映画「理想郷」…事実に基づく、ゆえに主張不明.
原題:As bestas 製作年:2022年
製作国:スペイン・フランス合作 上映時間:138分
仏人俳優が出てるからフランス映画と思ったら、スペインとの合作だったんだね.
本年度累積270本目に選んだのは村八分?を描いたスリラー作品.
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田舎に移住した夫婦が閉鎖的な村で住民との対立を激化させていく姿を、
スペインで実際に起きた事件を基に映画化した心理スリラー.
「おもかげ」のロドリゴ・ソロゴイェンが監督・脚本を手がけ、主人公夫婦の夫を
中心に描く第1部と、妻を中心にした第2部の2部構成で描く.
フランス人の夫婦アントワーヌとオルガは、スローライフを求めてスペインの
山岳地帯にある小さな村に移住する.しかし村人たちは慢性的な貧困問題を抱え、
穏やかとは言えない生活を送っていた.隣人の兄弟は新参者の夫婦を嫌い、
彼らへの嫌がらせをエスカレートさせていく.
そんな中、村にとっては金銭的利益となる風力発電のプロジェクトをめぐって
夫婦と村人の意見が対立する.
「ジュリアン」のドゥニ・メノーシェが夫アントワーヌ、「私は確信する」の
マリナ・フォイスが妻オルガを演じる.
2022年・第37回ゴヤ賞で主要9部門を受賞するなど、世界各国で数々の
映画賞を受賞.第35回東京国際映画祭では「ザ・ビースト」のタイトルで上映され、
東京グランプリ(最優秀作品賞)、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞を受賞.
以上は《映画.COM》から転載.
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異邦人排斥がテーマ.スペインの寒村に移住したフランス人インテリ夫妻.
オーガニックな農業をささやかに営み、古民家を改造して自然派リゾートに
しようと夢を見ている.そのため、景観・自然を破壊する風力発電計画に
反対している.
ところが、貧しい村人たちは、保証金目当てで発電に賛成.
異邦人のフランス人夫婦を面白く思っていない.そして必然として悲劇が.
コミュニティへ加わった、地域の事情を無視した移住者の排斥が描かれる.
冒頭シーンは、野生馬を男たちが力づくで押さえ込みたてがみを刈って
また放す「ラパ・ダス・ベスタス(野獣の毛刈り)」というスペイン北西部
ガリシア州の伝統行事.
これが原題「As bestas」(英題ではThe Beasts)の由来らしい.
インテリの移住者と粗野な村の男たちの対比で考えると、野獣とは村人たちの
ことかと考えそうだが、前半のハイライトに相当する取っ組み合いを見ると
それが早合点だったと気づかされる.
村人からは、自分たちの理解を超えた移住者のほうが“人に非ざるもの=獣”
とみなされていたのだと.それに気付かない移住者自身が悲劇に見まわれる.
この閉鎖的な社会を抱えるこの土地が、邦題となっている「理想郷」のように
感じられる場面はほとんどない.夫婦がこの村に、どうしてそれほど愛着を持ち、
住み続けたいとこだわるのかが、今一つ理解できない.
野菜を作りながら慎ましく生活し、古民家を改装して都会からの観光客を
呼び込みたいという夫婦の思惑は分からないでもない.それでも、突然やって
来たよそ者が反対したせいで、風力発電の補助金が貰えなくなることに
対する村人の憤りは至極もっともで、夫婦の側がそれを理解しようとしない
姿勢が理解出来なかった.あくまでも自らの主張を押し通して、あえて村人と
ことを荒立てようとする夫婦の姿勢には、共感することも同調することは
出来ない.
日本でも田舎に移住する事例が最近多く報道される.都市部への人口の集中に
より過疎化の進む農村部.自治体もやっきになって、移住者を募集したりする.
いざ移住となると、その後のあらゆる諸問題に、自治体のバックアップは期待
できない.そう、自分たちで解決しないと.
失敗話もよく報道されている.結局Uターンする事例も少なくは無いらしい.
あくまでも移住者はよそ者.そして、移住した地方は、農村部であれば、
たいがいは閉鎖的であろう.空気を読む国民性の日本でも失敗者続出してる
のは、簡単な事じゃないから.そんな実例をこの作品は、実話に基づいて、
教えてくれる気がする.
閉鎖的な地方のコミュニティーにおける差別と対立を描く前半の最後は悲惨だ.
案の定、対立はエスカレートして、取り返しのつかない事態に至るのだが、
後半では、観客は真相を知っているのに、それが劇中でなかなか明白に
ならない展開に、徐々にイライラがつのっていく.
ここで、母親をフランスに連れ戻そうとする娘と、あくまでも村に残ろうとする母親
との間で新たな対立が生まれるのだが、どう考えても、母親を気遣う娘の主張の
方が正しいと思えてしまう。
母親は、失踪した夫を愛しているからというよりも、夫のことを殺したに違いない隣人
に対して意地を張っているとしか思えない.犯罪の証拠となるビデオカメラが発見
されて、ようやく事件が決着するのかと思っていると、そうとはならない展開にも
うんざりする.最後にアントワーヌの死体が発見された所でプッツンとエンドマーク.
田舎の村型社会に特有の閉鎖性や排他性を糾弾している訳ではないし、
かといって、エコでスローな暮らしへの漠然とした憧れだけで田舎に移住する
都会人の思慮の浅さや軽率さを批判している訳でもない.
理解し合おうとしない人間の姿を描くだけでフラストレーションが溜まるばかり.
夢を持って郷に入ってみたものの、郷に従い損ねた夫婦と閉鎖社会で視野狭窄
した住人との不和を描いたサイコスリラー風味の悲劇…としか言えない作品.
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