映画「北極百貨店のコンセルジュさん」…ほのぼの鑑賞後の気持ちが良い.
製作年:2023年 製作国:日本 上映時間:70分
早くから気になっていたアニメ作品.上映回数も、上映館も減ってきたので
慌てておおたかの森まで遠征して観賞.
本年度累積277本目は丁寧に作られたほんわかな気持ちのアニメ作品.
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第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を受賞した西村ツチカ
の同名コミックをアニメーション映画化.
従業員は人間だがお客様はすべて動物である「北極百貨店」の新人コンシェルジュ
・秋乃は、フロアマネージャーや先輩コンシェルジュに見守られながら奮闘する
日々を送っていた.
百貨店にはあらゆる種類の動物たちがやって来るが、その中でも「絶滅種」である
「V.I.A(ベリー・インポータント・アニマル)」は個性派ぞろい.
妻を喜ばせたいワライフクロウ、父へのプレゼントを探すウミベミンク、プロポーズ
に思い悩むニホンオオカミなど、それぞれ悩みを抱える動物たちの思いに
寄り添うべく奔走する秋乃だったが…….
テレビアニメ「ボールルームへようこそ」の板津匡覧が劇場アニメ初監督を務め、
テレビドラマ「凪のお暇」の大島里美が脚本、「PSYCHO-PASS サイコパス」
シリーズのProduction I.Gがアニメーション制作を担当.
以上は《映画.COM》から転載.
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動きの激しいアクションものや訴求力の強い社会ものばかり観賞していると
心がささくれだってくる気がする.そんな荒れた気持ちをやんわりと和ませて
くれるアニメーション物語.
最近はハリウッド映画を中心に上映時間の長い作品が多いが、この作品は
わずか70分で豊穣な世界を描くことに成功している.キャラクターデザイン
がシンプルで漫画的な心地いいデフォルメがすごく効果的で、アニメーション
の芝居も素晴らしいものばかりだ.
百貨店のお客は、絶滅動物ばかりで、そこで接客するのは人間のみ.
その構造の裏側にある意図は世界の理不尽について考えさせる.
しかし、快活さは全く失われず、百貨店で客に歓びを届けることを誇りに
思う一人の女性の成長劇として見事に完成されている.
百貨店で働く人たちの所作が綺麗に表現されている.転じて動物キャラクター
たちもそれぞれの特徴が生かしたアニメーションが堪能できる.
神出鬼没の東堂(実は店長)とか、いつもヒロインに踏んづけられるペンギン
(実は社長)と適度に登場人物がコミカルで、面白い味付けがなされている.
これらは恐らく原作の持ち味であろう.
ウミベミンク父娘のお互いのプレゼント探しや、製造中止になった香水探し、
プロポーズ出来ないニホンオオカミのカップルの世話と、コンセルジュの
仕事である顧客満足のリアルを求めてヒロインの秋乃は奔走する.
いつも思うことであるが、販売業に於ける顧客は“神様”では無いと考える.
売価に相応のサービスを授受するビジネス・リレーションなだけで、どちらが
上位とか下位と位置付けすべきものではないと思うのである.
本作でもアザラシ婦人が、適合サイズ無しのドレスを巡ってクレーマーに
転ずるのだが、困って縮こまる秋乃に代わって、先輩の森が「お客様が
神様だとおっしゃるなら、他の神様のご迷惑になる行為はお止め下さい」
と啖呵を切って追い返す場面には溜飲を下げてしまった.
クレーマーには相応の対処をして許されると思うのだ.
絵本かと思うようなやさしい作画で、子供でも楽しめそうな仕上がりなのが嬉しい.
アニメーターとして著名だった板津匡覧監督の長編映画デビューは素晴らしい.
短いストーリーの積み重ねに過不足ない省略と心地よい成長譚.
ヒーロー物でも、ジブリでも、新海でもない、本作はもっと評価されても良い.
これは、来場プレゼントのポストカード.
プレゼント品って邪魔だから、
受け取らないかゴミ箱直行なのだけど、
本作のこれは、丁寧な絵でちゃんと持ち帰った.
ほのぼの作画のたまもの?
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