映画「いのちの停車場」

制作年:2021年 制作国:日本 上映時間:119分
金曜は皮膚科へ行き、その後近所のシネコンで金曜公開の新作を1本.
本年累積121本目は大御所吉永小百合の主演作品を鑑賞.
作家としても活躍する現役医師・南杏子の同名小説を「八日目の蝉」の
成島出監督が映画化し、吉永小百合が自身初となる医師役に挑んだ
社会派ヒューマンドラマ.
長年にわたり大学病院の救命救急医として働いてきた白石咲和子は、
ある事情から父・達郎が暮らす石川県の実家に戻り、在宅医療を行う
「まほろば診療所」に勤めることに.
これまで自分が経験してきた医療とは違うかたちでの“いのち”との
向き合い方に戸惑いを覚える咲和子だったが、院長の仙川をはじめ、
診療所を支える訪問看護師の星野、咲和子を慕って診療所にやって
来た元大学病院職員の野呂ら周囲の人々に支えられ、在宅医療だから
こそできる患者やその家族との向き合い方を見いだしていく.
咲和子を追って診療所で働き始める青年・野呂を松坂桃李、訪問看護師・
星野を広瀬すず、院長・仙川を西田敏行、咲和子を温かく見守る父・
達郎を田中泯が演じる.
以上は《映画.COM》から転載.
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さて扱いが難しい役者吉永小百合の主演作品だ.過去数年の主演作品は
散々な出来だった.どんな役柄でもノッペリとした小百合節に塗り替えて
しまう.過去の若い頃の業績はともかく70代を越えた美人女優の主演は
役を選ぶのだ.
今さら、汚れ役や悪辣な女ボスは演じられないだろう.世の中のサユリスト達
がそれを許すはずもない.本作も出だしは東京の大病院の緊急病棟で
指揮をふるう白石咲和子:吉永小百合の姿を見て、あぁ又かと思った.
医科部長としてテキパキと指示を繰り出し、現場で活き活きと仕事する
場面なのだが、どこか不似合いで演技が浮いて見える.役に合っていない
感じがまざまざと判ってしまう.
が、部下の不始末の責任を取ってたんかを切って大病院を辞め、
故郷金沢へ舞い戻った辺りから、吉永小百合節にふさわしい役柄に
なっていく.地元の在宅医療を行う「まほろば診療所」に勤め始める.
大病院との医療内容の落差の大きさに戸惑いながらも、身の丈に
あった診療を始める.こんな役柄が彼女にはふさわしい….
待ち受けた医院長役に西田敏行.交通事故で車椅子という言い訳を
自らするが、西田自身が体の調子が悪く車椅子演技になっている
のだろう.看護士役に広瀬すずとは豪華だ.
咲和子が東京の大病院を辞めるきっかけを作ってしまった青年野呂:
松坂桃李も東京から咲和子を追って金沢に来てまほろば診療所に
居候?しはじめてしまう.

こうして4人体制でほそぼそと在宅医療をすすめ、種々のケースが
描かれていく.金満家のIT企業社長の金にものを言わせる在宅も
あれば、ゴミ屋敷で妻の面倒を看る頑固な老人(泉谷しげるだ)も.
ご多分に漏れず、お涙頂戴の話もいくつか用意されている.
咲和子の古い友人石田ゆりは癌の最先端治療を目指すが、突然死
してしまう.元気な姿と死に顔のメイクの落差が驚異!
松坂桃李の使い方も秀逸.一人息子が家出したまま、父が癌で逝く
間際に、松坂が偽装息子を演じたり、幼い少女の最後の願いを
聞き入れ、海まで連れて行ったりとしっかり涙ちょうだいの肝を演ずる.

どのケースも今までの在宅問題を扱った作品と変わりもなく、新味も
無いのだが、最後に用意されたケースがパンチ力満載だった.
咲和子の父役に名優:田中泯が配される.咲和子が実家へ戻ってくる際には
バスの停留所まで迎えに来るほどの体力だったが、徐々に衰え玄関先で
転んで大腿骨骨折を患ってしまう.幸い手術は成功しリハビリに励む.

が、脳神経系の病に冒され全身に痛みを感ずる難病に陥る.
多忙になってきた診療所業務に追われながら、父の介護をする咲和子.
父は在宅で介護されているが日を追って症状は悪化していく.
この役柄のために5kgも痩せて臨んだという田中湣、渾身の演技で
この苦しみを演技する.最後には死なせてくれと悲痛な叫びを….
咲和子は悩みに悩んである結論を出す.
苦しみ悶える父の脇で安楽死の準備を整えながら、夜明けを迎える二人.
ここで映画は終わる.
自らの意思で死を選べない在宅治療、そして自分で最後の生き様までも
決めることができない医療行為など、今の医療社会の矛盾を最後で
描いてみせた.この部分での吉永小百合の演技は確かなものだった.
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