映画「無垢なる証人」 (DVD観賞)
原題:Innocent Witness
制作年:2019年 制作国:韓国 上映時間:129分
DVDでは必ず韓国作品を1本選ぶようにしている.本作はちょうど1年前の公開.
少ない上映館公開で見損なった作品.本年累積44本目の鑑賞.
「私の頭の中の消しゴム」「アシュラ」のチョン・ウソンが、正義と野心の間で揺れる
弁護士を演じたヒューマンドラマ.
「第5回ロッテシナリオ公募展」で大賞を受賞したシナリオを「戦場のメロディ」
「優しい嘘」のイ・ハン監督のメガホンで映画化し、殺人容疑者の弁護士と、
事件の目撃者で自閉症の少女の交流を描く.
信念を貫くことをあきらめ、現実と妥協して俗物になることを決めた弁護士の
スノは、出世のかかった殺人事件の弁護士に指定される.容疑者の無罪を
立証するため、唯一の目撃者の少女ジウを証人として法廷に立たせようとするが、
ジウは自閉症で意思疎通も難しい.
事件当日のことを聞き出すためジウと心を通わせことに努めるスノは、次第に
彼女のことを理解するようになり…….
ジウ役は「神と共に」2部作で注目された若手女優のキム・ヒャンギ.
以上は《映画.COM》から転載.
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元々は人権弁護士だったヤン・スノ:チョン・ウソンは、父親が保証人でこうむった
借金返済のために大手弁護士事務所に移籍する.所長に認められたヤン・スノは、
80歳の老人キム・ウンテクが家政婦オ・ミランによって殺された事件の弁護の
担当に.
彼女はウンテクがビニール袋で自殺を図ろうとしていたのを救護しようとしたと
無罪を主張した。有罪の唯一の決め手は、15歳の自閉症の少女イム・ジウの
目撃証言だけだった.
とにかく自閉症の少女ジウを演ずるキム・ヒャンギの演技力が素晴らしい.
20歳らしいが、見事に15歳の少女を、しかも自閉症を演ずるのは驚異.
韓国の俳優陣の層の厚さをしみじみ堪能….
パズルやクイズが好きで、青いグミも大好き.青いグミは信用出来るから.
他人の表情から喜怒哀楽を読み解く能力は低いものの、小さな音でも
聴こえる能力、計算能力、記憶力が尋常じゃない.
主人公ヤンが、検察側の証人なのにも関わらず自閉症のジウに近づいて
自閉症を理解しようとする経過と供に観客も自閉症を勉強していく….
自閉症スペクトラムとかアスペルジンガー症候群と位置付けされるのだろうか.
言葉の遅れがない、むしろ言語能力が高いためにIQが高いこともある、
対人関係の障害、独特のこだわり・感覚過敏…等々、知らなかった自閉症の
世界を垣間見た気にさせられた.言葉だけではなく自閉症の立場の映像も
衝撃的だった.こんな風に感じているのかと思い知らされる.
弁護士である主人公が検察側の証人に入れ込んでいくという矛盾が
根本にあるテーマなのに、公募展で大賞をとったこの脚本は、無理くりな
解決に進んでいく.
一審では主人公が証人の証言の無効性を説き、無罪となる.信じていたスノに
「障がい者」だと言われジウはショックを受ける.が、ここからの展開は面白い.
自らも弟に自閉症を持つイ検事から”自閉症スペクトラムの人と信頼関係を
持つには、その世界に入る事”とアドバイスを受けたスノはイム・ジウと徐々に
距離を縮めて行く.
-その過程で、自閉症スペクトラムの人が抱える困難、特性を学んでいくスノ.
イム・ジウの親友だと思っていた少女が実は、彼女を苛めていたり、自閉症の
一部の人の聴力が人並外れている事を知ったり.そして、イム・ジウが
”高機能自閉症スペクトラム”であることが徐々に明らかになってくる.
クライマックスは第二審.イム・ジウが母親の反対を押し切って公判に出るという.
”お母さん、私は証人になりたい・・。みんなに真実を教えてあげたい”
公判に出れば、再び傷つく可能性があるのに、その決意は固かった.
こともあろうか、スノは弁護士という立場から離れ、自閉症スペクトラムの人の
証言の有効性を様々な事例で裁判長に訴える.驚く”世間の垢に塗れた”
弁護士事務所の所長の態度は極めて法的には正しい.
そして、証人イム・ジウの驚異的な聴力が事件当日のキム・ウンソクと家政婦の
オ・ミランとのやり取りを法廷で再現する….
スノが被告オ・ミランに正直に罪を告白して黒幕を明かせば刑は軽くなる、と
恫喝するのはやり過ぎであろう.二審の結果は被告オ・ミラン有罪となる.
意外な展開での法廷劇の面白さに酔った.スノが検察側の証人の自閉症の
少女から触発され、且つての自らの理念を思い出していく過程などを丹念に
描いていて、面白く鑑賞した作品.
自閉症に対する新たな理解を得たような気もする.映画に学ぶこと多しだ.
韓国映画の素晴らしさを堪能した一作.
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