映画「笑いのカイブツ」 (DVD)…岡本天音渾身の演技が痛い.
製作年:2023年 製作国:日本 上映時間:116分
今年正月の公開時は意識的にスルーした作品.レンタル回しで十分と判断した.
この夏、レンタル開始したので借りてきてみた.本年度累積178本目の鑑賞.
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「伝説のハガキ職人」として知られるツチヤタカユキの同名私小説を原作に、
笑いにとり憑かれた男の純粋で激烈な半生を描いた人間ドラマ.
不器用で人間関係も不得意なツチヤタカユキは、テレビの大喜利番組にネタを
投稿することを生きがいにしていた.毎日気が狂うほどにネタを考え続けて6年が
経った頃、ついに実力を認められてお笑い劇場の作家見習いになるが、笑いを
追求するあまり非常識な行動をとるツチヤは周囲に理解されず淘汰されてしまう.
失望する彼を救ったのは、ある芸人のラジオ番組だった。番組にネタを投稿する
「ハガキ職人」として注目を集めるようになったツチヤは、憧れの芸人から声を
掛けられ上京することになるが…….
「キングダム」シリーズなどで活躍する岡山天音が主演を務め、仲野太賀、
菅田将暉、松本穂香が共演.井筒和幸、中島哲也、廣木隆一といった名監督の
もとで助監督を務めてきた滝本憲吾監督が長編商業映画デビューを果たした.
以上は《映画.COM》から転載.
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ハガキ職人のツチヤタカユキの実話くらいの浅い知識で鑑賞.
お笑い作家になんか興味の欠片も無い.岡山天音も過去作品で、名を知って
いる程度だった.予想通り岡山天音の人間関係不得意で、笑いに取り憑かれた
鬱屈不安定な主人公を見事な憑依的演技に終始する“痛い”作品であった.
単なる奇人か、稀代の天才か―…笑いに取り憑かれた男ツチヤを、岡山天音が
その役に憑かれたように演じ、痛いほどに純粋で激しい生き様と魂の叫びがを
観る者の心に突き刺さしてくる.
本作の岡山天音の演技は、過去作で演じてきた役のひとつの到達点であり、
そしてその殻を突き破って“カイブツ役者”の狂気が主演作で開花したと
言える演技をスクリーンに叩きつけてきて、観ていても本当に“痛い”のだ.
片時も“笑い”のことしか考えていなくて、メモを欠かさない.食事していても、
バイトしている時でもだ.当然普通人の生活は成り立たない.笑いを追求するのに
自らは笑顔を一切見せないし、他から見れば不気味な男そのものでしか無い.
元来お笑いの世界に興味が無い.TVで出てくるお笑いがまったく理解できない.
純粋な落語や、完成された話術の漫才には笑いもするが、大声を出すだけとか
同じセリフを繰り返す下世話なお笑いタレントには殺意を感じるだけでしかない.
本作でも、主人公ツチヤが繰り返し投稿するハガキ芸の内容も、そのシュールさ
は理解するものの、笑うことにはほど遠いと感じた.そんなハガキ芸をラジオ番組
においてもてはやされ、順位が上がっていくことに血道を上げる主人公の思想が
哀しいと感じるばかり.
実際、一つの才能だけが飛びぬけて、その他のこと全てが苦手という人は存在する.
生きることが極めて難しいのだけれども、本作のツチヤみたいに、何とかその道で
生きているというのは幸運かもしれない.
そんな“痛い”ツチヤを温かく見守る人々が描かれる.シングルマザーでしたたかに
生きる母親:片岡礼子.フードコートでネタ書きに熱中するツチヤを見守るバーガー
店員ミカコに松本穂香、バイト先で出会った友人?ピンク:菅田将暉、そしてハガキ
投稿のなかで、そのツチヤの才能に気付いた漫才ベーコンズの西寺に仲野太賀.
主人公が狂気とも言えるような痛い演技をしていると、それを見守る周囲の演技は
限りなく優しく見える.最近のだと「ミッシング」の石原さとみに対する青木宗高とか
中村倫也の事例がそうであろう.脇の方が評価が高くなる(苦笑).
本作の菅田将暉がまさに上手い演技を見せてくれる.髪をピンクに染め、収監経験
も持ちながら、バイトで知り合ったツチヤの良き理解者を演ずる.黙して語らない
負の演技に終始する岡山天音に対して、ボケて突っ込んでみせる.情熱の人ツチヤ
を良く理解して、終始味方であろうとする.この菅田将暉は誉められる存在と思う.
もう一人のツチヤの理解者、漫才の西寺:仲野太賀の存在も貴重だ.彼が出てくると
ホッとした和みの雰囲気が漂い、岡根天音の負の演技のマイナス分を緩和してくれる.
ハガキ芸の頃からツチヤの才能を評価し、引き立て、東京に呼んで自分のチームに
取り入れてくれる.それでも、ツチヤは人間関係を否定し一人孤立していく.
この西寺とベーコンズを組みする相方水木:板橋駿谷が実に嫌らしい性格の持ち主
に描かれている.聞けばこの漫才ベーコンズのモデルは実在のオードリーだそう.
賢者の西寺は若林、愚者の水木は春日がモデルだそう.さもありなんと感じた(笑).
実話ベースということもあり、サクセスストーリーなんかでは決して無く、最後まで
鬱屈としていて結末にも希望はない. 映画用に体裁よく整えられたラストのある
物語とは違い、現実あるあるのままラストを迎える.
岡山天音のサイコパスまがいの狂気の演技の印象が強くて辛かった観賞.
劇場で観なくて良かった….
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