別に誰に頼まれているわけでもないし、そもそも必要とされているのかもあやしいんですが、出版・書店業界情報を収集してはツイートする、というのは平日朝の日課にしていて、大きなテーマや特記したいテーマはblogで記事にする、というのを続けています。
そんなことをしていると毎日のように見かけるので、いちいち言及したくないんですが、この業界の話を文章にするのに、必ずこんなふうに書かないと気が済まないタイプの書き手の方が、どうやらけっこういるようなんですよね。
「活字離れから書籍販売が落ち込む中……」だの、
「出版不況で本が売れない中……」だの。
この手の記事を書く人たちって、こういう紋切り型の文章を自らの文章に毎度のように貼り付けて、なんとも思わないのかなあ。ひどいのになると、こうしたクリシェを、記事の出だしなど、一部に使うだけではなくて、全編ほぼこれ紋切り型、みたいな、コピー&ペーストだけで成り立っているような文章もありますからね……。
出版界が厳しいだの、本が売れないだの、そんなことは業界の人間には言わずもがなだし、業界外の人だってわざわざ聞かされ読まされするまでもない、誰もいけいけの業界だなんて思っていないでしょう。誰もが(「よく」なのか「うすうす」なのかはともかく)知っていて、誰もが聞いたようなことばかりで埋められたこの手の記事(たとえば、こういう記事だ。こんなのとか、こんなのとか)って、いったい誰に何を伝えたくて書かれたものなんだろう。「それで?」と、その先をこそこちらは聞きたいのに。
一方、こういう記事もあります。「本の世界へいざなう工夫 東京の書店最新情報 」(7/20 47ニュース)。書店の店頭での工夫を紹介してくれている記事です。もちろんありがたいし、うれしいことです。でも、なんというか、先の批判記事、揶揄記事に見られる紋切り型な表現や、それらに感じる既視感という意味では、このタイプの記事もある意味、共通してしまっているところがあるようにも思えてしまうのです。紹介されているお店が、東京堂、代官山蔦谷、松丸本舗と、それこそ、「いつものお店」になってしまっていることも原因かもしれません。
店頭でおもしろいことをやっているのは、一部の有名店だけではないんですよね。また、出版不況が叫ばれるようになったから、各店があわてて何かを始めたわけでもないのです。何度も空犬通信には書いていることですが、ふつうの良さ、当たり前の良さをきちんと文章化して伝えるのはほんとに難しいことなんですよね。やはり。書店っておもしろいぜ、ってわかりやすく簡単に文章化しようと思ったら、有名でかっこいいお店にふれるのがいちばんラクですから。Webや新聞、とくに大手新聞が記事にしようと思ったら、それはある意味、しかたないでしょう。
でも、この空犬通信では、やっぱり「ふつう」(ここでいう「ふつう」は、いいも悪いも、上から見るも下から見るも、何も他意や含みはなく、ストレートな意味での「ふつう」です)のお店のいろんな取り組みを、紹介していこうと思うのです。
……長い、そして、愚痴っぽい前置きになりました。以下、ここ数日、書店店頭で見かけたフェアなどを、とくに、テーマや場所なども考えずに、ランダムに紹介します。(店内の写真は、すべてお店の方の許可を得て撮影したものです。)
まずは、池袋から。リブロ池袋本店1F、カルトグラフィアで、『現代思想』創刊40周年記念フェア「雑誌『現代思想』の歩んだ40年」が始まりましたね。
カルトグラフィアは、1つのテーマのフェアで埋めるには、かなり大きめのスペースです。単に本を並べるだけでは空間をもてあましてしまいそうな感じですが、今回のフェアでは、中央に『現代思想』バックナンバーを配し、左右に、国内外の事件や主要出版物をまとめた年表を置き(写真右)、上下左右を取り囲むように本を(基本的には年代順に)並べています。年表も選書も、いずれもなかなかの力作。見応えがありますよ。
↑こちらがフェアの無料冊子。店頭に掲示されているものとまったく同じではないですが、年表も収録されているので、お忘れなく。
リブロ池袋本店2階、理工書・芸術書売場で開催中の、『みんなの家』(アルテスパブリッシング)関連のフェア、「光嶋裕介 みんなの家をめぐる30冊の本」も見応えありますよ。内田樹邸「凱風館」の大きな模型(1/30だとか)もありました。
あと、リブロでは、新刊関連ではないけれど、「夏の古本まつり」もまもなくですね。8/2から8/8まで、西武池袋本店の西武ギャラリーで。
ジュンク堂書店池袋本店1階では、全国のジュンク堂書店で開催中だというフェア「もしも明日、自分の店が閉まるとしたら、どうしても今日中に売っておきたい1冊」が開催中。関連記事は、こちら。「ジュンク堂新宿店 閉店間際描く本」(読売新聞)。同じ1階では、「愛書家の楽園 Vol.008」として「マンガになった文学」フェアも。
続いて、吉祥寺。BOOKSルーエ1Fでは、「文学オリンピック2012ルーエ大会」が開催中。1F入り口すぐ左の棚では、ふだんまず見ることのない海外文学がいくつも面になっています。翻訳もの好きはチェックを。隣の棚が、いわゆるオリンピック本の棚だったりするのがなかなかいい(笑)。
↑「文学オリンピック2012ルーエ大会」の棚と、2階への階段踊り場のフリペコーナーには、こんな「公式ガイドブック」も。なぜ表紙が怪獣? 特撮好きがイラストを手がけたのかな? と思ったら、パンダでした。
ルーエ2階では、まもなく8月初旬から、「アナーキー・イン・ザ・KJ アナキズム・芸術・運動・社会・状況・現実」(長いけど、これが正式タイトルだとか)というフェアが始まるそうです。難しそうなタイトルですが、ちらっと選書リストを見せてもらったところ、かたい本ばかりにはなっていなくて、これらのキーワードに縁がなさそうに感じてしまう読者の方にも楽しめそうな、バラエティに富んだものになっていましたよ。場所は、現在、爆音フェアを展開しているフェア台。フェアが始まったら、またあらためてレポートします。
次は渋谷へ。リブロ渋谷店では、渋谷店独自の夏文庫フェア「うらなつ2012」が、レジ前のフェア台で開催中。知り合いに会えなかったので、店頭の写真は撮れませんでした、いつもの通り、毎年違うイラストレーターのイラストをフィーチャーした独自帯のかけられた、大手3社の夏文庫とはひと味違うセレクトの文庫がずらりと並ぶ様は壮観。今年から、帯には、選者の方の名前が掲載されなくなったようです。
↑選書リスト。
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