映画「犬王」…再びDVDにて
製作年:2021年 製作国:日本 上映時間:97分
まさか、今週末から劇場で再上映されるとはつゆとも知らず、レンタル屋
でDVDを借りてきてしまった.昨年劇場で公開初日に観て以来、また劇場
で観たいと熟望していた.今回はDVDの特徴を生かして、歌詞も含めて
字幕つきで観賞してみた.劇場で観た時とは一味違うモノとなった気がする.
本年度累積272本目は室町時代を舞台とした長編アニメーション.
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南北朝~室町期に活躍した実在の能楽師・犬王をモデルにした古川日出男
の小説「平家物語 犬王の巻」を、「夜明け告げるルーのうた」の湯浅政明監督
が映像化した長編ミュージカルアニメ.
京の都・近江猿楽の比叡座の家に、1人の子どもが誕生した.その子どもこそ
が後に民衆を熱狂させる能楽師・犬王だったが、その姿はあまりに奇怪で、
大人たちは犬王の全身を衣服で包み、顔には面を被せた.
ある日、犬王は盲目の琵琶法師の少年・友魚(ともな)と出会う.
世を生き抜くためのビジネスパートナーとして固い友情で結ばれた2人は、
互いの才能を開花させてヒット曲を連発.舞台で観客を魅了するように
なった犬王は、演じるたびに身体の一部を解き、唯一無二の美を
獲得していく.
湯浅監督がかつてアニメ化した「ピンポン」の漫画家・松本大洋が
キャラクター原案を手がけ、「アイアムアヒーロー」の野木亜紀子が
脚本を担当.
以上は《映画.COM》から転載.
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思えば公開は昨年の春だったのだね.もうずいぶん前だったような錯覚を
覚えた.それほど、中味を忘れていた気がする.まるで初見のような気持ち
で観られたことが逆に嬉しい.
家の小さな画面で見ても動きの見事さ、美しい美術に音楽など、どの要素
をとってもハイレベルだし、歌詞の深みがわかりやすい字幕付きは物語の
理解を助けてくれた.
室町時代に「平家物語」が正史とされ、将軍・足利義満により歴史から
抹殺された平家と犬王の歴史.本作では、そんな平家の忘れ去られた人々
の物語を、森山未來が扮する友魚と女王蜂・アヴちゃん扮する犬王により、
歌にのせロックに語ってくれるのだ。観れば観るほど歌のセリフが伝わり、
味わいが増していく.
犬王と友魚(友有)の熱唱とその踊りは圧巻.派手な衣装と化粧のメンバー
がカラフルな照明で浮かび上がる.激しく変形・躍動する犬王の肉体を
カメラが高速で追いかける.スクリーンを突き抜けるような垂直方向の移動、
真正面・真横の口元のアップなど多彩な画面設計が矢継ぎ早に繰り出され、
各謡曲とシンクロする.完璧なコンテポラリーダンスでもあり、ロック・ショー
でもあるのだ.
一方、漁村・市街・宮中などの日常は、枯れた色調で丁寧に描かれており、
絵巻さながらの横移動や手前から奥への広がりがゆったりと映される.
定点観測の短いカットで時間軸を一気に遡る演出や、視覚なき白昼や漆黒
に立ち現れる滲んだ影と光、音の視覚化、宵闇と炎の明暗対比など、
数多くの特殊映像シーンの挿入も素晴らしい効果を得ている.
本作で描かれるのは犬王と友魚の友情物語を基調としながらも、歴史に
押しつぶされ消えてしまった敗者の美学でしかない.
されど、二人を突き動かすのは芸能民の創作衝動だ.その場に満ちるのは
大衆の感動と愉悦であって、怨念や諦観ではないことは認識すべきであろう.
劇場で、大画面で、大音量で、他の観客と供に、この感動を共有するのも
また別な楽しみ方であろう.限定上映で観られるうちにもう一度観てみたい.
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