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2023年の映画鑑賞の振り返り(好きな映画10選)


2023年映画鑑賞振り返り



毎年精選して観ると宣言しているにも拘わらず、
今年も現時点で307本も映画を観てしまっている.
内DVD観賞は120本、残り187本は劇場鑑賞.

DVDもほとんどは新作ゆえ今年公開の作品が
ほとんど.要はほとんどが今年の公開新作である.

又今年も邦画と洋画で各5本ずつ、好きな作品を
選んでみた.以下に簡単なコメントと供に紹介.

先ずは邦画から.
今年はけっこう選ぶに苦労した.候補が10本もあった.

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「BLUE GIANT」


「BLUE GIANT」


JAZZを描いたアニメ作品としては出色の出来.
音楽担当の上原ひとみの力に寄る部分が多い.
JAZZに賭ける青春、学生時代にはまり込んだ
JAZZ熱を甦らせる熱量をもっていた作品.

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「THE FiIRST SLAM DUNK」


「THE FIRST SLAM DUNK」


正しくは2022年暮れの公開だが、今年観た.
懐かしくも新鮮な味わいが凝縮された佳作.
伝説の山王戦を中心に、いくつもの視点から
あぶり出される新たな味わいは原作者が監督
を担当したならではの味付けの成功例である.

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「怪物」


「怪物」


同じ事件を3つの視点から描き出す巧みさ.
視点の違いは生き方の違い、思想の違いでもある.
大人たちの息苦しさに比して、子供たちの活き活き
した生活とその演技の差を突きつける是枝監督の
挑戦的作品.私は評価したい.

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「福田村事件」


「福田村事件」


大きな過ちの記録として貴重としか言えない作品.
群集心理の危うさは今も同じ状況であることは
間違いない.そんな過ちに巻き込まれないのには
一歩も二歩もアウトサイダーで居ることが肝要.
そんな事を考えさせてくれる貴重な機会を与えて
くれた作品.

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「PERFECT DAYS」


「PERFECT DAYS」


本作を邦画とするかは意見の分かれる所かもしれない.
外国人監督が撮ったのでも、ここに表されるのは日本人の
生活、気質、人生であり、その舞台も紛れもない日本なのだ.
恐るべき役所広司の演技力を見せつけられる本作.
演技、映像、音楽、どれをとっても一流を感じさせる傑作.


次点は「アンダーカレント」.

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そして洋画編.これまた選ぶに苦労した.

「イニシェリン島の精霊」


「イニシェリン島の精霊」


アイルランドにある孤島での物語.
信仰や思想、主義主張の違いから仲たがいし、
さらには殺傷し合う内戦の愚かしさと悲劇が、
主人公パードリックと長年の友人コルムの関係に
しかと投影されている.悲劇に向かって行く二人.
その寒々とした風景と印象深い闘争劇は忘れられない.

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「別れる決心」


「別れる決心」


なんと1年の間に4回も観てしまった作品.
自らの感性にもっとも訴えてきた作品.
俳優たちの演技も、小物使いの優れた点、
ドロドロした殺人ものの風体を見せながらも
しっとりした悲恋物語に心打たれた.
生涯のベストにも入る名作と思っている.

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「対峙」


「対峙」


超地味な作品なれど、心に深く刻み込まれた作品.
教会の一室で銃乱射事件で子供を殺された両親と
加害者の両親が4人で話し合う、シンプルな作品.
被害者の両親は、なぜこんな事件が起きたのかを
知りたい.しかし、親だけれど子供の心の闇に気が
付けなかったことが悔恨として重くのしかかる.
それでも息子を愛する気持ちは捨てられない.
「赦し」とは何かを深く探究した傑作.

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「TAR ター」


「TAR ター」


なんといっても、ケイト・ブランシェットの演技の凄さ.
指揮のパフォーマンスや後半の追いつめられていく
様の演技含めて、ほんとに指先まで演技が浸みて
いて素晴らしい.頂点を極めてからの奈落への転落.
最後は本質を見極めたと判断したいのは身びいきで
あろうか?

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「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」


「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」


定年間際の老考古学者インディが再び冒険へ出て
なんと紀元前のローマにまで吹っ飛ぶ荒唐無稽さに
合わせて過去の出演者を適時配して過去作の
オマージュにも酔わせてくれる.シリーズ最後のまとめ
方としては最善であったろうラストシーンに涙した.


洋画の次点は、「青いカフタンの仕立て屋」.

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最後に備忘の為2023年観賞作品名を以下に記す.

001.メイズ・ランナー 最期の迷宮(DVD観賞)
002.近江商人、走る!
003.ケイコ 目を澄ませて
004.スパイダーマン ノー・ウェイ.ホーム(DVD観賞)
005.非常宣言
006.あのこと
007.タンゴ・ワン(DVD観賞)
008.ラスト・ブラッド/修羅を追え(DVD観賞)
009.ファイブ・デビルズ
010.ドリーム・ホース
011.ファミリア
012.嘘八百 なにわ夢の陣
013.そして僕は途方に暮れる
014.神は見返りを求める(DVD観賞)
015.SHE SAID シー・セッド その名を暴け
016.離ればなれになっても
017.ヒトラーの忘れもの(DVD観賞)
018.ひみつのなっちゃん
019.エンドロールのつづき
020.レリック 遺物 (DVD観賞)
021.MAD GOD
022.FLEE フリー(DVD観賞)
023.レジェンド&バタフライ
024.スパイダー・イン・ザ・ウェブ/巣の中のクモ(DVD観賞)
025.パラレル・マザーズ
026.今はちょっと、ついていないだけ(DVD観賞)
027.戦場記者
028.シュリ (DVD観賞)
029.シン・シティ (DVD観賞)
030.イニシェリン島の精霊
031.仕掛人・藤枝梅安
032.ザ・コンストラクター(DVD観賞)
033.VETERAN ヴェテラン リベンジ (DVD観賞)
034.バビロン
035.かそけきサンカヨウ (DVD観賞)
036.デュアル (DVD観賞)
037.スクロール
038.タンゴ・レッスン(DVD観賞)
039.バニシング 未解決事件(DVD観賞)
040.シャイロックの子供たち
041.BLUE GIANT
042.崖上のスパイ
043.別れる決心
044.Sin Clock
045.アルフィー(DVD観賞)
046.湯道
047.別れる決心 再び
048.エンパイア・オブ・ライト
049.ソウル・オブ.ワイン
050.ドアーズ(DVD観賞)
051.Miss.ガンズ(DVD観賞)
052.フェイブルマンズ
053.エヴェリィシング・エヴェリィウエアー・オール・アット・ワンス
054.つむじ風食堂の夜(DVD観賞)
055.すべてうまくいきますように
056.ブラックライト
057.丘の上の本屋さん
058.Winny
059.オットーという男
060.PIG/ピッグ(DVD観賞)
061.JSA (DVD観賞)
062.モリコーネ 映画が恋した音楽家
063.プロトタイプA 人工生命体の逆襲(DVD観賞)
064.ミッドナイト・マーダー・ライブ(DVD観賞)
065.ロストケア
066.ドント・ウォーリー・ダーリン(DVD観賞)
067.シン・仮面ライダー
068.ザ・フィクション(DVD観賞)
069.ワイヤー・ルーム(DVD観賞)
070.生きる LIVING
071.銀平町シネマブルース
072.ゴッホの「ひまわり」に隠された謎
073.いつかの君にもわかること
074.赦し
075.零落
076.TITAN タイタン(DVD観賞)
077.キャプテン・ノバ(DVD観賞)
078.パリタクシー
079.仕掛人・藤枝梅安2
080.もっと超越した所へ。(DVD観賞)
081.ザ・ホエール
082.“それ”がいる森(DVD観賞)
083.ワイルド・ロード(DVD観賞)
084.WORTH 命の値段
085. コンペティション
086.対峙
087.コンパートメントNo.6
088.search #サーチ2
089.アナザープラネット(DVD観賞)
090.デッド×リミット絶体絶命(DVD観賞)
091.こちらあみ子(DVD観賞)
092.別れる決心…三度目
093.メグレと若い女の死
094.アラビアンナイト三千年の願い
095.劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室
096.CONTROL コントロール(DVD観賞)
097.(r)radius ラディウス(DVD観賞)
098.中森明菜イースト・ライヴ インデックス23
099.ザ・スーパーマリオブラザース・ムービー
100.ワーニング 地球最期の日(DVD観賞)
101.銀河鉄道の父
102.ガーデイアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3
103.戦争と女の顔(DVD観賞)
104.トリとロキタ
105.EO イーオー
106.MEMORY メモリー
107.TAR ター
108.シェフと素顔と、おいしい時間(DVD観賞)
109.THE FIRST SLAM DUNK
110.CHASE チェイス 猛追(DVD観賞)
111.若き仕立て屋の恋
112.ソフト/クワイエット
113.最後まで行く
114.ノースマン 導かれし復讐者(DVD観賞)
115.バイオレント・ナイト(DVD観賞)
116.The Son/息子
117.レッド・ロケット
118.65/シックスティファイブ
119.アンダー・カヴァー 潜入捜査の掟(DVD観賞)
120.The Witch/魔女-増殖-
121.波紋
122.スモール・ワールド(DVD観賞)
123.聖地には蜘蛛が巣を張る
124.怪物
125.渇水
126.夜、鳥たちが啼く(DVD観賞)
127.アルマゲドン・タイム ある日々の肖像
128.セールス・ガールの考現学
129.午前4時にパリの夜は明ける
130.アダマン号に乗って
131.アサシン・ハント エージェント:ゼロ(DVD観賞)
132.ウーマン・トーキング
133.岸辺露伴ルーブルへ行く
134.アブソリュート/服従者(DVD観賞)
135.ウィ、シェフ!
136.ザ・スパイ エージェント・ウルトラ(DVD観賞)
137.テノール! 人生はハーモニー
138.探偵マーロウ
139.せかいのおきく
NCT. TVドラマ「岸辺露伴は動かない」シーズン2 (DVD観賞 )
140.それでも私は生きていく
141.パーフェクト・ドライバー(DVD観賞)
142.大名倒産
143.潜水艦クルスクの生存者たち(DVD観賞)
144.アシスタント
145.ぼくたちの哲学教室
146.トゥ・レスリー
147.インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
148.サイレント・ナイト(DVD観賞)
149.ブラック・サイト 危険区域(DVD観賞)
150.ローグ・ワン(DVD観賞)
151.苦い涙
152.小説家の映画
153.PANDORA パンドラ エネミー・イン・ウォーター(DVD観賞)
154.リバー、流れないでね
155.1950 鋼の第7中隊(DVD観賞)
156.ペトラ・フォン・カントの苦い涙
NCT. TVドラマ「岸辺露伴は動かない」シーズン3 (DVD観賞 )
157.エリック・クラプトン アクロス24ナイツ
158.君たちはどう生きるか
159.MONDAYS このタイムループ、上司に気付かせないと終わらない(DVD観賞)
160.ノック 終末の訪問者(DVD観賞)
161.フラッグ・デイ 父を想う日(DVD観賞)
162.カード・カウンター
163.SMILE スマイル(DVD観賞)
164.ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE
165.八月のクリスマス(DVD観賞)
166.ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたち(DVD観賞)
167.シー・フォー・ミー(DVD観賞)
168.鋼鉄はいかに輝くか(DVD観賞)
169.プチ・ニコラ パリがくれた幸せ
170.山女
171.神回
172.キングダム 運命の炎
173.Close
174.青いカフタンの仕立て屋
175.658km、陽子の旅
176.HITMANヒットマン・ザ・ファイナル(DVD観賞)
177.エクソダス爆弾に取り憑かれた男(DVD観賞)
178.わたしのお母さん(DVD観賞)
179.アフター・サン
180.トランスフォーマー ビースト覚醒
181.カールじいさんのデート
182.マイ・エレメント
183.さらば、わが愛 覇王別姫
184.リボルバー・リリー
185.マッシブ・タレント(DVD観賞)
186.ブラッド・チェイサー 呪術捜査線(DVD観賞)
187.逆転のトライアングル(DVD観賞)
188.リボルバー・リリー 再び
189.古の王子、3つの花
190.クライムズ・オブ・ザ・フューチャー
191.高野豆腐店の春
192.キリクと魔女(DVD観賞)
193.アカポリプス 宇宙終焉(DVD観賞)
194.リベンジング・ハードナイト(DVD観賞)
195.サントメール ある被告
196.春に散る
197.SAND LAND
198.X (DVD観賞)
199.きさらぎ駅(DVD観賞)
200.ディリリとパリの時間旅行(DVD観賞)
201.MEG ザ・モンスター(TV観賞)
202.ローマの休日 4Kレストア版
203.アステロイド・シティ
204.バカ塗りの娘
205.福田村事件
206.裸足になって
207.母の聖戦(DVD観賞)
208.エドワード・ヤンの恋愛時代
209.夜明けまでバス停で(DVD観賞)
210.イリュージョニスト(DVD観賞)
211.スイート・マイ・ホーム
212.M3GAN ミーガン(DVD観賞)
213.ふたりのマエストロ
214.ほつれる
215.エア・フォース(DVD観賞)
216.名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊
217.ミステリと言う勿れ
218.私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター
219.アルファ・コード(DVD観賞)
220.ソウルに帰る
221.ジョン・ウィック コンセクエンス
222.オオカミ狩り(DVD観賞)
223.ロスト・キング 500年越しの運命
224.コンフィデンシャル 共助(DVD観賞)
225.アイデンティティー(DVD観賞)
226.コンフィデンシャル 国際共助捜査
227.死を告げる女(DVD観賞)
228.BAD LANDS バッド・ランズ
229.沈黙の艦隊
230.見知らぬ隣人(DVD観賞)
231.テロ、ライブ(DVD観賞)
232.97ミニッツ、フォールアウト(DVD観賞)
233.ファルコン・レイク
234.イコライザー THE FINAL
235.アナログ
236.ビバリウム(DVD観賞)
237.君だけが知らない(DVD観賞)
238.バーナデット、ママは行方不明
239.白鍵と黒鍵の間に
240.エリザベート1878
241.アンダーカレント
242.キリエのうた
243.春画先生
244.月
245.ネメシス 黄金螺旋の謎(DVD観賞)
246.イチケイのカラス(DVD観賞)
247.殺すな(DVD観賞)
248.オペレーション・フォーチュン
249.ザ・クリエイター 創造者
250.スネークヘッド(DVD観賞)
251.キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
252.ブリッツ(DVD観賞)
253.おまえの罪を告白しろ
254.警官の血(DVD観賞)
255.唱う六人の女
256.ドミノ
257.エージェント・アンヌ(DVD観賞)
258.レオン 完全版
259.ダンサー・イン・パリ
260.エゴイスト(DVD観賞)
261.ゴジラー1.0
262.かがみの孤城(DVD観賞)
263.コロニアルズ 侵略
264.別れる決心 4度目の鑑賞(DVD観賞)
265.愛にイナズマ
266.正欲
267.マーベルズ
268.死体の人(DVD観賞)
269.法廷遊戯
270.理想郷
271.私がやりました
272.犬王(DVD観賞)
273.デシベル
274.オールドマン(DVD観賞)
275.赤ずきん (DVD観賞)
276.リアリティ
277.北極百貨店のコンシェルジュさん.
278.愛人 ラ・マン(DVD観賞)
279.ロスト・フライト
280.首
281.不思議の国の数学者(DVD観賞)
282.エスター(DVD観賞)
283.エスター ファースト・キル(DVD観賞)
284.ヨーロッパ新世紀
285.ナポレオン
286.怪物の木こり
287.バッド・デイ・ドライブ
288.隣人X ー疑惑の彼女ー
289.あの夏、いちばん静かな海。(DVD観賞)
290.聖闘士星矢 The Beginning(DVD観賞)
291.ほかげ
292.市子
293.翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~
294.THE KILLER 暗殺者(DVD観賞)
295.マエストロ:その音楽と愛と
296.キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)
297.人生は、美しい
298.VORTEX ヴォルテックス
299.ティル
300.ポトフ 美食家と料理人
OCT.スタートレックディスカバリーSeason 4(DVD観賞)
301.ガンズ&バレッツ CODE:White(DVD観賞)
302.恋のいばら(DVD観賞)
303.PERFECT DAYS
304.終末の探偵(DVD観賞)
305.プレデターD4(DVD観賞)
306.枯葉
307.きっと、それは愛ではない


映画「きっと、それは愛じゃない」…恋愛+宗教問題も.


映画「きっと、それは愛じゃない」-6
原題:What's Love Got to Do with It? 製作年:2022年
製作国:イギリス 上映時間:109分



きっと2番館に来るであろうと予測できても、公開時に観たい作品だってある.
久々のヒューマントラストシネマ有楽町で観たのはイギリス製の恋愛もの.
本年度累積307本目の鑑賞.
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「エリザベス」のシェカール・カプール監督が、多文化が共存する街ロンドンを
舞台に描いたラブストーリー.

ドキュメンタリー監督のゾーイは幼なじみの医師カズと久々に再会し、彼が
見合い結婚をすると聞いて驚く.今の時代になぜ親が選んだ相手と結婚するのか
疑問を抱いた彼女は、カズの結婚までの軌跡を追う新作ドキュメンタリーを
制作することに.

ゾーイ自身は運命の人の出現を待ち望んでいるが、ダメ男ばかりを好きになり
失敗を繰り返していた.そんな中、条件の合う相手が見つかったカズは、両親も
交えたオンラインでお見合いを決行.数日後、カズから婚約の報告を受けた
ゾーイは、これまで見ないふりをしてきたカズへのある思いに気づく.

「シンデレラ」のリリー・ジェームズがゾーイ役で主演を務め、テレビシリーズ
「スター・トレック ディスカバリー」のシャザト・ラティフがカズ、「クルエラ」の
エマ・トンプソンがゾーイの母を演じた.

以上は《映画.COM》から転載.
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邦題タイトルが結末を予想させるし、本質的にはややミスリードな気もする.
アラサー女子を引きつける題とは思うが…(汗).
原題は“What's Love Got to Do with It?”ティナ・ターナーの歌のタイトル
だったらしい.英語の慣用句らしいが、“It”を結婚と当てはめるなら、“愛と結婚
って関係有るの?”みたいな訳になるのだろうか?

この題名から想像できる内容とこの作品が持つ主張性は多少異なる.
素敵な恋愛ものではあるのだが、宗教・結婚観・多様性・寛容性について
考えさせられる.監督がインド系のパキスタン人なのが、その立ち位置を
良く表しているような気がする.

王道の幼馴染の恋愛ものに見合い結婚(Arranged marriage)と異文化交流
という三題話しの物語.イギリス映画だけど、途中が歌って踊るインド映画に
なってしまうのは、監督の所来から?


映画「きっと、それは愛じゃない」-5


ゾーイ:リリー・ジェームズはドキュメンタリー映画監督.といっても脚本から編集、
撮影まで全部一人でこなす家内興行制(笑).副長が勤めていた会社のシネマ
カメラ(一眼レフタイプ)を使用していることで、グッと好感度アップ(笑).


映画「きっと、それは愛じゃない」-2


その題材の被写体となるカズ:シャザト・ラティフは医師で教養もあるが伝統も
重んじるパキスタン人.両親の思いは尊重したいが、両親が勧めるお見合い結婚
に進んで参加するのは、それだけではない.いつか冷める愛よりも、徐々に温め合う
愛の方が好ましいと思っているからで、それは理知的な態度でもある.
なにより、根が善人である.

そんな善人カズを通して、観客はゾーイとともにパキスタンの伝統や文化に
触れていく. ムスリムのパキスタンといえども、祖父母や両親世代と30代の
カズ世代とは考え方も異なるし、カズのお見合い相手マイムーナ:サジャル・アリー
の20代のさらに若い世代とはさらにまた異なる.


映画「きっと、それは愛じゃない」-4


カズの妹の結婚相手がイスラム教徒でなく自由恋愛の結婚であった事から、
祖母が異教徒なんかの結婚は断じて許さん、ということで疎遠になっている
背景が伏線でもあるし、イスラム教の根底も表している.

911世代であるカズのセリフに「テロが起こるたびに謝らなきゃいけない」には
イスラム教徒の気持ちの代弁を感じたし、お見合い結婚を理解しないゾーイに
対し「隣同士でも47番地と49番地は違う大陸だ」には笑ってしまう.

ちなみにゾーイとカズはロンドンで隣同士に住み、欧州は道を挟んで奇数と偶数
の番地に住み別れるのだ.よって47番地と49番地は隣同士なのだ.

そんな仲を取り持つのがゾーイの母キャス:エマ・トンプソン.幼い頃にフラワー
ムーブメントの残滓に接した母親は、隣家とフレンドリーに付き合っている.
多様な異文化を受け入れる英国の代表選手みたいに、隣家のパキスタン文化
にどっぷり漬かっている.


映画「きっと、それは愛じゃない」-3


この母のセリフも効いている「好意から始まって愛に変わって行く方がいい」は
カズの結婚観を支持しているように見え、カズとゾーイの関係も示唆している.
離婚するのに3回言うだけで良いということに、「便利ねえ」だか「楽ねえ」と
茶化してみたり、カズの結婚式のダンスで入るところ間違えたりして、
すっかり道化役を演じていて、エマ・トンプソンらしい上手さを見せてくれる.

もう一つの味付けがディズニー・ティスト.
作品の冒頭でゾーイが友人の子供に読むおとぎ話.スリーピングビューティー
と白雪姫の視点からの、彼女たちが眠り続ける理由の解釈がディズニーと
全く異なるのが皮肉たっぷりだった.そして最後にカズがゾーイを求めて、
懐かしいツリーハウスの根本に来て、「僕のラプンツェル、髪を下ろして」と
迎えを願うシーン、思わずにやりとしてしまった.

結婚は二人でするものなのに、文化とか宗教とか家族とか絡んできて、
選択肢も沢山有って難しい ラブストーリーに仕上がっていた.そこに加えて
異文化結婚式の紹介、家族愛に踊るエマ・トンプソンと楽しませてもらった.

映画「PERFECT DAYS」…2023年を締めくくる名作.


映画「PERFECT DAYS」-8
原題:PERFECT DAYS 製作年:2023年
製作国:日本 上映時間:124分



役所広司の演技を観たくて公開初日に近所のシネコンで観賞.
本年度累積303本目の鑑賞.
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「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠
ビム・ベンダースが、役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台に
トイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ.

2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、
役所が日本人俳優としては「誰も知らない」の柳楽優弥以来19年ぶり
2人目となる男優賞を受賞した.

東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山.淡々とした同じ毎日を
繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな
喜びに満ちている.

昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読む
ことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった.そして木が
好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるか
のように木々の写真を撮っていた.
そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、
彼の過去に少しずつ光が当たっていく.

東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイター
が改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、
東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台
に描いた.

共演に新人・中野有紗のほか、田中泯、柄本時生、石川さゆり、三浦友和ら.
カンヌ国際映画祭では男優賞とあわせ、キリスト教関連の団体から、人間の
内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞した.

以上は《映画.COM》から転載.
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先ずは静寂で上質な作品であった.セリフ少なく、表情で魅せる演技.
落ち着いて美しい映像、そして音楽の使い方がまた秀逸だ.
こんな作品を年末に味合うことが出来る幸せに酔った2時間であった.

平山:役所広司は寡黙な男であり、規則正しく、ルーティンをこなす.
毎朝植木に水をやり、仕事を終えると銭湯に行き、居酒屋で酒を飲み、
部屋では古本を読みながら寝落ちする….

極力他人と関わらないことで“孤独”であることを忘れようとしている
のかもしれないが、“孤独”=自由を享受しているようにも見える.
50歳をゆうに過ぎているであろう男が、なぜアパートで一人暮らし
をして、清掃員の仕事を黙々としているのか.

その研ぎ澄まされたような姿は悟りに至った僧侶のようにも見える.
だが、そんな彼が見ている世界、ふとした時に向ける視線の先には
木々や光が溢れている.朝日、木漏れ日、夕日、街並みや公園、トイレ、
運転中の車のフロントガラスなどの光の屈折や反射.それぞれを
愛しんで、人生を楽しんでいる風を役所広司は淡々と演ずる.

良作品は決まってガゼット使いが上手い.平山が作業着の胸ポケット
に忍ばせているフィルム・カメラ、OLYMPUSの名機“μ(ミュー)”だ.


映画「PERFECT DAYS」-9


昼休みの公園で木漏れ日をファインダーも見ずにシャッターを押す.
36枚撮ると、カメラ屋(もはや死語だ)に持ち込み現像してもらい、
気に入った写真だけブリキ缶に入れて押し入れに保管している.

もう一つ大事なガゼットがカセットテープ.60〜70年代の流行った
曲の音楽カセット.トイレ清掃の作業車でも聴くし、アパートの部屋でも
聴いたりする.

冒頭のザ・アニマルズの「THE HOUSE OF THE RISING SUN」
(朝日のあたる家)、表題曲のルー・リードの「PERFECT DAY」、
ニーナ・シモンの「FEELING GOOD」など、平山がカセットテープ
で聞く音楽は彼の心情を表すような選曲となっている.

さらにこの作品は、“音”にもこだわりをみせる.セリフが無い分だけにだ.
自然音や日常生活から聞こえてくる音、早朝の竹ぼうきの音にはじまり、
夜が明けていく時の小鳥の鳴き声、風の音、雨の日の雨音、公園の
子供の声からトイレ掃除の音に至るまで、監督の繊細なこだわりが
音でも積み重ねられているの感じられて心地良いのだ.

中盤までは平山は一言も喋らず、口が利けない男なのかと思うほど.
本当にミニマムで上手い構成と感心させられる.与えられる情報の
積み重ねによって、平山の背景が垣間見えて来る….

なぜ、彼はアパートに一人暮らしなのか、なぜ、トイレ清掃員なのか、
という疑問が、本当に微かではあるが、腑に落ちて、ビム・ベンダース
の脚本と演出の妙にそのまま映画の中に引き込まれていく自分に気付く.

世界的な建築家たちが携わった東京・渋谷にある17のおしゃれトイレ
が舞台というのも上手い.それらのトイレを黙々と清掃し、磨き上げる
平山の姿は神々しくも見えてくる.

しかし何よりも、平山を演じる役所広司の、人を遠ざけず、かと言って
近づけず、日々の生活を存分に楽しんでいるようで、その反転、
心の底には深い悲しみを湛えている.そのハッピーでアンハッピーな
役所広司の表情と演技が凄いのだ.これはカンヌの主演男優賞に真に
値すると思った.


映画「PERFECT DAYS」-3


味付けとしての共演者の存在も邪魔でなく、それでいて存在感を
印象づけるキャスティングであった.一緒に働く若者に柄本時生.
軽薄短小な人物に描かれていて適役.平山の別れた元妻に麻生祐未.
その娘ニコに新人中野有紗、初々しい演技であった.通いの飲み屋
のママに石川さゆり、それは見事な「朝日のあたる家」を聴かせてくれた.
その別れた夫に三浦友和.癌を病む哀しい男と平山は一緒に影踏み
をしてみせる.

映画「PERFECT DAYS」-6


特筆すべきは、トイレのある公園で出遭うホームレスに田中泯.
すれ違う度に平山と黙礼する程度だが、会う度にパントマイムの
ような、あるいはダンスするよなしぐさを見せる.それは彼のダンス・
センスの凝縮されたスタイルで、ハッとさせられるほどのインパクト
がある.そのセンス有るボロ着スタイルも含め極めて印象的だった.

後半の突然の訪問者や他人との関わりによって、平穏だった平山
の日常と心情が揺らぎ始める.泣き笑いが増えてくる….
平山の過去はほんの少し浮き上がってくる.かなりの大富豪一家の
婿であったが、義父とのいさかいで飛び出たこと.ニコとは義理の
関係かもしれないが、親子だということ….

それでも、平山は今の生活“PERFECT DAYS”を続けようとする.
今日も完璧な一日にするべく、ありのままの自分として生きよう
とする境地に至ったその理由を推測させる楽しみを与えてくれる
本作の作りは潔い.

こんなふうに生きていけたらなと、ちょっと羨ましく思えた.
2023年を締めくくるに相応しい名作だ.


今週のランチ事情(2023年第51週)



いよいよ2023年の最終週だね.
今年も良く食べた(笑).

今週のランチ模様を.
今週も先週の土曜からの記録.
土日火木金は内食、 月水は外食.

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土曜は自宅で内食.

レトルト・カレーを温めた.


ランチ20231223-1


セブン製の激辛チキンカレー

“チキンカレーと7目サラダ”


ランチ20231223-2


ご飯は中盛、200g位だね.
いやぁ、市販品の中では辛い部類.
箱には子供には食べさせるな、と
あるが、子供なら泣いちゃう辛さ(笑).

サラダにはKALDIの旨ドレッシングを.

デザートはセブン製の
“チーズケーキ”


ランチ20231223-3


薄甘くて美味しい.
エスプレッソと会わせて.

会わせて約900Kcal、材料費470円也.

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日曜は娘宅で内食.

退院祝いとX’masパーティも兼ねて.
チキンとパエリア、そしてビーフシチュー
いただくつもりだったが、孫1の溶連菌、
孫2の世話で空振り.間に合わせの
「vie de france」のパン群で15時にランチ.


ランチ2023124-1


副長チョイスは、
“ピロシキ”と“チョコ・コロネ”


ランチ20231224-2

ランチ20231224-3


飲み物は、温かいほうじ茶.

約620KCal、380円也.

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月曜は出先で外食.

柏の「Teshi」にて.
年始用のローストビーフとチャーシュー
の予約のついでに.

“豚肉の生姜焼きとチキンかつ定食”


ランチ20231225-1


ボリュームたっぷり.生姜の効いた
豚肉をほおばり、熱々のチキンかつ
を味わう.野菜もたっぷりだ ♪

ご飯小盛りで.中華スープ付き.

プライスフリーのドリンクは
ホット珈琲で.


ランチ20231225-2


約880KCal、1000円也.

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火曜は自宅で内食.

チャンポンを自作した.

“自家製チャンポン”


ランチ20231226-1


麺とスープは市販品.
やっぱり中太の丸麺じゃなきゃね!

野菜パックに、
さつま揚げ、海鮮ミックスを
投入して炒める.先週とは違って
海老とかあさりが入って、美味!

スープ、麺を投入して
一緒にくたくた煮るのが
チャンポンの作り方.

「Teshi」で購入のチャーシューと
ゆで玉子も投入.

市販スープでも野菜出汁と
混じり合い、美味しい!!

デザートは、セブン製の
「三層仕立ての生チョコトリュフケーキ」


ランチ20231226-2


エスプレッソと合わせて.

合わせて約860KCal、材料費390円也.

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水曜は出先で外食.

日比谷シャンテ前の「一二三」にて.


日比谷一二三看板


“牡蠣フライセット”


ランチ20231227


冬季限定に吊られて、
名物の鹿児島豚を吹っ飛ばして
しまった…(泣).
でも、滋養分豊かでシューシーな
広島牡蠣を堪能.

ご飯は少なめ、キャベツはお代わり.
汁は豚たっぷりの豚汁 ♪

約950KCal、1850円也.

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木曜は自宅で内食.

パスタをゆでてみた.

“ミートソースパスタとサラダ”




ランチ20231228-1


ソースは市販のレトルト品.
パスタはdecheccoの#11の7分茹で.
タマネギとマッシュルームも
塩胡椒で炒めて投入.

サラダにはニンジン・ドレッシング.

デザートは季節も終わりの
“熟れすぎた柿”


ランチ20231228-2


ブラック珈琲と供に.

合わせて約820KCal、材料費290円也.

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金曜も自宅で内食.

おでんを炊いてみた.



“おでんとグリンピースご飯”


ランチ20231229-1


午前中から大根を下茹でして、
おでんを土鍋でぐつぐつと.
さつま揚げラヴなのだ(笑).
たっぷりの和辛子を付けて….

ご飯はグリンピースご飯を
炊いてみた.少々の塩と酒で.

デザートはヨーカドー製の
“ロールケーキ”


ランチ20231229-2


温かい緑茶と供に.

約850Kcal、材料費350円也.

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今週もバラエティに富んだランチ.

体重は横ばい.
来週も頑張るぞぉ!!

今週もご馳走様.



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映画「枯葉」…愛らしくノスタルジックな小品.


映画「枯葉」-1
原題:Kuolleet lehdet 製作年:2023年
製作国:フィンランド・ドイツ合作 上映時間:81分



駄物のDVDで鑑賞眼がすっかり汚された気分.口直しにと銀座方面へ名画を探しに.
カウリスマキ監督の新作を角川シネマ有楽町で本年度累積306本目の観賞.
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フィンランドの名匠アキ・カウリスマキが5年ぶりにメガホンをとり、孤独を抱えながら
生きる男女が、かけがえのないパートナーを見つけようとする姿を描いたラブストーリー.

カウリスマキ監督による「パラダイスの夕暮れ」「真夜中の虹」「マッチ工場の少女」
の労働者3部作に連なる4作目で、厳しい生活の中でも生きる喜びと誇りを失わず
にいる労働者たちの日常をまっすぐに映し出す.

フィンランドの首都ヘルシンキ.理不尽な理由で失業したアンサと、酒に溺れながらも
工事現場で働くホラッパは、カラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま
ひかれ合う.
しかし不運な偶然と過酷な現実が、2人をささやかな幸福から遠ざけてしまう.

「TOVE トーベ」のアルマ・ポウスティがアンサ、「アンノウン・ソルジャー 英雄なき
戦場」のユッシ・バタネンがホラッパを演じ、「街のあかり」のヤンネ・フーティアイネン、
「希望のかなた」のヌップ・コイブが共演.
2023年・第76回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞.

以上は《映画.COM》から転載.
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スマホもパソコンも存在する時代なのに、なんとまぁ古風な恋の物語.
昭和中期のドラマ「君の名は」を思わせるような、男女すれ違いのシーン.

顔を見つめ合っても声を交わすこともなく、電話番号を書いて渡しても、
その紙を無くしてしまい、電話する術もなく時が過ぎてしまう….
逢えないもどかしさに観客は身もだえしてしまう.


映画「枯葉」-2


ホルッパ:ユッシ・バタネンはサンドブラスト職人で、酒瓶を作業現場に
持ち込んでは隠し、飯場の部屋の戸棚にも隠している.
週末も独りで、社交的な同僚:ヤンネ・ヒューティアイネンがレストラン
にでも連れ出さない限り、漫画を読んだり、ちびちびと飲んだくれて
過ごすような人間だ.

アンサ:アルマ・ポウスティは、実働時間しか給料をもらえない「ゼロ時間
雇用契約」でスーパーで働いている.スーパーには、賞味期限切れの商品を
従業員が持ち出したりゴミ箱漁りの連中に渡したりしないかを血眼になって
見張っている警備員がいる.アンサはある日この警備員に見つかり首に
なってしまう.

ある晩、アンサは同僚:ヌップ・コイブと一緒に、ホラッパがいるレストランに
偶然行くことになる.ふたりは恐る恐る目線を交わすが、ホラッパはグラス越し
に見るだけ.シャイなふたりに会話を切り出す勇気などない.

無表情というわけではないが、喜怒哀楽の感情が大きく表れることはない.
主役であるアンサとホラッパはもちろん、酒場にいる客らまでもが寡黙で、
憂いを帯びた瞳で自省するかのように存在している.


映画「枯葉」-4


劇中歌を演奏する姉妹デュオ、マウステテュトットもツンとした顔で淡々と歌う.
しかしだからこそ、彼ら彼女らの眼差しや口元のわずかな変化から感情の
揺らぎがじわじわと染みるように観る側に伝わってくる.

たびたびラジオから流れるニュースをアンサとホラッパが各々の生活の場で
聴いているシーンが印象的.聴こえてくるのは、ロシアがウクライナを侵攻した
経過を報じるアナウンサーの声だ.アンサとホラッパの脳裏に過るのは、己の
ささやかな生活とは乖離しているものの、自国フィンランドと地続きなヨーロッパ
大陸の片隅にある戦火なのだ.これは重要なポイントと感じた.

カウリスマキ監督はこっそりと主張する.愛と連帯を感じた.
ひとりがクビになるとひとつに連帯するスーパーの従業員たち.
上着を貸してくれる簡易宿の客.住む家を得ることが出来た野良犬….

ノスタルジックな表現ではあるが、それは埃をかぶったような記憶ではなく、
行く末の可能性として見えるのが特色だと感ずる.
「愛を、もう一度勝たせてやろう」…そんな気概がそこはかとなく伝わってくる.

携帯電話もあるのになかなか再会できないでいる2人の緩やかに進行する
ストーリーは、合理化と効率化が追求され時間に追われて消耗した現代の
大人を癒すノスタルジックなおとぎ話のよう.
81分間の愛らしい小品、ほっと一息つきたい時の鑑賞がお勧め.

映画「ポトフ 美食家と料理人」…料理が主役!?


映画「ポトフ 美食家と料理人」-5
原題:La Passion de Dodin Bouffant (The Pot-au-Feu) 製作年:2023年
製作国:フランス 上映時間:136分


やはりフランス映画に戻ってくる.予告では皇太子をもてなすのに、
なんとポトフで…という筋書きだと思いこんでいたら、肩すかしを
喰らってしまった.でも、好きなジュリエット・ビノシュが類い希な
名料理人を演じ、それこそヨダレものの料理を披露してくれる作品.
本年度累積300本目はフランス製の美味しい作品.
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「青いパパイヤの香り」「ノルウェイの森」などの名匠トラン・アン・ユン監督が、
料理への情熱で結ばれた美食家と料理人の愛と人生を描き、2023年・
第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞したヒューマンドラマ.


19世紀末、フランスの片田舎。「食」を追求し芸術にまで高めた美食家
ドダンと、彼が閃いたメニューを完璧に再現する天才料理人ウージェニー
の評判はヨーロッパ各国に広まっていた.

ある日、ユーラシア皇太子から晩餐会に招かれたドダンは、ただ豪華な
だけの退屈な料理にうんざりする.食の真髄を示すべく、最もシンプルな
料理・ポトフで皇太子をもてなすことを決めるドダンだったが、そんな矢先、
ウージェニーが倒れてしまう.

ドダンはすべて自分の手でつくる渾身の料理で、愛するウージェニーを
元気づけようとするが…….



「イングリッシュ・ペイシェント」のジュリエット・ビノシュが料理人ウージェニー、
「ピアニスト」のブノワ・マジメルが美食家ドダンを演じた.

ミシュラン3つ星シェフのピエール・ガニェールが料理監修を手がけ、
シェフ役で劇中にも登場.

以上は《映画.COM》から転載.
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もう最初から、料理テロの連続でノックダウンされてしまう.
美食家ドダン:ブノワ・マジメルと料理人ウージェニー:ジュリエット・ビノシュ
がアシスタントのヴィオレット:ガラテア・ベルージ を指示しつつ手際よく
食材をさばいて加熱し仕上げていく過程を、流れるようなカメラワークで
躍動感いっぱいに描かれていく.


映画「ポトフ」料理写真


トラン・アン・ユン監督の演出意図を体現した俳優たちの演技と、彼らの表情、
手や調理器具の動き、そして調理が進むにつれ音を発しながら色と形を
変えていく食材を優雅に踊るようにカメラのフレームに収めた、撮影監督
ジョナタン・リッケブールの貢献も大きい.

料理好き、食べ物好きには至福の映画.調理シーンは飽きないし、無駄な
音楽はなく、小鳥のさえずりのほかは、食器や調理器具がカチャカチャと
触れ合う音のみ.羨ましくなるような広いキッチン、窓の外に広がる自然、
大きな鍋、大きなおたま、新鮮な食材、水や油を派手に飛び散らせながら
作る料理…冒頭の30分の料理を作るシーンはまるで夢のよう.

特に傑作だったのは、ズアオホオジロのローストを食べる時に皿の真上に
寄せた頭の上からナプキンをすっぽりかぶるという、変てこでユーモラスな
マナーが描かれている.初めて見た.香りを保つため、恥ずべき行為を
神の目から隠すため、骨を吐き出す姿を他人に見られないようにするため…
など、諸説あるらしい.


映画「ポトフ 美食家と料理人」-1


美食家と料理人の関係ってプロデューサーとディレクターに似てる.
お互いをリスペクトしつつ、お互いを補完し合う.まさにパートナー.

美食家ドダンを演ずる:ブノワ・マジメルと料理人ウージェニーを演ずる
ジュリエット・ビノシュ1999年に『年下のひと』で共演した縁でパートナーになり
女児をもうけたが、2003年に別れている.かつて夫婦であった関係.

彼らが演じるドダンとウージェニーも公私にわたるパートナーでありながら
長年結婚しないままだったという設定であり、互いを想う繊細な感情の表現は
そうした私生活の過去の経験がプラスに働いたのかも??

中盤は皇太子に豪華な晩餐に招待されたドダンが返礼として皇帝を招いて
単純ながら洗練を極めたポトフでもてなそうと、ウージェニーと試行錯誤する
様と供に、二人の愛情関係に比重が寄ってくる.

寡言であってもひしひしと、確かに感じる二人の親愛と信頼の情.
「無邪気な夏と堅実な冬、その間が人生の秋」というような台詞が
二人の間に取り交わされるのが特に印象に残る.


映画「ポトフ 美食家と料理人」-2


20年間断り続けた結婚の誘いを、理由は描かれないがウージェニーは受諾
する…美食家と料理人の結婚に友人たちは祝福するが、その良い関係も
長くは続かない.ウージェニーの体調が悪く、何かしら大きな病を患っている
ように見える.そうしたうちに突然ウージェニーは天に召されてしまう.

もうポトフなんてどこかに飛んで行ってしまう.邦題「ポトフ」はミスリードの
感有り. 原題“La Passion de Dodin Bouffant” ドダン・ブーファンの熱情
の方が内容にしっくりする.


映画「ポトフ 美食家と料理人」ポトフ


失意のドダンを救うのは一つには美食仲間の友情、そしてもう一つは、
尽きぬ食への執念.ここで又主題の料理に戻ってくる.
原題にもある「情熱」に収斂させる流れは鮮やかで上手い脚本だ.

最後の回想で流れるシーンの会話がずっと頭にこびり付く.
「わたしはあなたの妻?それとも料理人?」  「料理人さ」

料理を介在して愛し合う男女と、その別れ.
そしてその失意からの復活もまた料理という、料理が主役の物語.

映画「プレデターD4」(DVD観賞)…又も題名詐称だ.


映画「プレデターD4」(DVD観賞)-1
原題:D4 製作年:2009年 
製作国:アメリカ 上映時間;100分



レンタル屋のSF作品棚を見ていたら、知らない名前の“プレデター”作品が.
ほとんどプレデター作品は観ているはずなのに、といぶかって借りてきて
観てみた.完全な題名詐称であった.また引っかかってしまった(苦笑).
本年度累積305本目は、SFとはほど遠いアクション・スリラー??
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5人の殺し屋と謎の殺戮生命体の戦いを描いたSFアクション.

全米有数の億万長者・ラーク博士の孫が誘拐され、米軍は5人の戦闘
スペシャリストを犯人が潜む森の奥へと派遣する.
しかし、ジャングルで待っていたのは圧倒的な殺傷能力を持つ謎の生命体で….

【スタッフ&キャスト】
製作:デヴィッド・B・スティーヴンス 監督・脚本:ダリン・ディッカーソン 
撮影:ジェレミー・ゴンザレス 音楽:ネイサン・ホワイトヘッド 
出演:ヴィッキー・アスキュー/エリック・バーナー/クレイ・ブロッカー他

以上は〈Firmarks〉から転載.
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“ジャングルに謎の生命体”=プレデターというのはやめて頂きたい.
原題は単に「D4」だから、こりゃ典型的な日本版発売元による詐欺作品.
それでも中身が良ければ問題ないけれども、テンポも悪けりゃセットも最悪.


映画「プレデターD4」(DVD観賞)-2


「人類最強」らしい特殊コマンド部隊は弱いは頭悪いは、キャラたってないは
で魅力ゼロ.唯一の女スナイパーも見てくれは悪い上に男勝りどころか、
窮地でメソメソで、とにかく魅力ゼロ.

とどめは、肝心の怪物キャラがどーみてもただのゴリラマッチョで恐怖感ゼロ.
この怪物というのが、まさかの四足歩行、薬によって凶暴化したマッチョな人間で、
銃弾を受けて血が飛び散っても、ダメージも傷跡も無いという不死身の肉体を
持っている.

ただし、こいつが出てくるのは後半に入ってからで、それまでは主人公達
殺し屋チームが依頼を受けてD4と呼ばれる謎の施設へ向かうまでの経緯と、
それとは関係ないジイちゃんが孫を連れ去られて、その施設へ奪還に向かう
経緯が長々と語られるだけ…(汗).

単調なシーンの連続になりそうな所を、時系列をあれこれ入れ替えて誤魔化
すのだが、いずれにしても退屈極まりない展開で呆れてしまう.

結局殺し屋チームは全滅して、悪の博士と将軍は怪物試作品の出来に満足
して帰ろうとしたら、その車に怪物の一匹が居て…とラストだけ痛快.

100分間、時間を無駄にした感じ.
あまりの酷さに今年の映画鑑賞はもう打ち切りにしようかと.
でも、口直しに明日は銀座に映画観に行こうっと(笑).

映画「ティル」…知るべきことを知れる作品.


映画「ティル」-5
原題:Till 製作年:2022年
製作国:アメリカ 上映時間:130分


ディズニー大作なんてまっぴら、ふやけたアニメも観たく無い.
そんな時ほど硬派の作品を選んで観てしまう.
シネプレックスつくばで、本年度累積299本目の鑑賞.
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1950年代アメリカで、アフリカ系アメリカ人による公民権運動を大きく
前進させるきっかけとなった実在の事件「エメット・ティル殺害事件」を
映画化.

1955年、イリノイ州シカゴ.夫を戦争で亡くしたメイミー・ティルは、
空軍で唯一の黒人女性職員として働きながら、14歳の息子エメットと
平穏に暮らしていた.

ある日、エメットは初めて生まれ故郷を離れ、ミシシッピ州マネーの
親戚宅を訪れる.しかし彼は飲食雑貨店で白人女性キャロリンに向けて
口笛を吹いたことで白人の怒りを買い、8月28日、白人集団に拉致
されて凄惨なリンチの末に殺されてしまう.

息子の変わり果てた姿と対面したメイミーは、この陰惨な事件を
世間に知らしめるべく、ある大胆な行動を起こす.


「ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野」のダニエル・デッドワイラー
が主人公メイミーを熱演し、ゴッサム・インディペンデント映画賞など
数々の女優賞を受賞.
名優ウーピー・ゴールドバーグが共演し、製作にも名を連ねる.

以上は《映画.COM》から転載.
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とにもかくにもアメリカの差別の歴史を認識させられる作品.
もちろん今は当時と比べたら良識ある思考の人が多数にはなって
いるのは判るのだが、この悲惨な出来事は、今だに状況的には
変わらないしこれからも無くならいであろうアメリカの本質だ.

映画作品を観たことをきっかけで「知りたくなること」が出来てくる.
本作扱うのはが「アフリカ系アメリカ人公民権運動」.

本作が描く「エメット・ティル殺害事件」については、その残忍性も
相まってとても衝撃的なのだけど、この事件をクローズアップした
作品は過去見当たらず、残念ながらこの事件自体、日本人にとっては
あまり認知度が高くないと思う.その意味では貴重な作品.

比較的差別の弱い大都会シカゴから、差別の中心地の南部に一人
息子エメット:ジェイリン・ホールを旅立たせる所から物語は始まる.
親戚の所で過ごすという安心感もあったのであろう.


映画「ティル」-1


ところが、食料品店の白人女性店員キャロリン:ヘイリー・ベネットに
軽口を叩き口笛を吹いただけなのに、その夜に白人集団に拉致され
リンチに遭いアッサリと殺害されてしまう.その尊厳のない扱いそのもの
が唖然とする演出で驚いてしまう.

以降は終始その母親メルミー:ダニエル・デッドワイラーの独壇場.
嘆き悲しむメルミーは、先ずその愛息の遺体のシカゴ返送を主張する.
その後メルミーは決意の行動を強行する.そのむごたらしいリンチの
跡が残る息子の遺体を公開して葬式に臨む.

当然マスコミも駆け付けその悲惨さ、むごたらしさを世間に余すことなく
公開してしまう.これが当時の公民権運動に大きな影響を与え、後の
BLMにおいても語られる「人間がやったことの証拠」として目を逸らす
べきでない事実の暴露であった.

米国総じての問題と化し、白人容疑者2名が逮捕された.
続いてメルミーは南部ミシッシピー州の裁判に出向く.南部では黒人
たちが自らを守るべく、コミュニティーを作っていた.学校や病院、銀行、
法律事務所はもちろんのこと独立して暮らしていける体制であった.
その場に守られてメルミーは裁判に臨むが、そこで大きな挫折を感じる.


映画「ティル」-3


裁判員はもちろん、陪審員も全員白人だ.弁護団はおろか検察陣
からも、メルミーとエメットノ親子関係を疑うような質問がなされるのには
メルミーでなくても、嫌気がさしてしまう.

おまけに当該の白人女性店員キャロリンはエメットにこう暴行されたと
猿芝居まで始める始末には苦笑しかない.メルミーは判決も聴かず、
シカゴへ帰ってしまう.判決は案の定、無罪….

その後メルミーは公然と黒人の公民権運動へ参加するようになる.
NYでの講演会の演説は、一介の普通の労働者であった彼女が、
エメットの事件から黒人の扱いと公民権獲得に目覚めたいきさつ
を堂々と述べるシーンが描かれる.


映画「ティル」-2


メルミーを演じるダニエル・デッドワイラーについては未知であったが、
圧巻の演技を魅せてくれる.気品と知性、そして力強さを表す演技で
あった.これはなんとか賞の主演女優賞候補に間違いないと思う.

確かに重い作品であり気楽に観られるものではないが、アメリカの
黒歴史を考察するうえで重要な事件であり、むしろこの事件の凄みは、
この作品をきっかけに事件を知ることで、公民権運動やBLMに
対しても改めて興味が出てくるだけの影響力を持つと思う.

知るべきことを知れる作品.

映画「終末の探偵」(DVD観賞)…ださいけど魅力的なキャラクター設定.


映画「終末の探偵」(DVD観賞)-5
製作年:2022年 製作国:日本 上映時間:80分


レンタル屋新作棚の隅っこに発見したマイナー作品.なんとあの北村有起哉が
主演という変わった探偵もの.本年度累積304本目の鑑賞.
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北村有起哉が裏社会を駆けずり回る型破りな私立探偵を演じる、
クライムハードボイルド.

とある街の喫茶店を事務所代わりに、しがない探偵業を営む新次郎は、
闇の賭博場でトラブルを起こしてしまったことから、顔なじみのヤクザ
である笠原組幹部の恭一から面倒な仕事を押しつけられてしまう.

それは笠原組が敵対する中国系マフィア・バレットの関与が疑われる
放火事件の調査だった.さらに、新次郎はフィリピン人の両親が強制
送還させられた過去を持つミチコから、謎の失踪を遂げた親友の
クルド人女性の捜索を依頼される.

しかし、2つの事件を追ううちに、裏社会の巨大組織の抗争に
巻き込まれてしまう.

主人公・新次郎役を北村が演じるほか、「燃えよ剣」の松角洋平、
俳優・モデルとして活躍する武イリヤ、「うみべの女の子」の青木柚ら
が顔をそろえる.監督は「東京失格」「キミサラズ」の井川広太郎.

以上は《映画.COM》から転載.
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ちょうど1年前の公開作品、存在も知らなかった.シアター系公開であろう.
どんくささやダサさをもつ映画だと感じた.北村有起哉を主演にもってくる
心意気が潔いのだ.

或る意味では探偵ものというフォーマット、ベタな典型的な雛形に収まって
しまっているのだが、そういうベタさが時代から消えていくようなテーマにも
含んでいてそれなりの存在感を感じさせる.


映画「終末の探偵」(DVD観賞)-1


ダサくて何が悪い、俺たちはここでギリギリまで踏みとどまるんだよとでも
言いたげな作りての居直りが、さまざまな弱者へのシンパシーを打ち出し
ていて、きちんとした物語が成立している.

北村有起哉が演じてる探偵連城の佇まいが愛おしい.すべてにウンザリしている
ようでいて、なにかを諦めてはいない.そして突発的に、狂気にも似た暴走を
見せるので目が離せない.ダルそうな探偵というジャンルの定番を踏襲
しながらも、奇妙な新味のあるキャラクターを創出していると思う.適役だ.

ピストルもナイフも出てこないやくざ物(笑).せいぜい鉄パイプと一見良い子
そうでボランティアする青年が、実は排他的信者でやくざをボウガンで撃ったり
するくらいだ.


映画「終末の探偵」(DVD観賞)-4


喧嘩のシーンの荒々しさ、喧嘩慣れはしてないが根性でどうにかしている感じ.
中国系マフィア、チェン:古川憲太郎と主人公の友人やくざ阿見:松角洋平の
殴り合いも、オッサンがグタグタになって殴り合ってて、カッコ悪いのに、なんか
カッコ良く見えるから不思議だ(笑).

惜しむらくは、現代日本における排外主義という闇を描ききってはいないこと.
連城の依頼者のミチコは日本から受け入れてもらえないフィリピン系.
かつては自分の心は日本人だとかつて述べていた日本育ちの少女に日本
なんて大嫌いと言わせてしまう今の日本の現状がここにはある.


映画「終末の探偵」(DVD観賞)-3


連城たちが必死で探し出した囚われのクルド人女性、しかしやっと助け出した
のも束の間、彼女は入管に収容されてしまう.外国人の不法入国・滞在、
難民問題等々、現代日本の抱える闇の部分が少し描かれるだけで本質は
突いていない.

その他にも、社会の裏側としてのヤクザ社会の変貌、中国人の日本の不動産
の買い占め、中国マフィアの台頭、新たな手口の地上げ屋、独居老人ばかりに
なった団地とか、部分的な指摘ばかりでもの足りない気分が大なのだ.

アルコール依存でギャンブルの借金まみれ、ずさんだけど、泥臭くて意外と
人情に厚い部分もある主人公のキャラクター設定とか、探偵:連城とやくざ:
阿見の男の友情的な関係性とかキュンとする部分も含めて魅力的な設定
と思えた.これは続編又はシリーズ化を待望してしてしまう.

なりたくはないし近くにいてほしくはない、魅力的なキャラクターを
演ずる北村有起哉のハマり役だ.

映画「VORTEX ヴォルテックス」…人生は、夢の中の夢


映画「VORTEX ヴォルテックス」-1
原題:Vortex 製作年:2021年
製作国:フランス 上映時間:148分


認知症を扱う作品ゆえ、ためらいを持ちながらも観なければという
へんな使命感に駆られて、キネマ旬報シアターで本年度298本目の鑑賞.
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「アレックス」「CLIMAX クライマックス」などで知られるフランスの鬼才
ギャスパー・ノエ監督が、認知症の妻と心臓病の夫が過ごす人生最期の日々
を、2画面分割映像による2つの視点から同時進行で描いた作品.
「病」と「死」をテーマに、誰もが目を背けたくなる現実を冷徹なまなざしで
映し出す.

心臓に持病を抱える映画評論家の夫と、認知症を患う元精神科医の妻.
離れて暮らす息子はそんな両親のことを心配しながらも、金銭の援助を
相談するため実家を訪れる.

夫は日ごとに悪化していく妻の認知症に悩まされ、ついには日常生活に
まで支障をきたすように.やがて、夫婦に人生最期の時が近づいてくる.


ホラー映画の名匠ダリオ・アルジェントが夫役で映画初主演を果たし、
「ママと娼婦」などの名優フランソワーズ・ルブランが妻、「ファイナル・
セット」のアレックス・ルッツが息子を演じた.

以上は《映画.COM》から転載.
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ギャスパー・ノエ監督の作品は初体験.幸か不幸かその刺激的な作風は
接したことがなかった.いきなりオープニングにスタッフロールが入るのは新鮮.
ロール中に退出する不徳の輩排除には良いかも(笑).
カメラ担当の名前とか使用曲名が最初に判るのは嬉しい….

2分割された画面構成がほぼ9割を占めるのも異質.慣れるまで、字幕の
確認と2画面の確認で忙しいが直になれてくる.近くて遠い老夫婦の間柄
を描くには、ピッタリの映像表現かもしれないと感じた.


映画「VORTEX ヴォルテックス」-4


テーマはずばり、老いと病と死.主な登場人物は3人.心臓の持病がある
映画評論家の夫(「サスペリア」で知られるホラーの名匠ダリオ・アルジェント
が映画初主演)、認知症を患う元精神科医の妻にフランソワーズ・ルブラン.
離れて暮らす息子ステファン:アレックス・ルッツだ.

古いアパートメントで穏やかに暮らす老夫婦だが、日常生活に支障を
きたすようになった妻と、ステファンに提案された介護ホーム入りを頑なに
拒む夫の人生は、静かに崩れるように終わりの時へと向かっていく.

冒頭にメッセージ挿入.“心臓の前に頭が壊れる全ての人へ”.
強烈な先制パンチを喰らった気分になる.

最初に老夫婦が健在で朝起きるシーンから始まる.棟を隔てような妻と夫が
窓越しに向き合うシーン.アパルトモンの構成の複雑さを表している.どうやら
コの字型の部屋構成らしく、作中でもその複雑な部屋同士の関係は混乱の
一助となっている.


映画「VORTEX ヴォルテックス」-3


映画評論家で心臓病の夫と、元精神科医で認知症の妻.朝起きて、花に
囲まれた小さなベランダで朝からワインを楽しみ、とても幸せそうだ.
流れる歌は、フランソワーズ・アルディのMon Amie la Rose(バラのほほえみ).

妻がボソッとつぶやく「人生は夢ね…」. 夫が返す「人生は夢のまた夢だよ」.
2人でかわされる幸せな会話はこれで終わる.以降はすれ違いのみ….

分割された画面は基本的に夫と妻それぞれの姿を追う.この閉塞感を伴う枠に
個別に収められることで、同居している夫婦とはいえつまるところ別々の個人で
あることが強調され、会話の少なさも相まってそれぞれの孤独と悲哀が増幅
されて伝わってくる.

妻役のフランソワーズ・ルブランの表情や動作は実際に家族が認知症に
なった人から見ても胸が痛むほどの再現度で演じてみせる.年齢以外の
要素…演技の上手さと観察眼には驚くばかり.

徘徊と店の中での行動、薬に対する混濁、トイレでの行動(垂れ流し、流さない)
はたまた、台所でガス点火しっぱなし…実際に私も見て経験してきた認知症
患者の行動の全てが表されていた.かくも悲惨な状況がまるでドキュメンタリー
みたいな正確さで描かれていくのには心がキリキリと痛んだ.


映画「VORTEX ヴォルテックス」-5


さて、夫である映画評論家を演ずるダリオ・アルジェント.フランスに移住して
現地で結婚したイタリア人映画評論家という役どころではあるが、母国語
ではない映画で初主演を引き受ける潔さ.フランス語の台詞もちゃんとしていた.

考えてみると、多くの監督は巧みに演技をこなす.オーソン・ウェルズやクリント・
イーストウッドのような俳優あがりの監督はもちろんのこと、トリュフォーや
ゴダール、クローネンバーグなど、やらせてみたらそのへんの俳優より
全く上手いという監督はいくらでもいる.そういや庵野忠明もそうだ(笑).

表現を知り尽くしているからこそであろう.後は演ずる資質があれば“監督”は
名優たるにあたるのは必然かも知らない.このダリオ・アルジェントが演じる
映画評論家は、映画と夢についての本を書いていると友人に明かす.

執筆途中の原稿は「psyche(魂)」と題されている.映画館の雰囲気は夢を
見るのに似ている、と言うセリフがあった. 闇があり、周りから切り離されて、
ベッドと同じだと.「夢は短く、夢の中の夢はさらに短い」という言葉も語られる.

人の一生は夢のように、あるいは映画のように儚(はかな)いもの.
人生をそのようにとらえることは、決して避けられない死に向き合うとき
ある種の救いになるのではないかと思う.

この評論家の夫が身体や精神への負担で心臓が苦しくなる姿も合わせ、
すべての観客に「自分もいずれ年老いてこうなるのだ」と思わせる迫真性がある.
老いと死は生きているすべての人が逃れられないという点で、より普遍的な
恐怖であり悪夢なのだ.

原題のVortexは「渦(うず)」を意味し、本編終盤で具体的な“渦”が現れる.
その美しくない渦…汚物と薬の混じり合ったトイレは、ノエ監督の露悪的な
表現の一つなのであろう.死が巧妙に隠蔽されている現代社会においても
人間が生きて死ぬというのは結局こういうことだと突きつけてくるよう.

ラスト近く、主二人をなくしたアパートメントの家具や雑多な品々が徐々に
処分されていく過程が、グルグル回るスライドのように静止画の連続で
示される.人生の思い出が染みついた品々が減っていくたび、家も生気を
失っていくように見える.ここでの回転もひとつの“渦”ととらえるなら、
きれいさっぱり何もなくなって消えていく渦は、先に出現する「美しくない渦」
と対(つい)になっているとも考えられる.

老いや病によって衰えていく日々の悪夢のような濁流と、死によって
苦しみや悲しみや重力からも解放され地上を離れていく無の状態.
ギャスパー・ノエ監督なりの、映画によって生と死を相対化する試み.

まだ死や近親者の介護を意識することが難しい若者には退屈な映画
かもしれない.