映画「MOTHER マザー」

制作年:2020年 制作国:日本 上映時間:126分
勤め先がワークライフバランスで終業が早く、夕方の映画の上映に間に合う.
火曜の夕方、TOHO柏で観たのは邦画、大森立嗣監督の新作.
本年劇場観賞累積88本目.観客数5名.
「日日是好日」「光」の大森立嗣監督が長澤まさみ、阿部サダヲという
実力派キャストを迎え、実際に起きた「少年による祖父母殺害事件」に
着想を得て描いたヒューマンドラマ.
プロデューサーは、「新聞記者」「宮本から君へ」など現代社会のさまざまな
テーマを問いかける作品を立て続けに送り出している河村光庸.
男たちと行きずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきたシングルマザーの
秋子は、息子の周平に異様に執着し、自分に忠実であることを強いてきた.
そんな母からの歪んだ愛に翻弄されながらも、母以外に頼るものがない
周平は、秋子の要求になんとか応えようともがく.身内からも絶縁され、
社会から孤立した母子の間には絆が生まれ、その絆が、17歳に成長した
周平をひとつの殺人事件へと向かわせる.
長澤まさみがシングルマザーの秋子、阿部サダヲが内縁の夫を演じる.
息子・周平役はオーディションで抜てきされた新人の奥平大兼.
以上は≪映画.COM≫から転載.
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このところ売れっ子の長澤まさみの捨て身の演技の挑戦と
驚異の新人:奥平大兼のデビューが話題なのだろうか.
商業監督としての大森立嗣がシュアなまとめ方をしている.
孫による祖父母の殺人事件は事実だが、それを元にした フィクション作品.
合間に最近話題になった8日間幼児放置みたいなエピソードも盛り込んでみせる.
ほとんど人間失格みたいな生き方しかできない母親秋子を
長澤まさみが演ずる.作中ほとんどすっぴんみたいなノーメイク顔で、
いつものべらんめいモードの演技を披露する.
パチンコやゲームセンター入りびたり、酒もたばこもたしなみ、 男を連れ込んでは
すぐ寝てしまう.飯の手配やカネの収集は 幼い息子をリモートして稼ぐ.
両親妹にはあいそをつかされている.
アパートではガスを止められ、電気も止められても、男を追って
名古屋に1週間も行き、息子を放置する…その男の役を
演ずるのが阿部サダヲ.クズみたいな人間を演じさせると超一流.
そんなクズ男にも愛想をつかされ逃げられ、放浪しているところを
社会福祉士の夏帆が見つけ、簡易宿泊所や生活保護の手続きを してもらう.

思えば10年前の是枝裕和の名作「海街diary」で姉妹を演じた
のも長澤まさみと夏帆だった.奔放な次女と堅実な三女の役.
おもえば、あの時の役柄がそのまま再現されている気がした.
さて、この前作品「ステップ」でも述べたが、問題のあるシングルマザーを
診るにはその生まれた環境や育った環境を看なければいけないと書いた.
この怪物秋子を生む環境が見当たらない.両親は慈愛溢れる、
良識ある年金暮らしの老人にしか見えない. 妹は大学を出て就職し
家庭をもうけて普通に暮らしている. どうして怪物秋子は生まれたのか?
元夫も苦しい生活の中から 毎月秋子親子に送金をする勤勉な一介の男
にしか見えない.
そんな経緯を少し描いたらもっと作品に深みが出たかもしれない.
そうしていくうちに秋子はクズ男阿部サダヲの子を宿し、女の子を 生んで、
年は経過していく.5年経っても秋子の生活は改まらない. 工務店で働く
周平:奥平大兼は給与の前借を断られ、事務所の カネを盗むにまで至る….
そして秋子の指示で祖父母を….
秋子は、周平を自らの分身と言う.舐めるようにして育ててきたとも.
母と少年の歪んだ共生生活のはては血の繋がった祖父母の殺人と
言う事件へ発展してしまう.
つらつら考えるに、こういう親子を孤立させてはいけないと考えた.
やはり社会が看て、関与せねばならない.本件においては、母と子の
分離は必須と思えた.
情のどうのこうのや、血の繋がりではなくて、 子を分離して普通の生活に
戻すべきであろう.
こんな一つの悲劇から考えさせられることは意外に多い….
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