映画「私の知らないわたしの素顔」
原題:Celle que vous croyez
制作年:2019年 制作国:フランス 上映時間:101分
休暇を取る水曜の前日はついつい週末気分になってしまうのはサラリーマンの
哀しい習性だろうか、ついつい仕事を終えて映画館へ.柏のキネマ旬報シネマへ
行き、会員の更新手続きを.ついでに?フランス映画を1本、本年19本目の鑑賞.
50代の大学教授がSNSの世界でバーチャル恋愛にはまっていく顛末を描いた
ジュリエット・ビノシュ主演の心理サスペンス。
パリの高層マンションに暮らす50代の美しき大学教授クレール。ある日、年下の
恋人にフラれてしまったクレールは、ほんの出来心でSNSの世界に足を踏み入れる.
Facebookで「24歳のクララ」に成りすましたクレールは、アレックスという男性と
つながるが、アレックスは別れた恋人の友人だった.アレックスとSNSの世界にのみ
存在するクララが恋に落ちてしまったことから、事態は思わぬ方向に展開していく.
主人公のクレール役をビノシュが演じるほか、ニコール・ガルシア、フランソワ・シビル、
スーパーモデルとして活躍するマリー=アンジュ・カスタらが顔をそろえる.
以上は《映画.COM》から転載.
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このところ多種の作品に出演するジュリエット・ビノシュのまた別な面を魅せられた感
の作品.美しい文学系の大学教授役を演じ、その複雑なアラフィフ世代の複雑な
女性感情を演じて見せてくれる.
主人公・クレール:ジュリエット・ビノシュがカウンセリングを受ける場面から物語は始まる.
何かの薬を服用していること、何らかの理由によって療養所のような更生施設にいる
ことが示され、彼女がなかなか信用できない語り手であることが手際良く説明される.
クレールは社会的には成功した人物.本を出版し、大学で教鞭をとり、遥かに歳下の
若い恋人もいる.はたから見れば充実した生活をしているように見えるのだが、
内面的にはそうではない.
恋人との関係が非常に無礼な態度をもって破綻を迎え、彼女は SNSの偽アカウント
で恋人の友人に近づき、元彼の内情を探ろうとする. 最初はただの出来心から来る
行動で、“インスタ”が何か分からなくて調べたりする内に徐々に元恋人の友人との
チャットに執着し、手段が目的とすり変わってしまう.
彼女は その男:アレックス:フランソワ・シビルに執着し、そして彼も架空の美女:
クララに 恋焦がれてしまう. そんないきさつをクレールはカウンセラーカトリーヌ医師
:ニコール・ガルシアに語っていく.
この二人を 決して同一ショットに映さない巧さが極めて効果的.クレールとカトリーヌを
交互に同アングルで映し、 その立ち位置、姿勢を明確に表現する.カトリーヌも十二分に
美しく、知性的な 60代の女性で、クレールと同じように眼鏡をかけている.
クレールの話を聴くだけで、決して自ら口を開くことも無いし、クレールの問いに
関しても 応えない.ただ、目と顔の表情だけでクレールに対する賛意と非難と憧れを
表現する. これはもう素晴らしい演技だ.最期に「患者との会話から学ぶことがある
ことに気づいた」 というセリフがまた印象に残るセリフであった.
小道具としての眼鏡の使い方がにくい.クレールもカウンセラーも眼鏡をかけているのだが、
かけた時と外した時の精神の二面性の表現が巧みで感心してしまう.クレールは眼鏡の
時は真の心情を吐露しているように見えるが、外した時は虚構の世界に生きているような
気配を持つ.
それに反し、カトリーヌ医師は常に眼鏡をしているのだが、最期だけ外して
はじめて心情を述べる….こんな小技の効いた演出が素晴らしい….
どうしても現実に逢いたいというアレックスの強い願望の元、クレールはそれを無残な
形で終止符を打つ…とここまでは予告でも想像できたのだが、物語はここから第2章を
迎える.文学教授の才能を生かし、狂気と虚構の物語りを書いてカウンセラーに
読ませることで、自らの存在をまた証明させてしまう.
そして迎える別な局面、第3章とでもいうべきだろうか.
どんでん返しの二重性とでも いうか結論は観客にゆだねられる.
クレールの言葉にはそこかしこに罠が散りばめられ ている.人を試し、欺き、そして
支配するために.女心の闇は結局は前夫に捨てられたからと最期にクレールは
泣いてみせるが…、はてこの時クレールは眼鏡をかけていたっけ?
中年女性の心の闇を見事にジュリエット・ビノシュが演じ切った秀作.
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