fc2ブログ

映画「特捜部Q カルテ番号64」(DVD観賞)…シリーズ中最高傑作!?


映画「特捜部Q カルテ番号64」-1
原題:Journal 64 製作年;2018年
製作国:デンマーク・ドイツ合作 上映時間:100分



シリーズ第4作目. カール役のニコライ・リー・カースとアサド役の
ファレス・ファレスは本作が最後の出演となるので、事実上最終作
と言っても好いかもしれない.
後ろ髪引かれるような気持ちで本年度累積170本目の鑑賞.
——————————————————————

累計1000万部以上を売り上げるデンマークの大ヒットミステリー小説
「特捜部Q」の映画化第4作.過去の未解決事件を専門に扱うコペンハーゲン
警察の新部署「特捜部Q」.

今回彼らが挑むのは、1980年代に起きたナイトクラブのマダム失踪事件.
調査によると、ほぼ同時に5人の行方不明者が出ているという.やがて、
壮絶な過去を抱える老女と、新進政党の関係者が捜査線上に浮上する.

キャストにはカール役のニコライ・リー・カース、アサド役のファレス・ファレス
らおなじみのメンバーが続投.
「恋に落ちる確率」のクリストファー・ボー監督がメガホンをとり、「ミレニアム
 ドラゴン・タトゥーの女」のニコライ・アーセルが脚本を手がけた.

ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催の
「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品.

以上は《映画.COM》から転載.
———————————————————————


本作は関連する二つの事件を同時に追うような進行.時間軸も1960年代と
現代を行きつ戻りつするのだけど、画質というか画調が微妙に変えてあって、
すぐどちらの年代を映しているのか判りやすいという高度なテクニックを実感.


映画「特捜部Q カルテ番号64」-2


冒頭はミイラ化した猟奇殺人の発見と掴みは十分.これを端緒にカール:
ニコライ・リー・カースとアサド:ファレス・ファレスの捜査が始まる.
ミステリー要素としては、優生学的な犯罪組織と移民難民の差別感とかも
含めて、なによりカールとアサドと秘書ローセ:ヨハン・ルイズ・シュミットの
絆の深さを描いているのも特徴的.

前半期4作の中では一番楽しめたかもしれない.二人の主人公たちのキャラ
も際立つし、アクション場面も多い.秘書ローセでさえも犯人との格闘シーン
が在ったのには驚きだった.

カールはアサドの昇進申請をして、他部署への転出を許容していた.特捜部Q
としてはあと24時間しか残されていないというアサドの心境と行動が描かれる.
残されるローセはあからさまに嘆き、抗議するが、カールは自身が決めたことゆえ
じっと耐えている.アサドの活躍が他作より多いのも特徴的.

今回は優生思想を受け継ぐ犯人グループと現代の移民蔑視が結びついて
単なる犯罪の枠を超えた社会的大事件としての扱い.

主犯は「寒い冬」というKKKの北欧民版みたいな北欧民族以外を毛嫌いする
組織に所属しており、自分たちが認めた人間以外は、出産を認めず、強制
不妊手術を施術していた.この組織は国家、警察にも巣くっていて、カールたち
の上司も、妻の不妊治療でこの主犯に恩があるという又も屈折した事情.


映画「特捜部Q カルテ番号64」-3


この「寒い冬」思想が実在かどうかは知らぬが、本作のエンドロール前に
以下のメッセージがあったから、事実に基づくのであろう.

“質の劣る物には出産を禁ずる”ーK・K・スタインケ
“質の劣る者とはー”“精神障害者 反社会的人間 性的倒錯者”“依存症者
などである”ーJH・ルーンバック医師
1934年から1967年までに1万1000人以上の女性がー強制不妊手術を受けた.

ナチスの優生思想にも通じる事が戦後のデンマークでも行われていたということ.
欧米どこでもこれに似た過去は存在し、日本でもハンセン氏病施設で強制中絶が
行われていたことは周知の事実である.

日本では、昭和23年に優生保護法が制定され平成8年まで存在した.
手術を受けたのは全国で2万4991人、デンマークの比では無いのだ.
訴訟も相次いだが強制不妊手術の被害者に一時金を支払う救済法が成立し、
当時の安倍晋三首相がおためごかしの談話を発表したのは2019年だった.
他人事じゃないなのだ….

さらに本作では、その“劣った者”の対象に現代の移民や人種差別も含められ、
アラブ系移民のアサドが苦悩する姿も描かれる.そんなアサドが一派の警察管に
撃たれ瀕死の状態に陥る.

瀕死の状況から戻ったアサドを待ち受けたのは、ローサの熱い抱擁とカールの
組織へ残ってくれという暑い言葉だった.

重いBGMも多い中で、要所のフランク・シナトラの曲の使用がとても印象的.

社会的なテーマだけでなく、サスペンスとしても一級品の出来だった.



[副長日誌補足]

原作シリーズは8作まで出版済み、原作者ユッシ・エーズラ・オールスンは
全部で10作書くと言っているらしい.

5作目以降は映画化権がZentropaからNordisk Filmに移ったため、
このキャストでの特捜部Q は本作が見納めになってしまった.
5作目の「知りすぎたマルコ」ではカールはウルリク・トムセン、
アサドはザキ・ユセフが演じるている.この新キャストであと5本か???.


コメント

非公開コメント