映画「香川1区」…正直者が報われることがある.
製作年:2021年 製作国:日本 上映時間:156分
前作「なぜ君は総理大臣になれないのか」はドキュメンタリーの面白さを十二分に
楽しませてもらった.真面目で正直者である野党の一代議士の選挙活動を追った
淡々とした映像と、報われない結果(1勝5敗)に相応しい題名(総理にほど遠いの
意味)で出色の出来だった.その次作をキネマ旬報シアターで本年22本目に観賞.
2021年秋の第49回衆議院議員総選挙で注目を集めた選挙区の香川1区に
焦点を当てたドキュメンタリー.衆議院議員・小川淳也氏の初出馬からの17年間
を追った「なぜ君は総理大臣になれないのか」が大きな話題を集めた大島新監督
が、同作の続編的位置付けの作品として手がけ、香川1区の選挙戦を与野党
両陣営、双方の有権者の視点から描く.
2003年の初出馬から1勝5敗と闘いに窮し、比例復活当選を繰り返してきた
小川氏.香川1区で彼の前に立ちはだかってきたのが、自民党の平井卓也議員だ.
四国新聞と西日本放送のオーナー一族にして3世議員の平井氏は、前回2017年
の総選挙で小川氏に辛勝.その後、小川氏は統計不正についての国会質疑や
映画で注目され、その知名度は全国区に広がっていく.
2020年に菅政権が誕生すると、平井氏はデジタル改革担当大臣に就任.
保守地盤である香川の有権者にとって「大臣」の肩書は絶大で、小川氏の苦戦
は免れないと思われたが、平井氏はオリパラアプリに関する不適切発言などで
マスコミの標的となっていく….
以上は《映画.COM》から転載.
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本作の前田プロデューサーと大島新監督は、2021年春の企画時…その秋に
衆院選挙が予定される、は公平な選挙戦のドキュメンタリーを撮るつもりだった
のだろう. 題名「香川1区」がその動機を物語っていると思った.
経緯からいっても、立憲民主の小川淳也氏に比重が重くなるのは致し方無い
としても、ちゃんと各候補にインタビューを申し込んで撮っている.選挙直前に、
保革一騎打ちにもの申すと日本維新の会から出馬を決めた町川順子氏にも
その主張や選挙活動を描いてはいた.
5月時点では、自民党の平井卓也デジタル改革担当大臣も本作のインタビューを
きちんと受けて、NEC入札に関する恫喝事件に対する弁明を繰り広げてみせた.
が、選挙公示後は本作品撮影に関する態度が一変する.
選挙出陣式への出席、取材拒否に始まり、選挙演説風景の撮影拒否.
平井候補の後援者はヤクザかと思うような態度であからさまに取材の邪魔をする
様子が画面に撮られる.カメラの前に背中を向けて立つ…等々.挙げ句の果て
警察を呼ばれ任意同行させられる.警察で説明すると無罪放免されて、取材行動は
問題無し、むしろ恐喝を心配されたという.
その後、選挙活動を取材していくと平井候補の醜聞が次々と耳に入ってくる.
期日前投票をしたら、その隣のビル内で、公務員や会社員の所属、氏名を確認する
という締付けを実施しているとか.改めて自民党の組織動員力の凄さを見せつけられる.
10人分のパーティー券を20万円で売りつけて、出席者は3人までに規制するという
政治資金法破りの手段まで暴露される.どれも事実なのだろうし、先日コメデイ映画
として観た「決戦は日曜日」の世界がそのまま繰り広げられていることを実感する.
が、こんなシーンの連続は、やられたからやり返す的なニュアンスは避けられず、
本作の位置付けが小川淳也氏のPR映画に成り下がってしまった感がある.
一方、小川淳也氏の選挙活動も4年前とは著しい変化が見られた.
自転車による選挙演説行脚や家族揃っての応援は変わらないのだけども、
ボランティアを中心とした団体戦の趣が前回とはまるで違うのだ.
草の根みたいな活動に加え、やはり前作映画の影響であろう.香川だけでなく
名古屋、東京から出向いてくる応援ボランティアの存在とか、小川淳也氏の
主張、活動に真に同意、共感したボランティアたちの集団力が凄いのだ.
これは、対立候補の平井氏の応援団が黒服や会社つながり、やくざまがいで
占められるのと大きな違いが映し出される.
四国新聞と西日本放送のオーナー一族にして3世議員、そして現職担当大臣
という地盤、看板、鞄を背中に背負った平井卓也氏と、必ずや浮動票を獲得する
であろう維新の町川順子氏との選挙結果は…小川淳也氏の勝利に終わる.
むろん、平井卓也氏は自民党の比例復活で首をつないだ.
本作の位置付けは勝っても負けても、変わりはしないのであろうが、
贔屓の当選はハッピーエンドに終わる.
当選に当たっての本人と娘さんのコメントがくしくも一致していた.
「今まで選挙に負ける度に「正直者が馬鹿を見る」と思っていた.
でも今回は「正直者が報われた。」」
香川1区の有権者の良心、良識がまだ残存していたことを認識された作品.
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