映画「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」
原題:The Peanut Butter Falcon
制作年:2019年 制作国:アメリカ 上映時間:97分
再開なったキネマ旬報シネマで観た不思議な題名の米作品.
観客十数名の混み具合.本年累積60本目の鑑賞.
ツキに見放された漁師と施設から脱走したダウン症の青年、施設の看護師の3人に
よる青年の夢をかなえるための冒険の旅を描いたヒューマンドラマ.
養護施設で暮らすダウン症のザックは、子どもの頃からの夢だったプロレスラーの
養成学校に入るため施設を脱走する.兄を亡くして孤独な日々を送る漁師のタイラーは、
他人の獲物を盗んでいたことがバレたことから、ボートでの逃亡を図る.
そんなタイラーと偶然に出会ったザック、そしてザックを捜すためにやってきた施設の
看護師エレノアも加わり、3人はザックのためにある目的地へと向かう.
タイラー役をシャイア・ラブーフ、エレノア役をダコタ・ジョンソン、ザック役を
作品製作のきっかけとなったザック・ゴッツァーゲンが演じ、ジョン・ホークス、
トーマス・ヘイデン・チャーチらが脇を固める.
監督は本作が長編初監督作となるタイラー・ニルソン&マイケル・シュワルツ.
以上は《映画.COM》から転載.
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簡単にいうなら、ダウン症候児がプロレス教室を目指すロードムービー.
されど、米西南部の湿地帯という奇妙なロケーションにおいて、
繰り広げられる登場人物たちのほろ苦い人生の様相を上手く描く.
主人公のダウン症のザック役を演ずるザック・ゴッツァーゲンの存在感は
本作の基調部分をなす.親に見捨てられ老人養護施設に入れられている.
そこで介護士エレノア:ダコタ・ジョンソンに優しく見守られて暮らしている.
ザックは強度のプロレス好き.大好きなレスラー、ソルトウォーターレッドネックの
VHSビデオを1000回以上も観ていて、同居のカール爺ちゃんにあきられている.
カール爺ちゃんはザックに「友達は自分で選べる家族」と説く.
ザックはその「友達」のカール爺ちゃんの手助けを得て、見事に施設を脱出して、
あこがれのソルトウォーターレッドネック主宰のプロレス教室を目指して旅に出る.
ひょんなことから漁師のタイラー:シャイア・ラブーフと知り合う.
タイラーは大切な兄を失い、兄の漁業権も奪われ、他人のカゴを盗み漁をしている.
それがバレてカゴ場に火を放ち逃げる途中でザックと知り合う.シャイア・ラブーフが
もう、こんなに成長して?良い味の出せる役者になっていたのには驚き.
タイラーはカリフォルニアを目指して、ザックはその途中のプロレス教室をと、二人の
ロードームービーが始まる.種々のトラブルによって二人の間には友情と信頼関係が
出来上がっていく.そこに施設から彼を探しに来たダコタ・ジョンソン演じるエレノアも
加わって三人のロードムービーと化す.
ダコタ・ジョンソンも年頃で良い女になったなぁ…と実感.夫を失い失意を仕事の
情熱に転換させるが、理解のない上司にへきへきとしていて、ザックの夢に付き合う
道を選んでしまう.
ダウン症といった障害といった要素を扱いつつも、しかし決してお涙ちょうだい話ではない.
皆大切な人を失ったり哀しい経験をしてきた彼らはまるで家族のように互いにかけがえの
無い存在になっていくのだが、それが押し付けがましく無く実に自然に描かれている.
一行がたどり着いた、VHS擦り切れそうなほど見返したプロレス塾は廃業していて、
もはや過去のレスラー:ソルトウォーターレッドネックはほそぼそと暮らしていた.
レッドネック役はトーマス・ヘイデン・チャーチだが、レスラー仲間には本職のレスラー、
ジェイク・ロバーツが、レフリー役にはこれまたレスラーのミック・フォーリーが出演.
アメリカのプロレスって、完全にショー化していると認識.高度な肉体的訓練をつんだ
ショービジネス.ザックが好きなワザを言えば、レッドネックはあれはカメラの撮り方で
出来上がったワザで実態は不可能などと言っちゃう滑稽さが描かれる.
それでも楽しむ方々はいるのだから、商売は成り立つ.
西部のさびれた町で開かれるプロレス・ショーが又独特な雰囲気.ザックを気に入った
レッドネックは、リング上にザックを乗せてしまう.そこで本職のジェイク・ロバーツが
容赦ないワザをザックに仕掛ける….さてその結末は??
訳の判らない題名は、ザックのリングネームでありました(笑).
予定調和みたいなエンディングに、ホッとしたあとしみじみと味わいが出てくる好作.
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