はてなキーワード: ロータリーとは
好きな人ができた。
同じ大学とだけ知っていた。それ以外の共通項は特になかった。ただ、話が合うような気がしたから、思い切って食事に誘った。
私はもう一度、祈る気持ちで誘った。今度はもう少し時間のかかる予定を考えた。
彼女をその誘いを受けてくれた。
そのようにして、知り合ってから何度か出かけた。
出かけるための口実を作り、そして、先の何ヶ月かにおいて、それぞれに約束を取り付けた。
嫌われてはいないと信じたい。
多くの男性がそうであるように、私も演技をしている。理想的な男性と騙せるように、彼女の前では猫をかぶっている。
おれは気が利かない。だって、何をすれば女性が、おまえが喜ぶのか、逆に何をしたら怒るのか、おれには未だよく分からない。だから、気の利かせようがない。
おれは要領が良くない。おれは頭を棚にぶつける。小指も棚に打ちつける。料理をすれば、コンロ・シンク・冷蔵庫の三者間を反復横跳びのように忙しなく飛び回る。
おれは頭が良くない。第一、おまえが高校を出てすぐ入った大学に、おれは1年遅れてようやく入ったのだから。
おれはハイソではない。おれは本を読まないし、映画も見ない。音楽だって詳しくない。おれの故郷と、通った高校のある隣町は、恐ろしいことに両方の名が"ナンバープレートカースト表"の一番下に並んでいる。地元のバイパスでは今も、羽の生えたプリウス同士が大競走しているのだろう。おれはそれが別段特別なことに見えないし、思えない。
おれは甲斐性がない。わずかな貯金と、基礎と熱意を欠いた不安定な学問的知識と、同じくらい不安定な職の3点以外、何も持ち合わせていない。今までの無駄な時間を有意義な自己研鑽と職探しに使っていれば、真っ当な職業人として巡り会えていたかもしれないと思うと、まこと慚愧の念に堪えない。
おれは飄々としていない。大学から帰るのが遅くなったとき、おまえはあの汚らしい駅の猥雑なロータリーで、耳を塞ぎたくなるような話を、眉を顰める大声で、夜空に向かって不明瞭に叫んでいた、不愉快な学生集団を見たのではないか。だとしたら、その中にはおれがいたかもしれない。おれは調子にも乗りやすい。
いずれ綻びが顕になるのだろう。
あまねく人間に、私に、綻びがあることは当然で、そのことに対しては何も思わない。そもそも「綻びが(これだけ)ある」と悩む必要は、実はないのではないかとさえ思う。綻びの総量それ自体、個人の主観に左右されるものだろう。そして、人の内面を変更する術を、あるいはcharmを、少なくとも後者を私は持たない。
ただ、それとどのように綻びを知らせるのか(全て私の誤解で、意地でも隠し通すのが定石なのかもしれない。そうなんですか?)という問題は別のはずだ。失望は避けられないことで、かつ、その最大瞬間風速が相手の許容できる閾値を超えたとき、一般論として人間同士の関係は崩れる。
私は減速剤を知らない。他者の失望の速度を、どう制御すればいいのか分からない。今までは流れの向くまま、それで良かった。今度は違う。化けの皮のせめてその剥がれ様だけは、自分で決めたい。できることなら、なるべく遅く、なるべく波風立たず、悟られないように。
思うに、あまねく人間に綻びがあることは当然で、人にどう知らせるかという点に上手下手があるのだろう。
https://anond.hatelabo.jp/20250909163025
今日西川口駅で河合ゆうすけが演説するというので見に行ったんだが。
何もまともな主張がなく、中身空っぽ。
ほんまに外国人ヘイト以外何も言えることがないのはよくわかった。
声でかいだけ。へずまりゅうと全く同じで、SNSで外国人と戦ってますアピールしてるだけ。
こんなやつに投票してるやつはアホだろ。
はじめてみたが、ネトウヨたちにとって「無能な敵」そのものであり、実質的には河合ゆうすけの応援団にしかなってない。
お前らさえいなければ、多分河合ゆうすけはそんなに人気でない。
そのくらい、クソヤバ河合ゆうすけよりさらに無理な連中であることがよくわかった。
あのさあ。しばき隊の皆さんに言いたいんだけど。
なんでしばきたいの連中は全員デブで身なりも汚いんだよ。
3人位ロータリーのところで明らかにしばき隊の連中が騒いでたけど全員デブで汚いシャツ着てたのまじで意味がわからん。
言っちゃなんだけどしばき隊というよりはキモオタとしか思えなかった。
あれで支持してもらえると思ってるなら頭が悪すぎる。
実際頭が悪いからずっとああいう活動してて、人の目を気にしないからデブになって身なりが汚くても気にしないんだろう。
ネットでもおかしい連中だと思ってたけど、実物を見たら、さらにヤバさがわかった。
こいつらには正義とかない。たんに社会不適格者が、それしかできることないからやってるだけだ。
今までネトウヨのほうが社会的な負け犬だと思ってたけど、しばき隊も同じだった。というかしばき隊のほうが終わってた。
左右逆バージョンだし、またネトウヨのほうが社会的にギリギリ対面保ててたわ。
反論があるなら、何人かの連中が本日の演説の動画上げてるからチェックしてみてほしい。
自分たちの姿を客観的に見て、あれで良いと思ってるなら終わってるよ。
なに主張してもいいけどちゃんと痩せて、最低限の格好してから出てこい。
中国やらベトナムやらクルドやらより、お前らが一番生理的嫌悪感が強かったわ。 人種よりもこっちのほうが問題だわ。
今回は主にしばき隊連中への嫌悪感を伝えるのが目的だったわけだが。
どこからきたのかしらんけど、日本国旗をもって、河合ゆうすけの応援してる連中はおばちゃんが多かった。
世間ではネトウヨって男のキモオタみたいなイメージで語られてて
私もそういう偏見を持ってたけど、何のことはなくて頭が弱くて暇を持て余したおばちゃんが応援してるんだなってわかってげんなりした。
ガラスの塔みたいなビルで、会議室の窓からは新宿中央公園の緑がまるで箱庭みたいに見える。
夕方まで打ち合わせが続き、外に出るともう辺りはほんのり暗かった。
頭の芯がまだ会議モードでうるさく、電車に乗ると余韻が体に貼り付いたまま家まで持ち帰ることになる。
だから歩くことにした。目的地は新大久保駅。距離にして二キロちょっと。
東京にせっかく来たのだからちょっとした観光も兼ねようと思ったわけだ。
都庁前駅から地上に上がり、新宿駅西口ロータリーを回り込む。ヨドバシカメラ本店前を抜け、新宿大ガード西の下で中央線の鉄骨をくぐる。
ガードを出たところで空気が一段変わる。歌舞伎町方面へ流れる人の川。きらきらした看板が目を刺す。靖国通りを渡ってアルタ前に立つと、もう聞こえる。「お兄さん、今お時間あります?」
歌舞伎町一番街の赤いアーチをくぐるや否や、まず一人目。
「軽く一杯どうです?チャージ無料で!」と黒いスーツの青年。無論断る。
角を曲がると三人目。「マッサージ安いよ、すぐそこ」
セントラルロードの真ん中で、TOHOシネマズ新宿のゴジラがこちらを見下ろす。視線の先、通りの両側で店先の呼び込みが手を振っている。
区役所通りに折れると、ここは呼び込みの密度がいきなり上がる。
「一杯だけでも」
「セットいま割引」
風林会館の角で六人目。西武新宿駅のほうへ斜めに抜ける途中で七、八、九……。
PePeの明るいショーウィンドウの前でも、笑顔でメニューを差し出される。「お腹空いてません?」と言われると、たしかに空いている。けれど、吸い寄せられたら最後、カウンターの中からは自分が見えなくなりそうで、足を前に送る。
職安通りへ出ると車の音が増えて、人の呼吸が早くなる。大久保公園の前ではイベント帰りの人だかり。
ここでも二人。「ライブの後はうちでどう?」
ドン・キホーテ新宿店の黄色い看板の前でさらに四人。ドンキの入り口で呼び込みに捕まっている外国人客の笑い声が、夜の温度を半度だけ上げる。財布のひもは、東京に来ると柔らかくなるのかもしれない。
花道通りから再び職安通りに戻り、大久保二丁目交差点を渡る。ここまでで二十七。
数えるのはやめようかと思ったが、むしろゲームのスコアみたいに面白くなってきてしまった。
ひとりが「どこ向かってるんです?」と聞く。「新大久保です」と答えると、「じゃあ途中で一杯」と返される。路上の会話は、いつもこちらの名乗りより相手の用件が先に完成している。
新大久保駅前ロータリーまでは一直線だが、あえて一本裏の路地に入る。
通称イケメン通り。K-POPが交じるスピーカーの前でも声がかかる。「映えるカクテルありますよ」。ここでは“映え”が通貨だ。十代の子たちがスマホを掲げるたび、通りの空気が少しだけ明るくなる。呼び込みは、その光の周りをくるくる回る蛾のようだ。
駅までの最後の角で、ラストスパートのように三人から同時に声が飛んだ。
「何系がお好きです?」
「辛いのいけます?」
皆中稲荷神社のほうから吹いてくる風が、汗と香辛料の膜を剥がしていく。
ここまでで、指折り数えた呼び込みは五十人ちょうど。
今年の夏、数年ぶりに実家へ帰省したんだけど久々に帰ったせいでこの機会を逃すまい!と親から部屋の片づけを命じられ、ゆっくりするつもりが全然出来なかった。
仕方がなく実家の自分の部屋の掃除をしたわけだけど…机の引き出しから何やらよからぬものを発見。原稿用紙数枚分。なんとなく思い出した。自分が確か高一の時ぐらいに書いた小説もどき…。
そのまま処分しようかと思ったけど、これも何かの縁かと思い、焼き払う前にここに残そうと思って(供養の意味も込めて)、恥ずかしながら当時書いた小説をここに貼ります。
1
七月の黒板って、手のひらの汗を全部吸って、授業が終わるころにはチョークが湿気で太る。
セミは朝からミンミン鳴くくせに、ホームルームのときだけ少し黙る。
うちの担任は「ノストラダムスの書いた七の月だね」と、冗談のつもりで言うのだけれど、冗談って二回目から効かなくなるのよ、先生。私たちは1999年の夏を、テレビのワイドショーと同じ顔で消化して、笑うところは笑って、でも笑いきれない部分は教科書の下に隠す。
昼休み、廊下のどこかでPHSがピピピって鳴る。あの音は少し未来っぽい。私は机の中からMDを取り出して、宇多田ヒカルを再生して、再生の丸い矢印が自分の心臓の形に似てるな、と毎回どうでもいいことを思う。(でもFirst Loveは毎回ぜんぜんどうでもよくない。あれは心音を増やす歌)
夏の空気は扇風機の首ふりのリズムで揺れて、窓の外の雲は誰かが消しゴムで端をこすったみたいにほどけている。私は五時間目が終わったところで、ノートをぱたりと閉じて、裏表紙の端を折って、そっと立ち上がった。「保健室行ってきます」って小さく言えば、先生はたいてい止めない。保健室に行く経路で、屋上という寄り道があることは先生たちの知らない秘密の地図。
理科準備室の窓は鍵がゆるい。椅子を一脚ひっぱって、窓枠に膝を乗せ、指先で金具を押し上げる。屋上に出ると、空気が急にちゃんと味になる。すこし錆びた匂い。じんわりした熱。遠い国道のトラックの音。フェンスの金網に両手をかけて、私は深呼吸を一回、二回。七月の呼吸。あ、これは覚えておこう、って思ったとき。
「そこ、危ない」
声がした。男子の声。低すぎず、高すぎず、でも機械の温度みたいに均一。
振り向く前に、軽く手首を引かれて、私は一歩だけ後ろへ下がる。フェンスぎりぎりのコンクリ、米粒くらいの黒い影が落ちて、コツン、と音を出して割れた。殻の匂い。卵じゃない。虫でもない。もっとイヤな、硫黄の、でもどこかで嗅いだことのある、夏の終わりの側溝みたいな。
「ほら」
私の手首を放した彼は、フェンスにもたれるように立っていた。うちの学校の制服じゃない。黒い長袖。胸元に小さな紋。汗をかいていない。かわりに、視線が汗をかいているみたいに一直線。
「……なにが?」私は聞く。
「アンゴルモア」
さらっと言わないでほしい。テレビが殊更に太いフォントで見出しにしてた単語を、屋上の風のなかで日常語みたいに投げないでほしい。私は笑うタイミングを探したけれど見つからず、代わりにMDを一時停止にした。(宇多田のサビで止めるのは罪だけど、今日は免除してほしい)
「テレビのやつ?」
彼はフェンスを見上げる。その目は、黒板のイコールをまっすぐに引ける人の目。
殻、と彼が言った瞬間、さっきの黒い米粒が、煙みたいにほどけて消えた。彼は胸の紋に指先を添え、短い金属を引き抜いて、空気を一回だけ切る。刃じゃない。音だけ。なのに。地面の黒が粉になって、風にさらわれた。
「通りすがり」
教科書みたいな返事。でもふざけた感じはない。
「通りすがるには、ずいぶん正確にうちの屋上に来たじゃない」
彼はほんのすこしだけ笑う。笑い方は丁寧で、耳の形まで整っているタイプの顔。近づくと汗の匂いじゃなくて鉄の匂いがした。
「君、見えたでしょ、さっきの。普通の人は見えない。足もとに殻が落ちても、踏んで帰る」
「見えたから、何?」
「ひとりにしない」
その言い方は、なんだか“わたしの”言葉みたいで、ちょっとムカついた。知らない人に先に言われるの、好きじゃない。
「名前は?」
「湊(みなと)」
ひらがなで言われてもカタカナで言われても、たぶんこの名前は港の音がする。波打ち際で人を呼ぶ声。
湊はフェンスの外を見上げる。雲が薄く切れて、青の下に白い面が一秒のぞく。その一秒のあいだに、空が低く唸った。電車が遠くの高架をゆっくり渡るときの音に似てるけれど、もっと乾いている。私の首筋の汗がすっと引く。
「二匹目」湊は言って、私の前に立つ。
降ってくる。今度は米粒じゃない。ビー玉よりちょっと大きい、黒い丸。着地の前に割れて、内側から“何か”がぬるりと出ようとする。輪郭を持たないのに、目より先に匂いだけが肌にささる。夏の犬小屋の奥に置き去りにされたゴム、みたいな。
「息を合わせて」湊が言う。
「どうやって」
「今、君がしてるみたいに」
気づくと、私は湊とおなじテンポで息をしていた。吸って、吐いて。吸って、吐いて。二回に一回だけ、すこし長く吐く。そのリズムで、湊の金属が空気を切る。殻の破片が粉になり、風だけが残る。
「……ほんとに、アンゴルモア?」
「名前が先に来る怪物っているんだよ」湊は肩の力を抜きながら言う。「“恐怖の大王”って言葉、空気が好きなんだ。空気は、好きな言葉に寄ってくる」
そこまで聞いたところで、屋上のドアがギイッと鳴って、私は心臓を落としかけた。風より静かな足音。制服の足音じゃない。
「遅い」湊が言う。
「早すぎる」低い声が返す。私は反射でフェンスの陰に一歩引いて、ドアのほうを見る。黒いTシャツに薄いグレーのシャツを重ねた、涼しい顔の男の子。髪は長くも短くもなく、目は印刷された数字みたいにブレない。
「……え?」
「今日は偵察だけって言ったろ」と彼は湊に向かって、とても小さく眉間を寄せる。「初対面を屋上でやるの、ミスの確率上がる」
「じゃあ、屋上じゃないと見えないものもある」湊はさらっと返す。
二人は友だちっていうより、同じ地図の別ページ、という感じ。
「澪(れい)」と彼は短く名乗った。手にPHS。アンテナ二本。画面に点の地図。数字が流れて、一瞬だけ止まる。
「下、駅前に一件。夜は濃い」
「夜?」私はつい口を出す。「夜まで?」
「今日の七の月、最後だから」湊は私を見る。「帰り道、寄り道をしてもいいなら、案内する」
案内、ってすごくヘンな言い方。でも私はうなずく。喉が乾いているのに、声はちゃんと出る。
湊は金属を胸の紋に戻し、手すりに軽く触れてから踵を返した。澪はPHSを親指で弾いて、何かを送信して、何も言わずに私たちの前を歩く。三人で階段を降りると、校舎の匂いが一瞬だけ“普通”に戻って、私はその普通を鼻に詰めておこうと思った。(後で必要になる普通がある、って、新井素子の本に書いてあった気がする。気がするだけで、どのページかは思い出せないけど)
駅前は夏休みの夕方の顔をしている。ロータリーにバス、マクドナルドの前に行列、ガチャガチャの前で小学生が揉めてる、CDショップではラルクのポスター、ゲームセンターからドリームキャストのデモ音。風鈴みたいな高い音が一瞬だけして、次の瞬間、音が全部半拍ずれる。
「来た」澪が言う。
誰も気づいてない。サンダルの女子高生も、サラリーマンも、ショッピングカートを押すおばあちゃんも、誰も。
空から降りるものは影じゃなくて、空気の厚みの差。見えるのは、ここにいる三人と、そして、たぶん私だけ。
湊は前に出る。澪は周囲を見渡して、最も“記録”の薄い位置を選ぶ。道路標識の影と自販機の影が重なる場所。
「ここなら、ニュースにならない」
ある、と澪は言わないで、目で言った。
湊の肩が、呼吸といっしょに上下する。私はそのリズムに合わせる。吸って、吐いて。吸って、吐いて。なぜか一緒にやると心臓が落ち着く。(恋とかじゃなくて。いや、恋かもしれないけど、いまは違う)
殻のない降りは、匂いだけで先に来る。不意打ち。目の端で捉えるまでに、鼻が先に反応して、汗腺が縮む。湊の金属が空気を切り、澪のPHS画面の数字が揃い、私の呼吸が三拍目で長くなる。カチッと音がして、見えない何かが折りたたまれる。駅前はなにも起きなかった顔に戻る。
「——ねえ」私は息を整えながら言う。「これ、毎日?」
「七の月は毎日」湊は金属をしまう。「終わったら、少しだけ静かになる。少しだけ」
その“少しだけ”の言い方が、もう経験者の声で、私は急に怒りたくなって、でも怒っても仕方ないから、代わりに缶の自販機で麦茶を買って三人にわけた。湊は半分だけ飲んで、缶を私に返す。澪は口をつけずに、冷たさだけ指に移して返す。私はベンチに座って、残りを一気に飲んだ。
「帰り道、送る」湊が言う。
「送らなくていい」私はつい強めに言う。「ひとりで帰れる」
「見える人を、ひとりにしない」
またそれ。私はむくれて、でも、足は自然に彼らと同じ方向へ動いていた。
交差点の信号が青に変わる。横断歩道を渡る瞬間、風がすっと変わって、私は振り向く。人混みのむこう、ビルの屋上の縁。夕陽の切れ端のような光のところに、白いシャツの誰かが立ってこちらを見ていた。
まばたきしたら、いない。
「いまの」
「気づいた?」澪が初めて少しだけ笑う。「いい目だ」
「誰?」
「多分、明日には“こちら側”に来る」湊は短く言った。「きれいな顔をしてる」
家の前で別れるとき、湊は「また明日」と言いそうにした顔でやめて、「風の匂いが塩辛くなったら、上を見て」と言った。
私はうなずいて、門扉の前で一回だけ深呼吸した。玄関を開けると、母が台所でゴーヤチャンプルーを炒めていて、テレビは「Y2Kに備えて」の特集をやっていて、父は食卓で新聞を広げ、「大丈夫だよ」といつもの声で言う。
私は自分の部屋でMDを再生して、PHSのアンテナを出して、引っ込めて、出して、引っ込めて、意味のない儀式を二十回くらいやってから、ベッドに倒れ込んだ。天井の蛍光灯のカバーに、屋上のフェンスの格子が重なって見えた。
眠る直前、窓の外で、ほんの少しだけ風が塩辛くなった気がした。私はカーテンをめくって、上を見た。空はぜんぶの青を混ぜたみたいな色で、星はまだ点かず、遠くのどこかで雷の写真だけフラッシュが光った。
明日も、見える。
明日、もうひとり来る。
七の月は、まだ終わらない。
2
ワイドショーが終わって、ニュースの時間までの隙間に流れる通販の番組。マッサージチェアとか。美顔器とか。私は居間でスイカバーを食べながら、母がアイロンをかける音を聞いていた。
PHSが震えた。メール。文字数は少なく、「屋上」とだけ。差出人不明。昨日と同じ。
——行くしかない。
照り返しが強い。空気が音を立てる。セミは昼なのに狂ったように鳴いていて、私の制服は汗を吸ってもう重たい。
「来た」湊がフェンスにもたれていた。
隣には澪。無口な彼は今日もPHSを指先でいじって、画面に流れる数字を追っている。
そして——もうひとり。
髪は少し長く、色素の薄い瞳。美少年としか言いようがない顔立ちなのに、目の奥がひどく静かだった。笑ったとき、光がこぼれるというより、光が寄っていく感じ。
「碧(あお)」と湊が紹介する。
「よろしく」碧はにこりと笑って、私の袖を軽くつまんだ。指先が冷たい。
「三人?」私は尋ねる。
「四人」湊が言う。「君を入れて」
「えっ、いや、私なんて」
「見えてしまった以上、もう“向こう側”だよ」澪は画面から目を離さずに言った。
私は息を呑んだ。昨日から、すでに普通ではなくなっている自分を、もう否定できない。
——
ロータリーに人が溢れている。コンビニの前では中学生が立ち読みして、パン屋からは焼きたての匂い。バス停のベンチに座るおばあちゃんが団扇をぱたぱたさせている。
そんな雑踏のなかで、突然、音が半拍ずれる。
通りすぎる電車のブレーキ音が伸び、子どもの笑い声が濁り、セミの声が一瞬だけ空気に沈む。
「来た」澪が小さく告げる。
空から、殻が落ちる。最初は見えない。でも、確かにそこにある。私たち四人の目にははっきりと。
ビー玉より大きな黒い殻。地面に触れる前に割れ、中からぬるりと何かが出る。匂いは昨日より強烈。鼻の奥が焼ける。
「人混みの中は厄介だ」湊が前に出る。
「周波数を合わせる」澪はPHSを高く掲げ、ボタンを素早く叩いた。
「大丈夫、大丈夫」碧が私の肩に手を置いた。「君は息をするだけでいい」
殻から出てくる“それ”は、人の目には映らない。でも私には見える。輪郭は定まらず、影が水に溶けるみたいに揺れる。だけど、確かに街を食おうとしている。
「湊!」澪の声。
湊は棒を伸ばし、空気を裂いた。
刃ではなく、ただ音。だけど“それ”がたじろぐ。
碧が微笑みながら指先を空に走らせる。風の流れが変わり、影の形が折れ曲がる。
私の呼吸が、彼の肩の上下に合わせて整う。
一瞬、世界が止まった。
そして、影は粉になって消えた。
駅前は何も起こらなかった顔で、再びざわめき始める。人々は誰も気づいていない。
——
「なに、これ、ほんとに毎日?」
ベンチに座り込んで、私は麦茶を一気に飲み干した。
「七の月は毎日だ」湊が答える。
「でも、七月が終わったら?」
「少しだけ静かになる」碧が柔らかく笑った。「でも、“恐怖の大王”は終わらない。七月の名を借りてるだけだから」
澪は黙ってPHSを閉じた。その目は冷たいけれど、どこかで私を見守っているようでもあった。
私は三人を見回して、息を吐いた。
「……わかった。もう知らないふりはできない。だから——」
「ひとりにはしない」湊が言った。
その言葉は、昨日よりもずっと重く、強く響いた。
——
夜。帰り道。
商店街のアーケードにはまだ人がいた。ゲーセンの前でカップルがプリクラの袋を持って笑っている。CDショップからはELTの歌声が流れている。
「また?」私が言うと、碧が肩をすくめる。「今日は濃いからね」
次の瞬間、いなくなった。
「今のは?」
「気づいた?」澪が珍しく少し笑った。「君、ほんとにいい目を持ってる」
「……誰?」
「明日、会える」湊は短く言った。「俺たちの仲間になる」
——
ニュースは「何もなかった一日」を語っていた。
私は自分の部屋に入り、PHSのアンテナを伸ばしては引っ込め、伸ばしては引っ込め、意味のない儀式を二十回くらい繰り返した。
屋上の風がまだ、肌に残っていた。
三人の声も、影の匂いも。
そして、明日現れる誰かの姿も。
七の月は、まだ終わらない。
3
七月三十一日。
カレンダーの数字が赤くも青くもないのに、どうしてこんなに特別に見えるのだろう。
”終わる”という言葉が、宿題のノートよりも、日めくりの紙よりも、今日は妙に重たかった。
午前はやけに晴れていた。
でも午後になってから、光は濁った。セミの声がかえって甲高く響く。
屋上のドアを押すと、三人が待っていた。
湊。
澪。
碧。
「紹介する。彼も仲間」湊が言った。
白いシャツの少年は軽く会釈をした。年は私たちと変わらないのに、目の奥だけが遠い。「……雅(みやび)」と小さく名乗った。
四人の男子と、私。
屋上の風は重たくて、フェンスの金網が湿っているみたいだった。
「本体が来る」澪はPHSを掲げ、数字の羅列を見せてくる。意味はわからない。でも、ただ事じゃないことは伝わる。
「恐怖の大王」碧が肩をすくめながら微笑む。「七月が終わる、その瞬間に」
雷が鳴った。
私は一歩後ずさったが、湊が前に出た。背中越しに、彼の肩の呼吸が見える。
「大丈夫。合わせればいい」
「……どうやって」
「昨日と同じ。君は息をするだけ」
影が降りてきた。
殻じゃない。粉でもない。
“名状できないもの”が、街を覆いはじめる。
匂いが先に来る。鉄錆とゴムと、夏の終わりの湿気を全部混ぜたような匂い。
碧は風の流れを変える。
雅は静かに印のような手の動きをして、影の裂け目を縫い合わせる。
湊は棒を構え、私の前に立つ。
「……来るぞ」
大王の影は、顔を持った。
知らない誰かの顔。
でもなぜか懐かしく、私の記憶の底を撫でる顔。
「来る」澪が短く言う。
「させない」湊が返す。
影が迫る。世界が歪む。
人混みの声が止まる。時計の針が動かない。
この一瞬に、すべてが収束していく。
湊は前に出た。
「俺がやる」
「待って!」思わず叫んだ。
「君をひとりにはしないって言ったのに」
湊は、振り返らなかった。ただ、少し笑った。
「ごめん。今日は、俺だけで強がらせて」
影の中心に踏み込む。
棒を構え、全身を“蓋”にするように。
世界が一秒、無音になった。
雷鳴。
セミの声。
窓ガラスが震える。
影はたしかに消えていた。
残されたのは、三人の男子と、私。
澪は黙って画面を閉じ、碧は笑わずに目を伏せ、雅は静かに空を仰いだ。
湊の姿は、なかった。
「……どうすればいい?」私は震える声で尋ねた。
「何もしない」澪が答える。「ニュースにならないこと」
「覚えておくこと」碧が続ける。「ひと知れず、覚えていること」
雅は小さく頷いて、目を閉じた。
夜のニュースは「何も起きなかった一日」を語った。
父は「大丈夫だよ」と笑い、母は冷蔵庫にペットボトルの水を入れた。
宇多田の声が、少しだけ遠く聞こえた。
——風が変わったら、笑って。
私は、笑った。泣きながら。
翌日。八月一日。
空は夏の顔をしていた。
棒を見せ合って、当たりだの外れだの笑いあった。
でも、屋上の風は、まだ四人分吹いていた。
そして、七の月は、静かに閉じた。
『ホンダとマツダとスバルがまとめて息絶えてもトヨタ帝国が全部面倒を見るから日本の自動車産業は盤石』という雑な念仏が流れてくるので、机上計算を回したメモを置く。
トヨタの当座資金はケタ違い、ハイブリッドで利益を稼ぎながら電池とソフトに投資できる点で短期の死臭はしない。
ただし国内雇用550万人のうち完成車直下はせいぜい80万人、残り470万人は部品と物流と販社と下請け。
複数OEMから注文を受け価格を分散している部品サプライヤが、発注元が1社に絞られただけで単価を叩かれ即赤字になる未来が見える。
ホンダが消えれば埼玉と三重、マツダが倒れれば広島、スバルが沈めば群馬。
トヨタが買収して製造ラインを残したとしても、地域の政治と労務を背負った瞬間にコストは跳ね上がり、効率重視で結局整理を始めるのが歴史の常。
ロータリーだろうが二輪の可換電池だろうが、奇天烈な実験は中小OEMの趣味枠で回ってきた。
多様性が削られれば次の規制変更や市場シフトが来た時の逃げ道がなくなる。
海外調達の観点でも顧客が寡占化するとバイヤーのリスク管理で外される。
EUも米国も「特定メーカー支配のサプライチェーンは危険」と声をそろえるご時世、日本だけトヨタ1強を許容するほど甘くない。
トヨタが大丈夫なのは『トヨタにとって大丈夫』であって『日本の自動車産業が大丈夫』を保証しない。
サンゴ礁が白化しても魚はまだ生きている、みたいな話。
周りの小魚を全部失えば最後はサンゴも死ぬ。ホンダ・マツダ・スバルが延命している今のうちに、全員で次の飯の種を探さないと、一社だけ残っても海は干上がるだけ、という身も蓋もないオチになる。
「ね!みんな食べてないでしょ!ほんとはアレ食べられるんですよ!ぜんぶ日本人の体から出てるから!」
「あらゆる植物!穀物にとって!ね!肥料になるなら!人間が食べてもどえらい栄養になるんです!
なのに!今の政府はそれを隠して!食べ物を輸入に頼って! 外国に!ね! 外国に!我々の税金を売り渡してるんです!!」
バイト面接のために久々に外に出てみたら、練馬駅のロータリーが選挙活動の集会みたいになっててびっくりした。
選挙カーの上で、派手な色のTシャツを着た男が熱弁している。知らない政党ぽい。
人だかりがすごいので、とりあえず階段を登って上の歩道から駅に向かう。
「だからね!日本人のウンコは!捨てずに!回収してお店に並べるような形やればいいんですよ!
そして!そして!ね!!外国人のウンコは!食べたら!癌になるんです!!」
「そうだ!」という声が群衆の中から上がると、下から大きな拍手が起こってビビる。
話の内容はよく聞きとれなかったけど、声に説得力というか、必死さがあって、シンプルに「いいな」とおれは思う。
ていうか、今選挙やってたんだ。
40過ぎてから会社が潰れて、それなりにキャリア積んだつもりだったのにハロワのトライアルでボロカスに言われて、しばらく引きこもって貯蓄を食いつぶしていた。
でも、本当にそうなのか、誰にも相談できなかった。
「癌という病気も!もともとは!海外から持ち込まれた病気なんです!
だから!ね!!日本人のきれいな人糞だけを食べれば!出てくる人糞もきれいなままなんです!
純粋な日本人だけの!日本人のためだけの!究極の食料を守んなくちゃいけないんですよ!」
男が叫ぶ度に、大きな拍手と歓声が上がる。
今まで見たこと無かった政党だし、演説の内容はよく聞こえなかったけど、少なくとも100人以上いる聴衆がめっちゃ支持してるのはわかるし、それだけ信用を集めているひとなんだろうなと思う。
「この国の!ウンコみたいな!間違った食糧事情を正したいつってんですよ!」
響き渡る歓声を背に、券売機に10円玉を入れながら、おれは生まれてはじめて「投票に行ってみようかな」と思っていた。
明日食べられるものを、来週食べられるものを持っていたいから。
その日の面接は落ちた。
| 日付 | 牛田まゆ候補 | 奥村よしひろ候補 |
|---|---|---|
| 7/3 | (国民民主党全体演説) 9:30〜 新橋駅SL広場 10:40〜 浜松町駅北口 11:15〜 田町駅芝浦口 11:55〜 品川駅港南口 12:50〜 大崎駅南口 13:35〜 恵比寿駅西口 14:10〜 渋谷駅東口 15:00〜 原宿駅西口 神宮橋 15:40〜 新宿駅東南口 16:35〜 高田馬場駅早稲田口 17:10〜 池袋駅西口 18:20〜 有楽町イトシア前 | 同左 |
| 7/4 | 10:45〜 大森駅西口 11:15〜 蒲田西口商店街 練り歩き 12:00〜 蒲田駅西口 15:15〜 自由が丘駅 17:15〜 三軒茶屋駅前 ※ 槇葉幹事長・伊藤たかえ氏と蒲田駅西口に同行 | 8:00〜 平和台駅 9:00〜 石神井公園北口 10:00〜 大泉学園南口 11:15〜 吉祥寺駅北口 13:30〜 練馬駅南口 14:15〜 氷川台駅 15:15〜 東武練馬イオン前 16:00〜 大山駅 17:00〜 池袋駅東口 19:00〜 光が丘駅IMA前 |
| 7/5 | 10:30〜 阿佐ヶ谷駅南口 12:00〜 中野駅南口 17:45〜 上野駅広小路口マルイ前 19:00〜 銀座四丁目交差点 ※ 玉木雄一郎 代表と同行 | 8:15〜 亀戸駅北口アトレ前 9:00〜 錦糸町駅南口 10:30〜 秋葉原駅電気街北口 11:45〜 銀座数寄屋橋交差点 13:45〜 スーパービバホーム豊洲 15:00〜 新小岩駅 練り歩き 16:00〜 錦糸公園 16:45〜 押上駅(スカイツリー前) 17:30〜 上野駅広小路口 17:45〜 玉木雄一郎代表 挨拶 18:45〜 浅草駅地下鉄5番出口 |
| 7/6 | 12:45〜 武蔵小山駅 練り歩き 14:15〜 戸越銀座駅 15:30〜 豊洲ららぽーと ※ 武蔵小山から豊洲ららぽーとまで玉木代表と同行 | 8:45〜 中目黒駅山手通りガード下 10:00〜 自由が丘駅正面口 10:45〜 大岡山駅北口 12:45〜 武蔵小山駅ロータリー(玉木代表と) 13:30〜 武蔵小山商店街(街宣) 15:30〜 豊洲ららぽーと(街宣) 16:45〜 水道橋駅東口(玉木代表と) 17:45〜 御茶ノ水駅(街宣) 18:30〜 飯田橋駅東口 19:00〜 四谷コモレ前 19:30〜 選挙事務所前 |
| 7/7 | スケジュール未公開 | 8:15〜 武蔵関駅南口 9:00〜 保谷駅南口 10:00〜 ひばりヶ丘駅南口 11:00〜 東久留米駅西口 12:00〜 清瀬駅南口 14:00〜 東村山駅東口 15:00〜 東大和駅北側ロータリー 15:45〜 玉川上水駅北口 17:00〜 小平駅南口 18:00〜 花小金井駅北口 19:00〜 田無駅北口(伊藤たかえ参議院議員と) |
同じ街に住み、同じくらい酒を飲む人で、
本は読まないけど仕事も似ていて
飲んだその日に次の予定を取り付けて、なんなら家まで行った。
でも体の関係を最後まで持つわけではなく、ただただ雑魚寝をして、少し体を触るくらいで、
ああ別にヤリ目ではないんだなとほっとした。
6回飲み、ずっと家までは招かれるものの、そういう雰囲気になることはなかった。
だんだんこれはなんだ?と思うようになった。
私たちは今後どうなるのか?という話をして、
私はあなたと一緒にいたいということも伝えてみた。
すると、「尊敬してる人に手を出せない」と言われた。
話を聞けば、割と男尊女卑な考えがあり、
付き合うなら、女性に言いなりになってほしいんだということだった。
だけど、「それは嫌だ」「絶対に俺と飲んでいるほうが楽しい」と駄々をこねられた。
でも、尊敬しているから何もできないというのは、とても残酷だと思った。
いよいよ手を出されたら、そのときは私への尊敬が尽きたということなのだろうか。
駄々をこねられたあと、手を引っ張られ、また向こうの家に行った。
もちろん手を出されることはないけど、ひたすらにキスをされる中で、とても悲しい気持ちになった。
今日は久しぶりに一緒に飲んでない夜だったが、LINEにはゴールデン街で会った人たちからたくさんメッセージがきている。
この人たちは私への尊敬がないから手を出す機会を目論んでいるのだろうか。
一緒にいたいと思った人に手を出されることがないという悲しさもあり。
すごく楽しい2週間だったからとても辛いけど、今後の展開を待たずに縁を切る予定だ。
同じ街に住み、同じくらい酒を飲む人で、
本は読まないけど仕事も似ていて
飲んだその日に次の予定を取り付けて、なんなら家まで行った。
でも体の関係を最後まで持つわけではなく、ただただ雑魚寝をして、少し体を触るくらいで、
ああ別にヤリ目ではないんだなとほっとした。
6回飲み、ずっと家までは招かれるものの、そういう雰囲気になることはなかった。
だんだんこれはなんだ?と思うようになった。
私たちは今後どうなるのか?という話をして、
私はあなたと一緒にいたいということも伝えてみた。
すると、「尊敬してる人に手を出せない」と言われた。
話を聞けば、割と男尊女卑な考えがあり、
付き合うなら、女性に言いなりになってほしいんだということだった。
だけど、「それは嫌だ」「絶対に俺と飲んでいるほうが楽しい」と駄々をこねられた。
でも、尊敬しているから何もできないというのは、とても残酷だと思った。
いよいよ手を出されたら、そのときは私への尊敬が尽きたということなのだろうか。
駄々をこねられたあと、手を引っ張られ、また向こうの家に行った。
もちろん手を出されることはないけど、ひたすらにキスをされる中で、とても悲しい気持ちになった。
今日は久しぶりに一緒に飲んでない夜だったが、LINEにはゴールデン街で会った人たちからたくさんメッセージがきている。
この人たちは私への尊敬がないから手を出す機会を目論んでいるのだろうか。
一緒にいたいと思った人に手を出されることがないという悲しさもあり。
すごく楽しい2週間だったからとても辛いけど、今後の展開を待たずに縁を切る予定だ。
もうない会社に出勤しようとしたり、ないコンペがあると騒いだり、退会したロータリーの会合に出席しようとしたりなので、近隣のタクシー会社に根回しし、免許はどうにか返納させ、夫と私は車の鍵を肌身離さず、車庫には常時施錠。
当惑した元部下の方(というてもとっくに定年の70代男性)から、連絡いただいて、とりあえずスマホの身内以外の番号と家電の登録を全消(=ナンバーディスプレイ役立たず)。昨日から番号が分からず義父ブチ切れ。元部下の皆さんに迷惑だからと伝えても、「わしとアイツらの関係はお前らには分からん!」と朝から怒鳴られて、夫が、「おとうさんは好かれてたんじゃなくて、雇用主だっただけだろ」と言い返し、義父がショックを受けている。もしかして、本当に好かれてると思ってたのか…。
南條あやが死んだ頃。
正確には、たぶんもっと前から死んでいたのかもしれない。ネットに日記を残し、フォントサイズ1の文字で寂しさを隠しきれずに叫んでいたあの時代。誰かの自傷写真に「綺麗ですね」ってコメントをつけていた時代。今思うと狂っていたと思う。でも、当時はそれしかなかった。
掲示板では薬の名前が飛び交っていた。自分も飲んだ。人からもらった、というよりは、もらいに行った。駅前のロータリーでトレードした。空き缶が転がっていて、タバコの臭いがして、でも誰も何も言わなかった。何か言うこと自体が野暮だと、全員が知っていた。
最初に好きになった女の子は、詩を投稿していた。毎日長文メールをやりとりして、ICQで寝落ちチャットをして、気がついたら親に新幹線代を借りていた。理由は「模試」だった。ばれてたと思う。ばれていて、でも何も言われなかった。多分もうあきらめられていたんだと思う。
彼女は実物のほうが綺麗だった。生きていた。体温があった。手を握ると震えていたのは自分のほうだった。
ホテルに行って、ぎこちないキスをして、終わったあと天井を見上げて、泣いた。
「これで何かが変わる」と思っていた。でも何も変わらなかった。
フレームページが消え、個人サイトが消え、Flashが終わり、2ちゃんのスレは過疎り、SNSが「リアル」と結びついて、居場所はなくなっていった。
残ったのは、手首の傷と、壊れた体と、死んだ友達だった。
誰も止めなかった。というか、誰にも止められなかった。
「大丈夫?」とチャットで聞いた翌朝、「◯◯さんは、亡くなりました」と親からメールが来ていた。
それでも、生き残った。
彼は、彼女と別れて、バイトをして、専門学校に行って、そこそこの会社に入った。
リスカ跡は消えない。でも隠せる。長袖を着ればいい。薬もやめた。飲まないと眠れない日は酒を飲んだ。
それでも、夜になると、たまに思い出す。
アクセスカウンターが300を超えた夜のこと。
掲示板で「わかる」と言ってくれた人たちのこと。
誰かが死んで、それでも世界が続いていくこと。
そしてこう思う。
あの頃の自分が、どこかでまだ生きていほしいと。
まただ。
バスが駅前ロータリーの停留所に滑り込む。完璧なタイミング、ではない。むしろ最悪のタイミング。運転手さんの丁寧な停車アナウンスが流れるのと、ホームから聞こえるあの忌まわしい発車メロディーが重なる。シンクロ率100%。ふざけんな。
バスの窓から見える。まさに今、ドアが閉まろうとしている銀色の車体。あれに乗れば、会社にジャストだ。いや、なんなら少し早く着いて、優雅にコーヒーでも飲める。しかし現実は非情である。バスのドアが開く。降車ボタンを押したのが早すぎたのか、俺が先頭に陣取っていたのが間違いだったのか。そんなことを考えている間にも、無情にも電車のドアは完全に閉ざされ、ゆっくりと動き出す。
「ああああああああああああああああああ!!!!!」
声にならない叫びが喉の奥で渦巻く。バスを降り、呆然と走り去る電車を見送る。まるでスローモーション。俺の乗るはずだった電車が、ゆっくりと、しかし確実に俺を置いていく。そして、駅の時計は無情にも次の電車の到着まで「15分」という絶望的な数字を叩き出す。
15分。
この15分がどれだけ無駄か。駅のベンチに座り、スマホを眺める。特に見るものもない。SNSを惰性でスクロールする。みんなキラキラしている。朝活だの、スキルアップだの。こちとら、バスと電車の乗り継ぎという、コントロール不能な外的要因によって、毎朝貴重な15分をドブに捨てているというのに。
バスがあと1分早ければ。いや、電車があと30秒待ってくれれば。そもそも、このダイヤを組んだ人間は、実際にこの乗り継ぎを試したことがあるのだろうか。絶対ないだろ。机上の空論。数字のパズル。そこには、バスが定刻通りに来ない可能性とか、信号に引っかかる可能性とか、そういうリアルな変数が入っていない。
たまに奇跡が起こる。バスが少し早く着いて、猛ダッシュすれば間に合うことがある。そういう日は、まるで宝くじに当たったかのような高揚感がある。でも、そんな幸運は稀だ。大抵は、この絶望的なすれ違いを繰り返す。
もう慣れた、と言えば嘘になる。毎朝、バスが駅に近づくたびに、心臓が少し早くなる。「今日こそは…!」という淡い期待と、「どうせまた…」という諦めがせめぎ合う。そして、大抵は後者が勝つ。
今日もまた、15分遅刻ギリギリの電車に乗る。ホームには、同じバスから降りてきたであろう、諦めの表情を浮かべた同志たちがいる。俺たちは言葉を交わさない。ただ、互いのやるせない気持ちを共有しているかのように、静かに次の電車を待つ。
駅前ロータリーは、俺にとって希望と絶望が交錯する場所だ。バスを降りて電車に駆け込む、そのわずか数十メートルの距離が、天国と地獄の分かれ道。
ああ、次のダイヤ改正はいつですか? どうか、どうかこの狂気の連鎖を断ち切ってください。頼むから。
…まあ、どうせ期待しても無駄なんだろうけどな。はぁ。
直列4気筒…いちばん採用率が高い。お馴染みのやつ。ちょうどいい。無難な選択。
直列6気筒…レシプロにおいて理想の配列とされる。けど直4採用モデルあたりと比べると車体もだいたい大きいんで、大概は「そんなの要らない」ってなる。
V12 …超高価格車両のみが採用する。導入コスト、燃費など維持費ともに最悪。とはいえもちろん相応のパフォーマンスを有していて最高時速は 300 km を優に超える。ただし、そんなスピードを出せる道はわが国にない。
トヨタ V10 …アクセルが踏み込まれた時に発するその独特のエグゾーストノートは「天使の咆哮」と呼ばれる。LFA のためだけに開発されて車両価格3,750 万円で即完売したが、なぜか赤売り設定だったらしく開発費用を回収できてないらしい。いろんな意味で奇跡の存在。
ホンダ VTEC …(面白くできそうだけど、なんかまとまらない)
水平対向…低重心化を実現し、実際に採用モデルの運動性能には定評あり。しかしそれを利点として打ち出せるメーカーが、全世界で2社しかない。
ロータリー…構造ゆえに高回転で回し続けても壊れない。ただし実車両において、伝達系をはじめとした周囲が追従できるかどうかとなると別問題(なので電子音を鳴らして警告する)。逆に低回転は苦手で、普段使い領域の燃費がどちゃくそ悪い。
SKYACTIV-D …じつはめちゃくちゃ燃費がよいうえにフィーリングも好評でICE復権の狼煙にすらなりえたのに、いいタイミングでよそのメーカーがやらかして欧州でディーゼルが買われなくなってしまったため不憫な扱いをされてる。
TMS-I …回生モーターシステムにより、とにかく異次元の燃費で走り続ける。採用車両は価格割高でも、低燃費一点張りでとんでもなく売れた。
11月に尾道にいったらあまりに良かったので、あまり間を置かず、年始にまた行ってきた
四国から行ってるので、旅はしまなみ海道を渡るところから始まる 旅っつうか、片道一時間なので全然旅ではないんだけど、しかし、精神的には旅みたいなもんですよ なんせ良いところだ
しまなみ海道を渡りきったら車を港湾駐車場に停める 港湾駐車場はおそらく尾道でも屈指のでかさの公営駐車場で、屋上(2階)から尾道水道が見えるのがうれしい
まあ尾道水道は尾道にいればガンガン目に入るんだけど、スタート地点からもう見えてる!っていうのはひとつ大事な要素だと思う
尾道観光に来たのだからラーメンを食べずに帰るわけにはいかないので、港湾駐車場から歩いてラーメン屋の多い方向に向かう その方向には駅がある
駅前にはまさに広場という感じの広場があり、カッコいいでかいロータリーがあり、尾道水道の前は一面ウッドデッキで、ベンチなんかも結構設置されていて、とにかくイイ 適切に運営されている観光地だと感じる 気概を感じる
前に来たとき、ロープウェイでその山に登って展望台から尾道を一望したため、俺は逆に下界からもPEAKをハッキリと認識することができた
おそらく、PEAKにいる人間にとって下界はすべて「景色」でしかなく、そこから逆に覗き返されているとはつゆほども思っていまいと思う
だが俺は見ている 実際、見ていた
見ているぞPEAK、と言う
(俺はPEAKが好きなのか?)
ついたのが丁度昼どきで、年始休みなので、文字どおり全てのラーメン屋に行列ができていた
行列があるってことはあそこにラーメン屋があるんだな、という推測すら成り立った
行列のないラーメン屋はないかなあ、などと言いながら、本通り商店街とよばれるアーケードを歩く
本通り商店街はかなり栄えていて、普段はシャッターの降りた店がほとんどない 今回は三が日だったのでさすがにそれなりにシャッターを見たが、そのほとんどに年始の挨拶文やちょっとした正月飾りが貼られていて、かえって賀正の素敵な雰囲気が醸し出されていた
それならば、ということで、逆に人気店に行くことにする どこに行ってもそう変わらなそうだから
前回行った人気店(まるぼし)の横の人気店(牛ちゃん)に向かった
店の近くにチーズケーキ屋があって、彼女が寄ろうという 寄ってチーズケーキをふたきれ買った
前回行ったまるぼし側の行列っぷりは常軌を逸していて、おそらく一時間以上待つことになるだろう長さだった ややビビりながら、牛ちゃんの列に並んだ まるぼしサイドの列に比べればかわいらしい行列だが、30分は待ちそうだ 尾道ラーメン、恐ろしい
その行列に並んだところで、彼女がチーズケーキを食べようと言う メシを食う前にチーズケーキを?と一瞬思うが、並びながら食べるつもりで買ったんよ、と言う姿がかわいい
並びながら食べることにする おそらく皿の上でナイフとフォークなんかを使って上品に食べられることが想定された、上質なチーズケーキだった 素手で空中で食った 美味
そして実際30分くらい並んで、ラーメンにありつく
うまかった
尾道ラーメン、食べた瞬間の爆発力みたいなものはそこまでないが、しみじみとうまいというか、ずっとうまい感じがする 飽きにくい
牛ちゃんの尾道ラーメンは、焼肉屋でもあるという店の特徴を反映してか、脂の甘みを強く感じた
駅前のさくらホテルに泊まるのは前回に続いて二回目なので、勝手知ったるものだ 残念ながら前回に続いて低層階だったが、全室シービューで、低層であることでかえって近くに尾道水道が見えた ということにしておこう
宿を出て山に登ろうかとも思ったが、前回登ったからまあいいか、ということで、部屋でくつろぐことにする
前に行ってよかった居酒屋にまた行く というか、この店が年始にもやっていることがわかったから尾道に来た、という因果ですらあった
出汁と酢をフィーチャーした豆皿料理の店、というのがコンセプトで、そのコンセプトから期待されるものを完璧に満たしてくれる店だ
出汁や酢の効いたいい感じにシブい料理がちょっとずつ出てきて、日本酒なんかを飲んだりして、いい気分になる しかし純和食というわけではなく、チキン南蛮とか魚のフライなんかもあって、適度にカジュアル
また出汁サワーという謎のサワーがあり、これはサワーに出汁と昆布と煮干しが入っているというイロモノっぽいものなんだが、なぜか妙にうまい
しかもこう、探し出す必要のないうまさというか、「よく味わったら実はうまい」とかじゃなくて、ひと口目からストレートにあっこれうめえ!ってなる
わりといいお値段がするが、いい店だ……
酒に酔った彼女がゆっくり歩くので、背中を押して歩くスピードを上げてもらう 人間を押して移動させるのは、ミニゲームみたいでちょっと面白い
ホテルの前の海岸通りの街路樹にイルミネーションが飾られていて、しかも結構気合が入っているというか、単色なんだけど密度が高かった
揚げたてのがんもどきをメインにした朝食を出している小さい店があるということで、心惹かれたので行った
7時半からやっているが、ついたのは8時 全然早朝ではない時間だ
でも気分は早朝だった 冬の朝に早起きして、ちょっといい感じの朝食を食べに出るという気分だった
店はかなり良かった
店内ではストーブの上で鍋に入ったおでんが温められていて、雰囲気が非常によろしかった
揚げたてのがんもどきはうまい 通常のがんもどきとはまったく別で、食感としてはもうクリームコロッケとかの方が近いくらいに柔らかく、いい味だった
店主さんの前に置かれたケースに揚げる前のがんもどきのタネが大量に入っていて、食事を終えてそのケースをふと見ると、大量のタネがすべてだんご状に丸められていて、その感じもよかった
帰り道、尾道駅の裏手を歩いていると、具体的な内容は忘れてしまったが、地元の学校の放送部によって録音された、「自転車には鍵をかけよう」とか、「ヘルメットを被ろう」とか、そういう内容の録音が聞こえてきた
結局そういうのがいちばんグッとくるんだよな
踏切が開くのを待っていたら、近くにネコがいたので、観光地だから人慣れしているだろうと思って近づいたら、迷惑そうな顔をして逃げていった
結局そういうのがいちばんグッとくるんだよな
朝の本通り商店街は多くの店がまだ開いてなかったが、パン屋航路はやっていた
尾道にゆかりがあるらしい(読んだことない)小説「暗夜行路」から名前をとっているらしいと聞いて、かなり好感度が上がった店だ
店内はかなり狭いが、並べられたパンはかなり多く、キッシュ・フォカッチャ・ベーグル・クロワッサンと、各カテゴリ取り揃えられていた
いくつか買って帰る いい感じのパン屋で買ったいいパンを所持していることは、精神にいい影響を与える
尾道水道を挟んだ向かいにあるのが向島だ 直線距離だと200メートルもなさそうな感じで、すごく近い
渡し船が何航路かあるというので、一番近い乗り場に行く 時刻表なんかは無くて、10分くらいの間隔で運行しているらしい
運賃はなんと60円 本当に60円で、なんやかんやオプションで結局320円くらいになったりもしなかった
パッファーフィッシュ、フグをロゴにしているその店はパッファーといい、本場イタリアっぽいフォカッチャや本場イタリアっぽいケーキを売っていた かなりイタリアっぽい空間だった 向島、やるなと思った
してオリーブオイルをつけて食べることで真髄が発揮され、抜群にうまかった)
パッファーのあるあたりは、道がひらけていて、店が並んでいて、何というか妙に「駅前」っぽい
駅がないと分かっていても駅をつい探してしまう 駅がないことが直感的に受け入れられず、ちょっと不安になる そんな場所だった
あと、近くに「悶舌飯店 MONSITER HUNTEN」という中華料理屋があって、全体として、やるなあ向島!と思った
「ぶちうま」というポップが目を惹いた
広島みやげの菓子の袋に「ぶちうまいけぇ」と書いてあるのを見て、ハイハイ、どうせこれは観光客向けの接待方言なんでしょう、こんな分かりやすいもんじゃねえですよね方言は!なんて思っていたが、もしかしてマジで言うのか?「ぶちうま」って……
惣菜やパンが充実しており近所にあれば通うだろうスーパーだった
向島からまた渡し船に乗り、尾道に戻って、昼飯を食って帰った 駐車場の向かいにあったイタリアン、ポルタ・ディ・マーレなんてカッコいい名前のところで、ここもサラッとレベルの高いメシが食える感じで大変よかった ランチセットが1400円くらいなんだけど、食後のデザートでアールグレイ風味のパンナコッタが紅茶とともに出てきて、味も非常にいい感じで、パンナコッタと紅茶のセットって喫茶店で食ったらかなり安くても600円くらいはするよな、と思うと、じゃあガチのイタリアンのカルパッチョ風サラダ+本格パスタで800円程度ってことなのか?ということになり、メチャクチャ安かった気がしてくる
イタ飯を食い、満足したところでひきあげることにする
パン屋のパン、フォカッチェリアのフォカッチャ、プリン屋のプリン、土産が大量にあるので、寂しさよりも楽しみの方が勝つ 総合的に見て、かなりいい体験だった
たぶん今年中にもう一回くらい行くんじゃないかな
いいですよ尾道
前に行った山方面もかなりよかったし、ゲストハウス・旅人文化みたいな部分も素敵だと思う
メチャクチャいいと思う
「負けヒロインが多すぎる!」というライトノベル及び、それを原作としたアニメをご存知だろうか?
2024年の夏季アニメにて上位の人気を誇り、その知名度を大きく上げたことで、その名前を見たことがあるのではないだろうか。
そう、そうやってアニメ化したことで私の目にも届いたのである。
2024年春、夏季アニメを楽しみにしながら、Youtubeにて【TVアニメ「負けヒロインが多すぎる!」第一弾PV】をたまたま見ていた時だ。
私は原作ファンの反応が見たくてコメントを見ていたのだが、"豊橋"などという聞き覚えしかない市の名前が散見され、挙げ句の果てに"時習館"という決定的な単語を発見してしまう。
"愛知県立時習館高等学校"ーー何も見ずに書ける、私の母校の高校の名前である。
「これは、他人事ではいられないぞ」、それが私の最初に思ったことだった。
******
私はこの一大ニュースに対して興味津々であった。この件について、もっと詳しく、そして正しく知りたいと。
この時点では予告PVがあるだけで、まだアニメは始まっていない。すでに刊行されているラノベがあるだけだ。
そして私は検索の結果、「負けヒロインが多すぎる!」の小説の表紙を見た。そしてPVを全て見た。
ここまでの私の生の感想をお伝えしよう。
「リボンが4つある」キャラデザについて、一般の読者も驚いていたことと思う。私も驚いた。しかし、実際の愛知県時習館高等学校も真反対の意味でイカれているのだ。
実際の我が母校では女子も、男子と同じネクタイが採用されているのである。
そして、制服はブレザーでもセーラーでもなく、なんとも形容し難い、黒色のジャケット(冬用)とベスト(夏用)が採用されている。スカートも同じく真っ黒で、ヒダがほとんどなく真っ平である。
平たく言うと、我々生徒からは「OLの制服のようだ」と呼ばれており、さらに分かりやすく言うと"可愛くない"という意味である。
この時点では、私は予告PVに対して懐疑的だった。どうせ、高校の名前を借りただけで見た目は再現しないんだろうと。
しかし、予告PVの段階で異常なポイントが一つあった。緑の多さである。
時習館高等学校の敷地は広い。校舎は普通の大きさだが、残りの敷地がデッドスペース(森)と化しているのだ。
敷地面積は公立高校内で日本2位と言われており、約10万平方メートル超である。ちなみに、同じ愛知県にできたレゴランドは9万平方メートルほどであり、うちの生徒からは「レゴランドは時習館より小さいから大したもんじゃない」とディスられていた。
私は一年時の夏休みに、理科の課題にて「(植物名)の木を校内から探して写真を撮ってくる。それを10個」という冒険者のクエストのような課題を強制でやらされた。
フィールドワークを校内で賄えることからその広大さがお分かりいただけるだろう。
そして校内には開けた大通りが一本あり、車が通るように出来ているのだが、その通りの名前を"ハンテンボク並木"という。(口伝なので漢字は分からない…)
この道に沿って、ハンテンボクという木がずらっと植えられているのである。これがまた異常な数で、このハンテンボクの落ち葉を綺麗にするためには生徒が30人ほど掃除する必要があるのだ。しかも毎日。
我が母校が、自然に溢れすぎた素晴らしい学校だと分かってもらえただろうか?負けインのPVで木々が多めに見られるのはそれが理由である。おそらく他ではこうはならないだろう。
というわけで、私は予告PVの時点で現地リスペクトを感じとっていた。そして期待していたのである。
これは創作あるあるだが、屋上がよく舞台にされる。きっとこれはロマンである。主人公たちしかいない場所で、高くて青空に近い場所。絵面は最高である。
そして私もロマンを求めて小学校(転校したので3校)、中学校、高校とずっと屋上を確認していたのだが、全て閉ざされていた。
しかしアニメ内では八奈見さんはぬっくんと悠々と屋上を楽しんでいらっしゃる。挙げ句の果てに、八奈見さんは屋上にて、青空をバックにちくわ("ヤマサのちくわ"という豊橋の名物。スーパーに売っている)を貪り食っている。
……悔しいよ、私は!
(ちなみに、アニメ本編で何度も弁当を食べている外階段も実在しない。あれも現実に欲しかった。ロマンが欲しかった。……悔しい)
******
さて、ここからはアニメ本編を視聴した上で語りたいことを言いたいと思う。
私の思う時習館像と解釈違いを起こしそうで、なかなか見る覚悟が出来なかったのだが、高校の同級生たちが見たという報告を聞き、「私も見なければならないな……」と重い腰を上げたのである。そう、それが10月のことだった。
私は解釈違いで発作を引き起こしながらも、あまりに良いアニメで2日で見切ってしまったのである!
まずもって、ラノベというのは幻想であって、現実に起きないようなことが起こるのが良いところなのだが、今回の場合、部分的にリアリティを持っているせいで私に夢を見させてくれないのである。どうも私のリアルな時習館像が私を苦しめる。
正直に言おう。私はあまり時習館高校に良いイメージを持っていないのである。母校だけど。母校だからこそ。
そして、私の高校生活とはーー恋愛など全くなかった。それが大きな相違である。
血涙を流しながら言おう、私にも青春はあった。
かけがえのない友人と、たくさん語り合った。
南栄駅(時習館高校の最寄駅)にて、リゼロについて熱く語っていたところ、他校の生徒に鼻で笑われたこともあった。今では良い思い出だ。
さてそのような私から、時習館高校について"負けイン"と同じところ、または異なる所を紹介しよう。
②うどん屋「みやこ」について。
八奈見さんとぬっくんが、何故か急にうどん屋でご飯を食べているシーンがある。これの元になったうどん屋「みやこ」は時習館の通りを挟んで向かいにあって、本当に近くに存在する小さな店だ。
一般の視聴者諸君からすれば、地域起こしのために無理やり入れられたように見えるだろう。だが、実際にこの店は時習生から人気なのだ。(※生徒のことを時習生と言う謎の呼称がある)
時習館は駅から5分で着くほど近いのだが、駅の沿線を歩いても何もなく、寂れた店と中身の分からない小さなビルしかない。
そのため飲食店は数えるほどしかなく、その結果、みやこは人気店だし、もう一つのパン屋「コンドーパン」も自動的に人気店である。どんなローカル店でも必ず繁盛する。だって他に競合がいないから。
私は現役時代に躍起になって新しい店を発掘しようとして、誰も客のいないハンバーグ屋さんに通っていたのだが(美味しかった)、卒業して2年後には潰れていた。
八奈見さんたちは何度もファミレスで話し合いをしているが、時習生がファミレスに行くのは中々に大変なのである。最寄りにはファミレスもマクドナルドなどのファストフード店もない(有ったらきっと人気になっているだろうに)。
苦肉の策で、電車通学であることを生かし、別の駅で降りてそこから徒歩20分かけてコメダ珈琲に行っていた。また、電車で学校と逆方向に行き、その駅の最寄りにあるガストに行くこともあった。
さて私が在学していた時、時習館の最寄りにタピオカ屋が新しく出来たことがあった。最初はみんな殺到して、私も夜7時の帰り頃に並びに行った。
しかし、そのタピオカ屋は私が卒業する前にもう潰れてしまったのである!なんと勿体無い!この不毛の大地、時習生は良い店をいつでも待っているというのに。
「あのタピオカ屋の場所で、何の商売をしていたら時習生が常連になったか」という話題で友達とディベートしたものだ。
(余談。みやこには「カロリーハーフ麺」というメニューが存在し、うどんの麺をこんにゃくに変更するというオプションがある。カロリーはハーフよりもっと下だろ!というメニューである。
八奈見さんが太ってしまったことを気にしていたので、私があの場にいたらカロリーハーフ麺に変えておいてあげたのに……)
③豊橋駅について。
店が全然ないという話から、「とんでもねえ田舎なんだな」と思われるかもしれないが、地味に発展はしている。しかし、車がないと厳しい程度の田舎ではある。
アニメ内でも出てきた豊橋駅とは、豊橋市の一番中心の場所であり、新幹線でも"ひかり"が停車する程度には大きい(※"のぞみ"は止まらない)。
豊橋駅の2階にはロータリーのように開けた場所があり、ストリートミュージックがよく行われている。
夜8時頃にここを通る際には、外国人から何かの勧誘を受けること請け合いである。発展している証左だろう。豊橋市の人口の6%は外国人で、中でもブラジル人が一番多く住んでいる。
文芸部のみんなが合宿していた宿泊所がある"田原"と、焼塩のおばあちゃんが住んでいる"新城"。これらは正式には田原市と新城市であり、豊橋市の近隣の別の市である。
まるでもっと遠い地域のように書かれていたが、我が時習館にも田原や新城に住んでいて通学している生徒がいる。
しかし、この新城においては、豊橋にくるためには別の路線を使わないといけない。その名を"飯田線"と言う。飯田線とはとても脆弱な電車で「(台風などの影響で)学校は休みにならなくても、飯田線は休みになる」という事態が発生する。そのため、新城の人間だけ一限に間に合わないということが稀によく起こる。
また、飯田線の駅には改札がないことがある。そのため、電車内を駅員さんが一通り歩いて、運賃を徴収しなければいけないのだ。私は個人的には、「改札を一度設置してしまえばずっと使えるだろうに、そんなに未来が無いと思われているのか?」と邪推してしまっている。
焼塩が帰る際のシーンに、電車の駅(状況的に飯田線の)が見られるが、そこに改札はなかった。
再現度100000000点加点(←そんなところ誰も気にしてない)。
④部活について。
気の回る読者諸君であれば、この私ーー筆者が、あの負けインたちが在籍する文学部に所属していたのではないか?と頭によぎったかもしれない。このような書き物をする趣味を持つ私のことだ、その性向からして入っていてもおかしくない。だがしかし、その答えに対しては否である。
しかし、私は時習館の文学部に関しては知っているし、部誌COSMOSは文化祭で購入しており今も実家に置いてある。
そして、私には時習館の文学部に「入らなかった」理由もあるのである。
部活を選ぶ理由において、積極的に「入らなかった」理由があるのは珍しいかもしれない。
時習館では、新入生歓迎会において、生徒制作のビデオを視聴することになる。このビデオは放送部が統括しており、各部活のプロモーション映像を2分ほどでまとまるように提出しなければいけないのだ。
このビデオを新入生たちに見せることで、部活選択の一助とさせてもらうのだが、やはりこのビデオにはそれぞれの部活の色が表れる。
部活には2種類ある。無難に行こうとするものと、尖ろうとするもの。そして、時習館高等学校の文芸部は後者に属する。
私は時習館の生徒として、新入生歓迎会に3回参加したことがある。そしてその3回とも、文学部のビデオでは同じ人物が登場していた。いや、正確に言うと人物ではない。
……馬だ。文学部においては、馬の被り物が代々継がれており、毎回ビデオに出演されるのだ。(馬の被り物、分かりやすく言うとポーションが作れそうな感じの)
尖っている文芸部に対して私が思ったこと。当時、入学したての私は意識が高かった。主に青春を送るという方向に。
それゆえに私は、もっと無難に、真っ当に青春が出来そうな部活を選ぼうとしていた(結局それは達成されないし、その考え自体が愚行だった)。
それが入部しなかった理由だ。
部活の話というと、私は別の部活に所属していたのだが(どこかは秘密)、一度廃部した部活に入ったので、私の代で新しく部活Tシャツを作ることになった。
その際、顧問の先生から厳しく条件を言い渡されたのである。というのも、部活Tシャツの色は黒じゃないといけないらしい。華美な色は使ってはいけないとのことで、背景が黒という縛りがある中でデザインして作った。今では良い部屋着になっている。
その部活Tシャツが黒でないといけないという理由が、「近隣の住民からクレームを言われたから」という嘘みたいな本当の話である。私としては、そんなクレームに屈してほしくなかったのだが、現実は厳しいらしく仕方ない。
是非、負けヒロイン内で部活Tシャツの話が出てくることがあったら、黒地のTシャツにしていただきたいものだ。知られざる規制について正しくお伝えできたら幸いである。
私とおそろいにしよう!!
八奈見さんの髪の色は青色だ。負けるヒロインに多い髪色だから青らしい。それにしても他の色と比べても青色とはとても鮮やかな色である、眩しいほどに。とても目立ちそうな色合いだ。
時習館高校は豊橋の中では一番の進学校とされ、これよりも良い高校に行くとなると違う市にある岡崎高校に行く必要がある。そのため、地域の住民からはとても素晴らしい学校だと思われている。「あなた時習館の子なの?すごい頭良いんだねえ」と近所のおばちゃんから褒めてもらえるぞ!
しかし、その実態は「自称」進学校と揶揄される類の学校である。
校則は全然自由じゃないし、土曜補講も日曜模試も多いし、文化祭だってしょぼい。前章で述べたような"部活Tシャツの黒縛り"だって中々に酷い。
「お前らの自主性を大切にする!」と言われながら(実際に"自考自成"という校訓がある)、やることに制約がありすぎるし、良い大学に入るためには勉強をしなければいけない。
やらないといけないことが多いくせに、やれないことも多すぎる。
入学時に「高校で青春してやる!」と意気込んでいた私の夢が、打ち砕かれるのは早かった。
皆なまじ頭が良いせいで、馬鹿になるほど青春に熱狂することもなく、どこか冷めたところがある中、青春をしている感じを出そうとする。そんな我々に、魂を震わせるほどの大恋愛などしている暇はないのである。そして失恋をしている暇もない。
近所の高校の体育祭では、女子が男子にサイダーを差し入れするなどというイベントがあり(サイダーだけに「振らないで」という意味をこめて)、青春を謳歌している中。我々の体育祭では、まず本番の体育祭が終わったら即解散である。女子はすぐ強制で帰らされるのだ。男子は強制で残される。その理由とは、男共だけが残ってキャンプファイヤーのような儀式をやる必要があるからだ。帰らされる女子も可哀想だし、これのために昼休憩の度に練習させられる男子も可哀想である。みんなで後夜祭しようよ。
さて、三年間というのは長いようで短い。不意にするには長いが、人生というスパンで見れば短い。高校とは、中学と大学を繋げる通過点だ。ここで怠けたら、せっかく積み上げたものを大学へと繋げられない。そんな未来がチラついて、現在に打ち込みすぎるやつがいない。有名な言葉でいうと、「まるでレールに載せられているようだ」である。
私にとっての時習館高校とは、現在に対する絶望感が仄かに漂う高校だった。
ーー私の高校の時の趣味は、"小説家になろう"を読むことだった。
お金もないし、図書室に行く気もないし、寝っ転がっていたかったからだ。費やした時間は半端ではない。ランキング上位の50ページくらいは全部読んだことがある。だからこそリゼロが好きで、「無料で読めるよ」と友達にオススメしたこともある。
さて当時、異世界転生を馬鹿にする文脈があって、「あんなものは仕事に疲れたオッサンが読むものだぞ」という意見を見た時に、ハッと愕然としてしまった。「私はそんなに疲れているのか?」と。
たしかに、異世界転生ものと呼ばれるジャンルが、全て素晴らしく良く出来たものだとは思っていない。だが、私は読むことがやめられなかったのだ。
なぜか?休みの時間に何をするかは自分で選べる。私に必要だったのは、束の間のファンタジーに身を浸すことだった。擦り減った何かを満たすように、ファンタジーはMPを回復させてくれる。
自動運転にしたら、運転に費やす時間から自由になりその間に生産的なことができるのか?
たぶんそんなことはない。
ロボタクシーはありかもしれないが、そもそもタクシーを必要とする人口がどれだけいるのか?
都市に住むと、流しのタクシーがいて、流しのタクシーが捕まらなくても駅のロータリーには必ずタクシーがいることに慣れ過ぎてる。
都民にはタクシーが身近であるが、ちょっと地方に行くと駅のロータリーにタクシーなんかいない。
そもそも駅もない。
そもそも、電車でさえ自動運転になってないのに、完全にヒトを排することができるのか?
結局、だれか見てる必要があるだろう。
一人で同時に200台くらい運転を見れるならとにかく、そんなことは人間には無理だ。
そもそも、タクシー運転手の時給が8000円くらいってんなら、ロボタクシーにも意味があると思うが、今程度だったら大した魅力はない。