映画「ポトフ 美食家と料理人」…料理が主役!?
原題:La Passion de Dodin Bouffant (The Pot-au-Feu) 製作年:2023年
製作国:フランス 上映時間:136分
やはりフランス映画に戻ってくる.予告では皇太子をもてなすのに、
なんとポトフで…という筋書きだと思いこんでいたら、肩すかしを
喰らってしまった.でも、好きなジュリエット・ビノシュが類い希な
名料理人を演じ、それこそヨダレものの料理を披露してくれる作品.
本年度累積300本目はフランス製の美味しい作品.
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「青いパパイヤの香り」「ノルウェイの森」などの名匠トラン・アン・ユン監督が、
料理への情熱で結ばれた美食家と料理人の愛と人生を描き、2023年・
第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞したヒューマンドラマ.
19世紀末、フランスの片田舎。「食」を追求し芸術にまで高めた美食家
ドダンと、彼が閃いたメニューを完璧に再現する天才料理人ウージェニー
の評判はヨーロッパ各国に広まっていた.
ある日、ユーラシア皇太子から晩餐会に招かれたドダンは、ただ豪華な
だけの退屈な料理にうんざりする.食の真髄を示すべく、最もシンプルな
料理・ポトフで皇太子をもてなすことを決めるドダンだったが、そんな矢先、
ウージェニーが倒れてしまう.
ドダンはすべて自分の手でつくる渾身の料理で、愛するウージェニーを
元気づけようとするが…….
「イングリッシュ・ペイシェント」のジュリエット・ビノシュが料理人ウージェニー、
「ピアニスト」のブノワ・マジメルが美食家ドダンを演じた.
ミシュラン3つ星シェフのピエール・ガニェールが料理監修を手がけ、
シェフ役で劇中にも登場.
以上は《映画.COM》から転載.
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もう最初から、料理テロの連続でノックダウンされてしまう.
美食家ドダン:ブノワ・マジメルと料理人ウージェニー:ジュリエット・ビノシュ
がアシスタントのヴィオレット:ガラテア・ベルージ を指示しつつ手際よく
食材をさばいて加熱し仕上げていく過程を、流れるようなカメラワークで
躍動感いっぱいに描かれていく.
トラン・アン・ユン監督の演出意図を体現した俳優たちの演技と、彼らの表情、
手や調理器具の動き、そして調理が進むにつれ音を発しながら色と形を
変えていく食材を優雅に踊るようにカメラのフレームに収めた、撮影監督
ジョナタン・リッケブールの貢献も大きい.
料理好き、食べ物好きには至福の映画.調理シーンは飽きないし、無駄な
音楽はなく、小鳥のさえずりのほかは、食器や調理器具がカチャカチャと
触れ合う音のみ.羨ましくなるような広いキッチン、窓の外に広がる自然、
大きな鍋、大きなおたま、新鮮な食材、水や油を派手に飛び散らせながら
作る料理…冒頭の30分の料理を作るシーンはまるで夢のよう.
特に傑作だったのは、ズアオホオジロのローストを食べる時に皿の真上に
寄せた頭の上からナプキンをすっぽりかぶるという、変てこでユーモラスな
マナーが描かれている.初めて見た.香りを保つため、恥ずべき行為を
神の目から隠すため、骨を吐き出す姿を他人に見られないようにするため…
など、諸説あるらしい.
美食家と料理人の関係ってプロデューサーとディレクターに似てる.
お互いをリスペクトしつつ、お互いを補完し合う.まさにパートナー.
美食家ドダンを演ずる:ブノワ・マジメルと料理人ウージェニーを演ずる
ジュリエット・ビノシュ1999年に『年下のひと』で共演した縁でパートナーになり
女児をもうけたが、2003年に別れている.かつて夫婦であった関係.
彼らが演じるドダンとウージェニーも公私にわたるパートナーでありながら
長年結婚しないままだったという設定であり、互いを想う繊細な感情の表現は
そうした私生活の過去の経験がプラスに働いたのかも??
中盤は皇太子に豪華な晩餐に招待されたドダンが返礼として皇帝を招いて
単純ながら洗練を極めたポトフでもてなそうと、ウージェニーと試行錯誤する
様と供に、二人の愛情関係に比重が寄ってくる.
寡言であってもひしひしと、確かに感じる二人の親愛と信頼の情.
「無邪気な夏と堅実な冬、その間が人生の秋」というような台詞が
二人の間に取り交わされるのが特に印象に残る.
20年間断り続けた結婚の誘いを、理由は描かれないがウージェニーは受諾
する…美食家と料理人の結婚に友人たちは祝福するが、その良い関係も
長くは続かない.ウージェニーの体調が悪く、何かしら大きな病を患っている
ように見える.そうしたうちに突然ウージェニーは天に召されてしまう.
もうポトフなんてどこかに飛んで行ってしまう.邦題「ポトフ」はミスリードの
感有り. 原題“La Passion de Dodin Bouffant” ドダン・ブーファンの熱情
の方が内容にしっくりする.
失意のドダンを救うのは一つには美食仲間の友情、そしてもう一つは、
尽きぬ食への執念.ここで又主題の料理に戻ってくる.
原題にもある「情熱」に収斂させる流れは鮮やかで上手い脚本だ.
最後の回想で流れるシーンの会話がずっと頭にこびり付く.
「わたしはあなたの妻?それとも料理人?」 「料理人さ」
料理を介在して愛し合う男女と、その別れ.
そしてその失意からの復活もまた料理という、料理が主役の物語.
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