映画「こちらあみ子」(DVD観賞)…これは辛い問題作.
製作年:2022年 製作国:日本 上映時間:104分
昨年の公開時は上映が少なく見送った作品.2番館にも来たが
興味を持てなく意識的に観落とした作品.DVD化されたので
レンタル屋から借りだして観た.本年度累積91本目の鑑賞.
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芥川賞作家・今村夏子が2010年に発表したデビュー小説を映画化.
広島で暮らす小学5年生のあみ子.少し風変わりな彼女は、家族を
優しく見守る父と、書道教室の先生でお腹に赤ちゃんがいる母、
一緒に登下校してくれる兄、憧れの存在である同級生の男の子
のり君ら、多くの人たちに囲まれて元気に過ごしていた.
そんな彼女のあまりにも純粋で素直な行動は、周囲の人たちを
否応なく変えていく.
大森立嗣監督作などで助監督を務めてきた森井勇佑が長編監督
デビューを果たし、あみ子の無垢な視線から見える世界を
オリジナルシーンを盛り込みながら鮮やかに描き出す.
主人公・あみ子役にはオーディションで選ばれた新星・大沢一菜
が抜てきされ、井浦新と尾野真千子があみ子の両親を演じる.
以上は《映画.COM》から転載.
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芥川賞受賞作家の原作、2022年新藤兼人賞受賞、
2022年キネマ旬報ベストテン第4位…といわく付きの本作.
別にキネ旬信奉者じゃないから、そんな権威なんか、これっぽち
も感じないし、尊重もしないのだ.
要は通好みの作品と言うことであろう.
あらすじ紹介では“少し風変わりな…”と形容されているが、
主人公あみ子:大沢一菜 は発達障害のある女の子である.
もちろん本作内でもそんな表現は微塵も無い.
だが、物語が始まると早々にあみ子に障がいがあるのがわかる.
あらゆる場所でズレた発言行動をする.不潔、拘り、多動と周囲に
理解されない行動が描かれる.
悪気は全く無いのだが、人への気遣いがない.ひたすらに自由.
未来への不安がない.ただ刹那の事実に生きている.
それでも、優しい父母に見守られ普通の小学校、中学校へ
通学している.
当然のように差別されるシーンもあり、中々普通の子どもと
同様にいかない様子の描写は観ていても辛い.
本当の名前も知らないのに、執拗に絡んでしまった“のりくん”には
ぶん殴られ鼻を折られてしまう.あみ子を囲む世界は果てしなく厳しい.
そんな模様をドライに描ききる監督の表現は非情にも見える.
障がいに幻聴、幻視まで出てくるあみ子を観ているとこの作品が
ますます重くなってくる.映像化してお化けに扮した人物があみ子
について来始めると厳しいものがある.
母:尾野真知子は死産してしまう.あみ子は弟の死は、
「生まれてきたもん.生まれてきたけど死んどった」と母の前でも
無神経な発言を繰り返す.実際は弟ではなく妹だったのだが、
あみ子の思い込みは激しい….
その後、母親は心の病になり、兄は不良になり、両親は離婚へ.
あみ子も不登校に.優しかった父:井浦新は家族を放棄して、
あみ子は祖母に引き取られ田舎へ連れて行かれる.
あみ子を演ずる大沢一菜は好演と思う.上手く最適な素人を
探し出したものと感心する.父親の井浦新はいつものシュアな
演技だし、母親役の尾野真知子も病む演技を上手く演じていた.
そんな役者たちの好演は良いのだが、全く感情移入出来ない
作品だ.あみ子は障害児と明らかには表現せず、私たちと同じ
世界の範疇に居る子として描かれている.これは明らかな監督の
狙いなのであろう.
同じ範疇の人間同士でその事情や環境を理解しようとするなら、
問題自体の極小化になるような気がする.相手は自分と同じ人間で
あっても、全く別の人間である.このことは、健常者同士であっても
常に認識していなければならないこと.病気や障害においてはなおの
ことだと思う.何故ならその大変さの中には、周囲や社会の理解が
進むことで改善される部分が沢山あるから.
病気や障害をもった人だけが大変だと言いたいわけではなく、
誰にとっても生きることがそれなりの困難を伴う中で、自分の
感じている大変さと発達障害やその家族が抱えている大変さを
同様のものとして捉えてしまうと、寄り添うつもりが相手を傷つける
ことにもなりかねないと思うのである.
作り手、受け手、ともに誰もあみ子ではない.
むしろあみ子を排除する側の人間であるという認識が無いならば
こういった映画は当事者(本当にあみ子である人間、そしてその家族)
にとってはとても辛い映画であろうと思う.
残酷な映画だと思うのである.そんな作品を作り上げた監督は
その手腕は新藤兼人賞受賞に値するのだろうが、私はその手法を
支持は出来ない.
壊れたトランシーバーに『応答せよ…こちらあみ子』
あみ子が応答せよと言えば言うほどに人は離れていく .
私も離れた所から見ていた.
そんな疎外感を味合わせてくれた作品.
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