原題:AMERICAN SNIPER
公開年:2014年 製作国:アメリカ 上映時間:132分
先週末はまるで映画を観られなかった.観る時間はとれたが、
観る気持ちにならなかった.週も明けて気持ち一新、仕事を終えて
川崎のシネコンへ.溜まったポイントでタダで観賞したのは本年25本目.
米海軍のエリート部隊“ネイビー・シールズ”の兵士としてイラク戦線で活躍した
伝説の狙撃手クリス・カイルの回顧録『ネイビー・シールズ 最強の狙撃手』を、
巨匠クリント・イーストウッド監督で映画化した戦争アクション.
2003年のイラク戦争開始以後、4度にわたって戦場に赴き、仲間の命を守るために
実に160人以上の敵を射殺した英雄の知られざる葛藤と苦悩の軌跡を、家族を愛しながらも
戦場から離れがたくなっていく主人公の強い使命感と、それゆえに抱え込んでいく深い心の傷に
焦点を当て、緊迫感あふれる筆致で描き出していく.
主演は「世界にひとつのプレイブック」「アメリカン・ハッスル」のブラッドリー・クーパー.
共演にシエナ・ミラー.
2001年のアメリカ同時多発テロをテレビで目の当たりにした青年クリス・カイルは、
祖国の人々を守るために貢献したいとの思いを強くし、ネイビー・シー ルズで狙撃手としての
過酷な訓練に励んでいく.
やがてイラクに出征したクリスは、その驚異的な狙撃の精度で味方の窮地を幾度も救っていく.
仲間たちから “レジェンド”と賞賛される活躍をし、無事に帰国したクリス.
これでようやく、愛する妻タヤと生まれたばかりの長男と共に平穏な日常を送れるかに思われたが….
以上は<allcinema>からの転載.
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なにか納得感の行かない観賞感.
今までのクリントイーストウッド監督作品独特の“やられた感”がまるで無い.
一見して上っ面だけ観るならば、クリスの活躍を讃えた英雄物語…に見えてしまうのだけど、
そんな単純な作品には仕上がっていない.
クリス・カイルの一面のみをクローズアップする手法ではない.
光を描けば影もまた描いてはある.壮絶な戦況で命のやり取りを交わすたび、 クリスの魂には
楔(くさび)が打ち込まれていく.そして、愛する家族のもとにようやく帰れたかと思うと、
今度は抑えていたものが吹き出し、精神的な爪痕が彼を蝕んでいく.
戦争という狂気に向かう者たちの動機はさまざま.主人公クリス・カイルはその父の教えや
3.11の有り様を目にして、義憤にかられネイビー・シー ルズを志願する.
が、一方でその戦争の中での地獄を見て、くぐり抜けた者たちに待ち受けるのは虚無感であり
PTSDであり、ある者は自殺に追い込まれたりもする.クリス・カイルはそんな修羅場からも
脱したように見えたが、その最期は….
そのカイルの最後を送る多くの人々の参列、振られる国旗の山々、を見てやはり本質は
アメリカ人目線の英雄礼賛作品の感を持った.
だいたい舞台であるイラク戦争自体がアメリカがでっち上げた虚偽の闘いであった.
そこで、女子供も含めて160人以上も殺した男の話である.
なぜ、女子供が対戦車手榴弾を抱いて米軍戦車に走ったか?その気持ちの視点の表現は少ない.
本作で狙撃手クリス・カイルに対抗したのが、サミー・シーク扮するイラク側の狙撃手ムスタファ.
「彼はシリア人狙撃手で、オリンピックでは祖国のために競った」と言われる.
その彼がイラクに来たのは、共通する敵アメリカに対し反政府武装勢力とともに戦うためだった.
彼は映画の中でひと言も発しない.クールで動きは軽快、そして動きにはすべてリズムがある.
隠れ家の壁にはオリンピックに表彰台に登った写真が飾ってある.
ムスタファの気持ちにシンクロする自分がいたことを否定しない.
世界の警察を気取り、他国へ侵略し圧倒的な武力を振り回すアメリカ人.
戦争に於いても最も憎まれるのが狙撃手、スナイパーだ.
なにせ、自分は安全な場所に身を隠し、相手を狙い撃つのだから….
そのスナイパー同士の闘いでクリス・カイルはムスタファを倒す.
無念を感ずる暇も無いほど遠くから飛んできた銃弾に倒れたムスタファ.
カイルの苦悩よりもムスタファの無念に共感を感じた副長に
本作品に与える賞賛はない.
やはりクリント・イーストウッドは生粋のアメリカンなのだと実感.
しかもきな臭いアメリカ人なのだ.
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