映画「正体」…横浜流星の大熱演!
製作年:2024年 制作国:日本 上映時間:120分
横浜流星主演、藤井道人監督なら外れは無かろうと
近所のシネコンで本年度累積234本目の観賞.
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染井為人の同名ベストセラー小説を、横浜流星の
主演、「新聞記者」「余命10年」の藤井道人監督
のメガホンで映画化したサスペンスドラマ.
日本中を震撼させた凶悪な殺人事件を起こして
逮捕され、死刑判決を受けた鏑木慶一が脱走した.
鏑木を追う刑事の又貫征吾は、逃走を続ける鏑木
が潜伏先で出会った人々を取り調べる.しかし彼ら
が語る鏑木は、それぞれがまったく別人のような
人物像だった.
さまざまな場所で潜伏生活を送り、姿や顔を
変えながら、間一髪の逃走を繰り返す鏑木.
やがて彼が必死に逃亡を続ける真の目的が
明らかになり…….
これまでも「ヴィレッジ」や「パレード」で藤井監督
とタッグを組んできた横浜が、姿を変えて逃亡
を続ける鏑木を熱演.
鏑木が日本各地の潜伏先で出会う人々を吉岡
里帆、森本慎太郎、山田杏奈が演じ、山田孝之
が鏑木を追う刑事の又貫に扮した.
以上は《映画.COM》から転載.
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ストーリーは王道系の逃亡劇なのだけど、
藤井監督らしいテンポがすごく良いのと、
無駄なシーンが一切無く観やすい出来上がりだ.
なにより逃亡犯鏑木を演ずる横浜流星の演技に
感心するところが多かった.鼻筋通った美男系の
横浜が、背中を丸めたベンゾーからおだやかな
佇まいの桜井まで、五変化の姿を演じる様は
見応えがあった.
養護施設で育ち、高校生で拘束された彼は、
逃亡してはじめて、世の中を知る.建設現場では、
接触する若者とシンクロし、彼の底知れぬ闇に
触れたようで、身が凍る思いをする.
一方で彼は、初めてお酒というものを飲み、
友達になろうと誘われる稀有な体験もする.
そこから一変、下請けライターとなった彼は、
もがきつつ闇から浮上した彼は、「信じる」と
言ってくれる存在、沙耶香:吉岡里帆に出会い、
スポンジが水を吸うように、瑞々しい感情を
次々におぼえていく.
ここで、彼を追う刑事又貫:山田孝之に
追いつめられるが、紗耶香の機転で
窓から飛び降り逃げ切る.
さらに雪深い街に流れ着き、介護職に就いた
彼は、周りに慕われ、頼られる存在になる.
彼に憧れを抱く舞:山田杏奈は、かつて真逆
の感情を持っていた.そんな皮肉に教えられるのは
日々の表面だけのニュースを聞き流し、
眺めているだけの我々自身の行動である.
逃亡中、世を忍んだ生活でほとんど喜怒哀楽
をあらわにしなかった彼が、沙耶香:吉岡里帆
の言葉に泣き、被害者の生き残り井尾:原日出子
と対峙して感情をほとばしらせる姿には胸が詰まる.
一方、感情を全く出さずに押し殺し、執拗に彼を
追う刑事又貫:山田孝之も熱演を見せてくれる.
主人公や彼に関わる人々が揺れ動く中で、彼
だけはぶれることなく対峙し続けようとする.
なりふり構わず脱獄し、居場所や風貌を変え、
逃亡を続ける主人公.逃亡ものは、追う者と
追われる者の攻防戦だ.ところが本作では、
刑事又貫が鏑木を追いながらも「なぜ逃げる
のだろう」と立ち止まることで、追う者の良心
の欠片を表現してみせる.
警察権力の横暴とか暴走の部分は又貫の
上司である川田:松重豊が全部引き受けた
演技を見せてくれる.好き悪役であった.
終盤に又貫が上司、組織の意向に逆らい
再捜査を宣言する場面は、ラストの無罪
判決と並んで希望を感じさせるシーンで
あった.
最後の畳み掛けのクライマックスは釘付け
になったし、鏑木の逃げた理由が鮮明に
明かされ、感動を呼ぶシーン.原作では
鏑木は射殺されるらしいが、本作では
又貫の同僚に肩を打ち抜かれるだけに
終わるのは、上手い脚本.サッドエンドは
相応しくないからね.
正しいことを正しいと認められる、正義を
信じることができる世の中であってほしい.
そう願いたくなる作品であった.
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