映画「サンドラの小さな家」(DVD観賞)…家ではなく彼女自身に残ったものは
原題:Herself 製作年:2020年
製作国:アイルランド・イギリス合作 上映時間:97分
レンタル屋の棚で良く見かけていたが、題名からただのほのぼの系かと
思いスルーしていた.が、ブロ友こにさんのレビューを見て、まるで内容が
違うことを知り、DVDレンタルして観た.本年度累積240本目の鑑賞.
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アイルランド・ダブリンを舞台に、住居を失った若い母親と子どもたちが、
周囲の人々と助け合いながら自分たちの手で小さな家を建てる姿を
描いたヒューマンドラマ.「マンマ・ミーア!」のフィリダ・ロイド監督がメガホン
をとり、舞台を中心に活躍する女優クレア・ダンが脚本・主演を務めた.
2人の幼い娘を連れて虐待夫のもとから逃げ出したサンドラ.しかし公営
住宅は長い順番待ちで、ホテルでの仮住まい生活から抜け出せない.
そんなある日、サンドラは娘との会話から、小さな家を自分で建てる
アイデアを思いつく.インターネットでセルフビルドの設計図を探し出し、
サンドラが清掃人として働いている家のペギーや建設業者エイドの協力
を得て建設に取り掛かるが、執念深い元夫に妨害されてしまう.
共演に「つぐない」のハリエット・ウォルター、テレビシリーズ「ゲーム・
オブ・スローンズ」のコンリース・ヒル.
以上は《映画.COM》から転載.
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邦題とパッケージからフランス製の家造りの苦労ものかと
勘違いしていた.その実はアイルランドダブリンを舞台にした
DVの被害者物語であった.原題は“Herself”、ヒロインが彼女
自身を見つめ直すことを示す題名であった.
邦題は間違ってはいないが、ミスリードの罪は限りなく深い.
夫ガリー:イアン・ロイド・アンダーソンは腺病質でいかにも危ない人間.
殴る蹴る、手を踏みつぶす等々のDVで妻サンドラ:クレア・ダンを苦しめる.
幼い娘と“ヴラックウィドウ”という暗号の作戦をいざというときの為に準備
していた.
母が“ブラックウィドウ”を発令すると、娘は家を飛び出て警察へ連絡する
という作戦.この作戦のおかげでサンドラは大怪我はするが、命は助かる.
もちろん、夫は逮捕され、サンドラと2人の娘は家を出る事が出来る.
家を出ても役所が紹介してくれたホテルで仮住まい.事情を知るホテルの
従業員からは差別を受けながらも、役所からの養育費とサンドラが癒えない
怪我のまま、働く清掃業での稼ぎで生きていく.
なによりも彼女たちを苦しめるのは、保釈され実家へ戻ったDV夫との
週一回の子供達の面会義務.姉はしぶしぶ従うが、妹は母への虐待を
目撃していて、頑として父との面会をしぶる.この事がサンドラを後で
追いつめることとなる.
DV夫から逃げて役所の斡旋ホテル住まい.働いても金は消えていく.
公的住居を申し込んでも順番は653番.いつ入居できるのか判らない.
そこで発想の転換をする.「住む場所がないなら、自分で家を作ればいい」.
でも一人じゃ建てられないし、第一場所どうするれば…?と難問続き.
サンドラの思いをPCの閲覧履歴で知った、バイト先のペギー夫人:
ハリエット・ウォルターが裏庭を貸すと申し出る.DIY店で罵倒されている
のを見た、建築屋が見かねてそっと手を差し伸べてくれる.
拾う神はあるし、動いて見なければわからない事ばかり.世の中捨てた
ものじゃないと気づかされる.移民や学校の知人もサンドラを助けてくれる.
週末だけの家造りの労働に無償で手伝いをしてくれるまでに至った.
そこで、突然起きる裁判所への召喚.DV夫が次女の面会不履行8回を
訴えたのだった.ここで起きる法廷劇に観客も戸惑うが、一番混乱するのは
サンドラだった.感情的にヒステリックになってしまうサンドラを鎮めるのは
医師ペギー夫人.ありのままを正直に説明せよとさとす.
裁判官は厳重注意くらいの裁定を下し、夫側は敗訴する.根深い最低男は
次の手を考えていたことにサンドラ側はだれも気がつかなかった.
そして“小さな家”は完成する.手伝いの主だった建築屋エイド:コンリース・ヒルが
言う.これはアイルランドに伝わる“メハル”の精神だと.
皆が集まって助け合う結果自分も助けられることになると.
ほぼ他人同士だったのに人の優しさが繋がる感動的な結末で終わるかと
思わせたが、せっかく完成した家も最悪な結果がまっていた.
DV夫が放火して家を全部燃やしてしまう….打ちひしがれるサンドラ.
冒頭では一人で立ち上がることもできなっかったペギー:ハリエット・ウォルター
が、逆にサンドラを後ろから抱えあげて、もう一度立たせ裏庭に歩ませる.
そこには愛する二人の娘たちがまた新しい家を造る準備をしていた.
愛情、真心、信じる心、ひたむきさ・・・に惹きつけられて人は集い、力を
貸してくれる.それは目に見えない、誰にも奪われる事のない「彼女自身」
の財産なのだと思わせてくれる.
最期に遠くにかすかな希望が見える作品.
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