映画「ロボット・ドリームズ」…優しさに溢れた別れの物語.
原題:Robot Dreams 製作年:2023年
制作国:スペイン・フランス合作 上映時間;102分
評判の高い西仏製のアニメ映画を観に
Movixつくばまで遠征して観賞.
本年度累積236本目.
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「ブランカニエベス」で知られるスペインの
パブロ・ベルヘル監督が初めて手がけた
長編アニメーション映画.アメリカの作家
サラ・バロンによる同名グラフィックノベル
を原作に、擬人化された動物たちが暮らす
1980年代ニューヨークで犬とロボットが
織りなす友情を、セリフやナレーション
なしで描く. ニューヨーク、マンハッタン.深い孤独を
抱えるドッグは自分の友人にするため
にロボットを作り、友情を深めていく.
夏になるとドッグとロボットは海水浴へ
出かけるが、ロボットが錆びついて
動けなくなってしまう.どうにかロボット
を修理しようとするドッグだったが、
海水浴場はロボットを置いたまま
シーズンオフで閉鎖され、2人は
離ればなれになってしまう. 2024年・第96回アカデミー賞で
長編アニメーション賞にノミネート.
以上は《映画.COM》から転載.
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102分の短めの尺、全編台詞無し.キャラクター
の表情や動き、音楽のみでドッグとロボット2人
の友情物語が描かれる.
冒頭は主人公ドッグの大都会での寂しい独り
暮らしの様子が描かれる.
ニューヨークの片隅、小さなアパートの一室で
明かりも点けずにTVゲームをプレイするドッグ.
ゲームは2人対戦のテニスゲームなのに、
コントローラーは2つともドッグが操作している
という1人遊び.
夕食は大量買いしてストックしてあるレンチン
する冷凍食品。ふと、前を向くと、消えたTVの
黒画面に反射する孤独な自分.気晴らしにTV
を点けてチャンネルを回すも、TVの雑音すら
鬱陶しく、堪らず消音にしてしまう….
このたった数分間の映像に、ドッグが友達も
恋人もおらず、同じ冷凍食品で飢えを凌ぐ
変わり映えのしない日々を過ごしているという、
彼の抱える「孤独」がこれでもかと表現されて
いる.
このシーンの前振りががあるからこそ、
友達ロボを注文してロボットと出会った事で、
彼の孤独に満ちた日々が癒されてゆく後の
展開が活き活きと描かれる効果がある.
そんな孤独なドッグのパートナーとなる
ロボット.終始可愛らしく、愛おしく感じられる
シンプルな外観が良く出来ている.
初めて目にするニューヨークの生活に、
好奇心を向けて目を輝かせている様子.
砂浜に置き去りにされながらも、ドッグとの
再会を夢見る様子.
渡り鳥の巣を守る中で、雛の一羽と友情
を深め、彼らの成長と旅立ちを見守る様子.
この優しい心持ちのロボットは厳冬の海岸
で独り過ごすことを余儀なくさせられる.
ドッグは、海開き当日にロボットを回収しに
行くが、ロボットは既に廃品回収工場で
スクラップになってしまっており、失意の彼
は似たタイプの安売りされていた子供ロボ
のティンを購入し、新しい生活を始める.
一方ロボットは一度はスクラップにされ、
“ラスカル”によってラジカセ型の新しい
ボディと生活を与えられる.
しかし、新しい生活に手を伸ばしならも
ドッグはロボットを、ロボットはドッグを
忘れてはいなかった.
それでも、運命の悪戯によって引き離され
てしまう世の中の残酷さが浮き彫りになる.
そして、互いに新しい生活を手に入れた
からこそ、ラストでは相手の事を思いやって
身を引くという選択をする.
偶然目にしたドッグと彼の新しいパートナー
の“ティン”が仲良く通りを歩く姿を
目の当たりにしながらも、妄想の中で彼を
追わずにはいられない想い.
しかし、その想いは内に秘め、新しい
ラジカセ姿のボディで2人の思い出の曲
「September」を掛けて、再会ではなく
音楽で想いを伝える優しさ.
この優しさと切なさに満ちたラストが
胸を打つ.作中度々掛かるEarth, Wind
&Fireの「September」の明るい曲調が
またなんとも感慨を与えてくれる選曲.
本作は、優しさと希望に満ち溢れた、
素敵なお別れ…がテーマだろうか.
「別れ」という悲しい選択をしながらも、
決してネガティブなエンディングでは
ないのが、好い余韻を残してくれる.
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