映画「ウィ、シェフ!」…移民と料理を上手くからめた佳作.
原題:La Brigade 製作年:2022年
製作国:フランス 上映時間:97分
2番館柏キネマ旬報シアターに観たかったフランス作品がやって来た.
本年度累積135本目の鑑賞は料理を通じて移民問題を描く作品.
――――――――――――――――――
孤独なシェフと移民の少年たちが料理を通して交流する姿を、
実在のシェフであるカトリーヌ・グロージャンをモデルに描いた
フランス製コメディドラマ.
一流レストランでスーシェフを務める女性カティは、シェフと大ゲンカ
して店を飛び出してしまう.やっとのことで見つけた新しい職場は
移民の少年たちが暮らす自立支援施設で、まともな食材も器材もない.
施設長ロレンゾは不満を訴えるカティに、少年たちを調理アシスタント
にしようと提案.料理がつないだ絆は少年たちの未来のみならず、
天涯孤独で人づきあいが苦手だったカティの人生にも変化をもたらしていく.
「シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション」のオドレイ・ラミー
がカティ役で主演を務め、「最強のふたり」のフランソワ・クリュゼが
施設長ロレンゾを演じる。監督は「社会の片隅に」のルイ=ジュリアン・プティ.
以上は《映画.COM》から転載.
――――――――――――――――――――――
夢破れたスーシェフのカティ:オドレイ・ラミーが移民の少年たちとの交流
を通じて、変化・進化していくさまを描いた作品.
たかが?前菜に掛けるソースをめぐり、シェフと大げんかして高級レストラン
を飛び出してしまうカティ. シェフとスーシェフの関係は絶対的にシェフの
言いなりが当たり前.これがカティの得意の野菜のゼリー仕立ての前菜.
飛び出して行き着いた先は、移民の子供たちの賄いをする施設の厨房.
設備も古ければ、道具も足りない.それでも一人で奮闘するが、ランチが
午後2時にやっと間に合う始末.移民の子たちを手伝いに募集すると、
なんと10人も集まってしまった.
移民の子たちと書いたが、年齢は不詳だ.生まれも育ちも自己申請は
当てにならない.なんと骨年齢で年齢を判断するそう.成年するまでに、
学校に入るか就業しないと、強制送還される仕組みらしい.フランスと
言えども移民にある程度の規制はあることを実感させられる.
集まったその10名は料理に関してど素人.彼らにあるのは 「好奇心」.
足りないのは「知識と経験」.カティは包丁で野菜を切る基本から教え
始める.
否応も無く料理指導が始まるのだが、進めていく内、カティにも次第に
誰しも料理に対して素直な感受性を持っていることに気付く.
喧嘩をしながらも徐々に距離が縮まり、友情や信頼や絆を培っていく.
いつしか主人公とそこに暮らす人々がファミリー化していく様が描かれる.
移民の子供たちを演じていたのは実際に支援施設に住む強制送還一歩
手前の少年たち.彼らの演技が妙にリアルで真に迫っているのが特徴的.
ラストに向けて、軽薄な料理バトル番組を利用していくカティの計画が
素晴らしい.彼女は勝ち抜いていき、ラストの決勝バトルへ.そこで大芝居
を打つことする.移民の子供たちを助ける為の大芝居だ.
唖然とする大芝居の果ては一見ハッピーエンドのようだが、実際は全然
異なる.10人の子供たちの内、職業に就けたのは2名だけで、他はみな
本国へ強制送還されてしまっている.これが現実であろう.
フランスは過去の歴史からも移民問題は常に抱えている問題.
本作はそれをメインに重くなりすぎず笑える映画を作る.
感傷的になりすぎず、笑わせつつ、極端に泣かせず、考えさせる.
登場人物はそれぞれの立場でガンガンものを言う. 言ってから、それで
あなたは?と問いが出て、会話が始まる.
自分をまずは前に出す.相手が反応する.そして次の行動に移る.
忖度は一切ないから、本音だけのぶつかり合いだし、出てくる結論も
双方納得いくものになっていく.
邦題は、カティが移民の子たちに強制する返事から出たもの.
原題は“La Brigade”、直訳するなら“移動する集団”だろうか、
移民全体を指しもするし、動いて活動する10人の子供たちを指す
のかもしれない.
正しい答えは無い移民問題.それとフランスらしい料理を絡めた、
ユーモアとエスプリが効いた、味付けの濃い作品だった.
.
コメント