もう50年も通いつめている旧ブリジストン美術館.
途中2020年に建て替えて、名前を変えて、
今は「アーティゾン美術館」となっている.
東京駅八重洲口から徒歩10分という地の利も好ましい.
さて、今のシーズンは3つのイベント中.
・ジャム・セッション石橋財団コレクション×毛利悠子ーピュシスについて
・ひとを描く
・石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 マティスのアトリエ
丁度展示フロアーが3階層だから、それぞれの階で各々の
展示を楽しめる.
——————同館HPより転載——————
“ジャム・セッション石橋財団コレクション×毛利悠子ーピュシスについて”
毛利悠子は1980年神奈川県生まれ.現在は東京を拠点に活動.
2006年に東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻を修了.
コンポジション(構築)へのアプローチではなく、環境の諸条件に
よって変化してゆく「事象」にフォーカスするインスタレーションや
彫刻を制作.近年は映像や写真を通じた作品制作も行う.
毛利は、主にインスタレーションや彫刻を通じて、磁力や電流、
空気や埃、水や温度といった、ある特定の空間が潜在的に
有する流れや変化する事象に形を与え、立ち会った人々の
新たな知覚の回路を開く試みを行っています.
本展タイトルに含まれる「ピュシス」は、通例「自然」あるいは
「本性」と訳される古代ギリシア語です.今日の哲学にまで至る
「万物の始原=原理とはなにか」という問いを生み出した
初期ギリシア哲学では、「ピュシス」が中心的考察対象と
なっていました.
『ピュシス=自然について』と後世に名称を与えられ、生成、
変化、消滅といった運動に本性を見いだす哲学者たちの
思索が伝えられています.絶えず変化するみずみずしい動静
として世界を捉える彼らの姿勢は、毛利のそれと重ねて
みることができます.
新・旧作品とともに、作家の視点から選ばれた石橋財団
コレクションと並べることで、ここでしか体感できない
微細な音や動きで満たされた静謐でいて有機的な空間
に来場者をいざないます.
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どうも、この手のコンポジションは苦手.
ただ眺めるだけに終わってしまう.
作品から伝わって来るものが極少だ.
石橋のコレクションとのジャム・セッション
ゆえに、並列展示される絵画の方が
よっぽど興味が持てる.
毛利悠子《Decomposition》2021年
ジョルジュ・ブラック《梨と桃》1924年
――――――同館HPより転載――――――
“ひとを描く”
ヨーロッパの美術の歴史を見てみると、「ひとを描く」ことは
作品制作の重要な要素のひとつでした.
たとえばエドゥアール・マネやポール・セザンヌの自画像は、
自らの技量を示すことのできる題材であると同時に、
さまざまな新しい表現の実験の場でもありました.
ピエール=オーギュスト・ルノワールの手がけた肖像画は、
画家にとって重要な生活の糧となっていました.
また、物語に登場する人物を描いた作品もあります.
この展覧会では石橋財団コレクションから、古代ギリシア
陶器と近代ヨーロッパの絵画作品などの合計85 点で、
人物表現の豊かさをご紹介します.
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自らであろうとモデルであろうと、
やはりひとを描くという行為は、画業の原点であろう.
いくつか好きな作品を以下に.
ベルト・モリゾ《バルコニーの女と子ども》1872年
パブロ・ピカソ《腕を組んですわるサルタンバンク》1923年
ベルナール・ビュフェ《アナベル婦人像》1960年
――――――同館HPより転載――――――
“マティスのアトリエ”
アンリ・マティス(1869-1954)の絵画において、
室内は常に重要な要素であり続けましたが、
とりわけ1940年代以降、生活と創作とが地続き
となった空間として重要になるのが、アトリエです.
本展は、《踊り子とロカイユの肘かけ椅子、黒の背景》
(1942年)の収蔵にちなみ、石橋財団のコレクション
により、マティスの創作においてアトリエが果たした
役割について、複数の視点から探るものです.
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アンリ・マティス《踊り子とロカイユの肘かけ椅子、黒の背景》1942年
新規購入の作品.恐るべし石橋財団の財力(笑).
1941年、マティスは腸を患い手術を受けたが、
その後の経過が思わしくなく、ベッドの上で多くの
時間を過ごすことを余儀なくされる.
制作に於いても体力の負担の多い油彩作品を
避けて、切り紙作品へ取り組んでいた.
その後まもなくニースの骨董品店で見つけた
ヴェネツィア風のバロック様式の肘掛け椅子に
心を奪われ、その勢いで油彩の制作を再開する.
寝椅子に改造したベッドに横たわり、ベッドを跨ぐ
台の上にカンヴァスを立てて制作していた.
この時訪れていた写真家アンドレ・オスティエに
よる写真が残されている.
ベッドに身を横たえながら、やや高い位置から
俯瞰的な視点を取りながらも、きちんとした
画面が左右で均衡する構図に仕上げている.
肘掛け椅子というお気入りのモティーフと
人体との呼応的な関係の表現や変わらない
色彩表現と、かつての表現が戻ってきた
と実感させる作品となっている.
この頃のマティスの最大の慰めは5人の孫
の存在だったそう.その中の唯一の女の子、
ジャッキーは、顔を合わせる度にスケッチの
モデルになっていたそう.
アンリ・マティス《ジャッキー》1947年
この《踊り子とロカイユの肘掛けイス》の画は
近年までこのジャッキーの手元にあったそう.
マティスとジャッキー1953年エレーヌ・アダン撮影
そんな由縁の作品を石橋財団は買い取ったのだね.
なお、その後も並行して続けられた切り絵の名作も
展示されていて、これもまたそのフォルムと
大胆な色彩に圧倒される.
アンリ・マティス《ジャズ》1947年
今回の3つの展示に於いては、このマティス編が
一番面白かったかも.
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その他には、同館の豊富なコレクションから
常設されている名画も堪能できるのも
この美術館の楽しみ.
好きな日本の作家を以下に.
佐伯祐三《テラスの広告》1927年
松本駿介《運河風景》1943年
最後に、もう50年来の愛好画.
安井曾太郎《薔薇》1932年
大学時代、ファイルノートの表紙
を4年間飾っていた《薔薇》.
十数年前に、再生処置を受けて、
ひび割れた絵の具は修正され
画調も明るく一新された作品.
今回もしみじみ近くで観察?
させてもらった.
眼福の一時で、この日を終えた.
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