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映画「茜色に焼かれる」


映画「茜色に焼かれる」-1
制作年:2021年 制作国:日本 上映時間:144分




わりと好きな若い監督石井裕也の新作をTOHOおおたかの森で
鑑賞.本年累積125本目.

尾野真千子の4年ぶりとなる単独主演映画で、「舟を編む」 「映画 
夜空はいつでも最高密度の青色だ」の石井裕也監督による人間ドラマ.

7年前、理不尽な交通事故で夫を亡くした母と子.母の田中良子
はかつて演劇に傾倒していたことがあり、芝居が得意だった.

ひとりで中学生の息子・純平を育て、夫への賠償金は受け取らず、
施設に入院している義父の面倒もみている.コロナ禍により経営
していたカフェが破綻し、花屋のバイトと夜の仕事の掛け持ちでも
家計は苦しく、そのせいで息子はいじめにあっている.

そんな彼女たちが最後まで絶対に手放さないものがあった.
社会的弱者として世の中の歪みに翻弄されながらも信念を貫き、
たくましく生きる母の良子を尾野が体現.

息子の純平役を「ミックス。」の和田庵が演じるほか、片山友希、
オダギリジョー、永瀬正敏らが顔をそろえる.

以上は《映画.COM》から転載.
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冒頭の1,2分しかオダギリジョーは出演しない.自転車に乗って
横断歩道上で元官僚が起こしたブレーキ踏み間違いの事故で、
轢き殺されるシーンだけ.あとは遺影での出演のみだ.

19年4月に高齢者、元高級官僚の運転する乗用車が暴走し
計11人を死傷させた「東池袋自動車暴走死傷事故」を題材
としている.加害者の容姿も似ているし車種も同じだ.

この事件、現在も裁判進行中だがあれだけの規模の事故なのに
逮捕もされないとか、今後の判決も元高級官僚というだけで、
不安な裁定が予想される.なによりも本作でも使われているが、
「謝罪の言葉が一言もない」こと.信じがたいことだ.

尾野真千子扮する37歳の主人公・田中良子は、7年前のこの
交通事故で夫を失って以来、中学生になる息子をひとりで
大切に育ててきた.

加害者側から支払われるはずの賠償金は、「謝罪の言葉が一言も
なかったから」を理由に受け取りを拒否.コロナ禍で経営していた
小さなカフェは破綻し、施設には脳梗塞で体が不自由になった
義父がいるため、家計は火の車.

スーパーの仕事だけではどうにもならず、風俗で稼いでいる.
その上 亡き夫が別の女性とのあいだにつくった娘の養育費まで面倒を
見ており、良子の心情に共感どころか理解しがたい部分がある.


映画「茜色に焼かれる」-2


八方塞がりで希望など持てる状態ではない良子だが、最愛の息子
純平:和田庵 がいればこそ、決して諦めない.結婚前は芝居を
していたという設定で、本音を語らず感情が動きそうなときは
「まあ頑張りましょう」で済ませてしまう….

本作に出てくる男はクズばかり….

先ずは、加害者の官僚が天寿を全うして、夫の葬儀とは桁違いの
立派な葬儀に参加しようとした良子を追い払う弁護士:嶋田久作.
遺族が迷惑すると、これ以上関わるなら警察沙汰にすると脅迫する.
人を殺した側がいつの間にか被害者に摺り替わる社会の歪み.

次は、ホームセンターの若き店長.ルールを守れと頻繁に良子に
言いながら、本社から来た上役に指示され、上取引先の娘を入社
させるために、30日前通告をせずに良子に解雇を伝える.

順平をいじめる同級生3人の低次元かつ下卑た仕打ちにはヘドが
でるほど.しまいには順平のアパートのベランダに干してある亡き父の
蔵書に火を点けて火事騒ぎまで起こしてしまう.

次に、夫のバンド仲間の男:芹澤興人.夫の命日に今後助けて
やるからとセクハラする…良子は作り笑いをしてやり過ごす.
愛した男の友人だから、我慢したのだろうか?

中学時代の恋仲だった男クマキに一時的に惹かれてしまった良子は
風俗で働いている時と同じような態度と言葉つき、違和感一杯だ.
クマキが遊び半分なのに気づき、包丁で刺そうとする….

そして、良子が働く風俗に来る虫けら以下の男達の心無い言葉と
態度.金を払えば良いというものでは無いだろう.

この風俗店の店長:永瀬正敏は怪しげなのだけど、良子の味方
を演ずる唯一の頼もしい存在.クマキに惚れて風俗を辞めようとする
良子に、いつでも相談に乗るからと言い、クマキの正体がばれた時は
ぶちのめす….


映画「茜色に焼かれる」 -3


風俗の同僚、哀しき女性ケイ:片山友希の存在感が圧倒的.
同じ苦しみを味わう中に徐々に友情が育まれていく.
二人で飲み屋で噛合わない会話を交わす姿の愛おしいこと….
この女優片山友希は今後注目すべき対象かもしれない.

次々と世の不条理というか、理不尽なことばかり起こる展開の中で、
我が子への溢れんばかりの愛を抱えて、圧倒的にそれらに屈しない
気概と気高さをもって立ち向かう良子を演じた尾野真千子に感嘆.

真にこのコロナ禍の真っ只中で撮られたこの作品、
なんだか前向きな力にさせられる力を持っている.

石井監督と尾野真千子に肩を押された気分….




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