日本も歓迎すべき親中「高雄市長」解職
2020/06/09/Tue
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■唾棄されたポピュリスト市長の中国迎合
台湾第二の都市、高雄市では5月6日、最大野党、国民党所属の韓国瑜市長に対するリコールの賛否を問う住民投票が行われた。そして即日開票の結果、「同意」が93万9090票、「不同意」2万5051票。その解職が決まった。
韓国瑜氏と言えばこの2年間、人気が急騰したかと思えばやがて急落するなど、その動向は注目の的であり続けた。
もともと知名度は低いながらも、2018年11月の統一地方選挙で高雄市長に立候補した彼は、民進党政権への不満が全国に広がるのに乗じ、初当選を果たした。
選挙戦では「物を出荷し、人を連れ込み、高雄を大儲けさせよう」(中国と関係を改善し、中国への輸出と中国人観光客の誘致で経済繁栄を)等々のハチャメチャではあるが誰でもわかりやすい簡単明瞭なポピュリズム的主張で、高雄市民はおろか全国の反民進党層の心をも摑んだ。民主改革を嫌う多くの社会的不満分子などは熱狂的に支持し、「韓ファン」と呼ばれる層も形成された。「韓ファン」はカルトのような勢力で、攻撃的、排他的なイメージも強い。
こうして巻き起こった「韓流」(韓国瑜ブーム)は、低迷していた国民党の党勢をも回復させ、同党の大勝利をも導いた。
そしてその勢いを乗り、今度は2020年の総統選挙に出馬し、民進党からの政権奪還を狙ったのだが、こちらは惨敗を喫している。そしてそればかりか、市長を休職しての無責任で背信的な出馬だったため、リコール運動が若者たちの主導で始まったのである。
リコール運動をリードし大業を成し遂げた四人の若者
運動は一気に拡大し、アピールのデモ行進には50万人(主催者発表)が参加し、投票実施のための署名も、必要数の22万8千人(有権者数の10%)を大きく上回る40万人以上が集まった。
昨年12月に行われたデモ行進。街を埋め尽くした
こうした韓国瑜氏の人気急落の原因は、高雄市長としてのハチャメチャぶり、能力、品格の低さだけではない。中国という台湾の存立を脅かす国に対する迎合姿勢もまた唾棄の対象なのだ。この市長リコール運動にしても、中国の侵略から台湾を守り抜きたいという民衆の意志が、その原動力の大きな一つだった。
■総統選での惨敗後に市民が止めを刺す
2019年3月、訪中した韓国瑜氏は政府への事前通知もなしに、密かに中国の香港統治機関、つまり一国二制度を統括する中聯弁(中央人民政府駐香港特別行政区聯絡弁公室)を訪れた。これは台湾には衝撃だった。香港紙成報ですら「一国二制度を黙認 高雄市長韓国瑜は台湾を売った」と一面トップで報じたほどの事件だった。
韓国瑜氏の中聯弁訪問は香港でも非難された。写真は現地紙成報の紙面。「韓国瑜は台湾を
売った」と
中聯弁の発表では、この時韓國瑜氏は王志文中聯弁主任とともに「香港の祖国返還後の偉大なる成就について語り合った」という。これが事実なら、台湾への一国二制度の適用を歓迎しているということか。本人は帰国後、それを否定したが。
また6月、台湾で香港の民主化運動への関心、同情が高まる中、これについての見方をメディアに聞かれた韓国瑜氏が中国に配慮し、「知らない、わからない」と答えたことも、多くの国民を失望させ、あるいは怒らせ、彼への支持率は低下して行った。
他方、総統選で韓国瑜氏と一騎打ちした現職の蔡英文総統は真逆で、こちらは反中姿勢を鮮明にして自身の支持率を高め、総統選挙及びそれと同時に実施される立法委員選挙に向けた民進党の党勢をも挽回した。例えば2019年1月、演説で一国二制度の受け入れを台湾に迫った習近平主席には強く反論し、また香港の民主化運動にも支持姿勢を鮮明にした。そしてそうした姿勢が功を奏し、総統選では圧勝したと言われている訳だが、それと同時に言えるのは、韓國瑜氏は親中姿勢が仇となり惨敗したということである。
そして今回、この国民党期待のホープ(中共期待のホープでもあるが)は、市民のリコール運動によりついに追い落とされ、ついに止めを刺されたのだった。
国民党にとっては総統選挙及び立法委員選挙での敗北に次ぐ2度目の大敗北であり、それと同じく中国の国民党支援工作にとっても2度目の大きな挫折だった。
そうした側面には日本のメディアも注目し、「親中派市長のリコール成立」「親中に逆風」「反中高まり」等々の見出しで報道した。
■国民党の衰退で遠のく「統一」の可能性
「台湾『反中』高まり」の見出しで報じたのは読売新聞だ。今回の市長解職劇について「国民党が掲げてきた対中融和姿勢に対し、拒絶反応を示す結果となった」とした上で、「中国政府は『一つの中国』を認める国民党を懐柔して中台統一を図ろうとしてきただけに、国民党の退潮で、中国の武力による統一志向が強まる可能性がある」と予測する。
「武力による統一志向が強まる」とは穏やかではないが、しかし実際には国民党の「対中融和」(実際には対中屈従)姿勢もまた穏やかではないのである。
「中国統一」という名の台湾併合(侵略)を自らの「歴史的任務」と位置付ける中国だが、いまだ武力侵攻を果たせずにいるのは米軍(日米同盟)が台湾を守っているためである。米国が台湾の国防を支援するのは、もしあの島が中国の島となれば、西太平洋は中国の内海と化し、台湾だけでなく米国および世界の平和と安全が脅かされかねないからに他ならない。これに中国は手も足も出せずに来た。
そこで中国は武力統一よりも平和統一を上策としている。つまり国民党に政権を握らせて統一協議に応じさせ、台湾を支配下に組み入れてしまうとの策略だ。台湾の政権自らの意思で行われる協議であれば、今度は米国の方が手の下しようがなくなるという訳である。
しかしこの平和統一の可能性は、今回の韓国瑜市長解職リコールに代表される「国民党の退潮」により遠のいた。日本国民はこれに安堵していいのである。そして今回の高雄市民の闘争も、そうした危機を遠のかせた大きな一因となったことを忘れてはならない。
ところで韓国瑜氏だが、その政治生命はまだ「止め」は刺されていないかもしれない。来年行われる国民党主席選挙に出馬し、対中融和姿勢を見直しつつある現職の江啓臣主席に挑むとの予測が多く出ている。党員の四分の一を占め、党内で隠然たる力を持つ黄復興党部(退役軍人及びその家族のグループ)のメンバーの大部分は「韓ファン」だとも言われ、党を衰退へと導いた戦犯が勝利する可能性は誰も否定できない。もしそうした事態となれば、党の更なる弱体化は不可避ではないだろうか。
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韓国瑜氏と言えばこの2年間、人気が急騰したかと思えばやがて急落するなど、その動向は注目の的であり続けた。
もともと知名度は低いながらも、2018年11月の統一地方選挙で高雄市長に立候補した彼は、民進党政権への不満が全国に広がるのに乗じ、初当選を果たした。
選挙戦では「物を出荷し、人を連れ込み、高雄を大儲けさせよう」(中国と関係を改善し、中国への輸出と中国人観光客の誘致で経済繁栄を)等々のハチャメチャではあるが誰でもわかりやすい簡単明瞭なポピュリズム的主張で、高雄市民はおろか全国の反民進党層の心をも摑んだ。民主改革を嫌う多くの社会的不満分子などは熱狂的に支持し、「韓ファン」と呼ばれる層も形成された。「韓ファン」はカルトのような勢力で、攻撃的、排他的なイメージも強い。
こうして巻き起こった「韓流」(韓国瑜ブーム)は、低迷していた国民党の党勢をも回復させ、同党の大勝利をも導いた。
そしてその勢いを乗り、今度は2020年の総統選挙に出馬し、民進党からの政権奪還を狙ったのだが、こちらは惨敗を喫している。そしてそればかりか、市長を休職しての無責任で背信的な出馬だったため、リコール運動が若者たちの主導で始まったのである。
リコール運動をリードし大業を成し遂げた四人の若者
運動は一気に拡大し、アピールのデモ行進には50万人(主催者発表)が参加し、投票実施のための署名も、必要数の22万8千人(有権者数の10%)を大きく上回る40万人以上が集まった。
昨年12月に行われたデモ行進。街を埋め尽くした
こうした韓国瑜氏の人気急落の原因は、高雄市長としてのハチャメチャぶり、能力、品格の低さだけではない。中国という台湾の存立を脅かす国に対する迎合姿勢もまた唾棄の対象なのだ。この市長リコール運動にしても、中国の侵略から台湾を守り抜きたいという民衆の意志が、その原動力の大きな一つだった。
■総統選での惨敗後に市民が止めを刺す
2019年3月、訪中した韓国瑜氏は政府への事前通知もなしに、密かに中国の香港統治機関、つまり一国二制度を統括する中聯弁(中央人民政府駐香港特別行政区聯絡弁公室)を訪れた。これは台湾には衝撃だった。香港紙成報ですら「一国二制度を黙認 高雄市長韓国瑜は台湾を売った」と一面トップで報じたほどの事件だった。
韓国瑜氏の中聯弁訪問は香港でも非難された。写真は現地紙成報の紙面。「韓国瑜は台湾を
売った」と
中聯弁の発表では、この時韓國瑜氏は王志文中聯弁主任とともに「香港の祖国返還後の偉大なる成就について語り合った」という。これが事実なら、台湾への一国二制度の適用を歓迎しているということか。本人は帰国後、それを否定したが。
また6月、台湾で香港の民主化運動への関心、同情が高まる中、これについての見方をメディアに聞かれた韓国瑜氏が中国に配慮し、「知らない、わからない」と答えたことも、多くの国民を失望させ、あるいは怒らせ、彼への支持率は低下して行った。
他方、総統選で韓国瑜氏と一騎打ちした現職の蔡英文総統は真逆で、こちらは反中姿勢を鮮明にして自身の支持率を高め、総統選挙及びそれと同時に実施される立法委員選挙に向けた民進党の党勢をも挽回した。例えば2019年1月、演説で一国二制度の受け入れを台湾に迫った習近平主席には強く反論し、また香港の民主化運動にも支持姿勢を鮮明にした。そしてそうした姿勢が功を奏し、総統選では圧勝したと言われている訳だが、それと同時に言えるのは、韓國瑜氏は親中姿勢が仇となり惨敗したということである。
そして今回、この国民党期待のホープ(中共期待のホープでもあるが)は、市民のリコール運動によりついに追い落とされ、ついに止めを刺されたのだった。
国民党にとっては総統選挙及び立法委員選挙での敗北に次ぐ2度目の大敗北であり、それと同じく中国の国民党支援工作にとっても2度目の大きな挫折だった。
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■国民党の衰退で遠のく「統一」の可能性
「台湾『反中』高まり」の見出しで報じたのは読売新聞だ。今回の市長解職劇について「国民党が掲げてきた対中融和姿勢に対し、拒絶反応を示す結果となった」とした上で、「中国政府は『一つの中国』を認める国民党を懐柔して中台統一を図ろうとしてきただけに、国民党の退潮で、中国の武力による統一志向が強まる可能性がある」と予測する。
「武力による統一志向が強まる」とは穏やかではないが、しかし実際には国民党の「対中融和」(実際には対中屈従)姿勢もまた穏やかではないのである。
「中国統一」という名の台湾併合(侵略)を自らの「歴史的任務」と位置付ける中国だが、いまだ武力侵攻を果たせずにいるのは米軍(日米同盟)が台湾を守っているためである。米国が台湾の国防を支援するのは、もしあの島が中国の島となれば、西太平洋は中国の内海と化し、台湾だけでなく米国および世界の平和と安全が脅かされかねないからに他ならない。これに中国は手も足も出せずに来た。
そこで中国は武力統一よりも平和統一を上策としている。つまり国民党に政権を握らせて統一協議に応じさせ、台湾を支配下に組み入れてしまうとの策略だ。台湾の政権自らの意思で行われる協議であれば、今度は米国の方が手の下しようがなくなるという訳である。
しかしこの平和統一の可能性は、今回の韓国瑜市長解職リコールに代表される「国民党の退潮」により遠のいた。日本国民はこれに安堵していいのである。そして今回の高雄市民の闘争も、そうした危機を遠のかせた大きな一因となったことを忘れてはならない。
ところで韓国瑜氏だが、その政治生命はまだ「止め」は刺されていないかもしれない。来年行われる国民党主席選挙に出馬し、対中融和姿勢を見直しつつある現職の江啓臣主席に挑むとの予測が多く出ている。党員の四分の一を占め、党内で隠然たる力を持つ黄復興党部(退役軍人及びその家族のグループ)のメンバーの大部分は「韓ファン」だとも言われ、党を衰退へと導いた戦犯が勝利する可能性は誰も否定できない。もしそうした事態となれば、党の更なる弱体化は不可避ではないだろうか。
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