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映画「やがて海へと届く」…あれから11年、心にけじめがつけられない人.


映画「やがて海へと届く」-1
製作年:2022年 製作国:日本 上映時間:126分



まだ邦画探しは続く….TOHOシネマズおおたかの森で観たのは喪失のドラマ.
本年度累積90本目の鑑賞.

彩瀬まるの同名小説を岸井ゆきの主演、浜辺美波の共演で映画化.
引っ込み思案な性格で自分をうまく出すことができない真奈は、自由奔放で
ミステリアスなすみれと出会う.

2人は親友になったが、すみれは一人旅に出たまま突然姿を消してしまう.
すみれがいなくなってから5年、すみれの不在をいまだ受け入れることが
できずにいる真奈は、すみれを亡き者として扱う周囲に反発を抱いていた.

ある日、真奈はすみれのかつての恋人である遠野から彼女が大切にして
いたビデオカメラを受け取る.カメラに残されていたのは、真奈とすみれが
過ごした時間と、真奈が知らなかったすみれの秘密だった.
真奈はもう一度すみれと向き合うため、すみれが最後に旅した地へと向かう.

真奈役を岸井、すみれ役を浜辺が演じるほか、杉野遥亮、中崎敏、鶴田真由、
中嶋朋子、新谷ゆづみ、光石研が脇を固める.
監督は「四月の永い夢」「わたしは光をにぎっている」の中川龍太郎.

以上は《映画.COM》から転載.
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オープニングのアニメーションが、ストーリーを少し変えてエンディングにも現れる.
哀しみはいくら幻想的に描いても哀しみのままだと呟いて、アニメーションは終わる.
ここは素直に心に沁みた.

人の死は本人は死んで終わりなのだけど、残された人はそこで終われない.
残された人にとっての死は、溶けるように、消火していくように、終わっていく
しかないのかもしれない.

すみれ:浜辺美波の母:鶴田真由や彼氏だった遠野:杉野遥亮は、自分の中で
すみれの死を徐々に溶かして、消していったのではないかと見える.
一方の真奈:岸井ゆきのは、終わらせたくなかった様に見える.

旅に出たまま帰って来ない親友すみれへの想いを抱きながら年を重ねる真奈.
すみれを死んだ事とする周囲に抗うように思い出の詰まったビデオカメラの中
からその痕跡を見つけようともがく.親友以上、恋人未満の、恋心を抱いた
同性パートナーのすみれを亡くした喪失感の演技は素晴らしい.

時間軸の表現が曖昧なのだが、2005年の新入生歓迎会での出会いから、
2011年3月11日に気仙沼を一人旅中で、行方不明になった悲劇.
それから5年後のレストランで働く真奈の様子がバラバラに映し出される.

東日本大震災の津波を扱っているにもかかわらず、どこかオブラートに
包んだような優しさが存在する.行方不明のままだと死は受け入れられず、
亡き人として扱う母親や元恋人に違和感を感じざるを得ない真奈を岸井ゆきの
はシュアに演じて見せる.内面描写が上手い女優だ.

特に明確に亡くなったとわかるわけではなく、「生死不明」状態での、
心をどう扱っていいかわからないもどかしさ、というあたりが素晴らしい.

心に決着をつけるべく、気仙沼をレストランの先輩と訪ねる真奈は、そこで
同じように大切な人を亡くした人たちと出会い、心に何かしらのけじめを
見出す….

最後は駅で一人列車を待つすみれの姿に、アニメがかぶさって、水に
漬って、流されていく…シーンで終わる.


映画「やがて海へと届く」-2

映画「やがて海へと届く」-3


あの悲劇からもう11年.いやまだ11年.同じように心にけじめをつけられない
人たちが多くいるのであろう.



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