映画「デンマークの息子」 (DVD鑑賞)
原題:Danmarks sonner
制作年:2019年 制作国:デンマーク 上映時間:120分
TSUTAYAの棚の新作で興味あるテーマの作品を発見.
本年累積118本目は移民問題を考える作品.
近未来のデンマークを舞台に、世界的に高まりつつあるナショナリズム
の問題をスタイリッシュな映像で描いた政治サスペンス.
23人の犠牲者を出した爆破テロ事件から1年が経った2025年の
コペンハーゲンでは、移民排斥を訴える極右政党が支持率を上げていた.
移民や難民に対するヘイトクライムが激化する中、19歳のアラブ系
移民ザカリアはそれに対抗する過激派組織に入り、党首の暗殺を
命じられる.
自身もイラク移民の両親を持つウラー・サリム監督の長編デビュー作.
「トーキョーノーザンライツフェスティバル2020」や「SKIP国際Dシネマ
映画祭2019」では「陰謀のデンマーク」のタイトルで上映.
ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催の
「未体験ゾーンの映画たち2021」上映作品.
以上は《映画.COM》から転載.
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近未来を描くと言っても、今のヨーロッパではあるあるの事情を描く.
2024年にコペンハーゲンのノアボート駅で爆破テロが起き23人が
犠牲になるが、その一人に恋人が含まれていたアラブ系の若者
ザカリア:モハメド・イスマル・モハメドが前半の主役.
冒頭の恋人との会話を見てもザカリアの脳みその中身は薄そうだ.
案の定その1年後、極右政党の党首を襲撃しようとする過激派に
入ってしまう.
この組織の洗脳?手口が巧みだ.まだ中身は子供の19歳に
過酷な移民たちの現実を目の当たりにさせて、英雄になれと、
ザカリアに移民排外主義への反感を煽る流れはテロ組織の
常套手段なのだろう.
それでもザカリアは家族思いで母と弟との3人暮らし.その仲
睦まじい様子を見た組織のスタッフ マリック:ザキ・ユーセフは
党首襲撃の役を降りろと説く.
このマリックが実は過激派に潜入していた捜査官.マリックの通報
により、ザカリアの襲撃は失敗に終わり収監されてしまう.
その後、マリックは超右傾テロ組織“デンマークの息子”と移民排斥
を掲げる極右政党との関係を曝こうとすることなり、本作の後半の
主役を担う.
本作のサリム監督はイラクの両親を持つデンマーク生まれ.
二つの文化の中で仕事をしていて、まるでマリックのような立場だ.
監督自身の思い入れの反映なのか、マリックは二つの文化に
挟まれ、苦しむ.
台頭する極右政党の党首ノーデルは、他国からの移民の流入が
社会混乱の原因であって、移民は自国に帰るべきだと主張する.
自分の妻はスエーデンからの移民なのに北方系白人はかまわない
らしい.
そんな妻帯環境も主張も前米大統領のあいつにそっくりだと思った.
意識的設定だろうが本作は2019年の作製、大した主張だ.
が、米であやつがもてはやされたようにデンマークでもノーデルは
支持を受け、選挙で大勝し大統領になろうとする.
一方マリックは静かに暮らしていたが、ある日家族が襲撃され、
息子は射殺され、妻は顔に酸を浴びせられてしまう….
いきさつから見てもイスラム系過激派の報復だと思われるのだが
マリックの気持ちは、極右の“デンマークの息子”と極右党首:
ノーデルの方に向っていってしまう.
これは自分のせいで収監されたザカリアとその家族への負い目と
自分の家族を壊された恨みと、そして真にデンマークの未来を
憂えてか、祝賀会中のノーデルを…暗殺してしまう.
テロに対する報復、報復がまたテロを生む…、この繰り返しだ.
別に白人至上主義者と諸アラブ国の移民との争いだけでなく、
このところ激化しているイスラエルとパレスチナ間の問題でも同じだ.
憎しみは憎しみしか生まず、争いの根は尽きない.
本作にも解は無い.
近未来とうそぶき今の窮状を描いた作品.
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