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映画「人生フルーツ」…この豊かな人生!



制作年:2016年 制作国:日本 上映時間:91分


日曜のお昼、かねてから予告で観て興味があったドキュメンタリーを
柏キネマ旬報シネマでやっと観ることができた.本年累積71本目の鑑賞.

「死刑弁護人」「ヤクザと憲法」などの東海テレビ製作ドキュメンタリーの劇場版第10弾.
90歳の建築家・津端修一さんとその妻・英子さんにカメラを向け、その豊かな老後の
暮らしぶりと、60年間連れ添ってきた2人の深い夫婦愛を見つめていく.

2人が暮らすのは、愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンの一隅で異彩を放つ
小さな雑木林に囲まれた一軒の平屋.

かつて日本住宅公団で数々の都市計画を手がけた修一さんだが、1960年代に
自然との共生を目指した高蔵寺ニュータウンの基本設計を手がけるも、
済優先の無機質な大規模団地に取って代わられてしまう.

やがて、それまでの仕事から距離を置き、その高蔵寺ニュータウンに土地を買うと、
恩師アントニン・レーモンドの自邸に倣った平屋を建て、雑木林を育て始める.
それから50年、雑木林は里山の風景を甦らせ、キッチンガーデンでは70種の野菜と
50種の果実が栽培され、妻・英子さんの手で美味しいごちそうへと姿を変えていく….

以上は<allcinema>から転載.
――――――――――――――


「家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない」とは、
モダニズムの巨匠、建築家にして芸術家のル・コルビュジエの言葉.

このお二人の住まいはまさに宝石箱のように輝いて見える.
住居の素晴らしさだけでない、老いた二人の生活が美しく、輝いているのだ.

著名な建築家アントニン・レーモンドの自邸を真似して建てた平屋の住居は
壁のない1部屋の空間.今でいう所の1SLDKだね.天井は高く、明り取りの
窓に障子があり、それを物干しざおみたいな長い棒でしか開け閉めできない.

その障子を張り替えるシーンが2回も….かなりの長期間のロケであることを
実感させられるエピソード.雑木林に囲まれ、目前には畑と果樹園が広がる.

先日観た映画「光」に続いて、またも樹木希林のナレーションなのだけど、
やはり名手、素晴らしいナレーションだ.柔らかで耳にスッと入ってくる声で、
何度もこのフレーズが繰り返される.

「風が吹けば、枯葉が落ちる.
枯葉が落ちれば、土が肥える.
土が肥えれば、果実が実る.
こつこつ、ゆっくり.人生、フルーツ.」




事実、落ちた枯葉や木枝はコンポジットに入れて堆肥にする.
落ち葉をかき集め、まとめ、畑に撒く作業が繰り返し繰り返し映される.

そんな畑と果樹樹から収穫される四季折々の70種の野菜と50種の果実を使って
キッチンガーデンで、妻・英子さんの手で美味しいごちそうに変わる様が映される.
見た目は茶色が多いけど(笑)、とても美味しそうな食事のシーンは印象的.

90歳の夫と87歳の妻、合計177歳の食事風景は美しくもあり、とても豊かな食卓だ.
ふたりは、たがいの名を「さん付け」で呼び合う.長年連れ添った夫婦の暮らしは、
細やかな気遣いと工夫に満ちている.

妻:英子さんは刺繍や編み物から機織りまで、何でもこなす.
夫:修一さんは絵手紙をせっせっと描いては、マウンテンバイクでさっそうと
郵便局まで届けに行く.

この修一さんになんと仕事が舞い込む.佐賀県有田の精神科病棟の構想デザイン.
ニーズのインタビューをして、目の前でサクサクとスケッチを広げていくさまは
とても90歳には見えず、現役の建築家のよう.

その数日後には詳細な設計コンセプト図まで送付されてくることから、
普段からそういうコンセプトを練って描いていた節があるとアナウンスされる.
90歳現役の建築家、素晴らしいではないか.

そのコンセプト、やはり雑木林と果樹木に囲まれた癒しの空間.実際に建築され
るシーンもあるのだが、設計主の修一さんがこの建物を実際に見ることは無かった.
このドキュメンタリー撮影中に修一さんが突然死してしまう….

ある穏やかな日に修一さんが草むしりをして昼寝に入ったまま、帰らぬ人になってしまう.
このドキュメンタリー撮っている最中だから、死に顔まで映されちゃう….

残された妻:英子さんは画面では淡々としている.独りの食事は寂しいと故修一
さんの仏前にも毎回同じ食事を作って供えている….悲しみの表現として秀逸.

建築家って絵が上手.構造図や俯瞰図を描き慣れているせいから?.
修一さんのイラストを描いた看板がとても素敵だ.畑に植えたものの表示看板と
か、雑木林にやってくる小鳥たちの水飲みかめの看板とか、味わいがある.





この水がめ、何度も何度も登場するにだけど、ある日の台風で割れてしまう.
妻:英子さんは執着しない.「モノはいつかは壊れるものだからね.しょうがな
い、しょうがない…」と.

でも、ラストシーンではこのかめがまた再登場する.
娘さんたちが手作りで治してくれたよう.このかめと修一さんが描いた看板が
ラストショット.心に染みるショットだった.

余計な感想や憶測をいっさい排して、コツコツと長期間撮りためた映像の記録.
ドキュメンタリーの手本のような作品.地方局、良い仕事をしているなぁ….
在京のキー局の馬鹿さかげんにへきへきとしている身にはとても新鮮だった.











コメント

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> 1kurageさん
こんばんは.
憧れの老後の生活が…そこに在りました.
7ナイスありがとうございます.

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> きみちゃんさん
こつこつ、ゆっくりの人生だったら憧れじゃなくて出来るのかな…と思いました.要は生き方なのかなと.
ナイスありがとうございます.

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うーーむ、これは私の周りの普段映画を観ない方々も映画館へ、ということで話題になっています。
憧れの生活なんでしょう。
副長さんも憧れ?

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> じゃむとまるこさん
農耕的とか生活スタイルでは無くて、そのコツコツと地味な作業を繰り返すことで何かを成し遂げるその生き方に共感しました.そういう意味では“憧れ”かもしれません.ナイスありがとうございます.

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こんばんは~

心温まる映画ですね。
こちらで上映しているのかな~~
近くで上映していたら見てみたい・・
ナイス

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> KEIさん
けっこうメージャー上映しているようです.
お時間あれば….
ナイスありがとうございます.

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この映画は何度もアンコール上映されているようですね。
先日友達との集まりでこの映画が話題に出て
副長さんがおっしゃるような内容だと初めて知りました。
最初に上映された時に見たレビューで間違った印象を持っていました。
見そびれたのが残念です。

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> scabiosaさん
まだまだ都内では上映しているようですね.
チャンスあれば是非っ!
ありがとうございます.

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そうなんです、私も鑑賞した方々の感想から違った印象を持っていました。
6月半ばから京都シネマで再上映、一日一回の上映ですが鑑賞予定に。

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遠征で通うミニシアター館でやってたんですが
時間が合わず断念しました!(涙)
おらが村の老舗館待ちしています。
鑑賞できたら改めでお邪魔致しますね♪

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> じゃむとまるこさん
観る人それぞれでしょうね.自家製農業をする方はいくらでも居ます.
この本質は違うところにあると思いました.ご覧になった感想が楽しみですっ♪

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> 風森湛さん
老舗館に相応しい作品ですよね.ご覧になったら感想が楽しみですっ.
トラバ待ってますね♪
ナイスありがとうございます.

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この映画名画座に出回ってるのでいつか見に行く予定。以前似たようなテーマのドキュメンタリー「ふたりの桃源郷」という映画を見ました。やっぱり老夫婦の営みを綴った小品なんですが、夫婦というものは片方が欠けると残された方はしゅ~っと弱ってしまうものなんですかねえ。
我が家もそうなるのかしら?・・夫婦ものは色んな感情を抱きながらついついチェックしてしまいます。

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> はらみさん
そうそう、観る人の立場によって色んな見方、感想があってしかるべきと思います.本作の英子さんは連れ合いを亡くされても、気丈に見えましたけど…、本当のところはどうでしょうか?

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突然の喪服のシーンは、本当にびっくりしました。よくカメラが入ったもんですよね。
素晴らしい生き方でした。
こちらからもTBお願い致します。

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> atts1964さん
今年の邦画では副長一番かも…。
よく出来たドキュメンタリーです。
ナイスとトラバありがとうございます。

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先月 観ていたのですが、書きかけの記事放置状態でした(汗!)

バードバスが、このご夫婦の静かな生き方の象徴の様でしたね。
大切にするけれど執着しない。ご主人の死さえも静かに受け止めて・・・。
こういう女性になりたいと切に思います。TBさせてください♪
(でも、正直言うとこんなに手のかかる旦那は嫌だ~!)

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> 風森湛さん
旦那は手がかかるものなんですよ(笑).
それはそれとして、たしかに模範となる生活なのですが、自分にはとても出来ない….だからこそ映画になるんですね♪
ナイスとトラバありがとうございます.

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去年から見たい見たいと思いつつ、昨日やっと見ることができました。
コツコツゆっくり。こうやって暮らしを紡いでいくのって、憧れますね。手作りの豊かな生活を目指していたはずが、あわただしい暮らしに追われてしまっていて、思わずわが身を振り返ってしまいました。

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> まんちさん
コツコツの手作り生活。なんでも無いようでも、充実した毎日の穏やかな生活。素晴らしいご夫婦でしたね。学ぶこと多しのドキュメンタリーでした。今出先なので、帰宅後トラバさせていただきますね。