台北市長選に日本の「歴史問題」を持ち込む国民党 (付:台湾チャンネルの関連報道動画)
2014/11/28/Fri
■皇民化教育を受けた台北市長候補?
十一月二十九日に投開票の台湾統一地方選挙で内外から最も注目されるのが、二〇一六年の総統選挙の前哨戦と言える台北市長選挙だ。
親中的な国民党の連勝文氏と、台湾本土派の医師で無所属の柯文哲氏との事実上の一騎打ちだが、当初は「国民党が長く一党独裁で政治経済の中枢を押さえていたため、首都機能を持つ台北には国民党支持者が多く集まった。市長選では、国民党重鎮の連戦元副総統の長男で、同党次世代ホープの連氏が優位という事前予測が強かった」(朝日)。だが目下のところ、柯文哲氏が連勝文氏を大きくリード。
台湾本土派で無所属の柯文哲氏と国民党の連勝文氏の一騎打ちとなっている台北市長選挙
国民党寄りのケーブルテレビTVBSが十七日に発表した世論調査の結果によれば、支持率で柯文哲氏が四五%と、三二%の連勝文氏を引き離している。
連勝文氏が「伸び悩む最大の原因は、『権貴』(特権階級)とのイメージだ。連家は金持ちで知られ、民進党の台北市議らは父親の連戦氏の資産は少なくとも786億円と指摘。連勝文氏も台北随一の豪華マンションに自宅を持ち、庶民の生活とかけ離れている、との受け止めが広がった」(朝日)という。
そうした状況に苛立ったのが父親で国民党名誉主席の連戦氏だ。十六日の応援演説で「柯文哲こそが高官の二代目か三代目だ」と罵った。「高官といっても中華民国ではなく日本の役人のことだ。皇民化教育を受けたため、中華の文化、価値、歴史には否定的」と言ってのけた。
息子への応援演説で柯文哲氏を罵る連戦氏
■「皇民」批判は在台中国人の台湾人憎悪
一九五九年生まれの柯文哲氏はもちろん、「皇民化教育」など受けてはいない。しかし連戦氏にとって、そのような事実はどうでもいいのだ。
そもそも「日本統治時代の皇民化(日本人化)教育の影響で中華文化を忘れた」というのは国民党の所謂「外省人」(在台中国人)勢力が戦後の台湾占領直後から一貫して抱き続ける台湾人観であり、台湾人に対する蔑視、憎悪の感情を言い表すものでもある。
柯文哲氏に対し、連戦氏はこうも批判した。「(日本時代に)柯文哲の祖父は『青山』と改姓していた。『青山文哲』が台北市長になろうとしている」と。
柯文哲氏の祖父、故柯世元氏が日本時代の「高官」だったと批判するのは連戦氏が初めてではない。連勝文士の選対本部幹事長、蔡正元氏もすでに九月の時点で、「日本時代にたった一人だけ台湾人の督学、つまり教育制度における最高官位に就いた者がいた。それが柯文哲の祖父だ。その人が日本の権貴だったことは疑いない」と発言している。
しかし実際には柯世元氏は当時「督学」などではなく、公学校(台湾人向け小学校)の訓導(教諭)に過ぎなかった。
柯文哲氏の祖父、故柯世元氏は小学校の先生で、高官ではなかった
■連戦氏の祖父こそ日本時代の特権階級
中共と同様に国民党の中国人にとっても歴史捏造宣伝は常套手段で、今回もその一例だというわけだが、台湾人はそれには騙されなかった。
野党、学者、メディアはただちに「歴史検証」を行い、柯世元氏が「日本の権貴」ではなかったことともに、逆に連戦氏こそが「日本の権貴」の二代目であることを明らかにしている。
連戦氏の祖父は日本時代の詩人、歴史学者である連横(雅堂)氏で、それこそ当時の特権階級だったといえる。
たとえばその著書『台湾通史』(一九二〇年)には明石元二郎総督、田健次郎総督、中川小十郎台湾銀行頭取が題字を寄せ、下村宏総務長官が序文を書いており、体制にべったりの御用文人だったことがわかる。一九三〇年には総督府の阿片専売を讃える一文を発表するなどで台湾人知識人たちから糾弾され、中国への移住を余儀なくされている。
連戦氏の祖父、連雅堂氏こそ日本時代に体制に媚びていた
ちなみに連横氏と共に中国へ渡った息子の連震東氏は国民党に入党。現地で生まれたのが連戦だ。その「戦」の字には日本との一戦で勝利し、台湾を中国に取り戻すとの願いが込められているそうだ。連戦氏の中華民族意識と反日感情が強烈である背景には、こうした生い立ちもあるようだ。
連震東氏は抗日戦争中、重慶の国府幹部となり、終戦後は台湾接収のため帰郷して権勢を振い、公務員でありながら大富豪となる。その息子である連戦氏の「786億円」の資産が批判を浴びるのも、そうした経緯があるためなのだ。
■柯文哲氏の祖父は国民党に殺されていた
連戦氏から祖父、柯世元氏を罵られた柯文哲氏だが、当初は自身の祖父の経歴をあまり知らないでいたようだ。なぜなら祖父にはあまりに悲しい過去があり、父親の柯承発氏が多くを語ってくれなかったからだ。
戦後も学校で教鞭をとり続けた柯世元氏は一九四七年、二・二八事件(国民党による台湾人虐殺事件)に遭遇する。台湾人と外省人とが衝突するさなか、柯世元氏は外省人を匿ったのだが、その後の清郷(台湾人知識人などの捜索、逮捕)が実施された際、何とその外省人に密告され、投獄された。そして拷問を受けて心身ともにボロボロとなり、釈放後に死去したのだという。
そのため柯承発氏は悲しみに打ちのめされ、毎年行われる事件の追悼会に参加するたびに泣いて帰宅するという話を、柯文哲氏は連戦氏から祖父が批判を浴びた後、涙ながらにメディアに語っている。
柯承発氏は息子が台北市長選に出馬を決めた際、猛反対している。政界入りして再び国民党に迫害されるのではないかと懸念したのだ。しかし柯文哲氏は、台湾人と外省人との対立を超越したいと話す。
ところがそう語る柯文哲氏に対し、連戦氏は逆に対立を煽ったのだ。柯一族が親日家庭であると強調し、外省人有権者の反日感情に訴えたのである。
郝柏村元行政院長(かつての軍の長老で郝龍斌現台北市長の父)も、直ちにそれに呼応し、「柯文哲は台湾皇民の末裔。柯の祖父は李登輝と同じ皇民。当時の皇民は日本占領時代における特権階級だ」などと更に歴史を改竄し、退役軍人らに連勝文氏への支持を訴えた。
更にデマを広げた郝柏村氏
■選挙は国民党特権階級と台湾人庶民との戦い
二・二八事件当時、柯文哲氏の祖父は無実の罪で殺されたが、連勝文氏の祖父(連震東氏)は台湾人知識人の名簿を当局に渡し、その逮捕、投獄に協力したと言われる。
言わば連一族は戦後台湾社会における支配階級、特権階級の象徴のようなものなのだ。彼らから見れば柯一族など、被支配階級たるべき台湾人庶民の一部にしか見えないのだろう。だからこそ連戦氏は、ここまで卑劣な批判を柯一族に公然と加えることができるのだ。柯承発氏は「連先生、私達の尊厳を守ってくれませんか」と訴えたが、もちろん連戦氏からは謝罪の言葉一つない。
だが連戦氏や郝柏村氏の発言には国民党内部からも批判の声が高まっている。なぜならこれによって浮遊票が柯文哲氏に一気に流れる恐れがあるからだ。
何しろ台湾人の多くは「皇民の末裔」なのである。
名指しもされた元総統の李登輝氏も郝柏村氏の発言には「私にだけでならともかく、全ての台湾人をもそう呼ぶとは。みな怒ると思う」とコメントした。そして「(皇民化は)我々の歴史なのだ。あれ我はたくさんの外来政権に支配され、自分と言う存在がなかった。しかし今の台湾人は自分が誰だか知っている」とも。
理性を欠いた在台中国人のネガティブキャンペーンを批判する李登輝氏
台湾人を蔑む中国人特権階級の支配から台北市、そして台湾全体が救出されることを祈りつつ、今度の台湾統一地方選挙を見守りたい。
「台湾チャンネル」の関連報道
【台湾チャンネル】第57回、外務省が「昭文社地図」問題で回答・国民党が台北市長選で「反日」カード[桜H26/11/21]
(20分49秒から「国民党が繰り出す反日カード」)
日本と台湾の交流情報を、日本語と台湾の言語で同時にお送りする情報番組。
今回は、① 昭文社問題の最新情報。外務省から「政府見解通りで問題ない」と保証されたと説明し、台湾を中華人民共和国の領土と誤記載する商品を販売し続ける地図大手だが、それは事実か。番組がその真偽を外務省に問い合わせたところ……。 ② 台湾総統選挙の前哨戦たる台北市長選挙では本土派で無所属の柯文哲候補が国民党候補を大きくリード。そこで同党陣営が切ったのが中国人的な反日カード。柯氏の祖父が日本時代の「高官」だったとのデマ宣伝を行ったが、そこで鮮明となったのが台湾人と中国人との社会理念、歴史観などの異なりだった。
キャスター:永山英樹・謝恵芝
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十一月二十九日に投開票の台湾統一地方選挙で内外から最も注目されるのが、二〇一六年の総統選挙の前哨戦と言える台北市長選挙だ。
親中的な国民党の連勝文氏と、台湾本土派の医師で無所属の柯文哲氏との事実上の一騎打ちだが、当初は「国民党が長く一党独裁で政治経済の中枢を押さえていたため、首都機能を持つ台北には国民党支持者が多く集まった。市長選では、国民党重鎮の連戦元副総統の長男で、同党次世代ホープの連氏が優位という事前予測が強かった」(朝日)。だが目下のところ、柯文哲氏が連勝文氏を大きくリード。
台湾本土派で無所属の柯文哲氏と国民党の連勝文氏の一騎打ちとなっている台北市長選挙
国民党寄りのケーブルテレビTVBSが十七日に発表した世論調査の結果によれば、支持率で柯文哲氏が四五%と、三二%の連勝文氏を引き離している。
連勝文氏が「伸び悩む最大の原因は、『権貴』(特権階級)とのイメージだ。連家は金持ちで知られ、民進党の台北市議らは父親の連戦氏の資産は少なくとも786億円と指摘。連勝文氏も台北随一の豪華マンションに自宅を持ち、庶民の生活とかけ離れている、との受け止めが広がった」(朝日)という。
そうした状況に苛立ったのが父親で国民党名誉主席の連戦氏だ。十六日の応援演説で「柯文哲こそが高官の二代目か三代目だ」と罵った。「高官といっても中華民国ではなく日本の役人のことだ。皇民化教育を受けたため、中華の文化、価値、歴史には否定的」と言ってのけた。
息子への応援演説で柯文哲氏を罵る連戦氏
■「皇民」批判は在台中国人の台湾人憎悪
一九五九年生まれの柯文哲氏はもちろん、「皇民化教育」など受けてはいない。しかし連戦氏にとって、そのような事実はどうでもいいのだ。
そもそも「日本統治時代の皇民化(日本人化)教育の影響で中華文化を忘れた」というのは国民党の所謂「外省人」(在台中国人)勢力が戦後の台湾占領直後から一貫して抱き続ける台湾人観であり、台湾人に対する蔑視、憎悪の感情を言い表すものでもある。
柯文哲氏に対し、連戦氏はこうも批判した。「(日本時代に)柯文哲の祖父は『青山』と改姓していた。『青山文哲』が台北市長になろうとしている」と。
柯文哲氏の祖父、故柯世元氏が日本時代の「高官」だったと批判するのは連戦氏が初めてではない。連勝文士の選対本部幹事長、蔡正元氏もすでに九月の時点で、「日本時代にたった一人だけ台湾人の督学、つまり教育制度における最高官位に就いた者がいた。それが柯文哲の祖父だ。その人が日本の権貴だったことは疑いない」と発言している。
しかし実際には柯世元氏は当時「督学」などではなく、公学校(台湾人向け小学校)の訓導(教諭)に過ぎなかった。
柯文哲氏の祖父、故柯世元氏は小学校の先生で、高官ではなかった
■連戦氏の祖父こそ日本時代の特権階級
中共と同様に国民党の中国人にとっても歴史捏造宣伝は常套手段で、今回もその一例だというわけだが、台湾人はそれには騙されなかった。
野党、学者、メディアはただちに「歴史検証」を行い、柯世元氏が「日本の権貴」ではなかったことともに、逆に連戦氏こそが「日本の権貴」の二代目であることを明らかにしている。
連戦氏の祖父は日本時代の詩人、歴史学者である連横(雅堂)氏で、それこそ当時の特権階級だったといえる。
たとえばその著書『台湾通史』(一九二〇年)には明石元二郎総督、田健次郎総督、中川小十郎台湾銀行頭取が題字を寄せ、下村宏総務長官が序文を書いており、体制にべったりの御用文人だったことがわかる。一九三〇年には総督府の阿片専売を讃える一文を発表するなどで台湾人知識人たちから糾弾され、中国への移住を余儀なくされている。
連戦氏の祖父、連雅堂氏こそ日本時代に体制に媚びていた
ちなみに連横氏と共に中国へ渡った息子の連震東氏は国民党に入党。現地で生まれたのが連戦だ。その「戦」の字には日本との一戦で勝利し、台湾を中国に取り戻すとの願いが込められているそうだ。連戦氏の中華民族意識と反日感情が強烈である背景には、こうした生い立ちもあるようだ。
連震東氏は抗日戦争中、重慶の国府幹部となり、終戦後は台湾接収のため帰郷して権勢を振い、公務員でありながら大富豪となる。その息子である連戦氏の「786億円」の資産が批判を浴びるのも、そうした経緯があるためなのだ。
■柯文哲氏の祖父は国民党に殺されていた
連戦氏から祖父、柯世元氏を罵られた柯文哲氏だが、当初は自身の祖父の経歴をあまり知らないでいたようだ。なぜなら祖父にはあまりに悲しい過去があり、父親の柯承発氏が多くを語ってくれなかったからだ。
戦後も学校で教鞭をとり続けた柯世元氏は一九四七年、二・二八事件(国民党による台湾人虐殺事件)に遭遇する。台湾人と外省人とが衝突するさなか、柯世元氏は外省人を匿ったのだが、その後の清郷(台湾人知識人などの捜索、逮捕)が実施された際、何とその外省人に密告され、投獄された。そして拷問を受けて心身ともにボロボロとなり、釈放後に死去したのだという。
そのため柯承発氏は悲しみに打ちのめされ、毎年行われる事件の追悼会に参加するたびに泣いて帰宅するという話を、柯文哲氏は連戦氏から祖父が批判を浴びた後、涙ながらにメディアに語っている。
柯承発氏は息子が台北市長選に出馬を決めた際、猛反対している。政界入りして再び国民党に迫害されるのではないかと懸念したのだ。しかし柯文哲氏は、台湾人と外省人との対立を超越したいと話す。
ところがそう語る柯文哲氏に対し、連戦氏は逆に対立を煽ったのだ。柯一族が親日家庭であると強調し、外省人有権者の反日感情に訴えたのである。
郝柏村元行政院長(かつての軍の長老で郝龍斌現台北市長の父)も、直ちにそれに呼応し、「柯文哲は台湾皇民の末裔。柯の祖父は李登輝と同じ皇民。当時の皇民は日本占領時代における特権階級だ」などと更に歴史を改竄し、退役軍人らに連勝文氏への支持を訴えた。
更にデマを広げた郝柏村氏
■選挙は国民党特権階級と台湾人庶民との戦い
二・二八事件当時、柯文哲氏の祖父は無実の罪で殺されたが、連勝文氏の祖父(連震東氏)は台湾人知識人の名簿を当局に渡し、その逮捕、投獄に協力したと言われる。
言わば連一族は戦後台湾社会における支配階級、特権階級の象徴のようなものなのだ。彼らから見れば柯一族など、被支配階級たるべき台湾人庶民の一部にしか見えないのだろう。だからこそ連戦氏は、ここまで卑劣な批判を柯一族に公然と加えることができるのだ。柯承発氏は「連先生、私達の尊厳を守ってくれませんか」と訴えたが、もちろん連戦氏からは謝罪の言葉一つない。
だが連戦氏や郝柏村氏の発言には国民党内部からも批判の声が高まっている。なぜならこれによって浮遊票が柯文哲氏に一気に流れる恐れがあるからだ。
何しろ台湾人の多くは「皇民の末裔」なのである。
名指しもされた元総統の李登輝氏も郝柏村氏の発言には「私にだけでならともかく、全ての台湾人をもそう呼ぶとは。みな怒ると思う」とコメントした。そして「(皇民化は)我々の歴史なのだ。あれ我はたくさんの外来政権に支配され、自分と言う存在がなかった。しかし今の台湾人は自分が誰だか知っている」とも。
理性を欠いた在台中国人のネガティブキャンペーンを批判する李登輝氏
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(20分49秒から「国民党が繰り出す反日カード」)
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キャスター:永山英樹・謝恵芝
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