映画「母性」…予告、広報のミスリードは罪深い.
製作年:2022年 製作国:日本 上映時間:115分
キャッチコピーの原作者の湊かなえが「これが書けたら作家を辞めてもいい」
とまで語っているというで、期待をもって観てしまった作品.
本年度累積273本目はMovix柏の葉で観賞.
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ベストセラー作家・湊かなえの同名小説を映画化し、戸田恵梨香と
永野芽郁が母娘役を演じたミステリードラマ.
ある未解決事件の顛末を、“娘を愛せない母”と“母に愛されたい娘”
それぞれの視点から振り返り、やがて真実にたどり着くまでを描き出す.
女子高生が自宅の庭で死亡する事件が起きた.発見したのは少女の母で、
事故なのか自殺なのか真相は不明なまま.物語は、悲劇に至るまでの過去
を母と娘のそれぞれの視点から振り返っていくが、同じ時間・同じ出来事を
回想しているはずなのに、その内容は次第に食い違っていく.
語り手となる母のルミ子を戸田、娘の清佳を永野が演じ、ルミ子の実母を
大地真央、義母を高畑淳子、ルミ子の夫を三浦誠己が演じる.
「ナミヤ雑貨店の奇蹟」「ヴァイブレータ」の廣木隆一監督がメガホンをとり、
「ナラタージュ」の堀泉杏が脚本を担当.
以上は《映画.COM》から転載.
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原作は未読.原作者の湊かなえの言を信じるなら、先に読んでおいた方が
好かったかもしれない.予告やコーピーの表現は完全にミスリードだと思う.
脚本は大きなどんでん返しもなく、登場人物の共感できない行動は
モヤモヤ、イライラを感じさせて進んでく.
原作では、最初に出て来る女性教師が最後に娘の清佳であることが明らか
にされるそうで、そうなら意外性とどんでん返しもあるのに、原作の好さを
全く描けていない感がある.
娘と母の間の共依存と反発、嫁と姑との争い…を両面の立場で描こうと
するが、うまくそれを活用できておらず、2回同じものを見せられていて
間伸びしている.この演出は推敲不足を感じさせる.母性という人間の内面に
関わる作品なのだから、浅く表面的な演出でなく、示唆に富む演出が欲しい.
ただ、女優たち…母のルミ子:戸田恵梨香、娘の清佳の永野芽郁、
ルミ子の実母役の大地真央、義母に高畑淳子、の4人の演技合戦は
観るべきものがあった.大地の気味が悪いほどの子想いの怪演、
憎まれ役に徹した高畑の快演には頭が下がるばかりだ.
予告で繰り返されるルミ子:戸田恵梨香が作りたての弁当を落とす理由が
ただ単に娘が祖母である母にキティの刺繍をねだっただけというのには
唖然とさせられた.自分の母への気づかいというのには、異常な感覚に
思えたし、そのシーンを繰り返し再生するセンスが耐えられない.
そんな母の躾を受けて育った娘の清佳の性格も一風変わっている.
大人の顔色をうかがいながら育つ環境は良く理解できる.自己にも
そんな経験がある.がこの清佳はその抑圧された部分が爆発すると
とんでも無い発言をする.それがまた真を突いた容赦ない発言なので
聞く者を怯えさせる.
ふしだらで駄目男の父親をなじる清佳が、父親がかつては血道をあげた
学生運動を真の目的はあやふやでただ熱中するものだけだったと、本質
をついたセリフに対して父親とその愛人はぐうの音も出なかった.
目標を追い求めた学生運動も存在しただろうが、この人たちは違ったので
あろう.
母性は永遠のテーマであり、母子感の愛情と束縛は紙一重の存在と思う.
自らの家族においても、母親と娘の関係にはひやりとする事もよく遭遇する.
“愛されたいと思う子に無償の愛で応えるのが母性”だなんてひと言で済む
ことじゃないのは明らかだ.
多作で売る唐木監督、もう少し丁寧な仕事を期待したい.
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