ドゥテルテ大統領―親日だからと褒められない/すでに伸長する中国の影響力
2016/10/31/Mon
■安心できないフィリピン大統領の天秤外交
中国を訪問し、習近平主席と南支那海問題を二国間で解決すると約束したフィリピンのドゥテルテ大統領。「法の支配」ではなく「中国覇権主義の支配」を目指す中国のペースに乗り、仲裁判決の棚上げを事実上表明した格好となった。
訪中したドゥテルテ大統領。中国の意向に応じ、仲裁判決を巡る争いを棚上げに
現地では「米国と決別する」とも言い放ち、日米などに衝撃を与えたが、しかし十月二十五日から三日間の日本訪問では、安倍首相との会談で国際法や米国との同盟関係の重要性を確認し、東・南支那海を巡る日中対立に関しても「常に日本の側に立つ」とも強調するなどした。
これで日本国内ではいくらか安堵が広がった。
たとえば産経新聞の社説を見てみよう。ドゥテルテ氏の訪中直後の十月二十二日には、「中国は、南シナ海を『平和で自由な海』として守る国際秩序の法的枠組みを無視しつづけている。ドゥテルテ氏の姿勢はそれに手を貸すもので、地域における脅威を増大させかねない」と強い懸念を表明していたが、二十八日になると、「懸念はいまなお大きいが、安倍晋三首相との首脳会談で南シナ海問題は法の支配に基づき解決する、という基本姿勢を確認したことは成果といえよう」と書いている。
ドゥテルテ氏には「日中双方に配慮して経済的な実利を得る『天秤外交』の意図」(読売)や、「日本への期待の裏には、同盟国として依存してきた米国と距離を置く『独自外交』の実現へ、中国からの支援を当て込みながら、中国牽制へ日本を利用し、大国の間でバランスを取りたいという思惑がにじむ」(産経)と見られ、必ずしも中国一辺倒ではないとの印象が持たれるに至ったわけだ。
もっとも、現段階では米中、あるいは日中を天秤にかけているところでも、今後どうなるかは見通せない。つまり、まったく安堵などしてはいられないのだ。
■左翼も保守派も訪日ドゥテルテ氏に親しみを抱いたか
日本では親日ぶりを終始示したが
ドゥテルテ氏には安堵しただけでなく、期待を抱いた日本人も多いのではないか。
想像だが、もともと親中反米の左翼の多くはドゥテルテ氏にシンパシーを抱いているのではないか。同氏が都内の講演で「二年以内に外国軍部隊の駐留から我が国が解放されることを望んでいる」との表現で米軍の撤退を求めたのにはさぞや狂喜したはずである。
麻薬対策で見られる人権無視の姿勢にもお構いなしかも知れない。中国や北朝鮮の人権状況などには冷淡さが目立つように、左翼の人権重視の主張は口先だけのご都合主義である場合が実に多い。
ドゥテルテ氏の親中姿勢を苦々しく思ってきた保守派層にも、日本滞在中は終始親日姿勢を示し続けた同氏に親しみを抱いた者は少なくないだろう。来日直前に「一番お会いしたいのは 天皇陛下だ」と述べるなどで、そうした層の心をもしっかり捉えたのではないだろうか。
またその反米姿勢に共鳴する保守派もいることだろう。しかし保守派であれ左翼であれ、そうした情緒に流されて、冷徹なパワーゲームが展開するアジアの国際情勢の深刻さを見落としてはならないと思う。
反米であっても反中は貫くべし。日本人にせよフィリピン人にせよ、その反米感情のために、アジアの海が中国覇権主義に呑み込まれるのを座視していいわけがない。もし南支那海が中国の海となれば、日本の海上輸送路もあの国の扼するところとなるが、そうなれば日本はどうなるかを考えればいい。
■中国に一辺倒ではないからと安心はできない
二十八日の産経社説も次のように論じている。
―――日本との関係を重視する姿勢は大いに歓迎したいが、それを中国の海洋覇権拡大を阻止する方向に実際に生かさねばならない。
―――仲裁裁定は中国の一方的な権利主張を認めなかった点で重要な意味を持つが、中国は「紙くず」と切り捨てている。中国は今後も自国に有利なようにフィリピンに働きかけ、揺さぶるだろう。
―――中国の切り崩しにドゥテルテ氏が態度を翻さぬよう、自由と民主主義の価値観を共有する日本や米国などが支えていくことが極めて重要になっている。
つまり、ドゥテルテ氏が中国一辺倒ではないからといって、安心できないということだ。中国もまた、今この時においても、フィリピンを取込み、自らの影響下に組み込もうと躍起となっているのだから。
そしてそうした状況が進行中であるのを物語るのが、スカボロー礁付近の中国監視船が二十五日以来、姿を消していることだ。
■消えた中国監視船―始動する中国の謀略
スカボロー礁附近でフィリピン漁船を駆逐する中国監視船(2015年9月)。しかし今、こうした妨害が停止されてい
るのはなぜか
スカボロー礁はフィリピンのEEZ内に位置するが、二〇一二年に中国に強奪されていた。それだけにフィリピン漁船は漁を再開できると大喜びだが、しかしそれは、中国監視船によるフィリピン漁船への妨害を不法と認めた仲裁判決を、中国が受け入れたからではもちろんない。
英BBC(中国語サイト)は「ドゥテルテの『棄米親中』の外交姿勢への返礼に見える」と報じる。
中国外交部の報道官は二十八日、「ドゥテルテ大統領の訪中期間中、南海での漁業産業協力をも含む中比漁業協力問題について話し合った。それにより両国は意思の疎通を維持しているというこということだ」と説明した。
ドゥカルテ氏自身もすでに二十三日、「(中国での協議の結果、)あと数日待てば我々はスカボロー礁に戻り、漁をすることができるかもしれない」との見方を示していた。
冒頭で同氏が中国のペースに乗ったと書いたが、そういうことなのである。「争議棚上げ・共同開発」という中国の外交謀略にひかかってしまったのだ。
中国外交部のHPによれば「鄧小平同氏が提示した領土争議の平和的解決のための新思考」であり、その基本的な含意は「第一に主権は我が方に帰属するとした上で、第二に領土争議の徹底解決の条件が整わない時は、先ず主権帰属問題は語らず、棚上げにし、第三に争議のある領土を共同開発する。第四に共同開発の目的だが、それは協力を通じて相互理解を増進し、最終的には合理的に主権帰属問題を合理的に解決することにある」とのことである。
要するに係争地を我が物にする環境が整うまでの時間稼ぎが狙いなのである。中国は尖閣諸島問題を巡り、日本に対しても盛んにこの謀略を仕掛けててきたわけだ。これに対して日本側は「棚上げすべき領土問題は存在しない」と拒絶して来たが、しかしドゥテルテ氏はそんな罠に、まんまとはまってしまったのか。
米中を両天秤に掛けるのは、一市民が法治社会と暴力団とを天秤にかけるのと同じである。暴力団の力を借りて社会を欺き、利益を得ようとしたところで、いつしか暴力団の言いなりになり、深みにはまって抜け出せなくなるのがおちだろう。だがドゥテルテ氏は、まさにそのような危険な道を選んでしまっているのである。
フィリピンとともに第一列島線を構成する日本にとり、そのように中国の影響下へと転げ落ち行くかに見えるドゥテルテ氏は、やはりトラブルメーカーだとしか言いようがないのである。
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中国を訪問し、習近平主席と南支那海問題を二国間で解決すると約束したフィリピンのドゥテルテ大統領。「法の支配」ではなく「中国覇権主義の支配」を目指す中国のペースに乗り、仲裁判決の棚上げを事実上表明した格好となった。
訪中したドゥテルテ大統領。中国の意向に応じ、仲裁判決を巡る争いを棚上げに
現地では「米国と決別する」とも言い放ち、日米などに衝撃を与えたが、しかし十月二十五日から三日間の日本訪問では、安倍首相との会談で国際法や米国との同盟関係の重要性を確認し、東・南支那海を巡る日中対立に関しても「常に日本の側に立つ」とも強調するなどした。
これで日本国内ではいくらか安堵が広がった。
たとえば産経新聞の社説を見てみよう。ドゥテルテ氏の訪中直後の十月二十二日には、「中国は、南シナ海を『平和で自由な海』として守る国際秩序の法的枠組みを無視しつづけている。ドゥテルテ氏の姿勢はそれに手を貸すもので、地域における脅威を増大させかねない」と強い懸念を表明していたが、二十八日になると、「懸念はいまなお大きいが、安倍晋三首相との首脳会談で南シナ海問題は法の支配に基づき解決する、という基本姿勢を確認したことは成果といえよう」と書いている。
ドゥテルテ氏には「日中双方に配慮して経済的な実利を得る『天秤外交』の意図」(読売)や、「日本への期待の裏には、同盟国として依存してきた米国と距離を置く『独自外交』の実現へ、中国からの支援を当て込みながら、中国牽制へ日本を利用し、大国の間でバランスを取りたいという思惑がにじむ」(産経)と見られ、必ずしも中国一辺倒ではないとの印象が持たれるに至ったわけだ。
もっとも、現段階では米中、あるいは日中を天秤にかけているところでも、今後どうなるかは見通せない。つまり、まったく安堵などしてはいられないのだ。
■左翼も保守派も訪日ドゥテルテ氏に親しみを抱いたか
日本では親日ぶりを終始示したが
ドゥテルテ氏には安堵しただけでなく、期待を抱いた日本人も多いのではないか。
想像だが、もともと親中反米の左翼の多くはドゥテルテ氏にシンパシーを抱いているのではないか。同氏が都内の講演で「二年以内に外国軍部隊の駐留から我が国が解放されることを望んでいる」との表現で米軍の撤退を求めたのにはさぞや狂喜したはずである。
麻薬対策で見られる人権無視の姿勢にもお構いなしかも知れない。中国や北朝鮮の人権状況などには冷淡さが目立つように、左翼の人権重視の主張は口先だけのご都合主義である場合が実に多い。
ドゥテルテ氏の親中姿勢を苦々しく思ってきた保守派層にも、日本滞在中は終始親日姿勢を示し続けた同氏に親しみを抱いた者は少なくないだろう。来日直前に「一番お会いしたいのは 天皇陛下だ」と述べるなどで、そうした層の心をもしっかり捉えたのではないだろうか。
またその反米姿勢に共鳴する保守派もいることだろう。しかし保守派であれ左翼であれ、そうした情緒に流されて、冷徹なパワーゲームが展開するアジアの国際情勢の深刻さを見落としてはならないと思う。
反米であっても反中は貫くべし。日本人にせよフィリピン人にせよ、その反米感情のために、アジアの海が中国覇権主義に呑み込まれるのを座視していいわけがない。もし南支那海が中国の海となれば、日本の海上輸送路もあの国の扼するところとなるが、そうなれば日本はどうなるかを考えればいい。
■中国に一辺倒ではないからと安心はできない
二十八日の産経社説も次のように論じている。
―――日本との関係を重視する姿勢は大いに歓迎したいが、それを中国の海洋覇権拡大を阻止する方向に実際に生かさねばならない。
―――仲裁裁定は中国の一方的な権利主張を認めなかった点で重要な意味を持つが、中国は「紙くず」と切り捨てている。中国は今後も自国に有利なようにフィリピンに働きかけ、揺さぶるだろう。
―――中国の切り崩しにドゥテルテ氏が態度を翻さぬよう、自由と民主主義の価値観を共有する日本や米国などが支えていくことが極めて重要になっている。
つまり、ドゥテルテ氏が中国一辺倒ではないからといって、安心できないということだ。中国もまた、今この時においても、フィリピンを取込み、自らの影響下に組み込もうと躍起となっているのだから。
そしてそうした状況が進行中であるのを物語るのが、スカボロー礁付近の中国監視船が二十五日以来、姿を消していることだ。
■消えた中国監視船―始動する中国の謀略
スカボロー礁附近でフィリピン漁船を駆逐する中国監視船(2015年9月)。しかし今、こうした妨害が停止されてい
るのはなぜか
スカボロー礁はフィリピンのEEZ内に位置するが、二〇一二年に中国に強奪されていた。それだけにフィリピン漁船は漁を再開できると大喜びだが、しかしそれは、中国監視船によるフィリピン漁船への妨害を不法と認めた仲裁判決を、中国が受け入れたからではもちろんない。
英BBC(中国語サイト)は「ドゥテルテの『棄米親中』の外交姿勢への返礼に見える」と報じる。
中国外交部の報道官は二十八日、「ドゥテルテ大統領の訪中期間中、南海での漁業産業協力をも含む中比漁業協力問題について話し合った。それにより両国は意思の疎通を維持しているというこということだ」と説明した。
ドゥカルテ氏自身もすでに二十三日、「(中国での協議の結果、)あと数日待てば我々はスカボロー礁に戻り、漁をすることができるかもしれない」との見方を示していた。
冒頭で同氏が中国のペースに乗ったと書いたが、そういうことなのである。「争議棚上げ・共同開発」という中国の外交謀略にひかかってしまったのだ。
中国外交部のHPによれば「鄧小平同氏が提示した領土争議の平和的解決のための新思考」であり、その基本的な含意は「第一に主権は我が方に帰属するとした上で、第二に領土争議の徹底解決の条件が整わない時は、先ず主権帰属問題は語らず、棚上げにし、第三に争議のある領土を共同開発する。第四に共同開発の目的だが、それは協力を通じて相互理解を増進し、最終的には合理的に主権帰属問題を合理的に解決することにある」とのことである。
要するに係争地を我が物にする環境が整うまでの時間稼ぎが狙いなのである。中国は尖閣諸島問題を巡り、日本に対しても盛んにこの謀略を仕掛けててきたわけだ。これに対して日本側は「棚上げすべき領土問題は存在しない」と拒絶して来たが、しかしドゥテルテ氏はそんな罠に、まんまとはまってしまったのか。
米中を両天秤に掛けるのは、一市民が法治社会と暴力団とを天秤にかけるのと同じである。暴力団の力を借りて社会を欺き、利益を得ようとしたところで、いつしか暴力団の言いなりになり、深みにはまって抜け出せなくなるのがおちだろう。だがドゥテルテ氏は、まさにそのような危険な道を選んでしまっているのである。
フィリピンとともに第一列島線を構成する日本にとり、そのように中国の影響下へと転げ落ち行くかに見えるドゥテルテ氏は、やはりトラブルメーカーだとしか言いようがないのである。
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