原題:TYRANNOSAUR 製作年度:2010年 製作国:イギリス 上映時間:98分
ギンレイホールでの2本目は英国作品、本年41本目の鑑賞.
俳優として活躍するパディ・コンシダインの記念すべき長編監督デビュー作にして、
各地の映画祭で高い評価を受けたヒューマン・ドラマ.衝動的な怒りを抑えられない
孤独な暴力男と秘密を抱えた女性が辿る不器用にして痛切な心の交流を描き出す.
主演は「マイ・ネーム・イズ・ジョー」「BOY A」のピーター・ミュラン、
共演にオリヴィア・コールマン、エディ・マーサン.
妻に先立たれた失業中の中年男ジョセフ(ピーター・ミュラン)は衝動的な怒りを
抑えられず、酒を飲んではところ構わず大暴れする自暴自棄な毎日を送っていた.
そんなある日、ひょんなことからチャリティ・ショップで働く女性ハンナ(オリヴィア・
コールマン)と出会う.明るく優しい彼女は、誰からも相手にされないジョセフに
対しても身構えることなく自然に接し、いつしか彼の凝り固まった心をほぐしていく.
ところがそんなハンナにも、人には言えないある暗い秘密があったのだが….
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むしゃくしゃして、なにもかにも腹が立つ時は誰しにもあること.
でも冒頭の主人公ジョセフ(ピーター・ミュラン)の怒りは理不尽すぎる.
腹いせに飼っていた犬の横腹を蹴り死なせてしまうのだから….
最後のエンドクレジットに「本作品に於いては動物虐待はしておりません」なんて
入っていたけど、後味が悪い環境設定.この主人公はこの後にも犬を殺してしまう….
世の中の不満、いや自分自身への不満をモノや他人や動物にぶつけてどうする?
そんな反感をもちながら観すすんでいくと,主人公の様々な境遇を見て、
段々と主人公の気持ちも少しは理解はしてくる.
でもそれはヒロイン、ハンナ(オリヴィア・コールマン)の存在があるから.
陰と陽、いや割れ鍋に綴じ蓋だろうか、お互いの傷をなめあいながら
必死に生きていく二人に徐々に共感、応援する気持ちになってくる.
自分の人生が悪い方向に向かっているとわかっていながら、
どうすることもできない男女それぞれのもどかしさが見事に描き出されている.
信仰心という意味でもこの作品の描き方は興味深いものがある.
ハンナはかつては愛し合った夫との不仲の不満を信仰とアルコールに求める.
だが、結局はどちらもそれは解決の糸口にはならない.
最後にはハンナはキリストの絵にモノをぶつける始末….
ところがそんなハンナとの交流により、主人公ジョセフは最後は
信仰心も無いのに祈るような姿をみせる….
信仰を捨て去る者、自然と信仰に向かう者…、
神との関係は一通りの公式は当てはまらない.
うさんくささのない自然な脚本の出来は監督の手腕だろう.
追いつめられたハンナは最後に大きな罪を犯してしまう.
追うようにジョセフも小さな罪を犯す.共に償いに服しながら、
迎えるエンディングの清々しさには、ホッとさせられる.
人生の秋ともいえる年齢の男と女の物語.
味わいのある作品だった.
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