映画「太陽と桃の歌」…物語も展開もない結末にがっかり.
原題:Alcarras 製作年:2022年
製作国:スペイン・イタリア合作 上映時間:121分
ベルリン映画祭で金熊賞を獲ったというわりには
地味な上映をしている作品をTOHO柏で観賞.
本年度累積242本目.
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2017年の長編デビュー作「悲しみに、こんにちは」
で世界的に高く評価されたスペインのカルラ・シモン
監督が、カタルーニャで桃農園を営む大家族の
最後の夏を描き、2022年・第72回ベルリン国際
映画祭で最高賞にあたる金熊賞に輝いた
ヒューマンドラマ.
スペインのカタルーニャで、3世代にわたる大家族
で桃農園を営んでいるソレ家.例年通り収穫を迎え
ようとしていた矢先、地主から夏の終わりに土地を
明け渡すよう通達される.桃の木を伐採して、その
場所にソーラーパネルを敷き詰めるというのだ.
頑固者の父は激怒するが、母と妹夫婦はパネル
の管理をすれば楽に稼げるという話に心を動か
される.賭け事でお金を稼ごうとする祖父、取り付く
島のない父、資金稼ぎに畑の片隅で大麻栽培を
始める長男など、それぞれの方法で桃園の危機
をどうにかしようとする彼らだったが、やがて
大げんかに発展.家族の関係に大きな亀裂が
入ったまま、最後の収穫が始まる.
以上は《映画.COM》から転載.
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予告で観た時は、のどかな桃収穫風景の映像に
癒されるかと思って観始めたがそうではなかった.
本作ではカタルーニャに住む「ソレ」一家の“最後の夏”
が描かれる.
祖父や大叔母、その子供に孫たちと、三世代にわたる
総勢十三名の大家族で構成される.
もっとも、一つ所に住んでいるわけではなく、桃農園の
収穫をはじめとし、ことあるごとに集まっては他愛の
ない会話を交わす穏やかな日々が映される.
企業による果物の買い叩きはあるものの、それ以外に
取り立てての問題はなく、今年の夏も過ぎて行く
はずだった.ところが地主から土地の明け渡しを
迫られ日常は暗転してしまう.
戦時中、先代の地主を匿ったことから好意で借して
もらっていた土地だったが、今の地主がソーラー
パネルを設置するということで明け渡すように
言われてしまう.
祖父が結んだと、言っている土地の売買契約は
口頭によるもので証書類は一切残ってはいない.
その事を父親は祖父を責め立てる….
地主から持ち掛けられたパネル管理人の仕事に
妻と妹夫婦は乗り気をしめしはするが、今まで
農業一筋で生きて来た夫、父親の態度は頑な.
一族は混乱し、ぎすぎすした空気が支配する.
そんな中でも、今年の収穫は始まる.
伝統的な収穫方法、手もぎだ.
それは日本でも同じなのだけど、収穫してからの
扱いが決定的に違う.日本は傷が付くからと、
取り扱いも、選別もそれは我が子のように大事に
扱うのに比して、スペインでは全てに於いて雑.
それこそ芋のように、投げ、転がして扱う.
フランスに暮らしていた頃、フルーツ類は
スペイン産が多かった.もちろん“桃”も
スペイン産がほとんどだった.木箱に雑に
放り込まれた桃は、皮は固く丈夫で、
日本の様に繊細なひげは生えていない.
価格も味も相応だった.
主人公一家の桃の扱いを見て、さもありなんと
思った次第.日本の果実は高付加価値指向が
強く、またその味の品種改良も盛ん、西欧など
比較にならないのは今も同じであろう.
さて、家族としては農園を核とした皆々での
生活を続けたい目標は共通ながら、目指す
方向がてんでばらばらのため、収束点は
見い出せない.
家族の中で、今まで溜まっていた膿がじわり
と表に滲み出る.
体調を崩しながらも桃園に拘りをみせる祖父.
桃園以外に考えられず荒ぶりつつも子供には
農業より学業という親父.太陽光パネルの管理
の仕事に揺れる義弟.家業のことを気にかけつつ
も手っ取り早く大麻を育てて小銭を稼ごうと
する息子…、インモラルは駄目だよね.
変わらない、変われない、先が読めない、
考えられない不器用な親父が根本原因なのだが、
物語が終焉を迎えてもそれは変わらない.
根本的な解決は一切無く、観客に投げ込まれる
のは、桃の木を投げ倒していく重機の姿とその音.
陽光に包まれた画面とはうらはらに、この一家が
背負う将来の重さが、重機がたてる不協和音と
共に迫って、幕が下りる.
これがほんとに「金熊賞」??
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