映画「ルート29」…“不思議”に満ちた作品
製作年:2024年 制作国:日本 上映時間:120分
森井勇佑監督の前作「こちらあみ子」は自閉症
を描いた作品で、とっても“痛かった”作品の
記憶がある.怖いもの観たさでMOVIXつくばで
観賞したのは本年度累積227本目.
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長編デビュー作「こちらあみ子」で第27回新藤兼人
賞金賞を受賞するなど高く評価された森井勇佑
監督が綾瀬はるかを主演に迎え、詩人・中尾太一
の詩集「ルート29、解放」にインスピレーションを
受けた独創的なストーリーで撮りあげた
ロードムービー.
他人と必要以上のコミュニケーションを取ること
ができない孤独な女性・のり子は、鳥取の町で
清掃員として働いている.
ある日、彼女は仕事で訪れた病院の入院患者・
理映子から「娘のハルを連れてきてほしい」と
頼まれ、何かに突き動かされるように姫路へ
と向かう.
やがて見つけたハルは風変わりな女の子で、
初対面ののり子に「トンボ」というあだ名をつける.
のり子とハルは姫路と鳥取を結ぶ国道29号線
を進むなかで、さまざまな人たちと出会い
ながら互いの絆を深め、からっぽだったのり子
の心は喜びや悲しみの感情で満たされていく.
「こちらあみ子」で主演を務め鮮烈な印象を
残した大沢一菜がハルを演じた.
以上は《映画.COM》からの転載.
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一見男の子のように見えるハルはその実
女の子、森井勇佑監督の前作の“あみ子”
を演じた大沢一菜だったんだね.ずいぶん
大きくなった.
されどそのキャラはあいかわらず“不思議”
ちゃんで、人の思惑からはずれたセリフを
吐くし、突拍子もない行動も示す.
転じて共同主演とも言えるのり子を演ずる
綾瀬はるかがまた独特なキャラクターを
演じてみせる.国民的大女優の片鱗も
見せない、つっけんどんな無表情を
続ける変わった演技を見せる.
思うに、前作の“あみ子”が成長した姿を
のり子は表現しているのでは?とも思いたく
なってしまう.興味のある対象にしか行動
しない.他人の思惑が読み取れない.
極端なコミュニケーション能力不足…等々.
そんな二人が姫路から鳥取までを国道
29号…ルート29を使ってだ.
のり子とハルの旅は、はじめこそ国道29
号線を車で進んで行くが、やがて生きて
いるのか死んでいるのかよくわからない
人々と出会い、異界巡りのような様相に
移っていく.
世の中に馴染めずにそれぞれ生きてきた
2人にとって、人生の次のステージに進む
ために必要な通過儀礼だとすれば、
この旅は“修行の旅”の様相を呈してくる.
犬を連れた赤い服の老女:伊佐山ひろ子
に車を盗まれたり、森の中で暮らす父子
高良健吾と原田琥之佑との交流とか、
普通では無い人たちとの出逢いが淡々
と描かれる.
極めつけは、のり子の実姉亜矢子:河井
青葉の家に寄って宿泊するシークエンス
がまた印象的.姉はどうも教師らしいが、
通勤手段がローラーボードだったりで、
やはり…変わっている.
宿泊した先での姉妹の話し合いも当然
噛み合わなくて、そんな人生を二人は
過ごしてきたのかとまた想いは巡って
しまう(苦笑).
いわゆる国民的女優の一人として確固
たる地位を築いた綾瀬はるかが、アート
系や単館系と呼ばれそうな本作への出演
オファーを快諾したのは、珍しいケース.
綾瀬自身が森井勇佑監督のデビュー作
「こちらあみ子」を大好きだったというのも
大きいだろう.これまで娯楽大作映画、
NHK大河ドラマや民放ドラマで数多く
主演をこなしてきた彼女が、イメージが
固まることを良しとせず、役者として
表現者として新境地を開拓すべく
同世代の気鋭監督の映画に参加する
ことを望んだのであろうか.
そして、「こちらあみ子」で見出された
大沢一菜(現在13歳)が、前作から約2年分
の成長を見せてくれる.
同作と今作の両方で脚本も書いた森井監督は、
大沢一菜の“あみ子”がその後どうなったかを
イメージしてハルのキャラクターを造形した…
と察せられる.
野生児のような天然ぶり、ハルの母親:市川
実日子が精神を病んでいるなど、
「こちらあみ子」に通じるポイントも多い.
二人の旅はハルと母、理映子の再開で終わる.
が、心を病む理映子との会話もまた“不思議”
で終わる….
さて、目的を達したのり子の心に去来するのは、
喜びなのか哀しみなのか、はたまた安堵の
気持ちなのか、その表情からは全く読み切れない.
そんな不思議な作品であった.
[副長日誌補足]
綾瀬はるかの本作へののめり込み
を表すような、彼女自筆のイラスト
うーん、やはり不思議だ….
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