トランプ外交だけでなく中国外交も「巧妙」だー「一つの中国」問題では負けない覇権主義国家(附:台湾チャンネルの関連報道動画)
2017/04/25/Tue
■産経「正論」の一文に用語の誤り
台湾は中国領土の一部とする「一つの中国」原則を受け入れない台湾の蔡英文政権に中国が苛立ちを募らせる中、「この時機を捉えて米国は台湾に2240億円相当の武器を売却する意向を発表した」と高く評価するのが、産経新聞(四月二十五日)の「正論」欄に掲載の「巧妙さ際立つトランプ対中外交」(拓殖大学学事顧問・渡辺利夫)だ。
「旧国際秩序への挑戦勢力に対する現状維持勢力の不作意が戦争誘発の要因である」とし、第二次世界大戦の起因となった英国などの対独宥和姿勢の二の舞いを避けるかのようなトランプ大統領の外交の「巧妙さ」を指摘しており、一読に値する内容である。
ところで、それによるとトランプ氏は、「米国の覇権に刃向かう現在ならびに将来の覇権主義国家が中国であることを正しく認識し、オバマ政権時代の寛容で融和的な政策を転じて、早くも対中牽制のための有力なカードをみせつけ始め」ているが、その内の一つが「米国は『一つの中国』原則に縛られないとする、胸中に秘めた氏の策をのぞかせたこと」だろうとし、その具体例を次のように挙げている。
―――今年1月13日、トランプ氏は米紙とのインタビューで、中国と台湾がともに一つの中国に属するという原則に自分は縛られない、米中問題のすべてが交渉の対象だという見解を明らかにした。
―――その後、トランプ氏は習氏(※中国の習近平国家主席)との電話会談で、一つの中国原則を尊重すると応じた。トランプ氏の譲歩ではあろうが、中国が他国から言及されることを最も嫌悪するこの問題を、トランプ氏が重要な政治カードとして隠し持っていることを中国側に知らしめたのは、氏の外交的「狡知」であろう。
このように、言わんとすることはもっとだと思うのだが、しかしここでは、ささやかなようで実は重要な、ある用語の誤りを指摘しなければならない。
■「一つの中国」なら台湾への武器売却は不法に
トランプ氏にインタビューした「米紙」とはウォールストリート・ジャーナルだが、同氏が実際にそこで言及したのは、「中国と台湾がともに一つの中国に属するという原則」つまり中国の掲げる「一つの中国」原則ではなく、米国が遂行して来た「一つの中国」政策なのである。
「長年米国の北京との関係を支えてきた『一つの中国』政策を支持するか」との質問に対し、「『一つの中国』を含め、すべてが交渉の対象となる」と応じ、「一つの中国」政策に“縛られない”考えを表明したわけである。
この米国の「一つの中国」政策は、中国の「一つの中国」原則とは内容が異なる。それに関しては、トランプ氏と習近平氏との電話会談後の二月十六日、産経新聞が次のように解説している。
―――中国の「一つの中国」の「原則」は、台湾当局が名乗る「中華民国」を念頭に(1)(世界に)中国は一つしかない(2)中華人民共和国政府は中国の唯一の合法政府(3)台湾は中国の領土の不可分の一部分-とする3要素からなる。
――― 一方、米国の「政策」は1972年、78年、82年の3つの米中共同声明と、台湾との非公式関係や武器供与を定めた79年の国内法「台湾関係法」に基づく。共同声明で米国は、中華人民共和国政府を「承認」する一方、「中国は一つであり、台湾は中国の一部」の2点は、中国側の「立場を認識する」にとどめている。
以上を簡単に言えば、名は同じ「一つの中国」でも、米国の「政策」とは台湾を中国領土の一部とは承認しないものであり、その最重要な一点において、中国の「原則」とは異なっているのだ。
したがって、もし米国が従来「一つの中国」原則に縛られてきたというのであれば、それは米国が台湾を中国領土の一部であると認めてきたということになりはしないか。
そうなれば米国の台湾への武器売却などは、中国に対する不法な内政干渉という話になろう。そして実際にそのように米国を非難して来た中国の虚構宣伝も虚構ではないということになってしまうわけで、せっかくの反覇権主義国家の論文でも、こうした言説を重ねて行けば、やがてはあの国に利する結果となりかねない。
■トランプは「一つの中国」政策を改称すべし
もっとも米国の「政策」と中国の「原則」との混同は、日本ではやむを得ない誤解だと言える。何しろ国民の情報源たるマスメディア自体がそう誤解し、そして誤報を繰り返してきたからだ。
たとえば前出のウォールストリート・ジャーナルのトランプ氏のインタビュー記事について、次のような誤報が相次いだ。
―――トランプ次期米大統領は米紙ウォールストリート・ジャーナルのインタビューで、米中関係について「(中国と台湾の)『一つの中国』原則を含めて全てが交渉対象になる」と語り、1979年の米中国交正常化以来、歴代米政権が維持してきた同原則に縛られないとする立場を重ねて強調した。(産経)
―――アメリカのトランプ次期大統領は有力紙とのインタビューで、中国の貿易や為替をめぐる対応次第では台湾は中国の一部という「一つの中国」の原則にはこだわらないとの考えを強調した。(日本テレビ)
―――トランプ次期米大統領は13日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)のインタビューで、中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」の原則を見直す可能性に言及した。為替や貿易を巡る問題で中国との間に進展がみられるまで米政府がこれまで尊重してきた同原則には縛られないとの方針を示した。(日本経済新聞)
―――トランプ次期米大統領は13日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューで、中国の為替・貿易慣行に改善が見られるまで中国と台湾は不可分とする「一つの中国」の原則にコミットしない姿勢を示した。(ロイター)
このロイター記事の英語原文では「『一つの中国』政策」とし書いていないのだが、日本語記事になると、「中国と台湾は不可分とする『一つの中国』の原則」とわざわざ書き換えられている。
ロイターの記事を見よ。原文(上)では“「一つの中国」政策”とあったが、日本語記事(下)には・・・
「一つの中国」との言葉に惑わされているだけだろうか。
このように「中国と台湾は不可分とする」だとか、「中国大陸と台湾が一つの国に属する」だとか、「台湾は中国の一部という」だとか・・・、中国の誤った宣伝文句を、一々くっ付けて報じる日本のメディアの異様さに、思わず「中国からの指示か」と疑いたくなる。
そうした中、この誤りを産経が気付き、前掲の解説を施したのは何よりだったのだが、しかし社内の「正論」担当者がまだそれを読んでいないらしく、今回の誤記を見落としてしている。
やはりトランプ氏は「一つの中国」政策を見直し、改称するなりすべきだろう。米国がこのような世界に誤解を与える政策名を用い続けるのは、そうした誤解の広がりを狙う中国の強烈な要求に屈してのことだが、そのおかげで日本ではメディアも識者もみな真実がわからなくなっている。
見方を変えれば長年にわたり、そしてトランプ氏までも丸めこみ、「一つの中国」宣伝で米国をも利用し続ける中国の外交工作もまた「巧妙さ際立つ」と言わざるを得ない。
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台湾チャンネル関連報道
【台湾ch Vol.178】米中会談で日本の「一つの中国」報道は改善か / 日台友情の深化を示す交流音楽会が和やかに[桜H29/4/14]
https://youtu.be/pL6v5Ezmwwc
台湾チャンネル第178回は、①「小吃」(大衆料理)は台湾観光の魅力の一。台北で評判の一店を紹介。②米中首脳会談で言及された米国の「一つの中国」政策。それに関して従来誤報を重ねてきた日本のマスコミは今回いかに報じたか。③新たな時代の両国関係を象徴するかのように、台湾の駐日代表処(大使館)官邸で日台交流音楽会。キャスター:永山英樹・謝恵芝
【日台交流頻道】第178集,日本媒體對於「一中」報導是否會導正? / 象徴日台深厚情誼的音楽交流会
本節目使用日台的語言。本集報導:①川習會談論及美國的一中政策,總是錯誤報導的日本媒體這次是否會更正? ②新時代的台日關係象徴!駐日代表處官邸舉行日台交流音樂會。主播:永山英樹・謝惠芝
台湾は中国領土の一部とする「一つの中国」原則を受け入れない台湾の蔡英文政権に中国が苛立ちを募らせる中、「この時機を捉えて米国は台湾に2240億円相当の武器を売却する意向を発表した」と高く評価するのが、産経新聞(四月二十五日)の「正論」欄に掲載の「巧妙さ際立つトランプ対中外交」(拓殖大学学事顧問・渡辺利夫)だ。
「旧国際秩序への挑戦勢力に対する現状維持勢力の不作意が戦争誘発の要因である」とし、第二次世界大戦の起因となった英国などの対独宥和姿勢の二の舞いを避けるかのようなトランプ大統領の外交の「巧妙さ」を指摘しており、一読に値する内容である。
ところで、それによるとトランプ氏は、「米国の覇権に刃向かう現在ならびに将来の覇権主義国家が中国であることを正しく認識し、オバマ政権時代の寛容で融和的な政策を転じて、早くも対中牽制のための有力なカードをみせつけ始め」ているが、その内の一つが「米国は『一つの中国』原則に縛られないとする、胸中に秘めた氏の策をのぞかせたこと」だろうとし、その具体例を次のように挙げている。
―――今年1月13日、トランプ氏は米紙とのインタビューで、中国と台湾がともに一つの中国に属するという原則に自分は縛られない、米中問題のすべてが交渉の対象だという見解を明らかにした。
―――その後、トランプ氏は習氏(※中国の習近平国家主席)との電話会談で、一つの中国原則を尊重すると応じた。トランプ氏の譲歩ではあろうが、中国が他国から言及されることを最も嫌悪するこの問題を、トランプ氏が重要な政治カードとして隠し持っていることを中国側に知らしめたのは、氏の外交的「狡知」であろう。
このように、言わんとすることはもっとだと思うのだが、しかしここでは、ささやかなようで実は重要な、ある用語の誤りを指摘しなければならない。
■「一つの中国」なら台湾への武器売却は不法に
トランプ氏にインタビューした「米紙」とはウォールストリート・ジャーナルだが、同氏が実際にそこで言及したのは、「中国と台湾がともに一つの中国に属するという原則」つまり中国の掲げる「一つの中国」原則ではなく、米国が遂行して来た「一つの中国」政策なのである。
「長年米国の北京との関係を支えてきた『一つの中国』政策を支持するか」との質問に対し、「『一つの中国』を含め、すべてが交渉の対象となる」と応じ、「一つの中国」政策に“縛られない”考えを表明したわけである。
この米国の「一つの中国」政策は、中国の「一つの中国」原則とは内容が異なる。それに関しては、トランプ氏と習近平氏との電話会談後の二月十六日、産経新聞が次のように解説している。
―――中国の「一つの中国」の「原則」は、台湾当局が名乗る「中華民国」を念頭に(1)(世界に)中国は一つしかない(2)中華人民共和国政府は中国の唯一の合法政府(3)台湾は中国の領土の不可分の一部分-とする3要素からなる。
――― 一方、米国の「政策」は1972年、78年、82年の3つの米中共同声明と、台湾との非公式関係や武器供与を定めた79年の国内法「台湾関係法」に基づく。共同声明で米国は、中華人民共和国政府を「承認」する一方、「中国は一つであり、台湾は中国の一部」の2点は、中国側の「立場を認識する」にとどめている。
以上を簡単に言えば、名は同じ「一つの中国」でも、米国の「政策」とは台湾を中国領土の一部とは承認しないものであり、その最重要な一点において、中国の「原則」とは異なっているのだ。
したがって、もし米国が従来「一つの中国」原則に縛られてきたというのであれば、それは米国が台湾を中国領土の一部であると認めてきたということになりはしないか。
そうなれば米国の台湾への武器売却などは、中国に対する不法な内政干渉という話になろう。そして実際にそのように米国を非難して来た中国の虚構宣伝も虚構ではないということになってしまうわけで、せっかくの反覇権主義国家の論文でも、こうした言説を重ねて行けば、やがてはあの国に利する結果となりかねない。
■トランプは「一つの中国」政策を改称すべし
もっとも米国の「政策」と中国の「原則」との混同は、日本ではやむを得ない誤解だと言える。何しろ国民の情報源たるマスメディア自体がそう誤解し、そして誤報を繰り返してきたからだ。
たとえば前出のウォールストリート・ジャーナルのトランプ氏のインタビュー記事について、次のような誤報が相次いだ。
―――トランプ次期米大統領は米紙ウォールストリート・ジャーナルのインタビューで、米中関係について「(中国と台湾の)『一つの中国』原則を含めて全てが交渉対象になる」と語り、1979年の米中国交正常化以来、歴代米政権が維持してきた同原則に縛られないとする立場を重ねて強調した。(産経)
―――アメリカのトランプ次期大統領は有力紙とのインタビューで、中国の貿易や為替をめぐる対応次第では台湾は中国の一部という「一つの中国」の原則にはこだわらないとの考えを強調した。(日本テレビ)
―――トランプ次期米大統領は13日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)のインタビューで、中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」の原則を見直す可能性に言及した。為替や貿易を巡る問題で中国との間に進展がみられるまで米政府がこれまで尊重してきた同原則には縛られないとの方針を示した。(日本経済新聞)
―――トランプ次期米大統領は13日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューで、中国の為替・貿易慣行に改善が見られるまで中国と台湾は不可分とする「一つの中国」の原則にコミットしない姿勢を示した。(ロイター)
このロイター記事の英語原文では「『一つの中国』政策」とし書いていないのだが、日本語記事になると、「中国と台湾は不可分とする『一つの中国』の原則」とわざわざ書き換えられている。
ロイターの記事を見よ。原文(上)では“「一つの中国」政策”とあったが、日本語記事(下)には・・・
「一つの中国」との言葉に惑わされているだけだろうか。
このように「中国と台湾は不可分とする」だとか、「中国大陸と台湾が一つの国に属する」だとか、「台湾は中国の一部という」だとか・・・、中国の誤った宣伝文句を、一々くっ付けて報じる日本のメディアの異様さに、思わず「中国からの指示か」と疑いたくなる。
そうした中、この誤りを産経が気付き、前掲の解説を施したのは何よりだったのだが、しかし社内の「正論」担当者がまだそれを読んでいないらしく、今回の誤記を見落としてしている。
やはりトランプ氏は「一つの中国」政策を見直し、改称するなりすべきだろう。米国がこのような世界に誤解を与える政策名を用い続けるのは、そうした誤解の広がりを狙う中国の強烈な要求に屈してのことだが、そのおかげで日本ではメディアも識者もみな真実がわからなくなっている。
見方を変えれば長年にわたり、そしてトランプ氏までも丸めこみ、「一つの中国」宣伝で米国をも利用し続ける中国の外交工作もまた「巧妙さ際立つ」と言わざるを得ない。
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台湾チャンネル関連報道
【台湾ch Vol.178】米中会談で日本の「一つの中国」報道は改善か / 日台友情の深化を示す交流音楽会が和やかに[桜H29/4/14]
https://youtu.be/pL6v5Ezmwwc
台湾チャンネル第178回は、①「小吃」(大衆料理)は台湾観光の魅力の一。台北で評判の一店を紹介。②米中首脳会談で言及された米国の「一つの中国」政策。それに関して従来誤報を重ねてきた日本のマスコミは今回いかに報じたか。③新たな時代の両国関係を象徴するかのように、台湾の駐日代表処(大使館)官邸で日台交流音楽会。キャスター:永山英樹・謝恵芝
【日台交流頻道】第178集,日本媒體對於「一中」報導是否會導正? / 象徴日台深厚情誼的音楽交流会
本節目使用日台的語言。本集報導:①川習會談論及美國的一中政策,總是錯誤報導的日本媒體這次是否會更正? ②新時代的台日關係象徴!駐日代表處官邸舉行日台交流音樂會。主播:永山英樹・謝惠芝