映画「家族を想うとき」…ケン・ローチらしい訴求力.
原題:Sorry We Missed You
制作年:2019年 制作国:イギリス・フランス・ベルギー合作 上映時間:100分
土曜日はちょこっと掃除したり、布団を干したり、年賀状を仕上げたり.父の分も
やっと写真入りで完成した.親類縁者に元気なことを伝えないとね.
そんな諸事を片付けてまたまた柏のキネマ旬報シネマへ.
評判の英国製社会派ドラマを本年累積222本目の鑑賞.
「麦の穂をゆらす風」「わたしは、ダニエル・ブレイク」と2度にわたり、カンヌ国際映画祭の
最高賞パルムドールを受賞した、イギリスの巨匠ケン・ローチ監督作品.
現代が抱えるさまざまな労働問題に直面しながら、力強く生きるある家族の姿が描かれる.
イギリス、ニューカッスルに暮らすターナー家。フランチャイズの宅配ドライバーとして
独立した父のリッキーは、過酷な現場で時間に追われながらも念願であるマイホーム
購入の夢をかなえるため懸命に働いている.
そんな夫をサポートする妻のアビーもまた、パートタイムの介護福祉士として時間外まで
1日中働いていた.家族の幸せのためを思っての仕事が、いつしか家族が一緒に顔を
合わせる時間を奪い、高校生のセブと小学生のライザ・ジェーンは寂しさを募らせてゆく.
そんな中、リッキーがある事件に巻き込まれてしまう.
2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品.
以上は《映画.COM》から転載.
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社会派と言われるケン・ローチ監督、「わたしは、ダニエル・ブレイク」では社会組織の
非と闘う個人を描いていた.今回は特定の組織や制度ではなく、社会全体の仕組みの
矛盾と問題を指摘する.重苦しく、決して楽しい作品では無い.
主人公リッキーが効率よく稼げるという謳い文句の宅配ドライバーの仕事に就く
面接のシーンから物語は始まる.面接に於いても既に言い訳が散りばめられており、
負け犬の雰囲気がありありと伝わって来る.
雇い主は、フランチャイズの「個人事業主」として運送サービスを提供し、給料ではなく
運送料を受け取るという契約だと.「勝ち組になるのも負け組になるのも自分次第」と
言い放ち、リッキーの“言い訳”などまるで眼中にない.
宅配に使うバンを購入するのに、頭金として妻の仕事に必要な車を手放してしまう.
思慮の無さ、短絡的な考え方しかできない主人公.されど真面目に働く.どんどんと
家族と一緒に過ごす時間は加速度的に無くなっていく….
一方妻も介護士の仕事に毎日追われていて、小学生のジェーンの送り迎えや食事の
世話も滞りがちな状態.過酷な介護士の労働条件がかいま見える.こんな部分は
自らの経験で十分承知している.イギリスも日本も同じ状況なのである.
小さな機械端末に管理される宅配ドライバー達.社会に置き去りにされた老人達.
利益を生まなければ無駄として切り捨てられる現代社会への訴求力は鋭い.
何かが少しずつ歪み、噛み合わなくなっていき、この物語のリッキー一家も、
両親が家族との時間を取れないがために、負の連鎖に巻き込まれていく.
非行に走る高校生の息子セブに振り回されて、急遽、休みを取ったがために
配送サービスでの収入が入らない上に、罰金が科せられるシステムにはまってしまう.
加えて、宅配便を狙う強盗に襲われるリッキー….
疲弊した労働者、冷酷な効率優先の雇用主、そのどちらの立場もが我々自身にも
重なって見えてくる.現代の利便性と効率化を突き詰めた先に一体何があるのか?
「このままで良いのか!」とケン・ローチ監督は、この人間性を失いつつある社会の構図に、
怒りをこめながらも、リッキー一家の姿を通して、淡々と見せつける.
いつものケン・ローチ流で主人公リッキーは真面目だが、欠点だらけに見える.
自ら贔屓のサッカーチーム:マンUのことで顧客と言い争いしたり、視点が狭視なのが
気にかかる.大体がサッカーチームの刺青を派手に腕にしていること自体、はずしている.
妻への態度、言動、子に手を上げる、思い込みの多い行動…なるべくしてなってしまう
なと思いたいような主人公のキャラが社会の矛盾を突くのに、抵抗力となっている気が
しないでもない.
邦題も悪くは無いが、原題は秀逸だ. “Sorry We Missed You.”
宅配業に於いて使う不在通知の題“ご不在でした”の意味と、家族が父親に
“あなたが居なくて寂しい”の意のダブル・ミーニングだ.
今の社会への痛烈な異議を謳う社会派ドラマとして訴求力を持つ作品.
今年の最後に良作で締められて大満足、来年の観賞ライフに弾みがつく?
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