が台湾とは争わない理由
2015/11/30/Mon
■台湾総統のスプラトリー諸島訪問計画
スプラトリー諸島(南沙諸島)など、南支那海の島々の領有権を巡り、中国の拡張主義に対するベトナム、フィリピンなど抵抗ぶりはクローズアップされているが、中国と同様にU型線を掲げ、同海域のずべての島の領有を主張しながらも、あまり脚光を浴びないのが台湾だ。
「中国」の南支那海における領有範囲を示すU型線。中華民国(台湾)は「11段線」と呼ぶが、
中華人民共和国はそれを修正して「9段線」と称する。
同国の馬英九総統は今年五月、「南支那海平和イニシアチブ」なるものを発表し、各国に領有権争いの棚上げや資源の共同開発などを提案するなど穏健路線。日本でも、朝日新聞がその主張に賛意を示していた。
しかしそれでも、馬英九氏が十二月、台湾が支配するスプラトリー諸島(南沙諸島)の太平島を訪問する計画があるという。
共同通信の十一月三日の報道によると、「台湾が同島で進めている埠頭新設などの改修工事が年末に完了する見通しとなっており(中略)現地での運用開始式典に出席する計画」とのことだが、しかし「太平島の領有権を主張するフィリピンなど周辺国や、対立激化を懸念する米国の反対も予想され、実現するかは見通せない」のだそうだ。
ちなみに馬氏本人は二十四日、「大平島は中華民国の領土。行く可能性は排除しない。ただ決定前に意見は言わない」と語っているが、どうなるのだろう。
いずれにせよ、その馬氏の訪問計画を好意的に見ている国がある。中国だ。
■南支那海問題で台湾とは争わない中国
スプラトリー諸島で台湾が唯一支配する太平島。同諸島内で自然島としては最大
あの国の国務院台湾事務弁公室の安峰山報道官は二十五日の定例会見で、南支那海問題における台中の協力可能性や馬氏の大平島訪問計画について聞かれると、次のように答えた。
「南海(南支那海)諸島及びその付属近海域は中国の固有領土。国家主権と領土を守ることは中華民族全体の利益に繋がり、両岸(台中)同胞の共同責任だ」(※中国は海域も「領土」と呼ぶ)
要するに中国はあの海域において、比越などASEAN諸国とは領有権争いを展開するが、台湾とは争う気がないということなのだ。
それは中国から見れば南支那海だけでなく、台湾もまた中国の一部だからである。
「台湾は中華民国との国名を捨てて統一に応じ、ともに南支那海の国家主権と領土を守ろう」と安峰山氏は言いたかったのだろう。
■馬英九の太平島訪問は習近平との約束か
もちろんそれは「先ずは南支那海での協力関係を強化しながら、統一へと向かおう」との意味と受け取ってもいい。
他方、「両岸の南海問題での立場は一致している」と強調するのが北京大学国際関係学院の梁雲祥教授だ。
馬英九の太平島訪問計画には習近平の意向も関係しているのか
それによれば馬英九氏の大平島訪問の計画は、「南海は中国固有の領土だと宣揚するあめのもの。それは馬英九・習近平会談で交わされた黙約だった可能性もある。南海争議が激化する中、島に上陸することは、南海は中国固有の領土であるとする両岸の立場を強調することに繋がるからだ」(台湾の中国情報紙、旺報。十一月二十六日)と話す。
馬氏が習近平氏に対して太平島訪問を約束したかどうかは定かではないが、しかし台湾の中華民国が中華人民共和国と同様、スプラトリー諸島など南支那海の島々を「中国固有の領土」と主張しているのは事実である。
そもそも馬英九もまた、南支那海も台湾も中国の一部だと看做しているからだ。なぜなら彼は台湾人ではなく、中国生まれの中華民族主義者だからだ。
■馬英九「平和イニシアチブ」は無抵抗主義
馬政権が昨年南支那海問題の研究を委託した中央研究院欧米研究所の宋燕輝研究員も、報告書の中で「両岸の南海領土に関する主張は一致している」と書いるとか。
宋燕輝氏は行政院大陸委員会から三十八万元もの研究費を支給されながら、こうした見解を示すのは問題だと野党議員から批判されたが、大陸委員会は機密を理由に、その報告内容を公開していない)。
ところで問題は、馬氏がこの島々の領有問題で中華人民共和国と協力するか否かだ。
馬氏の発表した「南支那海平和イニシアチブ」は、各国に主権争いの棚上げを訴えるものだったが、中国がそれに応じる訳もなく、それが最初から不可能であることは、馬氏もよくわかっているはず。
要するにそれは、「中国と領有権は争い」との馬氏の無抵抗主義宣言のようなものなのだろう。
だから先頃、米軍が南支那海で中国の人口島周辺海域への軍艦派遣を行って中国を猛反撥させた時、馬政権は「米中が力比べを始めたが、台湾は親米であると同時に睦陸(中国との和睦)でなければならない。南海問題では立場表明をしないのが一番いい」(楊国強国家安全局長、十月二十二日)などとして、中立の立場であるのを仄めかしたのだ。
■民主主義国家でありながら中国に味方するとは
米軍の「航行の自由作戦」に馬英九政権は支持表明を控えた
前出の宋燕輝氏も十月二十八日、台湾紙中国時報に寄稿し、次のように述べている。
「もし近い将来、米国が黄岩島(中国がフィリピンから奪取したスカボロー礁)、永暑礁、(中国がベトナムから奪取したファイアリー・クロス礁。最大の人工島に)、太平島(台湾支配下のイツアバ島)などの周辺十二カイリ内上空に軍用機を派遣し、または軍艦を我が国への事前通知もなしに渚碧礁(中国がベトナムから奪取したスビ礁。人工島を造成中)、美済礁(中国がフィリピンから奪取したミスチーフ礁)付近の海域を航行させた場合、台湾はその米国の側に立つべきか」
要するに南支那海の島々は、たとえ中華人民共和国の支配下にあっても中華民国の領土であり、米国がその主権を侵害するのなら(米艦には、他国領海の通過の際に事前通知を要さない無害通航権があるはずだが…)、中華民国は米国の中華人民共和国を牽制する行動を支持できないということだ。
そしてそうすることが、馬氏の南支那海平和イニシアチブの方針に適っているのだとか。
中国の拡張政策に支持表明はしなくても、米国の中国に対する牽制をも支持しないとなれば、馬政権は事実上、中国の南支那海に対する政策を容認しているということになるのである。このような民主主義国家が、このアジアに存在していたとは…。
(つづく)
*******************************************
ブログランキング参加中
よろしければクリックをお願いします。 運動を拡大したいので。
↓ ↓
モバイルはこちら
↓ ↓
http://blog.with2.net/link.php
link.php
スプラトリー諸島(南沙諸島)など、南支那海の島々の領有権を巡り、中国の拡張主義に対するベトナム、フィリピンなど抵抗ぶりはクローズアップされているが、中国と同様にU型線を掲げ、同海域のずべての島の領有を主張しながらも、あまり脚光を浴びないのが台湾だ。
「中国」の南支那海における領有範囲を示すU型線。中華民国(台湾)は「11段線」と呼ぶが、
中華人民共和国はそれを修正して「9段線」と称する。
同国の馬英九総統は今年五月、「南支那海平和イニシアチブ」なるものを発表し、各国に領有権争いの棚上げや資源の共同開発などを提案するなど穏健路線。日本でも、朝日新聞がその主張に賛意を示していた。
しかしそれでも、馬英九氏が十二月、台湾が支配するスプラトリー諸島(南沙諸島)の太平島を訪問する計画があるという。
共同通信の十一月三日の報道によると、「台湾が同島で進めている埠頭新設などの改修工事が年末に完了する見通しとなっており(中略)現地での運用開始式典に出席する計画」とのことだが、しかし「太平島の領有権を主張するフィリピンなど周辺国や、対立激化を懸念する米国の反対も予想され、実現するかは見通せない」のだそうだ。
ちなみに馬氏本人は二十四日、「大平島は中華民国の領土。行く可能性は排除しない。ただ決定前に意見は言わない」と語っているが、どうなるのだろう。
いずれにせよ、その馬氏の訪問計画を好意的に見ている国がある。中国だ。
■南支那海問題で台湾とは争わない中国
スプラトリー諸島で台湾が唯一支配する太平島。同諸島内で自然島としては最大
あの国の国務院台湾事務弁公室の安峰山報道官は二十五日の定例会見で、南支那海問題における台中の協力可能性や馬氏の大平島訪問計画について聞かれると、次のように答えた。
「南海(南支那海)諸島及びその付属近海域は中国の固有領土。国家主権と領土を守ることは中華民族全体の利益に繋がり、両岸(台中)同胞の共同責任だ」(※中国は海域も「領土」と呼ぶ)
要するに中国はあの海域において、比越などASEAN諸国とは領有権争いを展開するが、台湾とは争う気がないということなのだ。
それは中国から見れば南支那海だけでなく、台湾もまた中国の一部だからである。
「台湾は中華民国との国名を捨てて統一に応じ、ともに南支那海の国家主権と領土を守ろう」と安峰山氏は言いたかったのだろう。
■馬英九の太平島訪問は習近平との約束か
もちろんそれは「先ずは南支那海での協力関係を強化しながら、統一へと向かおう」との意味と受け取ってもいい。
他方、「両岸の南海問題での立場は一致している」と強調するのが北京大学国際関係学院の梁雲祥教授だ。
馬英九の太平島訪問計画には習近平の意向も関係しているのか
それによれば馬英九氏の大平島訪問の計画は、「南海は中国固有の領土だと宣揚するあめのもの。それは馬英九・習近平会談で交わされた黙約だった可能性もある。南海争議が激化する中、島に上陸することは、南海は中国固有の領土であるとする両岸の立場を強調することに繋がるからだ」(台湾の中国情報紙、旺報。十一月二十六日)と話す。
馬氏が習近平氏に対して太平島訪問を約束したかどうかは定かではないが、しかし台湾の中華民国が中華人民共和国と同様、スプラトリー諸島など南支那海の島々を「中国固有の領土」と主張しているのは事実である。
そもそも馬英九もまた、南支那海も台湾も中国の一部だと看做しているからだ。なぜなら彼は台湾人ではなく、中国生まれの中華民族主義者だからだ。
■馬英九「平和イニシアチブ」は無抵抗主義
馬政権が昨年南支那海問題の研究を委託した中央研究院欧米研究所の宋燕輝研究員も、報告書の中で「両岸の南海領土に関する主張は一致している」と書いるとか。
宋燕輝氏は行政院大陸委員会から三十八万元もの研究費を支給されながら、こうした見解を示すのは問題だと野党議員から批判されたが、大陸委員会は機密を理由に、その報告内容を公開していない)。
ところで問題は、馬氏がこの島々の領有問題で中華人民共和国と協力するか否かだ。
馬氏の発表した「南支那海平和イニシアチブ」は、各国に主権争いの棚上げを訴えるものだったが、中国がそれに応じる訳もなく、それが最初から不可能であることは、馬氏もよくわかっているはず。
要するにそれは、「中国と領有権は争い」との馬氏の無抵抗主義宣言のようなものなのだろう。
だから先頃、米軍が南支那海で中国の人口島周辺海域への軍艦派遣を行って中国を猛反撥させた時、馬政権は「米中が力比べを始めたが、台湾は親米であると同時に睦陸(中国との和睦)でなければならない。南海問題では立場表明をしないのが一番いい」(楊国強国家安全局長、十月二十二日)などとして、中立の立場であるのを仄めかしたのだ。
■民主主義国家でありながら中国に味方するとは
米軍の「航行の自由作戦」に馬英九政権は支持表明を控えた
前出の宋燕輝氏も十月二十八日、台湾紙中国時報に寄稿し、次のように述べている。
「もし近い将来、米国が黄岩島(中国がフィリピンから奪取したスカボロー礁)、永暑礁、(中国がベトナムから奪取したファイアリー・クロス礁。最大の人工島に)、太平島(台湾支配下のイツアバ島)などの周辺十二カイリ内上空に軍用機を派遣し、または軍艦を我が国への事前通知もなしに渚碧礁(中国がベトナムから奪取したスビ礁。人工島を造成中)、美済礁(中国がフィリピンから奪取したミスチーフ礁)付近の海域を航行させた場合、台湾はその米国の側に立つべきか」
要するに南支那海の島々は、たとえ中華人民共和国の支配下にあっても中華民国の領土であり、米国がその主権を侵害するのなら(米艦には、他国領海の通過の際に事前通知を要さない無害通航権があるはずだが…)、中華民国は米国の中華人民共和国を牽制する行動を支持できないということだ。
そしてそうすることが、馬氏の南支那海平和イニシアチブの方針に適っているのだとか。
中国の拡張政策に支持表明はしなくても、米国の中国に対する牽制をも支持しないとなれば、馬政権は事実上、中国の南支那海に対する政策を容認しているということになるのである。このような民主主義国家が、このアジアに存在していたとは…。
(つづく)
*******************************************
ブログランキング参加中
よろしければクリックをお願いします。 運動を拡大したいので。
↓ ↓
モバイルはこちら
↓ ↓
http://blog.with2.net/link.php
link.php