映画「偶然と想像」…とんでもないクリスマスの贈り物作品.
制作年:2021年 制作国:日本 上映時間:121分
今年の邦画一番の収穫は作品「ドライブ・マイ・カー」の素晴らしい脚本と信じて
疑わない.で、その脚本家であり監督である濱口竜介の新作がリリースされた.
柏のキネマ旬報シネマとしては異例の1日3回上映という扱いの中で、同館で
本年累積305本目の鑑賞.
「ハッピーアワー」「寝ても覚めても」の濱口竜介監督初の短編オムニバス.
2021年・第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、
銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した.
親友が「いま気になっている」と話題にした男が、2年前に別れた元カレだった
と気づく「魔法(よりもっと不確か)」.
50代にして芥川賞を受賞した大学教授に落第させられた男子学生が逆恨み
から彼を陥れようと、女子学生を彼の研究室を訪ねさせる「扉は開けたままで」.
仙台で20年ぶりに再会した2人の女性が、高校時代の思い出話に花を
咲かせながら、現在の置かれた環境の違いから会話が次第にすれ違って
いく「もう一度」.
それぞれ「偶然」と「想像」という共通のテーマを持ちながら、
異なる3編の物語から構成される.
以上は《映画.COM》から転載.
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いやはや濱口竜介は希代のストーリーテラーであることを実感した作品.
3つのショート・ストーリーなれど、どれも味わい深く題名通り「偶然と想像」を
効かせた、洒落てひねりがきかせた脚本になっている.
「ドライブ・マイ.・カー」もそうだったが、鑑賞後にその内容をはんすうする
ことが多い作品だ.余韻に浸るとも言えるだろうか、その内容を思いだし、
解釈し、面白さにまた酔う….二度も三度も美味しいのだ.こんな作家は
珍しい….
一つ目の「魔法(よりもっと不確か)」.
タクシー内での仕事仲間の何気ない会話劇から始まる.二人とも二十代
後半の女子たち.玄理演ずる女の子が最近気になる男の子が居ると.
古川琴音に逢って欲しいと.逢うとなんと2年前に別れた元彼だった.
偶然のなせることなれど、玄理曰く、その彼は2年前に別れた彼女が忘れ
られないそう….琴音はその場での修羅場を想像する….が大人の解決を
選んで去っていく.二十代の偶然と想像の世界の儚さ.
二つ目は「扉は開けたままで」.
これは三十代の主婦:森郁月が主役.いつどんな時でも扉を開けたままの
研究室に籠もる大学教授:渋川清彦を訪ねていく.渋川はつい最近芥川賞を
受賞したばかり.その作品のあるパートにサインをもらいに来た森郁月は
主婦で文学部の学生を務めている.
その小説のパートとはかなりのエロティックな表現で、教授の目前で森郁月
は読み上げていく….しかもスマホでそれを録音していく.扉を閉じようとする
森郁月に対して、教授は開けたままを指示する.それでも興奮してやまない
教授は、あとでその録音を送って欲しいと願望する.
その後、森郁月は大学のアドレスにメール送信するが、その宛先は誤送信で、
違う相手であった.その結果渋川教授は失脚してしまう.その行為は偶然の
ものか、単位をくれず落第した彼氏の為の行為か?想像して止まない….
三つ目の話しは「もう一度」.
四十代の女性二人が主人公.占部房子は同窓会に出席するために仙台へ
来ていた.逢いたい同級生には逢えず帰路につこうとした矢先にその同級生
河井青葉に遭遇する.誘われるままに青葉の自宅へ呼ばれる房子.
懐かしさ一杯の会話が進む内にお互い求めていた相手と瓜二つな別人で
あることに気づきあ然とする.しかも房子の求める相手は高校時代の同性愛
の相手だったのに.
それからは共有出来ない過去は置いておき、今の状況から推測する相手の
状況、幸せそして不幸せに想像を巡らせた会話が続く….四十代ならではの
大人の会話のやりとりにはうなずくものが多い.そして最後の別れの駅前で、
二人はまた再会の約束をして別れていく.
さして著名でも無い役者の起用が、かえってリアリティを呼んでいる.
どの役者も自然な演技で脚本の好さを上手く演じていた.役者の持つ
資質とか味を活かした演出であったのかとも見えた.
これはとんでもないクリスマスの贈り物の作品.
今後の濱口竜介の作品から目を離せないと思った.
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