日本は台湾独立を恐れるなー遅疑逡巡が中国軍核を許す
2007/08/24/Fri
■陳総統「独立宣言はしない」の意味
日本や米国が台湾の独立宣言を恐れているのは、もしそれが行われれば、そのときは台湾への武力行使を辞さないと、中国が再三にわたって警告しているからだが、その中国では「きわめて危険な三つの日がある」との見方があると言う。つまり台湾独立宣言が来年の「総統選挙」「総統就任式典」、あるいは「北京五輪開幕」の日のいずれかに行われると言う分析だ(言うまでもなくこの「危険」とは、中国の宣伝に従えば「トラブルメーカー台湾」が引き起こす「危険」事態となるが、実際には中国が一方的に惹起する「危険」な事態のことである)。
これについて陳水扁総統は先ごろ、BBCのインタビューを受け、「台湾はすでに独立国家になっており、あらためて独立を宣言することはない」と語った。「台湾は二十五の国と国交を結んでいる。多くの国とは国交はなく、国連やWHOに加盟できないでいても、主権国家である事実は否定できない」のだと。
陳水扁政権の考え方は「台湾はすでに独立国家だ。そして国名は中華民国」と言うものだ。多くの国は台湾を国家と承認していないが、それでもこれはどの国も否定できない厳然たる事実だろう。だから各国は中華民国のパスポートを承認しているのだ。
しかし陳水扁たちはかつて、台湾独立を訴えていたのではなかったのか。
■独立阻止する中国、そして日米
ちなみにこの台湾独立とは、中華人民共和国に支配されていない以上、その国からの独立ではなく、外来の中華民国体制(中国人の占領体制)からの独立と台湾共和国の建国を意味している。だが一九九六年、台湾住民だけの意思による総統直接選挙が行われ、台湾では外来政権時代は終焉したとの実感が広く持たれるに至った。そしてあとは「中華民国」の看板さえ引きずり下ろせば、台湾独立は達成されるだろうと多くの人々に期待されたのだが、二〇〇〇年の総統選挙で陳水扁自身が中華民国総統となると、いつのまにか体制の守護者となってしまったとも言われている。
だが陳水扁政権が中華民国体制の否定にまで足を踏み込むことができない最大の要因は、やはり中国の武力行使の恐れである。それを恐れての日米の反対圧力も、もちろん大きな要因だ。
中国の主張は「台湾は中華人民共和国の一部。独立国家ではない」であるが、この国はいまだ台湾を統治したことはない。それでも「中華民国は内戦で滅亡した。台湾に関する主権は中華人民共和国が継承している」と言い張っている。だから「中華民国」の国名が廃棄されてしまえば、そもそも法的にも現実的にも台湾領有権を持たないこの国は、世界に対して台湾併呑の正当性を主張できなくなることを恐れているのだ。
一方、野に下った李登輝前総統は、中華民国は中国内戦でとうに滅んでいて存在せず、あとは建国するだけだとして、台湾の制憲(中華民国憲法を破棄して新憲法を制定すること)し正名(偽りの中華民国名を台湾国に改めること)すること訴えている。ところが台湾は独立している以上、中国の脅威を受けて国内を混乱させる「台湾独立」を叫ぶなと発言しているため、多くの台湾独立派から反発を受けた。日本でも「中国から台湾独立の頭目と非難されてきた李登輝が転向した」などと報じられたため、日本人からも大きく誤解された。
■中国に台湾併呑の口実与える「中華民国体制」
そうしたなかで任期切れ間近の陳水扁は最近、「台湾」名義での国連申請を行うなど、ふたたび台湾独立路線を鮮明にさせている。そこには、軍の近代化を遂げつつある中華人民共和国に併呑の口実を与える中華民国体制を、一刻も早く形骸化させようとの戦略がある。
しかしこうした動き一つで日米は、「中国を刺激する」との理由で反対の態度を示すわけである。そして「中国との対話に応じることを望む」とのメッセージを送りつづけているのだが、中国が求める「対話」とは「統一交渉」以外にないのである。
日米安保条約で国家の安全を守られている台湾にとり、こうした日米の態度は悪影響以外をもたらさない。もし日米が台湾を守る気がないのなら、中国との戦争を避けるため、話し合いによる「平和統一」に応じるしかないのではないかとの思いに、台湾人が駆られてしまうことは避けられないだろう。
台湾は独立国家だ。たとえ国家と承認していなくても、そこが中国の一部でないことは明らかだ。そして台湾には二千三百万人もの住民がいる。台湾の将来は台湾人の決定に委ねるべきだ。それを阻害することは、国際社会の理念に照らしても、決して許されることではない。中国の台湾併呑など、国際社会が断固と阻止するべきものである。もしそれを容認したなら、自由、民主、人権と言う「普遍的価値」なるものは、根底から崩壊しかねなくなる。
しかしこうした道理は、今の日米には必ずしも通用しないかに見える。少なくとも多くの台湾人はそう見ている。
■米国は無事でも日本は危ない
もしそれで台湾が士気を失い、中国に「投降」「無血開城」をしてしまったなら日本の安全と独立がどうなるかを考えればいい。沖縄のすぐ隣に、中国の軍事基地が出現することになるのである。そして日本のシーレーンが通う南支那海はおろか、東支那海、西太平洋と言う周辺海域まで、中国の影響下に置かれることになるのだ。
そこでそれを防ぐためにも、日本は台湾人の意思を尊重する姿勢を示すべきなのだ。そのようにして台湾人を鼓舞し、米国および国際社会の台湾への関心を喚起しなければならないのである。もちろん中国の猛反発は必至であるが、それは受けて立つべきだ。なぜなら台湾への支持表明は、日本の国防の決意表明に他ならないからだ。中国への挑戦(中国への抑止)は遅かれ早かれやらなければならない。どうせなら速ければ早い方がいい。
中国の軍拡は歯止めを知らない。それを前に米国は傍観していても、日本は何もしないわけには行かないのである。東アジアの安全問題は、米国にとっては必ずしも自国の安全問題ではないのに対し、日本にとっては完全なる自国の存立に関わることなのだ。ここに米国追従の現実的な大欠陥がある。
■国防戦略としての台湾独立支持
かりに台湾が独立建国を果たしたことを考えよう。日本のすぐ隣に、世界で最も日本に理解ある国、友情を示す国が現出するのである。日本の「普通の国」化、大国化、強国化を望み、ともに中国覇権主義に対抗し、アジアの平和、世界の平和に貢献しようと呼びかける国が現われるのだ。こうした隣国の存在は、日本国民をも鼓舞、激励することとなろう。これ以上、日本にとって有利なことはないのである。
もちろん台湾独立は、中国の武力発動を誘発するかも知れない。だが、ただそれだけを恐れて、日本が台湾支持の選択肢をハナから放棄するなど、愚の骨頂ではないのか。
日本はすでに米国とともに、台湾問題(台湾有事)への対処を共通戦略目標に組み入れているが、その具体的戦略の構築が遅々として進まないのは、あくまでも中国への「刺激」を避けてのものだ。なぜなら台湾有事への介入は台湾防衛(台湾独立擁護)、日台米同盟の形成そのものを意味することになるからだ。
だがそのように遅疑逡巡しているうちに、中国の軍備増強は進む一方なのである。
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日本や米国が台湾の独立宣言を恐れているのは、もしそれが行われれば、そのときは台湾への武力行使を辞さないと、中国が再三にわたって警告しているからだが、その中国では「きわめて危険な三つの日がある」との見方があると言う。つまり台湾独立宣言が来年の「総統選挙」「総統就任式典」、あるいは「北京五輪開幕」の日のいずれかに行われると言う分析だ(言うまでもなくこの「危険」とは、中国の宣伝に従えば「トラブルメーカー台湾」が引き起こす「危険」事態となるが、実際には中国が一方的に惹起する「危険」な事態のことである)。
これについて陳水扁総統は先ごろ、BBCのインタビューを受け、「台湾はすでに独立国家になっており、あらためて独立を宣言することはない」と語った。「台湾は二十五の国と国交を結んでいる。多くの国とは国交はなく、国連やWHOに加盟できないでいても、主権国家である事実は否定できない」のだと。
陳水扁政権の考え方は「台湾はすでに独立国家だ。そして国名は中華民国」と言うものだ。多くの国は台湾を国家と承認していないが、それでもこれはどの国も否定できない厳然たる事実だろう。だから各国は中華民国のパスポートを承認しているのだ。
しかし陳水扁たちはかつて、台湾独立を訴えていたのではなかったのか。
■独立阻止する中国、そして日米
ちなみにこの台湾独立とは、中華人民共和国に支配されていない以上、その国からの独立ではなく、外来の中華民国体制(中国人の占領体制)からの独立と台湾共和国の建国を意味している。だが一九九六年、台湾住民だけの意思による総統直接選挙が行われ、台湾では外来政権時代は終焉したとの実感が広く持たれるに至った。そしてあとは「中華民国」の看板さえ引きずり下ろせば、台湾独立は達成されるだろうと多くの人々に期待されたのだが、二〇〇〇年の総統選挙で陳水扁自身が中華民国総統となると、いつのまにか体制の守護者となってしまったとも言われている。
だが陳水扁政権が中華民国体制の否定にまで足を踏み込むことができない最大の要因は、やはり中国の武力行使の恐れである。それを恐れての日米の反対圧力も、もちろん大きな要因だ。
中国の主張は「台湾は中華人民共和国の一部。独立国家ではない」であるが、この国はいまだ台湾を統治したことはない。それでも「中華民国は内戦で滅亡した。台湾に関する主権は中華人民共和国が継承している」と言い張っている。だから「中華民国」の国名が廃棄されてしまえば、そもそも法的にも現実的にも台湾領有権を持たないこの国は、世界に対して台湾併呑の正当性を主張できなくなることを恐れているのだ。
一方、野に下った李登輝前総統は、中華民国は中国内戦でとうに滅んでいて存在せず、あとは建国するだけだとして、台湾の制憲(中華民国憲法を破棄して新憲法を制定すること)し正名(偽りの中華民国名を台湾国に改めること)すること訴えている。ところが台湾は独立している以上、中国の脅威を受けて国内を混乱させる「台湾独立」を叫ぶなと発言しているため、多くの台湾独立派から反発を受けた。日本でも「中国から台湾独立の頭目と非難されてきた李登輝が転向した」などと報じられたため、日本人からも大きく誤解された。
■中国に台湾併呑の口実与える「中華民国体制」
そうしたなかで任期切れ間近の陳水扁は最近、「台湾」名義での国連申請を行うなど、ふたたび台湾独立路線を鮮明にさせている。そこには、軍の近代化を遂げつつある中華人民共和国に併呑の口実を与える中華民国体制を、一刻も早く形骸化させようとの戦略がある。
しかしこうした動き一つで日米は、「中国を刺激する」との理由で反対の態度を示すわけである。そして「中国との対話に応じることを望む」とのメッセージを送りつづけているのだが、中国が求める「対話」とは「統一交渉」以外にないのである。
日米安保条約で国家の安全を守られている台湾にとり、こうした日米の態度は悪影響以外をもたらさない。もし日米が台湾を守る気がないのなら、中国との戦争を避けるため、話し合いによる「平和統一」に応じるしかないのではないかとの思いに、台湾人が駆られてしまうことは避けられないだろう。
台湾は独立国家だ。たとえ国家と承認していなくても、そこが中国の一部でないことは明らかだ。そして台湾には二千三百万人もの住民がいる。台湾の将来は台湾人の決定に委ねるべきだ。それを阻害することは、国際社会の理念に照らしても、決して許されることではない。中国の台湾併呑など、国際社会が断固と阻止するべきものである。もしそれを容認したなら、自由、民主、人権と言う「普遍的価値」なるものは、根底から崩壊しかねなくなる。
しかしこうした道理は、今の日米には必ずしも通用しないかに見える。少なくとも多くの台湾人はそう見ている。
■米国は無事でも日本は危ない
もしそれで台湾が士気を失い、中国に「投降」「無血開城」をしてしまったなら日本の安全と独立がどうなるかを考えればいい。沖縄のすぐ隣に、中国の軍事基地が出現することになるのである。そして日本のシーレーンが通う南支那海はおろか、東支那海、西太平洋と言う周辺海域まで、中国の影響下に置かれることになるのだ。
そこでそれを防ぐためにも、日本は台湾人の意思を尊重する姿勢を示すべきなのだ。そのようにして台湾人を鼓舞し、米国および国際社会の台湾への関心を喚起しなければならないのである。もちろん中国の猛反発は必至であるが、それは受けて立つべきだ。なぜなら台湾への支持表明は、日本の国防の決意表明に他ならないからだ。中国への挑戦(中国への抑止)は遅かれ早かれやらなければならない。どうせなら速ければ早い方がいい。
中国の軍拡は歯止めを知らない。それを前に米国は傍観していても、日本は何もしないわけには行かないのである。東アジアの安全問題は、米国にとっては必ずしも自国の安全問題ではないのに対し、日本にとっては完全なる自国の存立に関わることなのだ。ここに米国追従の現実的な大欠陥がある。
■国防戦略としての台湾独立支持
かりに台湾が独立建国を果たしたことを考えよう。日本のすぐ隣に、世界で最も日本に理解ある国、友情を示す国が現出するのである。日本の「普通の国」化、大国化、強国化を望み、ともに中国覇権主義に対抗し、アジアの平和、世界の平和に貢献しようと呼びかける国が現われるのだ。こうした隣国の存在は、日本国民をも鼓舞、激励することとなろう。これ以上、日本にとって有利なことはないのである。
もちろん台湾独立は、中国の武力発動を誘発するかも知れない。だが、ただそれだけを恐れて、日本が台湾支持の選択肢をハナから放棄するなど、愚の骨頂ではないのか。
日本はすでに米国とともに、台湾問題(台湾有事)への対処を共通戦略目標に組み入れているが、その具体的戦略の構築が遅々として進まないのは、あくまでも中国への「刺激」を避けてのものだ。なぜなら台湾有事への介入は台湾防衛(台湾独立擁護)、日台米同盟の形成そのものを意味することになるからだ。
だがそのように遅疑逡巡しているうちに、中国の軍備増強は進む一方なのである。
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