2016台湾総統選挙―民進党と親中・国民党の「対中関係」定義の異なり
2015/06/11/Thu
■米国の支持を求めた蔡英文総統候補の訪米
台湾の次期総統選挙で政権奪取の可能性が高まる野党、民進党の蔡英文主席が十二日間の訪米を終え、六月九日に帰国した。
訪米した民進党の総統候補、蔡英文主席。右はアーミテージ元国務副長官
これを受け、産経新聞は十一日、次のように報じた。
―――今回の訪米は、来年1月の総統選を前に、安全保障で大きく依存する米側の「支持」を取り付ける狙いがあった。
―――蔡氏は米政府高官との非公式会談で中台関係の「現状維持」を強調したとみられ、米側からも好待遇を受けた。民進党の陳水扁前政権が「台湾独立」志向を強めて中台関係を悪化させたことへの懸念を払拭し、政権奪還への課題を一定程度、克服した形だ。
ところで、この台中関係の「現状維持」とは何かだが、一般には「台湾独立」と対立する概念と受け取られる。
そして国民党の「現状維持」政策が平和と安定をもたらし、民進党の「台湾独立志向」がそれを脅かすとの印象が広く持たれている。
■「中国からの台湾独立」問題は存在しない
そもそも「台湾独立」とは何かだ。それは外来の中華民国体制からの台湾人の独立、つまり台湾国、台湾共和国といった国家を新たに打ち立てることを意味している。民進党もその達成を目標に掲げる党綱領を持っている(目下凍結中だが)。
だが、一般には「台湾独立」とは「中華人民共和国からの独立」と誤解されがちだ。もちろんそれは中共が「一つの中国」なる虚構の建前で、そうした宣伝を行うのが原因だが、実際に台湾はあの国に支配されていないため、「中華人民共和国からの独立」という問題は存在しない。
もっとも中共は、台湾側が「一つの中国」を否定し、台湾が主権を有する独立国家であるとの「現状」を主張すること自体を、「台湾独立の動き」と批判しているわけだ。
産経の言う「民進党の陳水扁前政権が『台湾独立』志向を強めて中台関係を悪化させた」時もそうだった。同政権が国連加盟申請の動きを活発化させたなど、台湾が主権国家であるとのアピールしたため、中共は「台湾独立の動き」と猛反発し、いたずらに緊張を高めたのである。
そしてそのため米国は、緊張を高めるのは中国であるのをよそに、民進党は「現状変更」(戦争)を招きかねないとして不信感を抱いたのだが、今回は蔡氏が「現状維持」を強調したため、同氏を「好待遇」したというわけだ。
■台湾の独立状態こそ台中関係の「現状」
実際には米国も、そうした中国による一方的な「現状変更」(現状破壊)の動きには反対を表明して来た。
したがって米国がよしとする蔡氏の所謂「現状維持」とは、台湾と中国という、それぞれ独立して相手に隷属しない二つの主権国家の平和共存という現状を維持するということを意味する(米国は台湾を国家と承認していないが、事実上台湾の国家主権を認めている)。
そしてその「現状維持」は、そもそも民進党の基本的な姿勢なのである。同党は早くから中国と対立するトラブルメーカーとの誹りを免れるため、台湾独立綱領を棚上げし、独立国家としての「中華民国」体制を認めているのだから(台湾独立は公民投票で決めるべきだとする)。
ところがそうした事実を重視していないのか、日経新聞は五月三十日、蔡氏が「現状維持」を強調していることについて次のように伝えていた。
―――蔡氏も今後の対中政策について「両岸(中台)の現状を維持する」と話す。馬政権の対中融和政策を一定程度容認し、急進的な独立姿勢を取らない考えを示したものだ。
要するに蔡氏の「現状維持」の表明を、馬英九政権の「対中融和政策を一定程度容認」するものと位置付けているのだ。国民党=「現状維持」を前提としたのだろう。
しかし馬英九・国民党政権による「現状維持」の定義には独特なものがあるのである。
■必要とあれば中国に降伏する構えの国民党
馬英九総統自身、六月三日にこう説明した。
「台湾海峡の現状維持とは、(台湾が)統一せず、独立せず、武力行使せず、ということで、九二年コンセンサス(中国との「一つの中国」という合意)を基礎に両岸の平和と発展を推進することだ」
「独立せず」とは「一つの中国」なる原則下に基づき、台湾が独立国家であることを否認するものだ。また「一つの中国」を掲げる以上、「統一せず」は暫定的なものであり、「武力行使せず」とは中共に無抵抗を貫く、つまり必要とあれば降伏するという意味にも受け取れる。
こうなれば国民党は、「現状維持」というより「現状破壊」志向に見えて来る。少なくとも民進党や米国が求める「現状維持」とは明らかに隔たりがあろう。
そしてだからこそ、国民党も蔡氏の「現状維持」の主張を批判するのだ。
九日には蔡氏の訪米を総括し、「蔡氏は李登輝氏のブレーンとして二国論(台湾と中国は国と国の関係)を打ち出したが、現在は現状維持を主張するなど変化が多い」(同党の宣伝工作部門、文化伝播委員会の林奕華主任委員)などと不信感をあらわにした。
これも同党が、台湾が中国から独立しているとの「現状」を、事実上否定していることを物語る。
■「現状破壊」を目指す国共両党
他方、中国政府も蔡氏の訪米を牽制すべく、「現状維持」に関する見解を示している。国務院台湾事務弁公室(国台弁)の范麗青報道官は五月二十七日、次のように語った。
「一九四九年以来、海峡両岸は統一されていないが、しかし大陸と台湾が一つの中国に帰属するとの事実は変わっておらず、中国の主権、領土の分割は許されない。(馬英九政権が発足した)二〇〇八年以降、九二年コンセンサスを基礎に両岸関係は平和的発展を実現した。これが両岸関係の現状だ」
馬英九政権とまったく同じ定義ではないか。この発言を見れば国共両党が、中国の台湾併呑(現状破壊)に向かいつつあるのが「現状」であり、それを維持すべきだと主張しているのがよくわかる。
そして両党は、「一つの中国」を認めようとしない蔡氏に対し、あくまでも緊張を高め、「現状破壊」をしかねないトラブルメーカーだと批判し、有権者を惑わそうとしているのだ。両党は相変わらず、連携しているのだ。
ちなみに同じく国台弁の馬暁光報道官は六月十日、米国の政府高官と蔡氏と面会したことについて、「台湾海峡の平和と安定、両岸関係の平和的発展に背くものだ」と批判した。
蔡英文氏を歓迎した米政府を批判する中国の馬暁光・国台弁報道官
「トラブルメーカーと付き合うのもトラブルメーカーだ」と米国を牽制しているわけだが、こうしたヒステリックな中国の侵略主義こそがトラブルメーカーなのである。
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台湾の次期総統選挙で政権奪取の可能性が高まる野党、民進党の蔡英文主席が十二日間の訪米を終え、六月九日に帰国した。
訪米した民進党の総統候補、蔡英文主席。右はアーミテージ元国務副長官
これを受け、産経新聞は十一日、次のように報じた。
―――今回の訪米は、来年1月の総統選を前に、安全保障で大きく依存する米側の「支持」を取り付ける狙いがあった。
―――蔡氏は米政府高官との非公式会談で中台関係の「現状維持」を強調したとみられ、米側からも好待遇を受けた。民進党の陳水扁前政権が「台湾独立」志向を強めて中台関係を悪化させたことへの懸念を払拭し、政権奪還への課題を一定程度、克服した形だ。
ところで、この台中関係の「現状維持」とは何かだが、一般には「台湾独立」と対立する概念と受け取られる。
そして国民党の「現状維持」政策が平和と安定をもたらし、民進党の「台湾独立志向」がそれを脅かすとの印象が広く持たれている。
■「中国からの台湾独立」問題は存在しない
そもそも「台湾独立」とは何かだ。それは外来の中華民国体制からの台湾人の独立、つまり台湾国、台湾共和国といった国家を新たに打ち立てることを意味している。民進党もその達成を目標に掲げる党綱領を持っている(目下凍結中だが)。
だが、一般には「台湾独立」とは「中華人民共和国からの独立」と誤解されがちだ。もちろんそれは中共が「一つの中国」なる虚構の建前で、そうした宣伝を行うのが原因だが、実際に台湾はあの国に支配されていないため、「中華人民共和国からの独立」という問題は存在しない。
もっとも中共は、台湾側が「一つの中国」を否定し、台湾が主権を有する独立国家であるとの「現状」を主張すること自体を、「台湾独立の動き」と批判しているわけだ。
産経の言う「民進党の陳水扁前政権が『台湾独立』志向を強めて中台関係を悪化させた」時もそうだった。同政権が国連加盟申請の動きを活発化させたなど、台湾が主権国家であるとのアピールしたため、中共は「台湾独立の動き」と猛反発し、いたずらに緊張を高めたのである。
そしてそのため米国は、緊張を高めるのは中国であるのをよそに、民進党は「現状変更」(戦争)を招きかねないとして不信感を抱いたのだが、今回は蔡氏が「現状維持」を強調したため、同氏を「好待遇」したというわけだ。
■台湾の独立状態こそ台中関係の「現状」
実際には米国も、そうした中国による一方的な「現状変更」(現状破壊)の動きには反対を表明して来た。
したがって米国がよしとする蔡氏の所謂「現状維持」とは、台湾と中国という、それぞれ独立して相手に隷属しない二つの主権国家の平和共存という現状を維持するということを意味する(米国は台湾を国家と承認していないが、事実上台湾の国家主権を認めている)。
そしてその「現状維持」は、そもそも民進党の基本的な姿勢なのである。同党は早くから中国と対立するトラブルメーカーとの誹りを免れるため、台湾独立綱領を棚上げし、独立国家としての「中華民国」体制を認めているのだから(台湾独立は公民投票で決めるべきだとする)。
ところがそうした事実を重視していないのか、日経新聞は五月三十日、蔡氏が「現状維持」を強調していることについて次のように伝えていた。
―――蔡氏も今後の対中政策について「両岸(中台)の現状を維持する」と話す。馬政権の対中融和政策を一定程度容認し、急進的な独立姿勢を取らない考えを示したものだ。
要するに蔡氏の「現状維持」の表明を、馬英九政権の「対中融和政策を一定程度容認」するものと位置付けているのだ。国民党=「現状維持」を前提としたのだろう。
しかし馬英九・国民党政権による「現状維持」の定義には独特なものがあるのである。
■必要とあれば中国に降伏する構えの国民党
馬英九総統自身、六月三日にこう説明した。
「台湾海峡の現状維持とは、(台湾が)統一せず、独立せず、武力行使せず、ということで、九二年コンセンサス(中国との「一つの中国」という合意)を基礎に両岸の平和と発展を推進することだ」
「独立せず」とは「一つの中国」なる原則下に基づき、台湾が独立国家であることを否認するものだ。また「一つの中国」を掲げる以上、「統一せず」は暫定的なものであり、「武力行使せず」とは中共に無抵抗を貫く、つまり必要とあれば降伏するという意味にも受け取れる。
こうなれば国民党は、「現状維持」というより「現状破壊」志向に見えて来る。少なくとも民進党や米国が求める「現状維持」とは明らかに隔たりがあろう。
そしてだからこそ、国民党も蔡氏の「現状維持」の主張を批判するのだ。
九日には蔡氏の訪米を総括し、「蔡氏は李登輝氏のブレーンとして二国論(台湾と中国は国と国の関係)を打ち出したが、現在は現状維持を主張するなど変化が多い」(同党の宣伝工作部門、文化伝播委員会の林奕華主任委員)などと不信感をあらわにした。
これも同党が、台湾が中国から独立しているとの「現状」を、事実上否定していることを物語る。
■「現状破壊」を目指す国共両党
他方、中国政府も蔡氏の訪米を牽制すべく、「現状維持」に関する見解を示している。国務院台湾事務弁公室(国台弁)の范麗青報道官は五月二十七日、次のように語った。
「一九四九年以来、海峡両岸は統一されていないが、しかし大陸と台湾が一つの中国に帰属するとの事実は変わっておらず、中国の主権、領土の分割は許されない。(馬英九政権が発足した)二〇〇八年以降、九二年コンセンサスを基礎に両岸関係は平和的発展を実現した。これが両岸関係の現状だ」
馬英九政権とまったく同じ定義ではないか。この発言を見れば国共両党が、中国の台湾併呑(現状破壊)に向かいつつあるのが「現状」であり、それを維持すべきだと主張しているのがよくわかる。
そして両党は、「一つの中国」を認めようとしない蔡氏に対し、あくまでも緊張を高め、「現状破壊」をしかねないトラブルメーカーだと批判し、有権者を惑わそうとしているのだ。両党は相変わらず、連携しているのだ。
ちなみに同じく国台弁の馬暁光報道官は六月十日、米国の政府高官と蔡氏と面会したことについて、「台湾海峡の平和と安定、両岸関係の平和的発展に背くものだ」と批判した。
蔡英文氏を歓迎した米政府を批判する中国の馬暁光・国台弁報道官
「トラブルメーカーと付き合うのもトラブルメーカーだ」と米国を牽制しているわけだが、こうしたヒステリックな中国の侵略主義こそがトラブルメーカーなのである。
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