映画「在りし日の歌」
原題:地久天長 So Long, My Son
制作年:2019年 制作国:中国 上映時間:185分
日曜は朝から夕方まで柏で引きこもり(笑).朝一で柏キネマ旬報シネマにて
堂々たる中国製の大作を観る.本年劇場観賞累積91本目.
「北京の自転車」「我らが愛にゆれる時」で知られる中国第6世代の名匠
ワン・シャオシュアイが、「薄氷の殺人」のワン・ジンチュンと「黒衣の刺客」の
ヨン・メイを主演に迎えて描き、第69回ベルリン国際映画祭で最優秀男優賞
と最優秀女優賞をダブル受賞したヒューマンドラマ.
国有企業の工場に勤めるヤオジュンとリーユン夫婦は、中国の地方都市で
幸せに暮らしていたが、大切なひとり息子シンシンを事故で亡くしてしまう.
悲しみに暮れるふたりは住み慣れた故郷を捨て、親しい友人とも距離を置き、
誰も自分たちのことを知らない町へと移り住む.そして時は流れ…….
1980年代から2000年代の激動の中国を背景に、喜びと悲しみ、出会いと
別れを繰り返しながらも共に生きていく夫婦の姿を映し出す.
以上は≪映画.COM≫から転載.
--------------------------------
まるでNHK大河ドラマの中国版のイメージ.大切な一人息子を失った夫婦の
40年間の人生の歩みを淡々と綴る.バックボーンにあるのは文革以降中国で
施された“一人っ子政策”だ.
作中の40年間(80年代、90年代、00年代、10年代)における中国の
変化はかなり激しい.激しく社会情勢が変わるなか、人々はそれに従い、
前を向いて生きることしかできない.
主人公の夫婦は、厳しい一人っ子政策の環境下二人目を宿してしまう.
工場で主任を務める姉に気づかれ、強制的に堕胎されてしまう.その影響で
もう妊娠は出来ない体となってしまう.
その後不幸な水の事件で長男シンシンを亡くしてしまい途方に暮れる夫婦は
養子を取ることとする….
ワン監督がインタビューで語った言葉が以下.
「一人っ子政策は、中国のその世代の人々の運命を完全に変えてしまったと
思います.人生というのは、生まれて成長し、結婚し、子どもを作り、年を取り、
そしてこの世を去る.たった1本の線で、後戻りはできないし、2度目のチャンス
もありません.なので、過去40年間の一人っ子政策を経験した親たちと
子どもたち、また、かつて子どもだった親たちは、この政策によって大きな影響を
受けています.人は一度きりしか生きることができないからです」
なにせ10代から40代の同世代のほとんどの人間が“一人っ子”なのである.
最初から“兄弟”という存在が消されていて、“兄弟”に関する感情とか意識は
全くないのである.加えて「改革開放」という“良い時期”に育てられているので、
両親はもちろん、祖父母からも溺愛されて育っている世代が今や中国の核と
なる世代なのだ.
あからさまな一人っ子政策批判はされない.中国における映画作品への検閲
は厳しい.そんな内容なら本作品は陽の目を見ないであろう.ただ、本国での
上映時間は175分、日本公開版は185分.本国で10分カットされた部分が
日本では観られるのだ.
主人公夫婦が地方都市に帰ってきて、タクシーの窓越しに巨大な毛沢東像を
指さして苦笑するシーンがあった.これは中国では許されないシーンと思った.
本作185分の長尺なのだが、長さを感じさせることなく悠久と流れる時を描いて
いると感じる.編集で短くも出来るだろうが、表現に必要な長さが盛り込まれて
いる感がする.必要不可避な冗長さとでも言おうか.
本作のテーマ曲が何回か流れる.「友誼地久天長」(意味:友情は天地の如く
永久に変わらない)という曲.原題の一部にもなっている.
日本では 「ホタルの光」といして歌われている曲だ.
苦しいことはあっても、喜びが積み重なり、良い未来が待っている―.
そう信じているしかない市井の庶民の苦しみは世界共通だと思う.
極めて優等生的なNHK的な作風だけど、ちらりと見える政策批判の芽も
見逃せない一作.
.
コメント