製作年度:2011年 製作国: 日本 上映時間: 93分
日曜日は1000円で邦画を観る友の会のめーちゃん。と銀座で鑑賞の本年86本目.
300年もの間、守り継がれてきた“村歌舞伎”が存在する長野県の小さな村“大鹿村”を舞台に、
公演を5日後に控えた村で巻き起こる悲喜こもごもの騒動を原田芳雄主演で描くコメディ.
共演に大楠道代、岸部一徳、松たか子、佐藤浩市、瑛太、石橋蓮司、小野武彦、
小倉一郎、三國廉太郎.監督は「どついたるねん」「行きずりの街」の阪本順治.
長野県下伊那郡、大鹿村.南アルプスの麓に位置するこの小さな村は、
300年以上の歴史と伝統を誇る村歌舞伎が自慢.
シカ料理店を営む風祭善(原田芳雄)は、その大鹿歌舞伎の花形役者.
しかし実生活では、かつて女房の貴子(大楠道代)に逃げられて以来、寂しい一人暮らしの日々.
村ではリニア新幹線の誘致を巡って喧々囂々、公演が5日後に迫っても、
善以外はなかなか稽古に身が入らない.
するとそこへ、貴子が駆け落ち相手の治(岸部一徳)と一緒に戻ってきた.
しかも治は、認知症を患っ た貴子を持て余し、善に返すと言い出す….
先週末「コクリコ坂…」を観た時、次はこの作品と決めていた.
がその週のうちに主演:原田芳雄が亡くなってしまった.好きな役者だった.
学生の頃よく観たATG系…「祭りの準備」、「龍馬暗殺」圧倒的なヒーローだった.
早世したDJ林美雄のラヂオにも良く出演していた.
ある意味で、青春の忘れ形見みたいな存在だった.黙祷….
風祭善(原田芳雄)と、18年前に駆け落ちして村を出た妻の貴子(大楠道代)と
幼馴染の治(岸部一徳)の3人のやり取りが絶妙で笑える.
許したくて、許せない.謝りたくて謝れない.殴りたいのに殴れない….
恨み、つらみを隠して、淡々と生き、そして村歌舞伎の練習に励む.
かくも人生は、哀しく、面白く、そしてせつない….
この村歌舞伎自体の魅力が凄い.本来の歌舞伎とは違う、手作りの魅力満載.
村に暮らしている人たちが一生懸命にけいこをして、皆で楽しみながら演ずる雰囲気が
良く表現されている.出てくるエキストラも大鹿村の人々だ.みな良い顔して楽しんでいる.
そうして迎える当の村歌舞伎の本番.諸々の村人達の想いや事情を秘めて劇は進んでいく.
平家の落武者・景清を演じる善(原田芳雄)に対して、源氏に嫁いだ道柴として
舞台に立った貴子(大楠道代)が、舞台の袖で「許してもらわなくてもいいから」と呟く.
その瞬間、原田芳雄が浮かべる名状しがたいクロースアップの表情がなんとも鮮烈….
忘れられない名シーン.
三國廉太郎や佐藤浩市、そして松たか子…と豪華な脇役陣.
松たか子なんぞは、東京に出て行った男と煮え切らない関係が続く、村役場の女性役.
時折出てきては笑いを誘う立派なコメディエンヌ.豪華だ….
原田芳雄が惚れ込んで永年の肝煎りで実現した企画だそう.演技の端々にその思い込みが
あらわれている.残り少ない生を惜しむかのように….
阪本順治監督も芸達者な役者たちのアンサンブルを生かして演出している.
単に原田芳雄の遺作となったからではなく、想いと執念で良く練られた佳作.
誰でもいつでも1000円という価格設定も嬉しい.
これなら誰でも気楽に観られるではないか.
名優原田芳雄の嬉しい贈り物.
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