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映画「ボイリング・ポイント 沸騰」…息つく間もないワンショット作品


映画「ボイリング・ポイント 沸騰」-1
原題:Boiling Point  製作年: 2021年
製作国:イギリス  上映時間:95分




父との面会の前に、予告で気になっていた作品をMovix柏の葉で.
本年度累積162本目の鑑賞はイギリスの料理に関した作品.
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ロンドンの高級レストランを舞台に、オーナーシェフのスリリングな
ある一夜を、全編約90分ワンショットで捉えた人間ドラマ.

一年で最もにぎわうクリスマス前の金曜日.ロンドンにある人気高級
レストランのオーナーシェフのアンディは、妻子との別居や衛生管理検査
で評価を下げられるなど、さまざまなトラブルに見舞われて疲れ切っていた.

そんな中、アンディは気を取り直して店をオープンさせるが、あまりの
予約の多さにスタッフたちは一触即発状態となっていた.
そんな中、アンディのライバルシェフが有名なグルメ評論家を連れて
突然来店し、脅迫まがいの取引を持ちかけてくるが…….

主人公アンディ役を「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」「アイリッシュマン」
のスティーブン・グレアムが演じる.監督は新鋭フィリップ・バランティーニ.

以上は《映画.COM》から転載.
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観てビックリ、なんとワンショット、一発録りの90分の作品だった.
イギリスの名店レストランで起きる一夜の出来事とトラブルの数々….
これが目まぐるしく続く.どれもこれも複雑なシークエンスだが、カットは
一切なし.編集の痕跡もなし.本当にワンショットだ――狂気的なまでに
緻密に計算された映像世界が広がり、それを一気に見せるのだ.

物語はレストランのオーナー兼シェフのアンディ:スティーブン・グレアムが
大遅刻をかまし、そそくさと店に入るシーンから始まる.
開店準備に大忙しの従業員たちと挨拶を交わしながら、厨房へ歩を進める.
仕込みを済ませ、やがて“100人以上が予約している”という狂乱の
ディナータイムを迎える.

客が次々にテーブルにつき、注文が入る.厨房で前菜やメインやさまざまな
料理が出来上がる.フロアスタッフが席へ運ぶ.
合間に種々のトラブルが起こる….


映画「ボイリング・ポイント 沸騰」-3


ただでさえ多忙な一夜に、衛生検査、食材の仕入れや仕込みの不備、
飲酒や薬物や自傷の問題を抱えぶつかり合うスタッフら、黒人ウェイトレスを
見下す白人客、アレルギー持ちの客、レストランの出資者でもある著名シェフ
とグルメ評論家の突然の来店など…、


映画「ボイリング・ポイント 沸騰」-2


いくつもの小さな火種がくすぶり、店全体がまるで火にかけられた大鍋の
ように温度が上がっていき、ついには“沸点”に達するのかの様相を示していく.

ワンショットという撮影手法に加え、緊張感を持続させる脚本も工夫されている.
労働環境、依存症、人種差別、ジェンダーなどさまざまな社会問題を盛り込んで
いて、脚本的にも完成度が高いと感じた.

いつもこの手の接客業を観て思うこと. 絶対に“お客様は神様ではない”と思うのだ.
サービスの提供側と享受側と立場は存在するが、その間には決まったルールと
モラルに基づいた仕組みが存在し、それに見合った金銭が支払われる関係だと
思うのだ.一方的な顧客側の言いなりに従う必要は無いと思う.

本作でも、メニュウにないステーキを無理矢理オーダーするSNSのインフルエンサー
や、本来うっすらピンク色が残る焼き色のラム肉を焦げ焦げに焼けとクレームする
客が出て来る.この家族客なんぞは、テーブルの担当が黒人女性スタッフであると
とたんに差別を繰り返す虫ずが走るような客.


映画「ボイリング・ポイント 沸騰」-5


もう一組、本来なら予約時に申告すべきアレルギー持ちのカップル.あろうことか
注文時に付け加えたように、ナッツ・アレルギーと言う.どう仕度すれば好いと
いうのだ!! 案の定、口づての指示が不十分でドレッシングにナッツが使われ、
アレルギー反応を起こし、救急車を呼ぶ羽目に陥る.

客にはそれなりに架された義務やモラルがある.それを守って提供側から快適な
時間とサービスを受けて、それ相応のペイをするのが筋であろう.

そんなトラブルに見舞われ、厨房やカウンターの内側では怒号が飛び交い、
罵倒する言葉での応酬、暴発寸前のストレスフル状態が続く.
どんな狭苦しい場所にでも入り込むカメラワークは、ワンショット映画による
スタッフ・キャストの緊張感をも浮かび上がらせ、いつしか観客も一緒に息が
詰まるような精神状態に追い込まれていく.

ついには、懐刀のスーシェフ・カーリー:ビネット・ロビンソンにまで店を辞めると
宣言されてしまうアンデイは独り部屋へ閉じこもって、ヘロインに手を出してしまう.
そして起きるまたもの悲劇….

約95分間、極限まで凝縮された臨場感と、尋常でない没入感を味わうことができ、
まさに息つく間もないままエンドロールを迎える.
これは滅多に味わえない体験をさせてくれる映画.
本年の洋画五本指に入る傑作だ.


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