映画「ベイビー・ブローカー」…単なるロードムービーに非ず.
原題:Broker 製作年:2022年 製作国:韓国 上映時間:130分
是枝監督は好きな監督で、たぶんほぼ全作品を観ていると思う.その是枝監督の
最新作は、邦画のジャンルを飛び出し韓国映画であった.配役を考えてとも
思ったが、その実韓国で考えた脚本で韓国でしか撮れない映像、物語であった.
本年度累積146本目を近所のシネコンで観賞.
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「万引き家族」の是枝裕和監督が、「パラサイト 半地下の家族」の名優ソン・ガンホ
を主演に初めて手がけた韓国映画.子どもを育てられない人が匿名で赤ちゃんを
置いていく「赤ちゃんポスト(ベイビー・ボックス)」を介して出会った人々が織り成す
物語を、オリジナル脚本で描く.
古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョンと、赤ちゃんポスト
のある施設で働く児童養護施設出身のドンスには、「ベイビー・ブローカー」という
裏稼業があった.
ある土砂降りの雨の晩、2人は若い女ソヨンが赤ちゃんポストに預けた赤ん坊を
こっそりと連れ去る.しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ない
ことに気づいて警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく赤ちゃんを連れ
出したことを白状する.
「赤ちゃんを育ててくれる家族を見つけようとしていた」という言い訳にあきれる
ソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに.
一方、サンヒョンとドンスを検挙するため尾行を続けていた刑事のスジンとイは、
決定的な証拠をつかもうと彼らの後を追うが…….
ソン・ガンホのほか、「義兄弟 SECRET REUNION」でもソンと共演したカン・ドンウォン、
2009年に是枝監督の「空気人形」に主演したペ・ドゥナら韓国の実力派キャストが集結.
2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、
主演のソン・ガンホが韓国人俳優初の男優賞を受賞.また、人間の内面を
豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞した.
以上は《映画.COM》から転載.
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異父兄妹を描いた「誰も知らない」(2004)に始まり、異母姉妹が題材の「海街diary」
(2015)、赤ちゃんの取り違えの「そして父になる」(2013)、そして疑似家族を描いた
「万引き家族」(2018)とほぼ一貫して、血縁の薄い“家族”を描いてきた是枝監督の
最新作は、赤ちゃんポストや養子縁組を韓国を舞台に描く試みだ.
本作は、子どもを育てられない人が匿名で赤ちゃんを置いていく「赤ちゃんポスト
(ベイビー・ボックス)」を介して出会ったブローカーと母親、そして“追跡”する刑事が
織り成すロードムービー.
ベイビー・ボックスに預けられた赤ん坊のウソンの養父母を探すべく、“ブローカー”
のサンヒョン:ソン・ガンホと児童養護施設出身のドンス:カン・ドンウォン、
母親のソヨン:イ・ジウンはまるで疑似家族のように振舞いながら旅を続ける.
この道中に繰り広げられる対話の積み重ね、感情の交錯により、追跡者であった
はずの刑事たち、アン:ペ・ドゥナ、イ:イ・ジュヨンも含め主要な登場人物たちの胸に
共通の思いが芽生えてくるように見えてくる….
それは、ウソンという男児にとっての幸せのあり方を、誰もが真剣に考え始める.
疑似家族として旅を続ける3人と予期せぬ形で加わる1人の少年たちは、情が
移るということではなく、自らの生まれてきてしまった境遇とこのウソンの将来を
結びつけることで、悩み熟考する.
宿で眠りにつく際、母親ソヨンにそれぞれが「自分は生まれてきて良かった…」
と言ってもらうシーンは、前述した作品群から繫がってきた大命題の是枝監督なりの
結論なのかもしれない.
そんなウソンへの気持ちが、殺人犯である母ソヨンと人身売買犯サンヒョンと
ドンスを追いつめるアン刑事:ペ・ドゥナの中にも芽生えていくのが面白い.
ペ・ドゥナは是枝作品「空気人形」(2009)以来の同監督とのタッグ.「空気人形」
の時は不思議なダッチワイフ兼少女役だった. 容姿は変わったが変わらぬ
少ないセリフでの感情表現に優れた演技を見せてくれる.
この3年後のラストではこのアン刑事が意外な役目を負ったことが明かされる.
そしてその後は…観客の想像に任される.
是枝作品にはいつもと違う閉じ方かなと感じた.
優しいロードムービーのような仕上りの流れの中で、生きること、育てること、
多様な存在価値の本質を前向きに提示している良作.
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