映画「ボストン市庁舎」…公僕とは? をあえて問う作品.
原題:City Hall 制作年:2020年
制作国:アメリカ 上映時間:274分
観たかったのだけど、なにせ超長尺作品、DVDになってからと思ったが、
もしかしたらレンタルDVD化されないかも(超マイナーゆえ)しれないと
危惧して、思い切って鑑賞を敢行.なにせ4時間半の大作だから.
柏のキネマ旬報シアターにて本年度累積281本目の鑑賞.途中休憩有り.
「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」などで知られるドキュメンタリーの
巨匠フレデリック・ワイズマンが、自身の生まれ故郷であるマサチューセッツ州
ボストンの市役所と街の姿を捉えたドキュメンタリー.
多様な人種と文化が共存する大都市ボストン.カメラは市庁舎の中へ入り込み、
市役所の人々とともに街のあちこちへと動き出す.警察、消防、保健衛生、
高齢者支援、出生、結婚、死亡記録、ホームレスの人々の支援、同性婚の
承認など数百種類ものサービスを提供する市役所の仕事の舞台裏….
そして市民の幸せのために奮闘する市長マーティ・ウォルシュと市役所職員
たちの姿を映し出す.
山形国際ドキュメンタリー映画祭2021インターナショナル・コンペティション
部門優秀賞受賞.
以上は《映画.COM》から転載.
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時は2017年に市長にマーティ・ウォルシュが当選してから、市政が一変した
らしい.もちろん民主党系だ.感心するのは、市長も市職員も市民のために
一丸となって働いていること.ちゃんと上から下まで方向性が一致している.
どこぞの総理大臣は“聞くことが特技”なんてほざいているが、特定の党内
長老の言うことや、米の意見や指針にしか耳を向けないのと大違いで、
一般市民の苦情や意見に対して真摯に向き合っている姿が延々と描かれる.
ボストン市は移民ばかりの複合自治体.市長自身もアイルランド系移民の出身だ.
黒人やラテン系、アジア系など、アメリカの中でも貧困層に組み込まれる人達を
いかにうまく市政に取り込み、貧困者数を減らすかが課題という.
他にもLGBTQや女性差別、障がい者救済、退役軍人の心のケア…等々と
テーマは展開し、これじゃ274分にも及んでしまうのは仕方が無い.
多種多様な市政のサービスと課題、市民の意見が紹介される.
が、それぞれに対する明確な施策や解決というのは明らかではない.
そんな簡単な解が見つかるような単純な問題はそうそう無いのである.
特に後半に出て来るオランダ系らしい大麻の販売店(しかも経営は中華系)
の住民への説明会のやり取り.市政が住民参加をやりとげていない、機能不全
な様子が描かれる.市政側は継続して話し合いを継続すると約束するだけに
終わってしまっている.住民側の治安への不安、交通渋滞の不安…、そんな
難題が提示されただけの表現.ただ少なくとも話し合いは存在している.
本作はトランプ大統領在任時期に撮影されており、ウォルシュ市長は
あからさまにトランプ政権を批判している. ある意味民主党のプロパガンダ
作品の感もなきにしもあらずだが、自分たちこそがボストン市発信で、
マサチューセッツ州を対話の力でリードし、米国政府も変えるのだという
モチベーションも誇りも感じられる.
この作品、274分間の表現には感動は無い.目にするのは民主主義の原則、
話し合いの重要性.そして貧困問題の解決、不均衡格差の解決という難題の
存在.特効薬は無いのだ.このテーマは日本にも共通する.アプローチの仕方は
学ぶべきであろう.
蛇足の情報を以下に2つ.
ボストン市では次期市長に初のアジア系女性ミシェル・ウー氏が当選した.
トランプ政権時には考えられなかった事象が起きている.
冗談みたいな日本での話し. 本作が「全首長・全職員、公務員就職希望の人
も見るべき映画」との声を受け、市役所などで働く職員が特別料金で観賞できる
「市役所割」が導入されることになったそう.
市民の為に働く市役所、“公僕”の意味を見直してもらいたいもの.
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