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「浮世の画家」 カズオ・イシグロ

浮世の画家01


珍しく読書録を.
事の発端は2週間前の、NHKの番組、日曜美術館だった.
この3月末に公開予定のドラマ「浮世の画家」の特集だった.

主役に渡辺謙を配する8Kドラマ.なんとこのドラマの為に新進画家たちに
3枚の画を描かせたという.その画の作成場面を中心にドラマの紹介だったのだが、
この3枚の出来が素晴らしかった….

こんな画が出てくる画家の物語の原作に興味をもったしだい.
原作者はカズオ・イシグロ、今を時めく英国在住のノーベル賞作家だ.
彼の長編小説第2作らしい.初期作品ということか、出世作だそう.

もちろんオリジナルは英語で書かれ、日本では翻訳本.訳者は飛田茂雄.

舞台は意外なことに、戦後間もない日本なのだ.
同氏の印象はまったく日本語を話さない、英国生まれの英国育ちの作家の印象だった.
が、本作は細かい日本の戦後の原風景の描写も含めて、描かれていたのは、
まさに「日本」であった.

---------以下は本書の裏書から転載--------

戦時中、日本精神を鼓舞する作風で名を成した画家の小野.
多くの弟子に囲まれ、大いに尊敬を集める地位にあったが、
終戦を迎えたとたん周囲の眼は冷たくなった.

弟子や義理の息子からはそしりを受け、末娘の縁談は進まない.
小野は引退し、屋敷に籠りがちに.

自分の画業のせいなのか…….
老画家は過去を回想しながら、みずからが貫いてきた信念と
新しい価値観のはざまに揺れる.

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日曜美術館では、本作の小野を藤田嗣治に当てはめていた.
戦中の戦争画作成について、戦争責任を問われGHQに追及された藤田.
最終的には訴追は逃れたが、画界をはじめ世間の眼の批判は本作と
同じ環境であったのかもしれない.

そんなじくちたる気持ちの吐露が見え隠れする本書を読みながら、
藤田の気持ちを想い、算じてしまった….

藤田は祖国を捨て、フランスへ帰化して二度と日本へは戻ってこなかった.
さて、本書の主人公の小野は…?

ドラマの地上波放映は3/30(土)の夜.名優渡辺謙の演技とくと見させてもらおう.
出てくる3枚の女性を描いた画もまた見事です.




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