映画「The Son 息子」…父の葛藤、子の悶絶を描く.
原題:The Son 製作年:2022年
製作国:イギリス 上映時間:123分
前作「ファーザー」の衝撃は忘れられない.その“家族三部作”の新作.
観たかったが上映が短く観落としてしまった.2番館キネマ旬報シアター
にやって来たので、さっそく観てみた.本年度累積116本目の鑑賞.
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初監督作「ファーザー」で第93回アカデミー脚色賞を受賞した映像作家・
劇作家のフロリアン・ゼレール監督が、ヒュー・ジャックマンを主演に
迎えたヒューマンドラマ.
「ファーザー」に続く「家族3部作」の2作目で、ゼレール監督の戯曲
「Le Fils 息子」を原作に親と子の心の距離を描き出す.
家族とともに充実した日々を過ごしていた弁護士ピーターは、前妻ケイトから、
彼女のもとで暮らす17歳の息子ニコラスの様子がおかしいと相談される.
ニコラスは心に闇を抱えて絶望の淵におり、ピーターのもとに引っ越したい
と懇願する.息子を受け入れて一緒に暮らし始めるピーターだったが、
親子の心の距離はなかなか埋まらず…….
主演のジャックマンが製作総指揮にも名を連ね、「マリッジ・ストーリー」の
ローラ・ダーン、「私というパズル」のバネッサ・カービー、「ファーザー」の
アンソニー・ホプキンスが共演.
2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品.
以上は《映画.COM》から転載.
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フロリアン・ゼレールの初監督作「ファーザー」は認知症の父と介護を務める娘
を軸に据えた作品であった.監督第2作となる「The Son 息子」は息子とその父
の関係が中心となる.
「ファーザー」が認知症を患った主人公の混乱した主観を視覚的なギミックで
観客に疑似体験させる表現に大きな衝撃を受けた.
本作はギミックさは抑えて、心を病んだ息子ニコラス:ゼン・マクグラスの内面に
迫るというよりも、父ピーター:ヒュー・ジャックマンの視点を主軸に、何とか息子
の力になりたいと願いながらもままならない過程を客観的に描いていく.
厳格な父アンソニー:アンソニー・ホプキンスに育てられ、NYで活躍する
弁護士ピーター:ヒュー・ジャックマンは、妻のベス:ヴァネッサ・カービーと
生後間もない息子セオの3人で暮らしていた.
そこへ前妻のケイト:ローラ・ダーンが、同居する息子ニコラス:ゼン・マクグラス
が手に負えないと相談に訪れる.彼女に長男を任せっきりにしていたピーターは
責任を感じ、ベスを説得して自宅にニコラスを引き取る.
ぎこちない日々の中で徐々に落ち着きを取り戻すニコラスと、彼を受け入れ、
家族になろうと努めるピーターとベスだったが、ニコラスが抱える心の闇は
もっと深いものであった.
過去にリストカットも何度かやっていたニコラス.ついにピーターの家庭の中でも
やってしまい、大騒ぎとなる.入院したほうがいいと医師に告げられるものの、
夫婦がサインをすれば退院できると言われ、後者を選んでしまう.
原題も邦題も息子という題名はいくつかの関係を包含する.高校生のニコラス
はピーターの息子であり、ピーターは未だ緊張関係にある老父アンソニーの
息子でもある.赤ん坊のセオもピーターの息子で、いずれ思春期を迎える
のである.
ピーターは仕事漬けの父親アンソニーの生き方に疑問を持ち、そうはならない
よう努めるが、結局は同じ道を歩んでしまう.アンソニーの方が割り切りというか
歳の功で卓越した思想をもっているだけに、息子のピーターを恫喝したりもする.
多忙で家庭を顧みないピーターの父親、ニコラスの鬱状態のきっかけになった
ピーターとケイトの離婚、選びようの無かった人生だったのか?
父子で脈々と受け継がれてしまう父親らしさという呪縛に悶絶してしまう.
やり場のない思いが、世代を越えたものとして描かれる.
重いうつ病においては、やはり周囲が本音を理解するのは難しい.
最後に退院して、ピーターとケイトと3人で過ごした時間のニコラスの笑顔に
嘘はなかったと思いたい.両親が揃って笑うだけで彼にとっては夢みたい
だっただろう. もうとっくに絶望しているはずなのに、どうしてもどこかで
信じたい気持ちを持ち続けるニコラスの真意は誰にも判らない….
退院の決断時に「愛では治せない、これは病気であり治療は医者の仕事です」
そう精神科医が断言したシーンが印象的.親だからという愛情は勿論、責任感
からも家族で解決しようとする気持ちは理解は出来るのだが、その対処を
誤ってしまえば悲劇に見舞われるのだ.
最期の銃声には驚愕. 医者の断言が正しかったことが証明される.
エンドロール中に長い時間静止したテロップがあり、普段は無視するのを
読んでみた.
ハイティーンの自殺に関する小文と、連絡先が載っていた.
悩みを気づいてあげること、医者にかかるように勧めることが
推奨されていた.
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