映画「人生はシネマティック!」 (DVD観賞)…特殊な条件下の映画愛の発揮
原題:Their Finest
制作年:2016年 制作国:イギリス 上映時間:117分
数年前の公開時、邦題のあざとさからスルーしたイギリス作品.
だって凄い嫌な題名だと思いません? DVDになったから観てみた.
観てみたらとても良い出来の映画愛に充ちた作品だった.
本年累積231本目の観賞.
第2次世界大戦中のイギリス・ロンドンで、映画製作に情熱を注ぐ人々を描いた
ヒューマンドラマ.
1940年のロンドンでカトリンはコピーライターの秘書として働いていた.
人手不足のため、彼女が代わりに書いたコピーが情報省映画局の特別顧問
バックリーの目に留まり、ダンケルクでドイツ軍の包囲から兵士を救出した
姉妹の感動秘話を映画化する脚本チームに加わることとなった.
戦争で疲弊した国民を勇気づけるための映画だったが、製作が開始され、
ベテラン俳優のわがまま、政府と軍による検閲や横やりなどトラブルが続出.
そのたびにカトリンたちの脚本は二転三転してしまう.
なんとか撮影は大詰めを迎えるが、最後に最大級のトラブルが待ち受けていた.
主人公カトリンを「007 慰めの報酬」でボンドガールを演じたジェマ・アータートン
が演じ、サム・クラフリン、ビル・ナイが脇を固める.
監督は「17歳の肖像」「ワン・デイ 23年のラブストーリー」のロネ・シェルフィグ.
以上は《映画.COM》から転載.
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BBC制作の映画って、きちんとまとめられて表現は控えめで余韻が残る
造りが多いと思っている.監督がだれであってもだ.プロデューサーの力
であろうか.
舞台は1940年のイギリス.1940年といえばバトル・オブ・ブリテンの年で
空襲に街はみまわれ、アメリカは参戦しておらず、イギリスが孤軍奮闘して
いた時代だ.
そんな時代の中でもイギリスはドラマ映画を作っていた.ヒッチコックなんかも
作っていたプロパガンダ映画である.この作品は観客であるイギリス人の士気を
鼓舞するだけでなく、配給先のアメリカも喜ばせる内容でなければならない.
ネタはこの年の5,6月に行われたダンケルク撤退作戦.上流階級が支配する国と
いうイメージから脱却するために普通の人々、特に女性が活躍する映画が求められる.
ヒロインカトリン:ジェマ・アータートンが双子の姉妹が撤退に参加したという新聞記事
から脚本を起こそうとするところから物語は始まる.
カトリンを採用した情報省映画局の特別顧問バックリー:サム・クラフリンとの脚本
の共同執筆の様子とか、撮影現場のもめごとをとりなしたり、軍部がゴリ押しする
脚本の修正に妥協点を見出したりと、カトリンが女性ならではの調整能力を発揮
することでプロの映画人たちに認められていく姿が描かれる.
なかでも、2人を困らせるベテラン俳優アンブローズ・ヒリアード:ビル・ナイの
存在が良い.名優の我が儘に困らされながらも徐々にヒリアードの信頼を獲得
していくカトリン.最後の方では強力なコンビを形成する.
内縁の画家の夫を健気に支える秘書として生きてきたカトリンが、脚本の才能を
開花させ、自立した人間に成長していく過程を生き生き捉え描いている.
劇中の出来事とダンケルクの劇中劇の内容がリンクしていくというのは、最近邦画
「ドライブ・マイ・カー」でも経験したが、本作でも見事に実践されている.
カトリンが脚本の腕をあげ、制作チーム内での存在感が増すにつれ、劇中劇の女性
の活躍度もアップする.
女性のパワーを強調した演出が、戦争の悲惨な面も盛り込まれたドラマに
爽快な後味をもたらしている.このあたりは女性監督ロネ・シェルフィグの
手腕によるものであろう.すばらしい!
内縁の画家の夫には浮気され、その後良い雰囲気になったバックリーもスタジオ
の事故で失い、ことごとく男運には見放されたカトリンであったが、好き仕事仲間
や役者に恵まれ、前向きに進んでいく姿は、今も昔も素晴らしい姿だ.
邦題の直さとあざとさが無ければ、映画館で観て感激できただろうに惜しいこと
をしてしまった. ちなみに原題は“Their Finest”…彼らの最高傑作.
一人では成し得ない、調整だらけで作り上げた最上の作品の意だ.
素敵な原題であじわい深いではないか.
戦時中の士気鼓舞の脚本書きという特殊事情ながらも、これまた映画愛が
いかんなく発揮された佳作だった.
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