衝撃的だった平松茂雄氏の講演「台湾は日本の生命線」
2008/03/31/Mon
三月三十日、日本李登輝友の会の年次総会が都内で開かれたが、閉会後の懇親パーティーでは緊迫した空気が漂った。なぜならそれに先立つ平松茂雄氏(中国軍事問題研究家)の記念講演があまりにも衝撃的だったからだ。
演題は「台湾は日本の生命線」。冒頭で平松氏はこう述べた。
九八年、時の台湾総統、李登輝氏から「台湾は日本の生命線ではないか」と聞かれたので、もちろん「その通りだ」と答えたが、びっくりした。なぜなら当時日本ではそのような認識が一般に持たれていなかったからだ。それ以来機会あるごとに「台湾は日本の生命線」と言う言葉を使ってきたのだが、それでも誰も台湾に関心を持たず、効果はなかった。もっとも最近ではずいぶんそう言われるようにはなってきたが、日本人が本当にそう思っているかは疑問だ。
そしておおよそ次のように語った。
日本のシーレーンは日本列島から台湾、フィリピン、そしてインド洋へと連なる島伝いにある。この列島線は米国の中国封じ込めの防衛線だが、その真ん中に台湾が位置する。その台湾は中国の周辺海域を二分している。
シーレーンは台湾とフィリピンの間のバシー海峡を通る。台湾があるからこの海峡を通ることができる。もし台湾が中国に取られたら、中国の顔色を伺いながら通ることになる(日本は中国の言いなりになる)。ところがバシー海峡を知らない日本人がいる(自衛官にもだ)。また多くの日本人はバシー海峡と台湾海峡を混同している。地理を戦略的に見ていないからだ。
中東へ繋がるシーレーンはバシー海峡―南支那海―マラッカ海峡―インド洋を通るが、中国は七〇~八〇年代に南支那海に進出を果たしている。そしてビルマのココ島などに施設を作るなど、ベンガル湾に拠点を設け、さらにはパキスタンに延びる道路を作り、アラビア海への進出もはかってきた。つまり陸からシーレーンに接近しているのだが、日本人(一部自衛官も含め)はこのことに無関心できた。その中国が台湾を押さえたらどうなるのか。
たとえドンパチ以外の方法によってでも、台湾が中国の影響下に入ったら、南西諸島が危険。またドンパチがあれば南西諸島も巻き込まれる。そして東支那海は「中国の海」となり、黄海は出口を失い、これも中国の内海に。当然半島への影響力も強まる。北朝鮮問題ばかりが注目されているが、中国が台湾を取ればそれで解決だ(北朝鮮問題より台湾問題の方が重要では、と言う意味)。
中国は七〇~八〇年代に南支那海へ、九〇年代に東支那海へ進出。そして二十一世紀においては西太平洋へ向かう。中国は台湾を統一しなくても、すでに「宮古海峡」(平松氏の造語。宮古島海域を指す)を通って西太平洋に出ている。残念ながら、私の予測はほぼ当たってきた。しかし政府は何もしないままだ。
台湾問題の鍵は米軍。米軍が軍事介入すれば中国は台湾の統一はできない。介入がなければ統一は難しくない。だから中国はこの五十年間、いかに米軍の介入を阻止するかで躍起になってきた。核ミサイル開発も米軍に対抗するため。そして最近ではモノを言う核兵器も出てきて、「ワシントンを攻撃するぞ」と言うまでになった。米中間では核のバランスができあがたのだ。これでは米国も手が出せない。
中国がやっているのは、米国の空母を動けないようにすること。潜水艦を展開させるための海底調査も、二十一世紀に入った数年間で綿密にやってしまった。横須賀―宮古島―台湾へ至る海域でだ。この海域で米空母をブロックすると言うわけだ。
「沖ノ鳥島は岩だ。日本の排他的経済水域ではない」としてグアムー横須賀間の海域も調査した。これも米空母をブロックするため。
最近、米太平洋艦隊司令官が中国で、(おそらく中国海軍司令官から)太平洋を二分し、東側は中国が、西側は米国が管理しようとの「ジョーク」を聞かされた。これは「ジョーク」なのか。中国が西側をとりに行こうとしていることは事実だ。これは日本にとっては、「台湾を中国に取られてもいいのか」と言う問題だ。
米軍は後方基地である日本から後退しようとしている。つまり日本は最前線に置かれるのだ。自衛隊には「米軍には機動力があるから大丈夫だ」との声もあるが、軍とはそこにあることが重要なのであって、力の真空を作るのはよくない。
米国の台湾総統選挙に対する態度を見てもわかるように、「統一も独立も困る。現状維持がいい」と考えているが、安全保障の面から「現状維持」を考えると、中国は軍事力を強化するだけ。米国がこれからも台湾に対し「必要以上の支援は行わない」と言うなら、中国が強くなるだけだ。このままでは台湾が危ない。
このように日本は安閑とはしていられない状況だが、防衛庁でもあまりこのような認識はない。
ブッシュ大統領はディーゼル潜水艦八隻を台湾に売却しようとしたが、米国が建造できるのは原潜だけ。そこで欧州諸国に作らせようとしたが、中国との関係上ダメだった。台湾はロシアとも交渉したがやはりダメだった。私は国会議員らとの対談で、「ならば日本が売ればいい」「武器輸出三原則のことは知っているが、売ればいい」と発言したが、みな押し黙ってしまった。そしてその発言は(発表される際に)削除された。
日本は台湾の存在を真剣に考えるべき段階にある。
以上のような講演で、聴衆は中国の軍事的な動きの危険性、そしてそれに対する日本人の無為無策を思い知らされた。そして懇親会会場では「このままでは日本は危険だ」とのスピーチが相次ぐなど、緊迫した空気が流れたのだった。
平松氏の訴えが正論であることは、今の中国の動きで一目瞭然のはずだ。しかしなお多くの日本人が台湾問題を外国の問題、中国の内政問題などと思い込み、この状況に無関心でいられるのは、それほど戦略的思考を喪失していると言うことだ。直ちに日本の安全保障問題として台湾問題を見、中国の行為が日本への敵対行為であることを知り、それに対する断固たる戦略を構築しなければ、日本は本当に危ないのである。
※平松茂雄著『中国は日本を併合する』(講談社インターナショナル、1680円―税込み)は中国覇権主義の戦略を知る上で欠かかすことのできない国民必読の書である。
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演題は「台湾は日本の生命線」。冒頭で平松氏はこう述べた。
九八年、時の台湾総統、李登輝氏から「台湾は日本の生命線ではないか」と聞かれたので、もちろん「その通りだ」と答えたが、びっくりした。なぜなら当時日本ではそのような認識が一般に持たれていなかったからだ。それ以来機会あるごとに「台湾は日本の生命線」と言う言葉を使ってきたのだが、それでも誰も台湾に関心を持たず、効果はなかった。もっとも最近ではずいぶんそう言われるようにはなってきたが、日本人が本当にそう思っているかは疑問だ。
そしておおよそ次のように語った。
日本のシーレーンは日本列島から台湾、フィリピン、そしてインド洋へと連なる島伝いにある。この列島線は米国の中国封じ込めの防衛線だが、その真ん中に台湾が位置する。その台湾は中国の周辺海域を二分している。
シーレーンは台湾とフィリピンの間のバシー海峡を通る。台湾があるからこの海峡を通ることができる。もし台湾が中国に取られたら、中国の顔色を伺いながら通ることになる(日本は中国の言いなりになる)。ところがバシー海峡を知らない日本人がいる(自衛官にもだ)。また多くの日本人はバシー海峡と台湾海峡を混同している。地理を戦略的に見ていないからだ。
中東へ繋がるシーレーンはバシー海峡―南支那海―マラッカ海峡―インド洋を通るが、中国は七〇~八〇年代に南支那海に進出を果たしている。そしてビルマのココ島などに施設を作るなど、ベンガル湾に拠点を設け、さらにはパキスタンに延びる道路を作り、アラビア海への進出もはかってきた。つまり陸からシーレーンに接近しているのだが、日本人(一部自衛官も含め)はこのことに無関心できた。その中国が台湾を押さえたらどうなるのか。
たとえドンパチ以外の方法によってでも、台湾が中国の影響下に入ったら、南西諸島が危険。またドンパチがあれば南西諸島も巻き込まれる。そして東支那海は「中国の海」となり、黄海は出口を失い、これも中国の内海に。当然半島への影響力も強まる。北朝鮮問題ばかりが注目されているが、中国が台湾を取ればそれで解決だ(北朝鮮問題より台湾問題の方が重要では、と言う意味)。
中国は七〇~八〇年代に南支那海へ、九〇年代に東支那海へ進出。そして二十一世紀においては西太平洋へ向かう。中国は台湾を統一しなくても、すでに「宮古海峡」(平松氏の造語。宮古島海域を指す)を通って西太平洋に出ている。残念ながら、私の予測はほぼ当たってきた。しかし政府は何もしないままだ。
台湾問題の鍵は米軍。米軍が軍事介入すれば中国は台湾の統一はできない。介入がなければ統一は難しくない。だから中国はこの五十年間、いかに米軍の介入を阻止するかで躍起になってきた。核ミサイル開発も米軍に対抗するため。そして最近ではモノを言う核兵器も出てきて、「ワシントンを攻撃するぞ」と言うまでになった。米中間では核のバランスができあがたのだ。これでは米国も手が出せない。
中国がやっているのは、米国の空母を動けないようにすること。潜水艦を展開させるための海底調査も、二十一世紀に入った数年間で綿密にやってしまった。横須賀―宮古島―台湾へ至る海域でだ。この海域で米空母をブロックすると言うわけだ。
「沖ノ鳥島は岩だ。日本の排他的経済水域ではない」としてグアムー横須賀間の海域も調査した。これも米空母をブロックするため。
最近、米太平洋艦隊司令官が中国で、(おそらく中国海軍司令官から)太平洋を二分し、東側は中国が、西側は米国が管理しようとの「ジョーク」を聞かされた。これは「ジョーク」なのか。中国が西側をとりに行こうとしていることは事実だ。これは日本にとっては、「台湾を中国に取られてもいいのか」と言う問題だ。
米軍は後方基地である日本から後退しようとしている。つまり日本は最前線に置かれるのだ。自衛隊には「米軍には機動力があるから大丈夫だ」との声もあるが、軍とはそこにあることが重要なのであって、力の真空を作るのはよくない。
米国の台湾総統選挙に対する態度を見てもわかるように、「統一も独立も困る。現状維持がいい」と考えているが、安全保障の面から「現状維持」を考えると、中国は軍事力を強化するだけ。米国がこれからも台湾に対し「必要以上の支援は行わない」と言うなら、中国が強くなるだけだ。このままでは台湾が危ない。
このように日本は安閑とはしていられない状況だが、防衛庁でもあまりこのような認識はない。
ブッシュ大統領はディーゼル潜水艦八隻を台湾に売却しようとしたが、米国が建造できるのは原潜だけ。そこで欧州諸国に作らせようとしたが、中国との関係上ダメだった。台湾はロシアとも交渉したがやはりダメだった。私は国会議員らとの対談で、「ならば日本が売ればいい」「武器輸出三原則のことは知っているが、売ればいい」と発言したが、みな押し黙ってしまった。そしてその発言は(発表される際に)削除された。
日本は台湾の存在を真剣に考えるべき段階にある。
以上のような講演で、聴衆は中国の軍事的な動きの危険性、そしてそれに対する日本人の無為無策を思い知らされた。そして懇親会会場では「このままでは日本は危険だ」とのスピーチが相次ぐなど、緊迫した空気が流れたのだった。
平松氏の訴えが正論であることは、今の中国の動きで一目瞭然のはずだ。しかしなお多くの日本人が台湾問題を外国の問題、中国の内政問題などと思い込み、この状況に無関心でいられるのは、それほど戦略的思考を喪失していると言うことだ。直ちに日本の安全保障問題として台湾問題を見、中国の行為が日本への敵対行為であることを知り、それに対する断固たる戦略を構築しなければ、日本は本当に危ないのである。
※平松茂雄著『中国は日本を併合する』(講談社インターナショナル、1680円―税込み)は中国覇権主義の戦略を知る上で欠かかすことのできない国民必読の書である。
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