映画「ぼくの家族と祖国の戦争」…貴方ならどうする?
原題:Befrielsen/Before it ends 製作年:2023年
制作国:デンマーク 上映時間:101分
ブロ友さんのレビューを読んで気になっていた作品が
ようやく柏キネマ旬報シアターの2番館にやって来た.
いそいそと観賞してみたのは本年度累積207本目.
———————————————
第2次世界大戦末期にドイツから20万人以上もの
難民がデンマークに押し寄せた事実をもとに、
極限状態に置かれながらも信念を貫こうとする
家族の物語を感動的に描いたヒューマンドラマ.
1945年、ドイツによる占領末期のデンマーク.
市民大学の学長ヤコブは、敗色濃厚となった
ドイツから逃れてきた大勢のドイツ人難民を学校
に受け入れるようドイツ軍司令官に命じられ、
妻リスとともに究極の選択を迫られる.
一家がドイツ人を助ければ周囲から裏切り者と
見なされて全てを失う可能性があるが、救いの
手を差し伸べなければ多くの難民が飢えや
感染症で命を落とすのだ.
そんな中、ヤコブの12歳の息子セアンは難民
の少女と交流を持つが、少女は感染病に
かかってしまう.
「アクアマン 失われた王国」のピルウ・アスベック
が父ヤコブ、本作が長編映画デビューとなる
ラッセ・ピーター・ラーセンが息子セアンを演じた.
監督・脚本は「バーバラと心の巨人」の
アンダース・ウォルター.
以上は《映画.COM》から転載.
——————————————
第2次世界大戦中と戦後におけるデンマークと
ドイツとの複雑な関係は、映画「ヒトラーの忘れもの」
にも描かれていたが、本作では終戦前後の極めて
ピンポイントの時期のデンマークの出来事を描く.
1945年4月、デンマークはナチス・ドイツの占領下.
市民大学の学長ヤコブ:ピルー・アスベック)は、
ナチスの現地司令官から戦火を免れたドイツ人
難民を受け容れよと命令される.
難民たちは当初告げられていたのは、難民の数は
百数十名程度、管理監督はドイツ軍が行う、
学校側は場所の提供だけ、だった.
が、列車で到着した難民の数は500を超え、
かつ軍は管理を行わず、食料の配給さえなかった.
ヤコブは、「敵国人に手助けは行わない」として
いたが、ヤコブと妻のリス:カトリーヌ・グライス=
ローゼンタールは窮状を見かねて食料を提供
するように.しかし、それは地元デンマーク人の
反感を買い、裏切者として投石などの暴力行為
を受け、その後は援助することはなかった.
しばらく後、衛生面も劣悪、食料も不足、結果、
難民施設内で感染症が広がり、次々と死んでいく
幼い命を目の前にしてヤコブは助け始める….
家族4人で構成される主人公なのだが、この
家族内での思考の変節具合が淡々と描かれる.
父親ヤコブは最初は保身の為もあり、ドイツ人
から一定の距離を置こうとしたが、難民の間に
ジフテリア感染による死が広がるのを見て
国や人種を超え、人命を救うことに配心する
ように変わっていく.
最初は食料を配るなどしていた妻:リスは
やはり周囲からの心無い声・誹謗中傷・暴力
があり、揺れ動くが、最終的には夫付いて行く.
息子セアン:ラッセ・ピーター・ラーセンは
徹底してドイツ人難民に心を許さなかった.
母親が食料を提供する段でも、父親が感染症
治療・予防の薬を提供しようとしてもだ.
父ヤコブが難民支援を行いだしたことから、
子どもたち間の遊びにも変化が出る.
これまではレジスタン側とナチス側を順番に
演じて遊んでいた戦争ごっこで、セアンは
「これからずっと、おまえはナチス側」だと
苛められるようになる.
いつだって子供の世界は大人の反映だからね.
子どもだって、残酷なのだ.
木に縛りつけられて置き去りにされたセアンを、
一人のドイツ人少女:ギアラが助けて…、
セアンは幼い恋ごころを抱き、情を変えていく.
この展開が巧みなのだ.
主人公の子どもの気持ちが、一途な「愛国心」
から揺れ動く「愛敵心」へと移り変わっていく様子は
映画「ジョジョ・ラビット」にも似ている.これは戦中、
戦後のドイツ人母子の物語ではあったが、その
“心変わり”の模様に近似性を感じた.
そしてその少女ギアラも病に倒れ、セアンは
救いたい一心で彼女を連れてアントワープの
病院まで行くことを決行してしまう….
たとえどこの国の人間であろうと、目の前で
子供達が死んでいくのを黙って観ている訳
にはいかないと医薬品を調達しようとする人.
一方で、目の前でドイツ兵に家族や愛する人
を殺された人々は「ドイツ人がどうなろうと
知った事か」「ざまあみろ」と思うであろう.
そんな思いを否定する事は難しい.
しかし、ドイツ人避難民を助けようとする人を、
反ナチスの人々は村八分状態にして強く排斥
し始める.「愛国心はないのか?」と吐き捨てる.
これが“憎しみの連鎖”であり、報復感情が
行動に表れてしまっている.
この連鎖を断ち切らねばいけないことは頭では
理解出来ても、感情で左右される人間には
難しい….
おそらく戦争などなければ皆ほぼ善人であった
であろう人たちが戦争によって心を醜くさせられて
いく様が描かれている.ドイツ人でもデンマーク人
でもいい人もいれば悪い人も存在するのである.
「あなたならどうする?」を本作は厳しく
問い掛けて来る.
「自分ならば、この映画の中でどの位置に
立っていたんだろう?」
観終えてもこの感情が続いてしまう.
そう言う意味では強い印象をあたえる
映画である.
最後にヤコブの家族が街を出なくては
行けないこととなり4人並んで街を去る姿は
寂しく感じるところもあればこれからの逆境に
立ち向かっていく強い志も感じられ、一つの
救いを見ることも出来る.
.
コメント